コンプレックス

私はここ数年に渡って、テレビの無い生活を続けています。
ま、たまたまテレビが故障して映らなくなったことをキッカケに、新しく買う気が起きずに今日まで過ごしてきているということなのですが。

しかし、出張先のホテルなどで時々見る機会もあります。
そんな中で見かけて気になったのが、トヨタ自動車の「bB」のコマーシャルでした。

なんとCMソングに採用されていたのは、COMPLEXの「BE MY BABY」。
1988年に布袋寅泰氏と吉川晃司氏によって結成されたCOMPLEX、そのデビュー曲は大ヒットとなりましたが、ユニットそのものは僅か2年ほどの短い期間で活動を終えてしまいました。

ところで一定の年代より上の方ならご記憶のことでしょう、この「BE MY BABY」が当時は別のトヨタ車のCMソングに採用されていたことを。



「トヨタ セラ」。
1990年にデビューした、コンパクトクーペ。なんといっても最大の特徴がガルウィングドアの採用、保守的な印象が強いトヨタ自動車の意欲作として話題を集めました。

メカニズム的には当時のカローラIIシリーズと多くのコンポーネンツを共用、エンジンも排気量1,500ccの"ハイメカツインカム"のみを設定して、動力性能などはごく普通の車でした。

しかしガルウィングドアを採用した2BOXという世界的にも類を見ないコンセプト、そして圧倒的なグラスエリアの広さを誇る個性的なデザインは購買意欲をそそるに充分な素質を備えていました。

またさすがにトヨタ自動車らしく、ガルウィングドア開閉の要となるダンパーの品質は綿密に煮詰められており、その開閉操作力やフィーリングはもとより、寒冷地でも支障なく一定の操作を行なえる高いクオリティを実現していました。

もっとも、ガラス張りの室内は夏場は冷房性能がやや物足りなく感じることもありました。ですが、私も当時友人が所有していたセラに乗った経験がありますが、サンシェードを取り外した状態での解放感はサンルーフの比ではなく、オープンモデルともまた違った独特のクルージングを楽しめました。
圧巻は雨の日で、丁寧に全てのガラス面に撥水剤を塗布して雨の中を走ると、水滴が後ろへと駆け抜けていく様が爽快なものでした。

実はこの車、デビュー当初はもっと明るい調子のコマーシャル展開でした。
しかしマイナーチェンジあたりを機に方向性が変わり、上記の様にアクティブな女性をターゲットとしたイメージを訴求し始めたのです。

このコマーシャル、個人的には自動車のCMで屈指の出来ばえの作品に数えても良いと思っています。セラという個性的かつオーナーのセンスを問うクルマに対して、明確なターゲットユーザーイメージを訴求。当時の世相や女性の生き方を30秒で見事にまとめています。そしてもちろん「BE MY BABY」もそうした雰囲気を的確に演出する曲として存在感を見せています。

振り返って「bB」のコマーシャル。
勝手な想像ですが、広告を打つ側としてはセラの現役時代を知っている年齢層に売り込みたいという思いもあるのではないでしょうか。

実は「bB」というクルマ、初代もそうでしたが予想よりも高い年齢層が購入しているようなのです。
元々は若い世代に強く訴求していたのですが、実際のユーザー層が想定より高い年齢層だったことから、この世代にも印象付けるためにあえてこの曲を選んだのではないかと想像します。

しかし、コマーシャル自体の出来ばえには、セラほどの完成度は感じられません。

単なる懐古話になってしまうかもしれませんが、あの当時のトヨタといえばジュリア・フォーダムを起用した「初代・コロナEXiV」や、往年の名車「2000GT」をオーバーラップさせるという大胆な手法に出た「スープラ(70系)」のデビューCMなどは今も記憶に鮮明に残る名作だったと思います。