
CX-3は奇跡的なプロダクトだと思う。
よくもまぁこんなモノが企画通って実際市販されたなぁと思う。
そのへんをちょっと語りたいと思います。
◆何がそんなに「奇跡的」なのか
それはデザイン、特にエクステリアのデザインです。このエクステリアデザインをこのサイズ・この値段で出したことが「奇跡」もしくは「暴挙」としか言えません。どうしてそう言えるのか、カッコイイくるまをつくるにはというところから見ていきます。
◆カッコイイくるまが誕生する条件
カッコイイくるまをつくるには、様々なハードルがあります。
カッコイイくるまの絵をかける人は、きっとどのメーカーにもいるんだと思います。でも、そこから「カッコイイ商品」をリリースできる会社は限られてる。そんな中でいまのマツダが異常にカッコイイくるまを連発できるのは、下記のような強みがあるからだと言われています。
①カッコイイデザイン画を、カッコイイ立体に起こせる
優秀なモデラーが揃ってて、モデリングに手間を惜しまない
②デザインで勝負するというコンセンサスができてて、
カッコイイデザインの実現に設計部門はもちろん生産部門やコスト管理部門までもが協力的
③(これは個人的な推測ですが、店舗デザインにまで口を挟むようになったように)デザイン部門の権限が強く、口を出してくる部外者がいないか、口出ししてきても勝てる
ここまでは、今までの魂動デザイン商品群もぜんぶいっしょです。でも、CX-3だけが取り立てて「奇跡」と言えるのは、「幅をデザインに突っ込んだ」商品企画にあります。
◆かっこいいエクステリアデザインにはいかに「幅」が必要か
コンセプトカーはカッコイイのに市販化版をみてがっかり、という経験、みなさんもたくさんあるかと存じます。コンセプトカーはいいのに市販化するとダメになる理由には主に下記のようなものがあると思われます。
①市販車は、適正なコストで大量生産できるかどうかを気にしなきゃいけない
②市販車は、法規の問題がある
③市販車は、幅を気にしなければならない
④市販車は、デザインにあんまり理解のないエライ人や販売サイド等のチャチャ入れがある
こんなとこでしょうか。
今のマツダは前述のとおり④についてはたぶん問題ありません。①についてもかなり協力的な体制が社内でできていることでしょう。②はまぁどうしようもないですけど、設計部門とコスト管理部門の協力で最大限の努力ができるところです。
問題は③、幅の問題です。
いまのマツダの「魂動デザイン」の原器となっている純デザインコンセプト「SHINARI」。全幅は探した範囲では見つけることは出来ませんでしたが、ドアの幅がアテンザが80〜90mmなのに対し、
なんと200mmもあるようです(厚すぎwww)。これくらいないとあのサイドの表現ができなかった、と。
(SHINARI,2013東京モーターショーにて筆者撮影)
そして市販車プレビュー的なコンセプトカーも、必ず市販版よりも幅が広くなっています。TAKERI→アテンザでは3cm、HAZUMI→デミオでは3.5cm、全幅が削られています。
(TAKERI,2013東京モーターショーにて筆者撮影)
新型デミオ、かなりカッコイイし市販車としては超絶高水準だとは思いますが、やっぱり1695mmではキツかったのか、HAZUMIのサイドの美しい面からは1歩後退したような印象があります。
(HAZUMI,マツダオフィシャルより拝借。エロい…)
その点CX-3は、
「ホイールベースがデミオと共通なこと以外あとは自由な発想でつくりあげた」と語られるように、たいへん美しいプロポーションと、その表層にマツダの優秀なモデラーが腕をふるい人力で削りだした素晴らしい「面」を持っています。
そう、CX-3は、コンセプトカー→市販車で削られるはずの「デザインにあてた全幅」を、削ることなくまんまリリースしてるようなものなのです。
これが私が「CX-3スゲェ」と思うところです。もう少し詳しく見ていきます。
◆「エクステリアデザインに幅を割く」という奇跡
いまの日本車は、とにかく「なるべく小さいサイズで」「なるべく大きいスペースを」ということを重視してるものが人気を集めています。
規格枠いっぱいまで広がったハイト系軽自動車。側面も後ろもとにかく絶壁で切り立った豆腐みたいな
5ナンバーサイズミニバン。なるべくキャビンを大きくみせるためにイモムシみたいなフォルムになった上、デザインに幅を割けない中で個性や動きを出そうとして苦肉の策でヘンなラインを刻まれたコンパクトカー。
うーん。
「限られたサイズで最大の容積を!」というくるまづくりでは、これまでみてきたようにデザイン上とても重要な「全幅」を、デザインなんかに割くことなどできません。出来る限り室内空間に充てているのですから当然です。でもそれ、突き詰めていくと「商用車」とか「バス」にしかならないんですよ。幅・長さ・高さの3寸法が決まってれば、そこに合わせてシカクくつくるのが一番容積を拡大できるんですから(機能美を突き詰めたハイエースとかプロボックスとかは非常にいけてると思いますけども、乗用車としての美しさではないですよね)。
外装は乗ってれば見えないからいいのかもしれませんが、そこに「綺麗で素敵なものを所有している」という悦びは発生するのでしょうか。街を歩けば嫌でも目に入ってくる存在として、街の風景を豊かなものにするプロダクトたりえるのでしょうか。
そんなある意味での「貧しさ」すら感じる国産車だらけの中で、「幅は現行デミオより7cmも広いのに、キャビンは現行デミオ同等。増えた幅はぜんぶデザインに突っ込みました!!!」という商品企画がいかに頭がおかしいか(褒めてます!)、おわかりいただけるでしょうか!!
その商品企画に、マツダの業界随一のデザイナー陣やモデラー陣が見事に応えました。その結果が、あのパンッと張った凄まじいハリ感のある前フェンダー(ここ、特に前フェンダーのドア側やや上あたりの面、超フェティッシュだと思います、是非ジロジロ眺めてみてください)や、グラフィックでごまかさず面だけで魅せる、シンプルなのにいつまでも眺めてたくなるボディサイドなわけです(他の魂動デザイン車に比べて下側のラインが1本省かれてるのに一切間延び感のないこの造形!)。
もちろん、他にも全幅をデザインに割いてるクルマはいくらでもあります。でも、それらはだいたい「幅を気にしないでいいアメリカ車」か、「超高級車」か、「トレッド確保のため幅を広くする必然のある高性能車」で、まぁだいたい日本で我慢なく乗れるようなサイズじゃないし30代の一般的勤め人が普通に買える値段ではありません。だがしかしあろうことか全幅たったの1765mmのクルマでそれをやった暴挙が、なんと237万円から手に入るのです。これはヤバイ。
◆スペース効率至上主義から決別できる「勢い」
幅の話ばっかりしてきましたが、CX-3が美しく見える要因はもちろん幅だけじゃありません。このボディサイズに対しこんだけキャビンがコンパクトだと、人間でいえばモデルみたいな体型になるわけで、そりゃ猛烈に美しいプロポーションにもなるわけです。グラフィックでやディテールで逃げない、「根源的な美しさ」です。これももちろんスペース効率至上主義ではできない芸当です。
これを出そうとすること自体、いまのマツダの勢いと、クルマというプロダクトにかける想いを感じざるを得ません。だって、「なるべく小さいサイズでなるべく大きいスペースを」という価値観とは対極の、「コンパクトな取り回しができる上限くらいのサイズの中で、室内空間は大人4人がマトモに座れてその分の荷物が乗る最低限だけあればいい、あとはデザインをひたすら磨く」というプロダクトですもの。
マツダには「ロードスター」という精神的豊かさの極みみたいなクルマがあるので、もともとこういうのが出てくる土壌があったのと、新世代商品の高評価による好調な業績が、こういう贅沢なクルマを出そうという企画につながったのでしょう。しかも見た目だけではなく中身もギチギチに濃く、どこまでも人を中心に作りこまれたコクピットに、走らせれば並み居る欧州車を向こうに回して対等に戦える気持ち良さを持ちながら、燃費だけを考えてあとのことが犠牲になりすぎてるエコカーと比べられてもなんの問題もないくらい燃費がいい。これができるメーカー、いまほかに国内にあるでしょうか。
(あ、FJクルーザーはわりとそういうクルマだと思ってます、あれは素晴らしい。あんな見た目で中身もまんまランクルというガチ仕様だしね。まぁサイズの成約が無いに等しいアメリカ向けのプロダクトですけど)
◆クルマを持つという贅沢
クルマは本体価格が高価なばかりか非常に維持費がかかります。また、運転には大きな責任が伴います。正直、ある程度の人工密集地に住んでいるのだったらクルマなんて買わずに、公共交通機関を活用したり、タクシーを活用したり、必要なときにタイムリーにレンタカーを借りたりしたほうが、コスト的にもリスクマネジメント的にも理にかなっている気すらします(公共交通機関が発達した大都市圏になればなるほどそうですよね)。
それでも「クルマを所有したい」というんだから、そこは実用一辺倒ではなく、所有欲を満たせるだけの愛着や趣味性を持たないと、もったいない気がするんですよ(これが私なりの貧乏性です)。そこには価格が手の届く範囲に収まっていることと維持費を無理なく払えること、そしてそれぞれの事情に合った最低限以上の実用性があることだけ満たしていれば、あとはもう、所有欲を満たせるかどうか、これしか考えなくていいんです。
というわけでこれまで2人家族だったため、ロードスターという伊達と粋狂で乗ってるとしか見られない趣味性の塊みたいなクルマに乗ってきたわけですが、同じ種類の「豊かさ」を感じるクルマが5人乗りハッチバックで、しかも使いやすいサイズかつ頑張れば買える値段で登場したこと、これがCX-3の奇跡だと思っています。
私はそこにあまりにも感動し、これは買い支えねばクルマ文化は豊かにならない!!!とまで思ってしまったがために(そして今のマツダのくるまのデキの良さに対する信頼感の強さもあって)試乗もせずに買ってしまいました。
その判断は、いまのところ間違っていなかったと確信しています。
これをお読みの方の中に、もしCX-3を購入しようか悩んでいる方がいましたら。決して安い車ではないですが、もしよかったら一緒に「奇跡」を「当たり前」にするクルマを、街に・野に・山に走らせませんか。