2015年08月21日
【HP600ミリ】初代プリウスの場合 part3
人間工学とパッケージングでの探求は、まだつづく。今度は視界だ。「視界というのは、どういうのがいいのか。たとえば、ボンネットは“このくらい見たいね”っていうことで、スターレットを改造しまして……。実際にそれで、車庫入れや縦列駐車をしました」(服部達哉)このようなときにテスターやパネラーとなるのは、「G21」の規範に基づいてスタッフの全員である。
そこでわかったのは、視界を決めてしまうのは、結局はカウルの高さだということだった。このカウルというのはフロントウィンドーの下端のことだが、普通は搭載されているエンジンの高さで、ほぼ自動的に決まってしまう。そこで「G21」では、ふたたび逆転の発想を行なった。
「まず見やすいカウルを決めました。こんな形状とか、その高さとか。そして、そのカウルのなかに、どんなエンジンなら収まるかという順序にしました」(服部)
さらに服部は、とくに視界に関しては、女性パネラーを開発の先行段階から入れて、彼女らと一緒に見ていったと語る。「それでわかったんですけど、女性というのは、何かはじめから諦めている人が多いんですね。身体が小さいから見えないんだとか、私は見えなくてもいいわ……とか(笑)。でも、身体の大きな人と小さな人とが両立するところは必ずあるはずだって、われわれは諦めずにやっていきました」
この“諦め”ということでは、視界と空力性能との絡みもあった。近年のクルマは、空力を重視するあまりに、どうしてもクルマが丸っこくなり、またフロントのウィンドーも寝て来ている。それは仕方ないということになっていたのだが、それも諦めずに、もっと「よく見えるクルマ」を作りたいということを、この「G21」でのテーマのひとつにした。
また、この空力というのは、高い全高と空力との関係という局面でも顔を出してきて、チームに課題を突きつけた。……というのは、人をまず置いて、そこから余裕のある空間、つまり室内を作っていくと、クルマが果てしなく「四角く」なっていくからである。
しかし、業界用語で「絞り込み」といっているが、高速燃費にも影響のある空力性能を考えると、屋根に向けて造形をある程度は「絞って」いきたい。とくに、ちょうど後席乗員の頭が来るあたりをルーフに向けて絞り込みたいという要請が出てくる。「ここは、室内空間の確保と空力との“せめぎ合い”でしたね」(服部)
このようにして、服部らの「G21」グループは、パッケージングという人とクルマの新しい関係についての探究と発見を重ねていった。そして、最終的にそのまとめとなったキーワードが「アップライト」だった。すなわち、クルマのなかで「人」はもっと立ち気味に座るべきだという結論である。
「HPの研究、そして乗降性、これをやっていくと、シートの背もたれがどんどん立ってきました。それに、こういうアップライトな姿勢というのは、視界も良くて、疲労も少ない。総じてバン・タイプのクルマっていうのは、乗用車よりも運転していて楽ですよね。楽な姿勢を取ってくれって言って、メンバーでテストしましたが、やっぱりハイポジション+アップライトが一番好評でした」(服部)
そしてここから「G21」プロジェクトは、シートに関しても新しい提案をすることになる。トヨタのシートはそれまで、背もたれは直立に対して25度の角度で寝ていたのだが、それを21度にすることにしたのだ。クルマのインテリアを見ていく場合、その(試しに変えてみる際の)数値の単位はミリ以下であるともいうから、この「4度」というのは相当な数字であろう。こうした大胆さも「G21」ならではの柔軟性だった。
「エンジン、駆動系、生産技術まで、みんな一緒に(開発を)やったというのは初めてでした」「でも、あのチームは、先行の開発としてあるべき姿を追求できたと思う。担当者としても、思う存分やらせてもらいましたね」。人間工学担当の服部達哉は、自身がかかわった「G21」というプロジェクトについて、こう総括した。
(1999年双葉社・刊 『プリウスという夢』 第3章 人を包む発想 より抜粋)
(了)
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2015/08/21 19:28:54
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