ご存じ、ステーションワゴン形式の自動車は我が国では早くから普及しましたが、1980年代にミニヴァンと言う車格が登場した後は後退の一途を辿り、そうしたら30年後には今度はミニヴァンがハタと人気が無くなり、現在は今流行りのSUV車がその役割を担いでいるみたいです。
そもそもステーションワゴンと言うのは開拓時代、西へ西へと鉄道が敷かれ国が大きくなっていった頃、鉄道の駅の周辺に出来た街や村に駅から物資などを運ぶ貨客両用の馬車が最初だとされています。なので荷物も積めるし人も運べる。便利ですよね。
戦後あたりは一応ステーションワゴン形式の車両はありましたが、一般家庭に普及し出したのは1950年以降ですね。当時、世界大戦、韓国戦争などから帰ってきた兵隊さんが結婚、家庭を持ち子供が産まれてお家を買い、幸せな人生を築く、と理想像を描いた際、成長する子供を学校へ送迎したり、奥方が買い物に出たり、休暇の際は荷物を載せて遥か彼方まで噂に聞いていたグランドキャニオンとか、デズニーランド、そう言った有名地に何日もかけて繰り出す際に使われる、ステーションワゴンが浸透する様になったわけです。
各社、1980年頃まではステーションワゴンだけのキャタログを発行していて、シェヴォレイだったら、若い人ならヴェイガのスポーテイーな奴、普通の家族は中型シェヴェル、少し裕福な家族ならインパーラかカプリースのフルサイズ。モーモン教やら大家族なら商業ヴァンを乗用っぽく仕立てた奴か、トレーラ引いて旅に出る家族ならサバーバンと、各社同じような車格が決まってました。
子沢山の家庭ならGヴァンを乗用に飾ったスポートヴァンをどうぞ、と。でもこのG系のヴァンもサバーバンもトラックの骨組みですからこれで長距離の旅に出たり、毎日のお買い物なんかに使うと、乗り心地、取り回しなどで、チト辛い。燃費も一桁に近かったりで。。
大抵ステーションワゴンに装備されているルーフラックは飾りではなく、通常家族全員で長距離休暇で走る際、子供は最後部のサードシートに座らされ荷物を置く場所がなくなるので屋根にやれ自転車やら旅行カバンやら嵩張るものを載せる為にあったのでした。実際に最大積載量は何パウンドとか結構詳しい事が取扱説明書に記されます
一時は非常に大きな市場だったステーションワゴンが廃れ、代わりに普及したミニヴァンも今じゃ見かけなくなりと。。でも一時期はご婦人が乗り回すイメージのステーションワゴンも、若者向けもありますよ、と言った時期がありました。当然全く見向きもされず。
Aボデーはフレームにでんと車体が乗っているだけなので、前部クリップを変えればこんな物も作れちゃえますよ、と言うのがコレ。ちゃんとグランド・ナショナルの凄いエンジンが載っている。。。
豪華さ、大きさを競った乗用車とは一角を別にするステーションワゴン、結局はお財布の紐を握る、決定判断を主にする奥さんタイプは目が肥えてますから、製造各社、あれよこれよと発案して新機構を打ち出します。
その中でも面白かったのがテールゲートの開き方。テールゲートは横にドアとして開くタイプと、パタンと下に倒れる2種類があって、いずれも長所短所があるんですが、それを全て解決したのが2ウェイ・テールゲートです。これは開閉取ってによって、テールゲートが扉式に横に開いたり、パタンと下に倒れる両方をこなす魔術。実際、発明したフォード社はマジックドアゲートと呼んでいました。これさえあれば、車体後方に場所がなくてもテールゲートを倒せば物の出し入れができるし、サードシートに人を載せる際、横に開ければテールゲートを跨ぐ必要がなくなります。
1966年型から登場したこのマジック・ドアゲートはフォードの技術者、ドナルド・フレイさんの発明。彼は東独国レイプジックからの先祖を持つ独系人の技術者で、頭の回転は相当速かったそうで、金属工学の博士号を持ち、英語、ロシア語、フランス語を話し、彼はこのテールゲートの発明より、初代のフォード・マスタングの技術担当をリー・アイアコッカから頼まれ活躍した方が有名でした。(2010年没)
左がアイアコッカ氏、右がフレイ氏。
フレイ氏は晩年まで、オリジナルの1964年型マスタングを愛用していたそうです。
これが1966年に登場した、マジック・ドアゲート。
フォードの新発明に泡を喰った他社、クライスラーは多分特許料を払ったのか、1968年から同じ形式のテールゲートを採用します。例の後窓洗浄装置内蔵のテールゲートが表示されてます。
GMは翌年、1969年にフルサイズとミッドサイズに2ウェイテールゲートを装着します。GMの特徴はバンパの右側に切り欠きがあり、そこに足を掛ければ立ったままサードシートに潜り込めますと言う魂胆。実際殆ど役に立たなかったですが。
ですが、1971年にGMのフルサイズ車が大モデルチェンジをする際、今度は将軍様が他社に泡を吹かせます。新型のフルサイズステーションワゴンは何と、テールゲート自体が床下に消えると言う、名付けてグライドアウェイ・テールゲート。
電動式の後窓を上方、屋根後部に格納し、ノブを捻るとあら不思議、テールゲートを軽く押すとスルスルと床下へ格納されます。
テールゲート自体はスプリングでバランスを取ってあり女子供でも腕力いらず床下から入れたり出したり出来るんですが、欠点は床下に扉が入るのでサードシートを設ける場所がなくなります。しかしこれを逆転発想させ、今まで後ろ向きだったサードシートを前向きに変えて、乗り降りは二列目の座席一部を折りたたむ方法に変えました。後ろ向きのサードシートは乗り物酔いを誘発する弱点があり家族は皆長距離走行時に悩んでいましたが、前向きの座席でこの件は1発で解決。その上後車軸の上にサードシートが来るので高めの座高で前方見晴らしが良い上に、サードシート前向きに座った際の足元が広くなった点もセールスポイントでした。
そのステーションワゴン、ずっと長い間に使われていた荷室の単位に、4X8、フォー・バイ・エイト と言う言葉が以前は必ず出てきました。この4x8とは4フィート・バイ・8フィート。これは木製合板のサイズです。一番一般的で普及している合板がこれ。これがステーションワゴンに積めるか、積めないかが大きな話題になるのでした。乗用車に6人乗れるか、乗れないか、同じ様な感覚です。
この4X8は、木製の柱なら2x4、ツー・バイ・フォーと同じような意味です(でも2X4はインチ単位)。合板とは、薄く削いだ木の板を互い違いに繊維線をズラして強度を持たせ接着剤で張り合わせたもので、プライウッドとも呼ばれます。我が国では成人男性、女性、普通ちょっとした家の修理とかは大抵自分でする事が多く、4X8さえ一枚あれば、屋根の補修、壁の補修、犬小屋を作ったり2X4の木柱と2x8の木板さえあれば何でも作れちゃうと言う、ごく当たり前の物なのです。なので金物屋などに行けば莫大な種類の合板、木柱が揃えてあり、それを普通に家に持ち帰る際、ステーションワゴンに収まるかが大問題になるのです。
これは2X4の木柱。
4X8の合板。様々な種類が取り揃えられています。
屋根を貼ったり壁を作ったり、様々な用途に応える万能の合板プライウッド。一家に一枚?いや、長屋住まいの我が家には無いです。
木といえば、昔からあるモーガン・プラスも今だに木枠を使っている様子。。。
昔のDKWも車体一部、木製でしたっけ。戦前で西・東断絶する前の、東側の工場で作られた奴、後のトラヴァント工場。断面図、赤い部分が木製。
4X8が積めますか?
しつこい程、必ずこ4X8が引き合いに出されます。
ダウンサイズしてもちゃんと4X8が積めますと言う図。
米製ステーションワゴンが全て無くなった今日、最後に4X8の合板が載せられたのが、シェヴォレイ・カプリースのステーションワゴン。この図は樹脂製のハブキャップが付いているのでこの型初年度1991年型。コレ、形状が悪くすぐすっ飛んで無くしてしまうので、1992年型からは金属製の違う形状に変更。
PROコード、1A2を選ぶとフリート・警察仕様です。消費者向けでもエンジンコードLT1を選べば、基本的にコーヴェットと同じスモールブロック350CDIのV8を選択すれば凄い性能のステーションワゴンが選べられました。Bボデーを作っていたテキサス州・アーリントン工場がSUVとピックアップトラックに生産を移行した1996年が最後。残念無念。
ステーションワゴンに代わるミニヴァン、でも4X8の合板が平らに載せられる車両は意外と少なく、どうも幅より長さが問題になるようで。近年のクライスラーのミニヴァンはすっぽり入るそうで、あとは大型SUVなら何とかなるみたいです。
最近生産終了した元祖ミニヴァンのダッジ・キャラヴァン。
その後釜的地位のクライスラー・パシフィカもなんとか。
と言う事で、Never Give Up の叫びも虚しく、消えたステーションワゴンの証明は4x8の合板を積めるか、積めないかに関わってくるハナシ。
カドカワさん、しっかりしてよん。。。。
冒頭の写真はビュイック・リーガル・トアーX。米会社最後のステーションワゴン。と言っても中身はオペル・インシグニア・カウントリー・トアラー。当然独国オペル製の輸入車。2020年ビュイックが乗用車から撤退時に販売終了。たったの2年しか売らなかった。
人気沸騰のフォード・ブロンコ、同僚が2年前に発注した車両が漸く納車されました。幸いな事に2年前価格上昇前に契約したので、現在のような非現実的な販売価格にはならなかったとの事。
彼は古いマスタングやらオリジナルのブロンコを持っていて、そのブロンコが今年、ミュージック・ヴィデオに出るよ、と言っていたので、脇役でちょっと出てくるのかと思ひきや、主役でびっくり。
https://www.youtube.com/watch?v=bLzUmfLckEw
