
スバルは、「クロストレック(スバルXV) ハイブリッド」を米国で発表した。2019年モデルであるが、12月から発売するということで、2018年のリリースに間に合わせた。
今日は、スバルXV Advanceの試乗記を書くわけではないが、スバルXV AdvanceのHVは、マイルドHVと呼ぶよりも、出力補助型HVと呼ぶというスバルの主張は正しく、リチウムバッテリーは小型ながらも容量は、ニッケル水素バッテリーを搭載するプリウスと変わらないから、モーターが小型であることもあって、動力の補助には十分に役立っている。 XVとフォレスターにこのHV搭載モデルがラインナップされるが、NAエンジンがややがさつに回ることもあって、HV搭載モデルの方が重量面で不利なものの、トータルの魅力は上であると思う。 フォレスターは、NAとHVの価格差がほとんどないため、発売が6か月も差があったにも関わらず、ユーザーの40%以上がAdvanceを選択しているし、HVを発売した9月以降の売れ行きは、さらにその差がついている状態なので、スバルのHVにはかなりの需要があるとみてよいだろう。

スバルXV Advance
動力システムは良いと思うが、クルマの価格にあった素材レベルや走りの質感が欲しい。
Advanceを買うならば、アイサイトの機能もより高度な機能が付くのに、
値段が大きく変わらないフォレスターの方がお勧め。
つまり、e-Boxerと呼ばれる電気の支援を受けた4WDの方が、ユーザには魅力的に見えているわけで、スバルとしても燃費向上に貢献しづらい出力補助型HVだけでなく、ストロングHVやPHEVが必要だと考えるのは当然である。スバルは、北米で燃費の良いHVを売らないと、スバルのクルマが売れなくなるから、という理由からPHEVを用意するのではなく、市場がもっと「はたらくHVさま」を求めていることを知っている。スバルが支持されている北米の田舎は広く、その辺でガソリンスタンドがごろごろしてるわけではないから、燃費が良く航続距離が長いスバルを求める声は大きいのだ。

スバルのPHEVは価値がある
トヨタはスバルの株式を約17%保有していることから、スバルの電動化の遅れを放置せず、マツダとは異なる方法でスバルの電動化を進めて行こうとしている。 技術的な部分までトヨタが介入する予定はなく、大きな初期投資と時間を必要とする電動化に必要な基礎技術、部品群、制御ソフトウエア、車載インフォテイメント機器と言った技術、サプライヤーの紹介といった生産に関する部分を協力することで、トヨタ自身の負担を減らし、スバル独自の技術での商品化を進める形を取っている。

電気自動車シンポジウムにスバルが展示
さて、スバルは、2019年から北米へXVにPHEVを搭載したモデルを投入する。排気量2.0Lの水平対向4気筒直噴ガソリンエンジンにトヨタのTHS-Ⅱをベースにしたスバル式のストロングHVを組み合わせている。 スバルは、シンメトリカルな構造とAWDに拘ることで、ブランドと存在価値を示そうとしている。 X-MODEによる泥濘路面での走破性を含め、世界中のオンロードで出会う様々な路面コンディションに耐えうるクルマとしてのブランドを維持していこうと考えているからだ。 トヨタ、マツダのアプローチとは異なるが、北米(の田舎)を中心に、信頼性を得たことが、現在のスバルの地位を作り出しているのだから、その優位性を伸ばしていこうと考えるのは当然であろう。(北アメリカ大陸の軽巡洋艦「フォレスター」 参照)
ここで、スバルのHV開発にまつわる黒歴史に触れる必要はないが、過去のアプローチがあったからこそ、e-Boxerが生まれたし、シンメトリカルAWDを生かしたストロングHV、PHEVを生み出すことができた。 スバルのエンジンは、独自性と物理的な優位性を持つ反面、燃焼制御、温度制御、EGR制御、燃料噴射制御の技術でトヨタ、マツダに及ばない所があり、継続した課題であるのだが、トヨタの直噴技術であるD4の採用や、ストロングHVの採用と言った強力な武装化によって、この課題を一定レベルで解決し、大きな競争力を持つことができるだろう。(水平対向エンジンのHV化は、整備性がさらに劣化するという課題が残るのだが、ストロングHVは直4でも整備性に劣るから、これは受け入れるしかないだろう)

プラグイン可能な、はたらくHVが欲しいという要望がある。
日本でもその声は大きくなるだろう。
スバル初のPHEVは、トヨタのプリウスPHEVに採用している様々な基礎技術やパーツを応用しているが、マツダのアクセラHVのよううに基本的に「THS-Ⅱ」をコンバートしたものではない。 スバルのSGPでできなかったことの一つに、前軸の後ろにデフや重量物を配置して、フロントミドシップ化したかったことだ。 インプレッサ、XV、フォレスターのいずれのSGP対象車両でもそれはかなわなかったが、今回のストロングHVシステムの設計過程でその課題に取り組んだ。
THS-Ⅱの構造は、改めて述べるまでもないが(トヨタハイブリッドは電気羊の夢を見るのか 参照)、シリーズ・パラレル方式のストロングHVで、動力分割機構(電気式CVTとまた呼んでやることにする)でモーター、エンジンの出力を分配する。この機構は単純だけれど、制御ソフトウエアの出来栄えが重要で、この部分をトヨタから提供されているから、安定して動かすことができる。
しかし、THS-Ⅱのままでは、ドライブシャフトを含む4WDを作ることはできない。トヨタがTHS-Ⅱをで4WDを作る場合は、モーターで後輪を駆動させる方式が基本だからだ。スバルは、このTHS-Ⅱの構成に手を入れているが、動力分割装置は、THS-Ⅱを踏襲しており、トヨタと同様に機械的な変速機構は含まれていない。

MG内蔵トランスミッション(動力分割機構)
左が前輪側で右が後輪側。
(1)1次減速歯車機構、(2)MG1(ジェネレータ兼用)、(3)動力分割用のプラネタリーギアその1、(4)2次減速ギア、(5)動力分配ギア、(6)減速用のプラネタリーギアその2、(7)MG2(動力モータ、回生機能あり)、(8)電磁クラッチ、(9)リアの出力軸、(10)直交歯車、(11)前輪側のデフ
このシステムにおいて、トヨタから供給を受けているのは、MG1、MG2、電池モジュール、PCU(中央処理装置)、車載充電器等の基本中核パーツで、基本的にTHS-Ⅱの部品と同じものを使用しているが、MGの生産工程における永久磁石の着磁はスバルによって行われる。エンジンは、145馬力のHV仕様の2.0の予定で、MG1,MG2の出力は恐らくプリウスPHEVと同じ(プリウスPHEVのモーター出力は最大82馬力)である。満充電で27kmの走行を可能にし、HVモードと合わせて最大772kmの航続距離を持つ。

スバルPHEVシステム概要図
トヨタの構造と異なるのは、プラネタリーギアがその1、その2と二つあることで、動力分割用と減速用にそれぞれ分けている。動力分割用は、THS-Ⅱと同じく遊星ギアの回転数差異によって、エンジン・モーターからのトルク伝達を調節して車軸に伝える役割を持つ。減速用のプラネタリーギアは、MG2からの出力を減速したり、MG2への入力を増速したりするために利用し、トヨタではリダクションギアが行っている役割を行う。 この方式は、初代プリウスで採用していたことがあるのだが、モーターのギアを可変させることが有効であることは、THS-Ⅱのリダクションギアが有効なことでわかっているので、無段変速が可能な方式を採用したということだ。
なぜ、リダクションギアではなく、プラネタリーギアを使うかというと、もう一つ、動力分配ギアが入っているからだ。このギアは、エンジン+MG1の出力を前軸、後軸に分割して伝え、後方に配置されているMG2の出力を前軸に伝える役割を担う。スバルのAWDの根幹たる、前輪と後輪それぞれに動力を分けて伝える機構である。 減速エネルギー回生機構とメカニカルブレーキを組み合わせた電子制御ブレーキとして活用するためで、減速時に回生する際には、4輪が回転しているので、MG2が無段変速できないと効率的に回生が行えない。 前輪、後輪の回転差異は、センターデフではなく、電磁クラッチのON/OFFで制御する。クラッチをOFFにするとプロペラシャフトに動力は伝わらずFFになる。
スバルは、MG内蔵トランスミッションの設計、4WD化のための前後への動力分割、電磁クラッチをの既存のAWDシステムに搭載できるサイズに搭載できるようにコンパクト化が必用であったし、前軸の後方にエンジンを後退配置させたかった。そこで、MG1の回転軸をクランク軸の上方に配置し、動力伝達機構の1次減速歯車機構を経て、クランク軸後方に配置されたデフに伝達することで、HVシステムの全長を短縮化している。水平対向エンジン故に、クランクシャフトの上にこの装置を配置することが可能になり、重量物を車両の中心に配置しようとしている。最終的に動力分割装置の全長を在来のCVT比で47mm短縮できたため、その分エンジン搭載位置を後退させることが可能となった。

大型部品であるMG1を前軸デフの上に載せ、全長をコンパクト化
MG1の前の一次ギアでエンジンと接続して発電・出力補助を行う。
PHEV化に伴い、総電力量8.8kWh、容量25Ah、総電圧351.5Vのリチウムイオン電池を後席後方のカーゴスペースの下部に配置する。(残念ながら、後軸の後ろである)その結果、カーゴスペースの下部の収納スペースが減り、カーゴスペース容積は約20%減少する。

スバルXV Advance カーゴスペース
使いやすいサイズで、カーゴスペースは広い
下部の収納スペースにバッテリーが搭載される。
車両重量は1.65tと既存のAdvanceに比べて約100kg増加しているのは、電動化にともなう重量増に対応すべくフレームの強化ならびに、事故によるバッテリー破損を防ぐためのケースの強化など安全対策による理由が大きい。プリウスPHEVの1.4tと比べると重たいが、元々が1.4tほどあるので、ストロングHV+PHEV化ためのリチウムイオンバッテリー対策で250kgほど増加するのはしかたあるまい。 スバル初のPHEVということもあり、ボディーの各所に専用アイテムを配置しているのはちょっとトヨタっぽい感じに思える。ボディカラーには、日本のAdvance専用色として採用している、「ラグーンブルー・パール」が設定される。インテリアもAdvanceと同様に、ブルーの本革で構成された特別仕様が用意されている。

PHEV専用のコンビネーションメータが装備され、HVカーらしい見栄えになっている。
1550kgのXV Advanceは、わずか10kwのモーターアシストでも十分快適に走るので、1650kgのPHEVは、モーターの出力が大幅に向上することを考えると、動力性能には不満はないと思われる。 このシステムは、XVだけでなく、同形のインプレッサ、フォレスターにはそのまま搭載可能であり、次期レガシー、レボーグもSGPの採用が確定しているので、それらの車種にも搭載可能である。 今のところ、X-MODEへの対応については議論されていないが、電磁クラッチ制御による4輪動力制御が、e-Boxer技術で培った電動X-MODE技術と背反せずに搭載できるのかどうかが気になる所だ。
X-MODEの動作原理からすれば、ブレーキ制御と前後のトルク配分の制御で実現されているので、センターデフではなく、電磁クラッチでも同様の制御を組み込めば可能になるはずだ。 アイサイトと並んで、X-MODEはフォレスター、OUTBACKなどのSUVモデルには必須の機能のため、搭載可能であろうと考えておきたい。
スバルの電動化がどのように進むのか、この数年心配されてきたが、安定しているTHS-ⅡをベースにシンメトリカルAWDを維持してリリースできたことは、ひとまずスバルの販売戦略において一息つけたと思う。 しかしながら、スバルが求めている、「走りの質感」を実現するために、今後改定していかねばならない課題も多い。 これからのスバルの電動化とAWD技術のマリアージュについて注目を続けたい。

スバルXV PHEV内装(北米仕様)

スバルXV(北米仕様)
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自動車技術 | クルマ
Posted at
2018/11/24 15:33:46