高速に乗って最初のサービスエリアで給油、満タン。
これで帰りにどのくらいになっているか個人的には関心を持ちつつ、再び本線に合流。
興奮していた自分もこのころには落ち着いて、助手席で乗り心地やエンジンの鼓動、
クルマの挙動を確かめるゆとりが出てきた。
ほぼ法定速度内でCSLは走る。
そのせいか、ノーマルM3よりも足はバタつかず跳ねず、意外に乗り心地は安定。
ちなみにずっとオートマモード。
後述するが、今回の4年ぶりの試乗で一番の驚きだったのが
このオートマモードでの走り心地であった。
さて、やがてCSLは高速から自動車専用道路へ。
ここはオーナーもそしてオイラも過去覆面につかまっている道。
しっかり法定速度を守りながら、CSLにとっては退屈な走行がしばらく続き、
やがて峠の入り口へ到着。
帰りに寄ることになっている美味しく割安な干物屋さんの駐車場へCSLを入れ、
店内を少し冷やかし、後で買うものの品定め。
さて、運転交代。いよいよ4年ぶりのステアリングを握る。
いざ着座。
ノーマルM3で見慣れたはずの基本インテリア空間ではあるが、
アルカンターラのステアリングを握り、ほぼ直角のフルバケットに身を委ね、
やたら視界を占めるカーボンパーツを見やると、
なにやら自分が動かしていいものかどうか、ビビり始めたのも事実。
うまくは言えないが、「手に負え無さそう感」が胸の中を駆け巡るのであります。
ハコ型なのに「明らかに普通の乗用車じゃないぜオーラ」に早くも負けている自分。
オーナーに促されキーを捻るも、そもそもSMGってどうやってエンジンをかければよいのか
知らなかったと念のために質問。
切った時の状態のまま、「N」でキーを回せばいいと聞いて、そりゃそうかと苦笑いしつつ捻る。
と、まるでキーを捻った手首に喧嘩を挑むかのような反発力が一瞬来たと思ったら
エンジンに火が入った。
懐かしいSエンジンの感触。しかしあの時のエンジンとは似て非なるCSLの心臓だ。
アイドリングの重低音もしびれる。
シーケンシャルモードではなく、オートマモードで、恐る恐るアクセルを踏む。
フロント下部のカーボンリップの存在を意識しながら、見えない路面の石や障害物に気を配り、
ゆっくりと駐車場内を周回。
気分は初めて路上に出る教習生。
ちなみにこのカーボンリップ、1枚10万円以上とか。
バンパーをぶつけて新品交換しようものならフルカーボンゆえ90万円也。
そう、塗装してあるからわかりにくいが、CSLの前後バンパーはフルカーボンなのだ。
さて、道路への段差も気にしつつ路上へ。峠の入り口までおっかなびっくり突き進む。
しかし、人間現金なもので、ゲートをくぐれば、一気に念願かなってのお楽しみ試乗気分満開。
早速パドルをパカパカと加速感を味わい、超絶レスポンスにスゲー、スゲーと
小学生並みのボキャブラリー全開である。
4年前に初めて味わったシフトダウン、フルスロットルの組み合わせによる
間髪入れない加速は、まったく色褪せることなくご健在。
まさに一瞬の躊躇すらない加速である。
これはノーマルM3(MT)では決して叶わないレスポンス。
M3といえどもCSLは別次元である。
こんなに楽しい運転の世界がまだ用意されているクルマ、うれしいじゃないですか。
峠の往路は基本、登り坂。
コーナーまでフル加速、手前でシフトダウン、自動ブリッピングで減速、
きれいなトレースを描きつつ、出口でまた加速、シフトアップ。
スティックシフトのマニュアルより面白い、楽しい。
本当に気分はF1レーサー、あのオンボードカメラの映像そのものの世界。
パドルでパカパカ楽しみながらやがてCSLは頂上へ。
そこからは下り。
あいにく前方には複数の先行車もいたために、シーケンシャルは封印、
オートマモードを試す走行に切り替えた。
このオートマモード、4年前に運転させていただいたときは、正直そのギクシャク感には
違和感をぬぐえなかった。
オートマモードといえど、SMGはトルコンではないので、
いわゆるオートマのドライバビリティを求めるのは少々無理がある。
シームレスにシフトをつなげていくトルコン方式と違って、
SMGはダイレクトに1つ1つギアをつないでいくため、
つながりのショックがどうしても発生するのだ。
(DCTはあらかじめ前後の2種のギアがスタンバイしているからこの点は解消されている)
もっとも、ステッィクシフトの手漕ぎでも、上手なドライバーならばクラッチを切ってつなぐ際の
左足の微妙な操作でシフトショックを感じさせないことができるように、
SMGのオートマモードでもそれは可能ではある。
その秘訣は、スティックシフトのマニュアル操作と同じようにすること。
つまり、シフトアップして行くときはギアがつながる一瞬、アクセルオフし、
つながったあとは遠慮なく踏むのだ。
スティックシフトのクルマだと無意識にドライバーがやっていることを、
2ペダルのSMGでもやればいいだけ。
ただし、自分の意志とタイミングで左足と右手(左Hの場合)を使い操作する手漕ぎと違い、
あくまでクラッチ操作はクルマ側が行うので、アクセルオフのタイミングはクルマと会話しながら、
エンジン音を“読み”つつ行うところがミソ、難しいところではある。
この意味でも、マニュアルクラッチ操作の未経験者だと、
そうしたクラッチ操作を自分で行うという経験がないので、
SMGでのオートマモードはスムーズな運転がしにくいのだ。
SMGの“オートマ”とは、あくまでクラッチの切り/つなぎを機械側が
「automatically」にやってくれる(=人間の操作ではなく)というだけで、
決してトルコンのオートマと同一の意味に受け取ってはいけないのである。
このコツさえわかればギクシャク感の発生はクリアできる。
2ペダルでも、手漕ぎ派が大切にする「自分で動かしている感覚」は十分味わえる。
ちなみにシフトダウンの時はオートマモードでも自動でブリッピングされるので、
ギクシャク感はあまりない。
話が長くなったが、今回4年ぶりに運転させていただいた中で特に印象に残ったのが、
このSMGでのオートマモード走行だった。
というのは、シフトアップ時のアクセルオフ所作を意識していなくても、
ギクシャクが4年前に比べ、ほぼ解消されていたのだ。
これは驚きであった。
不思議に思ってオーナーに聞くと、ここ数年はほとんどオートマモードで運転しているとの答え。
そう、BMWにはシフトプログラムに学習機能というものがある。
ドライバーの運転特長をコンピュータが学習し、最適なドライバビリティを提供すべく、
プログラムを最適化していくのだ。
つまり、乗れば乗るほど、乗りやすい運転環境にクルマが育成されていくわけだ。
4年前は走行距離15000㌔、4年後の今は25000㌔。
1万キロ走る間に、学習機能により、運転プログラムが最適化されたということになる。
ここまで劇的に変わるとは正直思わなかった。
実際、CSLでなくても、SMGに乗っている方が、
「カミさんがオートマモードで年中走っているからすっかり乗りやすいプログラムになっている」
という方は多い。
これならシーケンシャルモードでなくても十分速いし、楽しいと思えるオートマモードだなぁ、
とそんなことを思いつつ、道を下り、次の峠ステージを目指すうち、
でもやっぱり、指はパドルに掛かってしまうのよねえ。
CSLはドライバーをついつい戦闘モードにしてしまう罪なクルマである。
(不定次回に続く)