2015年02月23日
素晴らしき父とその娘 ~ 映画『アラバマ物語』 《11》
その11 「ヤツは自分で、ナイフの上に転んだ」
“小さな誰か”を両手で抱えた長身の男がフィンチ家に入って行った。それを見たスカウトは、自宅に向かって駆け出した。物音を聞いたか、家から父アティカスが外に出て来た。「スカウト!」と娘を抱き上げる父。「何があったんだ?」
家に入ったスカウトは、ベッドで、ジェムが死んだように眠っているのを見た。父アティカスは、医師と保安官に電話で連絡を取る。往診に来た医師レイノルズは、ジェムを診て、「ひどい骨折だ。腕を引きちぎろうとしている……」と言った。
保安官のテートが、フィンチ宅に入って来た。手にしているのは、スカウトを護ったハロウィンの“着ぐるみハム”だ。そして保安官は、家の中を慎重に(捜査官の目で)見回している。フィンチ、ジェム、そしてスカウトがいるのを確認した保安官。そのただならぬ様子に、フィンチが気づく。
アティカス「何があったんだ?」
保安官「現場に、ユーウェルが横っ腹を刺されて横たわっていた」「死んだよ。ヤツはもう、子どもたちに何もできない」
保安官は少女から事情を聴取する。「ミス・スカウト、何があったのか話してくれないか」。スカウトは「わからないの……」と前置きしながら、語り始めた。
スカウト「突然、誰かが掴みかかってきて、倒されたの」「たぶんユーウェルさんだと思うけど、ジェムも掴みかかられて、叫んでいた」「そして、私を襲おうとした……のは、ユーウェルさんかな?」
「でも、今度は(別の)誰かがユーウェルさんを捉まえて……」「そして、呻き声がして……」「その後で、誰かがジェムを抱いて……」
保安官「それは誰だ?」
この時スカウトは、その部屋にいる“もう一人”を見ていた。ドアの蔭、少し暗くなっているところに、大きな男が立っている。スカウトの視線に気づいた保安官が、ドアを少し動かして、そのへんを明るくしようとすると、“その人”は怯えたように後ずさりした。スカウトは、じっと“その人”を見つめ、微笑んで言った。「ブーよね?」( Hey, Boo. )
父アティカスが声をかけて来た。「ミス・ジーン・ルイーズ、アーサー・ラドリーさんだ。お前を、よく知ってるようだ」。微笑むスカウト、アーサー・ラドリーも少しだけ笑った。
しかし父は“ブー”よりも、もっと気になることがあるようだ。保安官に声をかけ、二人は外のポーチに出て行った。
部屋の中は“ブー”(アーサー)とスカウトの二人だけになった。スカウトが“ブー”に近寄っていく。「ジェムに、おやすみ(グッドナイト)を言う? ミスター・アーサー?」。言いながら、スカウトが手を差し出した。アーサーは部屋の隅から出て来て、ベッドに近づく。「眠ってるから、いまなら、触っても平気」とスカウト。“ブー”はジェムの頬に、そっと手を触れた。
手をつなぐスカウトと“ブー”=アーサー。二人は、部屋の外へ出た。ポーチには、父と保安官がいる。アーサーとスカウトの二人は、スイング(ぶらんこ椅子)に並んで座った。
父アティカスが言っている。「私は気が動転している……。ジェムは何歳だ? 12か13か」「どちらにしても、裁判になるだろう。正当防衛は明白だが……」「まず、署に行って」──
しかし、そんな弁護士アティカスに、保安官テートは言った。「ミスター・フィンチ、息子さんがユーウェルを殺したと?」「いや、息子さんじゃない」
言いながら、保安官はアーサーを見た。スカウトもまた、“ブー”の顔を見た。そしてシェリフは言った、「ユーウェルは、自分からナイフの上に転んだ」。
保安官「無実の黒人が死んだんだ。誰かがその責任は取らねばならない。これは報いなんだ」
「あんたは、真実を公表しろと言うだろう。だが、そうしたら、どうなる?」「あんたと町を救った男が衆目に曝される。このシャイな人物を、人前に引きずり出すことになる」「それこそ罪だ。私には、できない」
そして保安官テートは、静かに付け加えた。
「私は優秀ではないが、この郡(カウンティ)の保安官(シェリフ)だ」
「ボブ・ユーウェルは、自分で、ナイフの上に転んだ。そして、死んだんだ」
(つづく)
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2015/02/23 12:03:05
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