実は昨年末の某日、我がレクサスISの故郷、
トヨタ自動車田原工場にある、レクサス生産ラインの
見学に行ってきた。私自身、ものつくりに携わる者として、
性能もさることながら、品質、と言う観点から、徒然と。
仕事柄、自動車工場にはたまに赴くことがあるが、世界的にも高品質を謳う「レクサス」の車体生産ラインに立ち入るのは、この時が初めてだった。しかも、いわゆる「オーナー様」待遇での見学であり、少しばかり気恥ずかしいながらも、車体生産ラインが他車、他メーカーとどう違うのかをじっくり見学できるという事で、久しぶりにドキドキしながらの見学だった。
レクサスは、1989にアメリカで展開された、トヨタ自動車の高級ブランド。日本では2005年からだけれど、世界的には21年にもなる。日本に導入されてからというもの、ベンツやBMWなどとよく比較され、揶揄され、罵倒され・・・という向きが、未だに続いている。所詮トヨタ、TマークがLマークに変わっただけ等々。
確かに、大昔から自動車雑誌などで洗脳され続けたユーロ系の車至上主義者から見れば、まだまだレクサスは新参者であるし、ブランド性で言えば、まだまだこれから、というイメージが強い。
ユーロ系のクルマも、最近は壊れにくくて云々等はよく言われるが、それは電装系の装備が総じて日本製に変わってきているからであり、ユーロ系メーカー自体が改善したのではない。「BOSCH」と書かれたプレートを剥がすと、そこには「DENSO」と書かれていることも、多々ある。
それに、走りに関しても、こればかりはホントに好き好きなものであり、感応評価でしかない。
絶対的な走行性能の判断は、過去に何度も書いたが、テストドライバー以外になしえない。だから、ユーロ系の車の走りがいい!と言うのであれば、それは、「ユーロ系のクルマの走りが(その人は)好き」なのであって、それ自体が良いとか悪いとかではないのではないか。
結局のところ、自分の好きなクルマに乗ればいいのだ。
だからレクサスをいじめないで!
ユーロ系のクルマの人気には、ブランド性、と言うのがあるだろう。レクサスも、このブランド性と言うのを確立し、海外ではその地位を築きつつあり、地域によっては、不動のものとなっている。北米の某地域では、息子が誘拐犯に狙われ、身代金を要求されるほどだ。
では、高級車としての地位を確立する為のブランド性。これには何が必要なのだろう。
歴史?いや違う。
例えば、ホンダとフェラーリ。どちらが歴史が古いと思うだろう。多くの人が「もちろんフェラーリ」と答えるだろう。実際にはホンダ技研工業株式会社設立は1948年。内燃機関の製造及び研究が行われたホンダ技術研究所の設立は1946年。そしてエンツォ・フェラーリによって、レーシングチーム運営会社としてスクーデリア・フェラーリが設立されたのが1947年。共に60年あまりの歴史を持つ。しかしブランドイメージの高いホンダながら、フェラーリのブランドイメージには敵わない。
アウディがメルセデス、BMWと同等のブランドイメージを持つようになったのは、「クアトロ、空力、アルミボディ、シンプルなデザイン、インテリアの緻密な作り込み、シングルフレームグリル」と地道なブランド戦略を取り出した1980年代以降。ほんの20年余りのことだ。
レクサスがアメリカで展開されて21年。日本でのブランド展開開始からは、まだ6年ほどだ。自動車ではないが、たとえばフランク・ミュラーが宝飾細工師ヴァルタン・シルマケスとフランク・ミュラー・ウォッチランドを設立したのが1992年という。その後たった10年ほどで、高級腕時計としてのブランドイメージを築きあげている。
ブランド性の確立には、実は歴史ってあまり意味が無いのでは無いか?
では、なにが必要なのか。
それは、様々な演出を交えたブランディングだろう。長い歴史は必要なくとも、高級車には「神話」が必要なのではないか。
私が小学生の頃、愛読書だった「モーターマガジン」で知った神話。
○ロールスロイス
「走行中、聞こえてくるのは時計の音だけ」、「僻地でロールスが故障し、メカニックがヘリコプターで来て修理。オーナーが後日修理代のことを尋ねると『何かのお間違いでは?ロールスが故障することはありません』」。
○メルセデス・ベンツ
テールランプに凹凸があるのは、泥跳ねしても、凹面には泥がつかず視認性が保たれる。
乗り心地のために、シート内部にはやしの繊維や馬の尻尾が使われる。
それは事実であっても、そうでなくても問題ではない。他とは違うそのクルマならではの、「神話」として人々に伝わることが重要だ。長い「ヒストリー」は必要ないが、「ストーリー」は必要という事だ。
旧来の高級車のイメージとは、「速い」「大きい」「立派に見える」「静か」「天然の高級な素材を使用」などだが、現在ではそれに加え、「小さくても凝縮された質感」「安全」「他者への配慮」「環境に優しい」「おもてなし」などの新しい価値観も加わった新しい形。それがレクサスだと思う。
(特にIS)
様々なクルマのカタログで「本木目調」と「本木目」という記載の違があるのをご存知だろうか。
本木目調と言うのは三次元水圧転写などを用いたいわゆる「偽の木目」であり、本木目と言うのは、文字通り、本物の木目。トヨタでは、クラウン以上の車種が本木目。それ以下は本木目調だ。
これらを踏まえた上で、「日本の文化」を具現化している、レクサスをはじめとする日本の高級車に今後期待するのは、「日本独自の素材」を使うこと。たとえばその国に家を建てる時に、その国の素材を使い建てることが、気候風土にも合っていて、住み心地良く長持ちをする。クルマは輸出もされるグローバルなものではあるが、生産国の素材にも注目して欲しい。アストンマーティンがセンターコンソールの素材に竹を選べるようにしたのは、日本人としては「やられた」という感じ。レクサスCT200hでは、「バンブー(竹)」が選べるようになったが、もう少し早くても良かったと思う。
どんなに高級な素材を使っても、どんなに匠が作り込んでも、どんなにその裏にストーリーがあっても、それを人々に伝えなければ、それはなかったこと。ユーロ系のメーカーは、その辺は実に巧く宣伝広報し人々に伝え、ブランドイメージを構築している。実はこれが最大のブランディングなのだ。要は演出。
センターコンソールの木目に高級「感」を出す為、フィルムを貼って光沢を出している欧州の高級車。対して、50以上の工程を経て塗装、研磨して仕上げられる木目」を持つ日本の高級車。
選別作業もせずに、後からシボをつけ使用される本革を持つ欧州の高級車に対し、100枚中3枚を厳選し、シボもつけずにそのまま使用される日本の高級車。いったいどちらが高級だと思うだろうか?
そういう意味で言えば、「以心伝心」「おもてなし」などの和の心が詰まったレクサス。もっと演出して、事実に裏付けられる「ストーリー」を付け加えれば、もうすでに十分世界の高級車の仲間入りだ。いや、十分に仲間入りされていないのは日本だけなのだが。
でも、日本人には、(トヨタで言えば)クラウンの方が上なのかもなぁ。
よくよく考えてみると、ブランドって単なる演出なのか!?そうに違いない、と現在の私は考える。
腕時計もそうだが、機械式の高級腕時計の精度の低さって、馬鹿らしい。メンテナンスも必要だし、
それならば、電波ソーラー系の腕時計のほうが高品質だと思いませんか?
いやいや!高級機械式腕時計には、ロマンがある!?そりゃそうだ!実は私も欲しいのだから。
ってことは・・・ブランド品を買う、ということは・・・
「ブランド品が欲しい」→「大蔵省、もしくは財布と相談」→「説得が必要(相手にも自分にも)」
→「手っ取り早い説得はないか」→「ブランドのストーリーなどのうんちく」→「自分の納得と相手の説得に効果アリ!?」→「いいものなのかどうかは置いておいて、ゲット!」・・・
その辺の量販店で売っているカッティングシートの「カーボン柄」「木目」を車体の生産段階で貼り付けて行けば、もっと安価に高級「そう」な車ができるのではないか。
だって、ユーロ系はそうしているし、なんたってプレミアムってのは、世界共通、生産側から言わせれば、
「いかに安く作って、高く売りつけるか」という事と同義だ。
ん~~~~、ブランドっていったい。
注)・・・写真はトヨタ自動車田原工場のレクサスラインを見学した際に、土産としてもらった、
LSのシートと同じ「セミアニリン本革」で製作された名刺入れ。裏面に「TAHARA PLANT」の
刻印アリ。