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「静粛」「LSっぽい」「燃費が良い」「広い」「リアシート快適」「レクサス」という各種記号の集大成が、ESの本体だ。
「乗り出し価格で、だいたい750万円ほどを見ていただければよろしいかと」
「それは安い、レクサスは値引きもないし、ではすぐに契約・・・」
いやいや、ちょっと待て。750万円出せば、他社でもクルマは買えるんじゃなかったっけ。 確かにレクサスの中だけでクルマ選びをすると、他のセダンはみんな古いし、SUVは値付けが少し高く感じるし、ESならば、1300万円のLSのVersionLの半額で、見た目も静粛性も、リアシートも有効なESのVersionLが買えるけれど、一歩レクサスの外に行けば、他にもクルマを売ってるところがあるわけだ。
「メルセデスのE220Dがー」なんて言わずとも、クラウンにマルチステージハイブリッドを搭載した、最高グレードである、3.5 G-Executiveは、7,187,400円だ。乗り出し価格は同等の750万円で、どちらが幸せなカーライフを楽しめるかと考えると、簡単に結論が出ているのではないだろうか。

クラウン3.5 G-Executiveの内装。
それなりに頑張って作ってある。
レクサスは、車両価格698万円という値付けを簡単に考えすぎていると思う。カムリやアテンザのほぼ2倍の価格のクルマなのだから、それはさぞかし素晴らしいのだろうとみんな期待している。ESのいいところは、まさにレクサスのセダンらしいところだ。スタイリッシュで、燃費がよく、静かで、乗り心地がフラットで、シートも快適なクルマなわけだ。 でも、アテンザだって同じような目的を持って開発されているので、ESだけの独壇場ではない。 ESの方がかけているコストも高いし、設計年次も新しいから少しづつESの方が優れているのは当然であり、特別称賛されることではない。
非常に厳しい問題は、「レクサスのいいところ」を認めている人が、そのいいところ「だけ」を持ったクルマに対して、購入対象から外してしまうことだ。それは、価格と無関係ではない。多くの人にとって、750万円のクルマは、そう何台も買えない買い物だから、本当に自分が欲しいのかどうか、自問自答し、「いや、ESでなくてもいいかも」という答えに行き着いてしまうのだ。

レクサスES300h VersionL
A地点からB地点へ安全に確実に移動したいだけなら、750万円のESよりずっと安いクルマでも実現できるのに、高い代金を払ってでも手に入れたいと思うのは、そこに、そのクルマしか持たない何かがあるからだ。
アテンザの評価の時に、「クルマのできはいいけど、現在のお客様に訴える何かを、今のアテンザから感じづらいから、売れ行きは伸びるまい。」と厳しいことを書いた。(やはり、カワイイは正義なのか 参照)このモヤモヤした感情は、一体どこからくるのかと、カタログをめくっていて気がついた。 カタログの中にも何も書いてないのだ。 確かに、トヨタの技術者が、一つ一つの項目について、ESに採用した技術をどう頑張って実用化したかは書いてあるが、ESが欲しくなるような説明は何も書いてないのだ。
このクルマは、一体何のために存在しているのか、どういう人がどう使えば楽しくなるのか、それは私の人生をどのように楽しくしてくれるのか。何も書かれてていない。 カッコいい写真はたくさん貼ってある。でも、中身が何もないのだ。 ああ、そうだ。それがESになぜ750万円払わないといけないのか、わからない理由だ。
例えば、フォレスターのカタログはカッコよくない。でも、愚直に「心奮わす、冒険へ」とか、ありふれているけど、わかりやすい写真と言葉で、人生の何の役に立つのかを別冊まで作って書きまくってる。プレゼンは素敵ではないけど、フォレスターを買うとどのくらい幸せになれそうかは、よく理解ができる。
ESは、レクサスの最大量販車種であり、変な方向には進めさせられない箱入り娘である。既に、トップモデルは売れ行きが伸びず、イメージリーダのクーペは、ポルシェに全く歯が立たない中、量販車種として、バランスの取れた○にならないといけないと、箱入り娘を強制されすぎている。
もちろん、2.5HVのパフォーマンスがそれほどでもないとか、ブレーキが手前でがっくんと効いて制御しにくいとか、淡々と走るのでドラマチックさがないとか、新デジタルデバイスが役立たずだとか、そういう機械的なネガはあるけれど、それがESの問題の本質ではないのだ。 トヨタ車の主査に比べて、レクサス車の主査は、技術的な冒険には取り組むけれど、クルマの思想に対する思い切りがよくないように感じる。

レクサス ES300h F-sports
ESとは、良いところはいっぱい持ってるので、世界各国で一定数売れはするだろう。しかし、他の美人に比べると、「冴えない彼女」とでも表現すべきか。ある日、街で出会った彼女は、なんとなく整った顔はしているけど何もかもが控えめで、その魅力が伝わってこない、そんな「冴えない彼女」をどうしていくかが、ESの最大の課題であろう。 これがラノベの世界なら、無敵の主人公様が、様々な手で彼女をヒロインにしてくれるのだけれど、レクサスは、ESの白馬の王子様たりえるのか。 今はそれが心配だ
どんなに、美人の部品ばかり集めたって、”中条あやみにはならない。”
今後のレクサスが、ESや新ISをどう育てていくのか注目していきたい。
Posted at 2018/11/11 23:10:22 | |
試乗記 | クルマレビュー