今日はプリロードのお話です。
ところで、ばね秤です。
ごく一部の方だけにしか伝わらないと思いますが、「新しくなりました。」(笑)
かわいいでしょ(笑)
あんまり重いものは測れないのですが、軽いものなら測れます。
試しに21mmのソケット(工具)を載せてみました。
写真が小さくて申し訳ないのですが、だいたい75gくらいのようです。
次からこのソケットのことは「75gの重り」と呼びます。
次に、ソケットにクイックスピンナ等の他の工具を接続します。
重くなりました。
やはり見にくくて申し訳ありませんが、だいたい215gくらいを指しています。
次から「215gの重り」と呼ぶことにします。
さて、ここで今回の主役の登場です。
ばね秤の右側に写っているのは、僕が20年くらいかけて制作した高性能プリロードかけ機「プリロードかけ男くん」です。
ウソです会社帰りにさっさと作りました。
ちなみに、かけ男くんの前世は高性能タマゴかけ機「ごはんにタマゴかけ男くん」だったそうです。
知らんがな!
使い方ですが、このように、上下で挟むようにして使います。
ねじ式になっているので、締め込めば締め込むほど、上下の間隔を狭く出来ます。
ところで、このときのばね秤の針は150g弱のところを指しています。
べつに150gの重りを載せたわけではないのですが、上下で挟んでいるので、150gを指します。
ねじをもっと締め込むと200gにも300gにも出来ますが、とりあえず今回は150g弱のところで固定しましょう。
単純に挟んでるだけなので、ばね秤のお皿を押さえればお皿が下がりますし、
離せば、もとの150g弱のところに戻ります。
215gの重りを載せれば、針は215gを指します。
ところが、ここで75gの重りを載せると、針は75gではなく150g弱のところを指しました。
75gの重りは150gよりも軽いので、こうなります。
プリロードかけ男くんがばね秤を挟み込んでいるので、150gよりも重いものを載せない限り、針は150g弱のところを指したままになります。
もう一度215gの重りを載せると、215gを指します。
ここで、この215gの重りを「ゆっくり載せる」ときのことを想像してみてください。
ゆっくり、ゆ~っくり、重りを載せます。
重りが秤のお皿に触れた瞬間は、まだ針は動きません。
重りを持つ手の力を少しくらい緩めても、まだ針は動きません。
さらに力を緩めると、150gくらいのところで、針がピクピクと動き出します。
やがて、少しずつお皿が沈み始めます。
そして重りを持つ手を完全に離したとき、お皿が沈み込むのが止まって、針は215gを指したところで止まります。
いいですよね。
さて、ここで「地面からお皿までの長さ(高さ)」を測ってみましょう。
またしても見にくくて申し訳ないのですが、重りを何も載せていないときは、約11.5cmです。
プリロードかけ男くんをセットすると、お皿が1cmくらい沈むので、10.5cmくらいになります。
ここで75gの重りを載せても、10.5cmです。
75gは150gよりも軽いので、お皿は沈みません。
215gの重りを載せると、お皿が沈んで、ちょうど10cmくらいになりました。
ところで、ここでメモ用紙を用意します。
厚みがちょうど1cmくらいあります。
1cmのメモ用紙の上に秤を載せました。
すると、最初は11.5cmの高さだったものが、12.5cmくらいになりました。
まぁ当たり前ですね。
プリロードをかけると、11.5cmくらい。
ここで75gの重りを載せても、変わらず11.5cmくらいですが、
215gの重りを載せると、ちょうど11cmくらいになります。
すべて、さっきより1cm高くなりました。
1cm「かさ上げ」してるわけですから、そうなりますね。
以上さほど難しくなかったかとは思いますが、プリロードの基本的な考え方です。
今度はこれをクルマに当てはめるとどうなるかを説明します。
ばね秤にプリロードをかける場合、写真の矢印の部分の長さが変わることでプリロードの大きさ(長さ)が変わりますが、
クルマのダンパの場合は、ここの長さを変えることでプリロードの大きさ(長さ)を調節します。
車高調はダンパケースにねじが切ってあるので、ロアシートを回すと、ロアシートが少しずつ上下に移動する仕組みです。
(ばねとダンパが別体式のものを除く)
実際にはばねがついているので、こんな感じです。
本来はこのようにばね付きのイラストで説明したほうが分かりやすいのですが、ばねのイラストを書くのは死ぬほど大変なので、もう二度と書きません(おいおい。笑)
ところでさきほどのダンパをそれぞれ実際のクルマに取り付けて1Gの荷重をかけたとき、ピストンロッドの沈み込みの差はこのようになります。
つまり、プリロードをかけた分だけロッドが上に上がる。
これは「沈み込む量が少なくなる」と言ってもいいですし、「伸びストロークが減る」と言ってもいいですし、「縮みストロークが増える」と言ってもいいでしょう。
前々回のお話を思い出しながら、伸び/縮みストロークがどのように変化したかを確認してください。
まぁどのように表現するかは別として、ともかく、図のような状態になります。
「底付きのしにくさ」のみに注目するとしたら、矢印の部分の長さ、つまり縮みストロークを見ると良いでしょう。
プリロードをかけると、縮みストロークが増えます。
何故そのようになるかと言うと、
例えばプリロードのない状態のばね秤に75gの重りを載せると、ばね秤のお皿は75gのぶんだけ「沈み込む」のですが、
プリロードをかけると、75gの重りを載せてもお皿は沈みません。
もちろん100gの重りを載せても沈みませんし、140gの重りを載せても沈まないのですが、150gを超える重りを載せたときに初めて、ちょっとだけ沈み始めます。
このとき、仮にプリロードがぴったり150gだったとすると、例えば160gの重りを載せたときは「10gぶんだけ沈む」。
180gの重りを載せたときは「30gぶんだけ沈む」ことになります。
分かりますよね。
なんだか分からなくなってきたら、この記事の最初のほうをもう一度読み直してみて下さい。
ところで、ばね秤の場合は「上から押さえつけるようにしてプリロードをかけている」のに対し、ごく一般的な車高調の場合は「下から押し上げるようにしてプリロードをかける」ような構造になっているのが普通です。
これは、ダンパケースにねじが切ってあり、ロアシートを回すことでプリロードをかけていくという構造なので、そうなります。
このとき、プリロードをかけると、車高が上がります。
ロアシートを上げると車高が上がるからです。
クルマの重さを支えているのはばねであり、ばねを支えているのはロアシートなので、ロアシートを持ち上げると車高が上がるわけですね。
つまり、ごく一般的な車高調の場合は「プリロードをかけると必然的に車高が上がる」となることが分かります。
プリロードをかけるにはロアシートを回して上に上げなきゃいけないので、ロアシート自体が持ち上がる、つまりロアシートの高さがかさ上げされると、車高が上がるというわけです。
ここで、ばね秤のお話をしていたときにお皿の高さを測っていたことを思い出して欲しいのですが、
上の2つは、どちらもお皿の高さが11.5cmです。
何もしていない状態のばね秤と、プリロードをかけた状態で1cmかさ上げしたばね秤。
ところが何もしていない状態のばね秤は重りを載せた瞬間からお皿が沈み始めるのに比べ、プリロードをかけた状態のばね秤は150gぶんだけ耐えてからお皿が沈み始めます。
プリロードをかけた150gぶんの違いがあるわけです。
その違いが沈み込みの差になり、沈み込みの差は伸びストロークの差になり、それは同時に縮みストロークの差にもなります。
長々と説明してきましたが、重要なのは「バネレートが同じでも、プリロードをかけることで、伸びストロークや縮みストロークの量が変わる」ということです。
プリロードを増やすと縮みストロークが増えますし、プリロードを減らすと縮みストロークが減ります。
例えば僕のクルマのリヤには10kgf/mmのバネが使われていますが、もともと純正のバネは2.5kgf/mmくらいです。
とても柔らかいですね。
本来なら柔らかいバネを使うと、伸びストロークの割合が多くなりすぎて縮みストロークが不足してしまい、すぐに底突きするようなサスペンションになってしまいます。
そこで、プリロードをかけてやることで縮みストロークを増やし、底突きを回避しているというわけです。
もちろんこのようなやり方も万能ではなくて、もしもロッドストロークに余裕がない場合、プリロードをかけすぎると伸びストロークが不足することで「伸びきり」が発生し、乗り心地や接地性に悪影響を与えてしまう結果になります。
だから「プリロードをかけさえすればいい」ということではなくて、伸びストロークがどのくらい残るかを考えながらプリロードの量を決めていきます。
プリロード量の計算は簡単で、10kgf/mmのバネを1mm縮めて組むと10kgfぶんのプリロードがかかります。
分かりますよね、10kgf/mmのバネというのは「1mm縮めるのに10kgfの荷重を必要とするバネ」ですから、1mm縮めれば10kgfのプリロードがかかるというわけです。
10kgf/mmのばねを5mm縮めて組むと、50kgfぶんのプリロードがかかります。
10mmだったら100kgfです。簡単ですね。
ばね秤の例では、約150gのプリロードがかかっていました。
150gの力は、ばねがお皿を上に押し上げようとする力として、また同時に、秤本体を下に押し下げようとする力として働きます。
そして「プリロードかけ男くん」とかいう訳の分からない鉄の棒がばねの伸びようとする力を押さえつけることで、150gの力とその応力とが釣合います。
ダンパの場合は、アッパーマウント~ピストンロッド~ダンパケース~ロアシートまでの構造物がばねを押さえつけることで、プリロードとその応力とが釣合います。
以上、かんたんにプリロードの説明をしました。
ここに書ききれていない要素もありますが、細かい諸事情に首を突っ込み出すとキリがないので、お勉強中の方はとりあえず「プリロードかけると伸び/縮みストロークが変わる」とだけ覚えてもらえばOKです。
さて、ここまで理解できると、ストロークの管理をする上での知識はぜんぶ理解したことになると思います。
車高を計算で出そうと思うとサスペンションレバー比の説明が必要だったり、最大ロール時にかかる荷重の把握をしようと思うとロールモーメントの説明が必要だったり、細かいことを言い出すとキリがないのですが、べつにストロークの管理をするのに必ずしもそんなの要らないと思うので、バッサリと割愛します。
というわけでストロークの管理のお話は今回で終わりなのですが、ダンパにまつわるお話のうち知っておいたほうが良さそうなものを次回以降2~3回に分けて書きます。
ただの無駄話ですから、基本的には今回まででお勉強は終了です。
お疲れ様でした。
自分のクルマの足回りに不満を持たれている方で、ロッドストロークが何mmあるか知らない、伸び/縮みのバランスがどれくらいなのか分からないという方は、対策を考えるよりも前にまずは計測してみてください。
計測した結果の数字を使わないと、正しい対策を検討することが出来ませんので、まずはそこからが第一歩です。
興味がなければ無理にとは言いませんが、少しでも興味があれば、ぜひぜひ^^