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2025年04月23日

合衆国のVW文化、その2

合衆国のVW文化、その2










その2。VWのパンケーキ・エンジン。

うちの工場は、フランス車、特にルノーの修理で結構有名でしたが、現存お客さんの友人の自動車とか、家族の自動車で他社種をどうしても面倒見て欲しい、と言うビジネスが、んまあ、全体の10%くらいあったかしら。で、我々も手慣れてない車種をいじらなければならなかったのですが、VWもその一環でした。そう言う場合、どうやって治すかは大して問題にならないんですが、如何に早く、安く、高品質の部品を仕入れるかが一番の課題でして、その点、VWは馴染みの部品屋に聞けば、ああ、あそこの誰そこがそれ専門にしてるから行ってみた、と言う感じで余り心配無く商売ができました。特にエンジンですね。40年前の話ですが、工場のあったシカーゴから一時間ちょっと北に行った、ウィスコンシン州ミルウオーキーのある仕入れ先に電話を入れると、お昼頃にはハイっよ、と空冷のロングブロックが配達され、それが驚異的に安く、仕入れ値、当時で700ドルの数字が頭に浮かびますが、品質も結構良くて、問題のないエンジンでした。エンジンを下ろし、補器類を移し替えエンジンを上げるのがぼくにやらされ、ぶっつけ本番でも下ろすのに小一時間もあれば済み、補器の付け替えに2時間。上げるのに1時間。5時に仕事終わるまでに悠々の作業でした。でもこのエンジン、上手く作られていて、何をするにも順番があって、特に冷却用の覆いなど間違えると最後で部品が合わず、最初からやり直しになったり、細かい部品も少しあって、まあこの作業を数回やれば最も簡単なんでしょうけど、興味深いものでした。

うろ覚えの、ミルウォーキーのVWエンジン屋、検索して見たら何と、今でも操業していて昔と同じような人々で、かなり有名になったみたいです。色々な種類の空冷VWエンジンを用意していて、流石に値段はリテイルで40万円くらいするみたいですが、改良された部品組み付けでそんなに高くはないかもしれません。

そのパズルの様なVW空冷エンジン、戦前からのデザインで、次に大革命があったのが、ビートルから上の上級車種のタイプ3が出た際、新設計された水平対向エンジン、俗に言うパンケーキ・エンジンです。このエンジン、様々な改良がなされているだけでなく、最大の特徴は、全高の低さにありました。平たいエンジン、だから、パンケーキ。それまでのビートルのエンジンは発電機がデーンとエンジンブロックの上に乗っていて、その後軸に羽が付いていてぐるぐる回り、強制的に風をシリンダに送り冷却していたので、ドッグハウス・犬小屋と呼ばれる羽を包む囲いが覆いく聳え立っていたので、高さがありました。それがパンケーキ・エンジンは冷却の羽をエンジン後方、クランクシャフトと同軸にして、軽合金のキャストで出来た風洞で、後ろから前方に冷却風を送ります。なのでエンジンの高さが低く出来て、このエンジンの開発によって、後方エンジンの上にトランクやら荷台を設けられる様になったのです。

これが通常のビートルのエンジン。嵩張ります。特に全高が。前方のドッグハウスから後方に伸びる2本のぶっとい管は暖房の熱交換器に送る送風管。丸っこいエアクリーナの下にある発電機の軸が前方に伸びていてそこに冷却羽が回ります。この発電機を回すVベルト、張りの調整は発電機のプーリーがに分割構造で、その間にシムを入れてプーリーの後継を変えて張りを調整します。オーナーはこの張りをいつもパンパンにし過ぎて、発電機の軸受ベアリングを早期摩耗させるのをよく見ました。


これが1961年に登場した、パンケーキ・エンジン。正式には何と言うんでしょう。如何に全高が低く収まっているのが分かります。




透視図で見ると違いがよく分かります。



これでビートルより一つ上、高級版のタイプ3には、前後、二つの荷室が設けられる様になりました。ビートルにも後席背もたれの後ろには小さな荷室がありましたけど。。


まあ整備性は良くなかったですけれど、タイプ3はエンジン、トランスミッションと
がサブフレームに載っていて、一体でユニットごと下ろせたので、この狭いトランクの開口口から整備をするのは限られていました。そう言えば思い出したのは、後日、水冷のパサートも四角状のサブフレームにエンジンとサスペンションが乗っていて、何か事があれば、直ぐユニットで前部下ろしなさいと整備書には書かれていました。実際は一回もユニットで下ろしたことはありませんでしたが。




合衆国へは、2扉セダーン・ノッチバック型は輸入されませんでした。その代わり、ステーションワゴンは、スクエアバックと言い、2扉クープがファーストバック。それにステーションワゴンをVWはスクエアバック・セダーンと呼びたがっていた様です。理由は、この車は本当はセダーンがたまたま後ろに荷物をたくさん積めるようにしてあるからで、格好を気にせず、セダーンと呼んでください、という事でした。似たような件で、VWはタイプ2、例のヴァンですね、あれをステーションワゴン、またはバスと呼ぶのが好きでした。








昔、タイプ3でお買い物に行き、前部の荷室にあれやらこれやら買い物袋を沢山詰め込むと、周囲から異様な眼差しで見られたそうです。おまけにこれがかなり広い。。


大きな自動車(プリムス・サテライト・ハードトップ)に積みきれない荷物。。


そこでお父さんは、遥かに寸法の小さなスクエアバックを持ってきます。あらよあらよと荷物を載せ替え。。前部の荷室も。


これにて一見落着ーっ。


遠山の金さん、コレ、プリムス・サテライト。


タイプ3は世界で初の量産電子燃料噴射装置、ボッシュのDジェトロニックを採用したのでも有名でした。広告に必ずこのECUが出てきて。でもよく見ると抵抗やらコンデンサがズラリと基盤に載っていて、まだ集積回路などが登場するずっと前の話。今から考えれば原始的でも相当進んでいたんです。因みに電子制御の燃料噴射装置は合衆国のベンデイックス社のエレクトロジェクターと言う発明が1957年に試されたんですが、技術力足りず、直ぐ市場から消えました。その技術をボッシュが買い取って一連のジェトロニック・シリーズになります。それまでも欧州車には燃料噴射装置は付いていましたが、皆、機械式で、基本的にはジーゼル噴射ポンプと同じで、小さなキャムシャフトを回してプランジャで圧力を掛けて、その周りにラックで駆動する小さなスピルポートの孔から燃料を漏らすタイミングを調整して噴射量を定める仕組みです。




Dジェトロニックは吸気管の負荷を元に、エンジンの回転数、スロットルの開度、水温などの情報からインジェクタに流す入り切りするパルスの長さを調整する方式で、まあ、悪く言えば垂れ流し方式でしたが、それでも普通の気化器に比べると正確な燃料供給を可能にし、最大の恩恵としては排気ガスの管理が精密かつ容易になったのと、寒冷時の始動を確実にし、高高度地域でのミクスチャを最適化できるなど、やはり夢の技術だったのです。でもDジェトロニックは大抵エンジンの回転数をデストリビュータ内にもう一つ、カセットに乗ったブレーカポイントからパルスを取り、これを定期的に交換する必要がありました。


この前、ピイコイ通りで久しぶりに目撃したスクエアバック。タイプ3のもう一つの重要な改革は1969年からやっと普通の自動変速機が装備された事ですね。これは完全に油圧制御の、変哲の無い変速機でしたが、強いて言えば内部抵抗がとても少なく作られていて、それでなくても非力のエンジンに余り負担をかけなかったそうです。空冷VWで完全自動変速機はこの、パンケーキ・エンジンにしかなくて、普通のビートルは例のオートステイック、自動クラッチの変速機で我慢せねばなりませんでした。


ねっ、連中はステーションワゴンでもスクエアバック・セダーンと呼びたがる。。


タイプ3、合衆国での販売台数。ビートルから比べれば微々たるものですが、それなりにVW製品の幅を広げ、意義は十分あったと思います。


タイプ3の後に来たのがタイプ4、別名411。さらに豪華に、さらに高価に。この企みは事実上、うまくいかず、販売数もごく僅か。まあこの時期、VWは空冷から水冷に脱皮する大革命の時期で、かなりの混乱が見受けられました。タイプ4、この自動車、寸法にしてはかなり重いんです。これは初期型の411。北米ではもう、まず見掛けません。燃焼式補助暖房装置が標準装備で、同じような燃焼暖房装置、ビートルやらタイプ3は、前部トランクの中に配備されていましたが、タイプ4は後席直ぐ後ろのエンジン室の中。整備は室内、k後席後ろの穴からしていました。スペアタイアは前部荷室の床、前部バンパの直ぐ後ろに水平に置かれるので、荷室は極めて深く広いのが特徴です。


VWは売れない車種は何故かタクシー仕様にしたがりますね。411のタクシー仕様。よく見ると、運転席側面の窓に小さな換気窓が装備されています。


外観があまりにも不評だったのか、前照灯付近に手を入れられ、名称も412に変わります。


この411と412、前部の荷室は広い代わりに、ステーションワゴン以外、後ろには荷室は備わっていません。背の低いパンケーキ・エンジンを載せているのに、後ろの扉を開けるとエンジンしかありません。
その上、ビートルでは後席背後にも深い溝があり荷物置き場として使えましたが、412はそれが無く、何も置けません。


手前の網はエンジン冷却空気の取り入れ口。ビートルのエンジンは前方上部から空気を取り入れてましたが、パンケーキ・エンジンは冷却回転羽が後部にあるので、トランクリッド外側上部のスリットから裏面に沿って下まで風を吸い込み、ボデー側、この網の付いた穴から冷却空気をエンジン後部へ導きます。




以前にも書いた事がありましたが、この412の外観を担当したのが、ウイスコンシン州出身の産業デザイナー、有名なブルックス・ステイーヴンス氏です。


自動車だけでなく、鉄道、建築物など色々な分野で活躍。自動車としては、原型のジープ・ワゴニヤをデザインした事で人々は記憶しています。前照灯の部分が前傾しているのが、何となく412と似てますね。


411も412も短命に終わった代わり、VWは水冷に舵をとり、後継車として、本命のゴルフが出る前にダッシャー・パサートを開発し、大成功します。

因みに日本で持て囃されている、ハワイ風パンケーキと言うのは、多分日本の旅行会社か誰かが考え出したもので、我ら、地元民はパンケーキと言う食べ物は100パーセント、食べる習慣はありません。念の為。。。


今日のオマケ。このライセンスプレートのフレーム。シトロエン乗っていた時代に似合ってたかも。。。。

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Posted at 2025/04/24 17:34:04

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この記事へのコメント

2025年6月23日 9:01
タイプ3-4はよく知らないので興味深いです
特にハワイで食べない(^。^)パンケーキエンジン
コメントへの返答
2025年6月23日 20:19
あはは パンケーキ。次回のネタはタイプ1のエンジンとパンケーキ・エンジンを両方載せたカーマンギアの話です。

(まあタイプ2も同じでしたが。。。)

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