
エンジンのパワーアップを考える上で重要に成ってくる要素として冷却が有ります。
空冷エンジンの放熱はどの様になているのか? 今回は熱の発生源である燃焼室からの放熱について考えてみたいと思います。
混合気の爆発燃焼に曝されて燃焼室壁(シリンダーヘッド)は高熱を帯びる訳ですが、ノッキングを防ぐ為には積極的な放熱が必要になります。そこで放熱ルート別に燃焼室を3つのエリアに分けて見ました。
一つずつ見ていきますが最初はAの青のエリアの放熱ルートから見ていきましょう。
ここは比較的イメージ通りの放熱がされています。燃焼室壁の熱が直接燃焼室につながる放熱フィンに向けて伝わっていきます。
横から見ると
大体ヘッドの下から3列くらいのフィンが燃焼室に直接繋がっているのがイメージできると思います。それから上の左右のフィンはポート壁やその他を構成する所から熱が伝わって放熱するようです。放熱のメインは下の3枚ですね。
次にBのオレンジのエリア。プラグ穴を含めた燃焼室の中心部分です。
見難いのですが、プラグホールよりも奥に小さなフィンが立っているのが見えます。狭い場所ですが一生懸命放熱してるんですね。プラグの両サイドから垂直に立つ壁を伝って幾らかはフィンへも熱伝導が有るのかな?
DOHCであればスペースが確保されるのですが、SOHCの2バルブエンジンではココのデザインがどうしても狭くなってしまうので大変です。
写真は参考までに単気筒DOHC4バルブ250ccのKAWASAKI SuperSherpaのヘッドのプラグ近傍です。写真は
こちらからお借りいたしました。
プラグ周りにはフィンも多く立てられて空気の入れ替わりも良さそうですね。しかもカムのケース自体も燃焼室の大きな冷却フィン見たいなものですね。空冷はDOHCがとても理に適っています。
SRも頑張って冷却しています。ヘッドを単品で確認しないと分かり難いのですが、ヘッドが立体的に作られていて冷却風の流路が確保されています。(初めて気が付いた時は目から鱗でした)
冷却風の流路に電線を通して分かり易く?しました。
なので燃焼室の中心の冷却には、ヘッド内?の冷却風の確保が必要になります。でもプラグ方向に向けて風を吹き込んでいるでも無く風が通り難そうですが、ここはエンジンやライダーの脚に走行風がぶつかって風が避けて出来る、エンジン後方の負圧の作用でエンジン後方のキャブ側から風を抜く様に風を通しています。なのでエンジン側方に風を大きく遮るような壁を作って、走行風で出来るエンジン後方の負圧のエアポケット見たいな物が出来れば冷却効果はUP出来るのですが、そこまでは中々やらないですね。
フィン部分のアップですが、センターに大きく立つフィンはその上のカムなどが収まる部屋の床面に繋がれています。ここも熱が大きく伝わる部分に成ると思われるので、これを最大限に利用した冷却を考える方が現実的だと思われます。ここは後述します。
最後にCの赤の部分。ここはセオリーが働きません。
OHCエンジンの側方にはチェーンが通るので、エンジンの片側は放熱的には潰れてしまいます。
エストレアとかのエンジンはその部分にはフィン等を立てず、デザインが潔いですね。
同じエストレアのエンジンですが、チェーンが通る側にフィンを立ててもその裏は空洞なので、残念ながら燃焼室の冷却には役に立ちません。
そういう意味でW650のエンジンのべべルギアは機能的なんでしょうか?燃焼室に繋がるフィンを確保出来ているように見えます。
SR他普通のOHCエンジンには装飾のためのフィンが有りますが、その裏側はチェーンケースの空洞なので、燃焼室の冷却に寄与する事は出来ません。もちろんそのフィンにも熱伝導で熱が伝わり幾らかの放熱はあると思いますが、肉は薄く距離もあるので、放熱の割合としてはとても少ないのが実際だと思われます。
こちら側のフィンが浅いのを一度は不思議に思った事があるかと思いますが、そういう事なんですね。
では熱は何処に向かうのか?熱は金属の厚みがある所に多く伝わる(熱抵抗が小さい)ので、
行き場のない熱はチェーンケースの壁を伝って、
カムなどが収まる部屋の床面に熱が集まる事になると考えられます。先程後述すると書いたプラグ近傍の大きなフィンもここの床面に繋がっているので、燃焼室壁の熱の内それなりに大きな割合がここに導かれているようです。
なぜココに導かれているのか?もうお分かりだと思いますが、カムを潤滑したオイルがここの面を通るので、オイルによる冷却を期待しているようです。
フィンを立てて冷却風での放熱を行いたいけれど、レイアウトの関係でフィンを立てる事が出来ない。冷却風も当てられない。なので燃焼室周りの熱はオイルを媒体として外へ持ち出す以外に方法が無い。そんな感じなのがSOHC2バルブエンジンなんだと思います。
GB350しかり
ジクサーしかり
燃焼室の上の部分、言い換えるとカムシャフトの収まる部屋の床部分に、オイル流路を設けてオイルでの冷却を行っていますね。なのでSRのヘッドのその部分にもスリット状に溝を設けたりすれば冷却効果は向上すると考えられます。でも中々そこまでは難しいですね。なのでヘッドへのオイル供給量を増やす。それだけでも燃焼室周りの冷却に効果が期待で出来ると想像出来ます。
オーバーヒート気味になるとシリンダーヘッドから聞こえてくる ショカ―ン!ショカーン!やカン!カン!カン!という音。あれはシリンダーヘッドが熱を持ち過ぎて熱膨張でヘッドが大きくなり、カムとロッカーアームのクリアランスが適正範囲から外れてしまう結果出てしまう音です。
これもシリンダーヘッドへのオイル供給量を増やしてある程度の対策が可能です。
「空冷SOHCのシリンダーヘッドの冷却は、油冷エンジンのそれに似た放熱経路を持つので、ヘッド冷却の改善はオイル供給量の増加で行う事が出来る。」 というお話でした。
ちなみにDOHC2バルブの Z1のシリンダーヘッドです。
SRに比べると1気筒190~225ccしかありませんが、燃焼室上にこれだけのフィンが立っています。やっぱりDOHCはレイアウトで有利ですね。SRは400~500cc分のここからの排熱をオイルを媒体にして持ち出さなければなりません。
因みに冷却水での冷却能力を1とすると、潤滑油では約1/2、空気では1/4の冷却能力となるので、水と同じ冷却能力を得ようとすると潤滑油だと2倍、空気では4倍の量が必要になります(熱容量で計算)。なので油量は多ければ多い程良い事になります。
具体的にヘッドへのオイル流量を増やす方法として一番確実な方法は、意外にも、、オイルラインのバンジョーボルトの加工になります。
ここはロッカーアームのオイル孔の径との兼ね合いで、3mm程の大きさの穴が必要になりすが、ノーマルでは約2mmと穴面積が大きく不足してボトルネックとなっているので、何を行うのよりも先に穴径の拡大を行わなければなりません。
私が書いた整備手帳ですが、
こちら と
こちら が参考になると思います。
次に行える確実な方法は強化オイルポンプの導入です。KEDOの物をデイトナが代理店で販売しているものが有名で唯一かな?。フィードポンプを大きくするのでエンジン全体として流量が増えるのが利点です。スカベンジャー側のオイル流量も上がりますのでオイルクーラー導入の場合も効率良く使用できます。注意点としては上記のバンジョーボルトの加工と共に導入すること。強化オイルポンプだけ交換してしまうとバンジョーボルトの内径がヘッドへのオイル流量の規制となってしまい腰下のオイルが増えてしまう為、オイル供給のバランスが悪くなってしまいます。増えたオイル供給量を糞詰まりにならない様にヘッドへ流すためにバンジョーボルトの加工と共に導入します。これでエンジン全体でのオイル流量で困る事は皆無になります。オイルラインは強化ポンプ導入の場合でもバンジョーボルトの加工以外はノーマルで十分です。メッシュホースを使用しても内径はノーマルのパイプと変わりません。
スカベンジャー側からのオイル導入の熱心なファンの方が多く、その反動で何故だか?強化オイルポンプが敬遠れる傾向ですが、、、
・スカベンジャー側のオイル流量はそのオイルポンプ容量に係わらず、フィード側のオイル流量を超える事は無い。
・スカベンジャーポンプ容量 ー フィードポンプ容量 = スカベンジャーポンプがエアーを吸う容積となる。 当然ですよね。
・スカベンジャーポンプから吐出する物の2/3以上がブローバイガス(計算値)。そのブローバイガスはオイルタンクを通りヘッドへと戻り再度スカベンジャーポンプに吸われて循環する。なのでヘッドにリターンオイルを入れると言う事は、エンジン油路にブローバイガスを混入させる事になる。
・スカベンジャーが吸うオイルはフィードポンプを通りヘッドや腰下を潤滑したオイルがオイルパンに落ちた物を吸い上げるため、始動直後のドライスタートに効くという事は無い。
この辺りの理解が薄いように思います。(個人の見解です。)
ヘッドへの油量を増やした場合のSRのシリンダーヘッドのリターンについて、昔心配に思ったことが有ったので書いておきます。
ヘッドへの油量を増やした場合に心配になるのがオイルパンへのリターンですが、穴自体チェーンケースへ繋がる大きな物が2つ有るので心配はありません。
自動車エンジンでブローバイがヘッドへ上がる流れと、下に降りるオイルとがぶつかってしまい、ヘッドのオイルが落ちないと言う不具合が有りますが、SRはブローバイの排出がクランクケースからなので、4輪とは違いブローバイの流れが上から下へと逆転しているので問題の発生は心配ありません。
オイルクーラーの導入の是非ですが、2型のSR500では、発熱量の低減を意識した街乗り領域での薄めの燃調と、強化オイルポンプによる熱の拡散を合わせて、夏の酷い渋滞時以外は油温100℃を超える事無く運用が出来ています。街乗り領域でパワーが出る濃い目の燃調(バックファイヤーが出る様な濃い状態。余談ですがバックファイヤーは濃いと出ます。適正にすると治ります。適正とは感覚的に大分薄いものです。そしてエンリッチャーの濃くしてバックファイヤーを治めると言う動作原理は幻です。2000rpmでは動作すらしていません。)では、あっという間に100℃に到達してしまいます。発熱量は燃調で大きく変わる様です。アイドリングのマフラーからの音は、「とっとっとっ」とか「たったったっ」くらい薄いと適正です。「だっだっだっ」とか「ドッドッドッ」とフォークが揺れる様なアイドリングでは、濃過ぎて油温も上がってしまいます。なのでキャブ世代のSRは、「オイルクーラー必要の是非は基本的に不要だけれども、燃調による」と私は思います。(FIは薄いと言うか、キャブに比べると薄過ぎるので、燃料冷却が効かず発熱するのでオイルクーラーは必要になります。)
ちょっと長くなり過ぎましたね。
以上、
「ヘッドの冷却強化には、油量の増加が有効で唯一の手法となる。」 でした。