今日のお話は、数式を多用しているうえに長文となります。
多くの方にとってあんまり面白い記事でもないと思われるので、苦手な方はご遠慮ください^^;
さてクルマのサスペンションは、セッティングをいじると挙動が変化しますね。
コーナでリヤが出やすいからもっと安定させたい、逆にアンダーが出やすいからもっと曲がりやすくしたい、あるいはコーナ出口でもっとトラクションがかかるようにしたい、などなど…。
これらに関わる要素を「タイヤの角度」と「タイヤにかかる荷重」という2つに分けたとすると、後者のセッティングは主に荷重移動量を変化させるものです。
その中にはバネやスタビといったロール剛性に関わるもの、車高やロールセンタアダプタなどロール軸に関わるもの、あるいは減衰力のようにその両方に関わるものなどがありますね。
先日も紹介させて頂いた
自動車操縦安定性講座入門の
<4-2、左右荷重移動におけるロールセンター高とロール剛性前後配分>というページですが、初めてこのブログで取り上げたのは2013年のことです。
重量配分とロール剛性配分とロールセンタ その1
重量配分とロール剛性配分とロールセンタ その2
重量配分とロール剛性配分とロールセンタ その3
重量配分とロール剛性配分とロールセンタ その4
4回に分けて書いたのですが、最後の「その4」に関しては理解が不足していたこともあり、うまく説明できませんでした。
それが何となく、心の中でずっと引っかかってたんです^^;
でも現在は当時と比べて少し理解が進んでいるので、この機会に改めてまとめ直してみますね。
今回の記事は数式の説明がメインになります。
なるだけ計算は使わないようにしたのですが、数式や計算が苦手は方は読み飛ばして下さいね。
でも言葉だけの説明では勘違いを生みやすいのでホントは数式そのものを理解するのがおすすめです^^
まずはこちらの図。
W :車重
Yg :横G
Hg :重心高さ
ΔHg :重心からロール軸までの距離
Hf :ロールセンタ高さ(フロント)
Hr :ロールセンタ高さ(リヤ)
Tf :トレッド幅(フロント)
Tr :トレッド幅(リヤ)
ΔWf :輪荷重変化量(フロント)
ΔWr :輪荷重変化量(リヤ)
クルマがコーナリングすると、横Gが発生してロールします。
このとき、クルマをロールさせるために働く力というのは「質量✕横G✕(重心からロール軸までの距離)」で表されるので、これを記号に直すと「W・Yg・ΔHg」になります。
このような力に対して、クルマにはスプリングやスタビなどが生み出す「ロールに対抗する力」がありますよね。
この「ロールに対抗する力」というのはばねの力ですから、その大きさは「ロール剛性✕ロール角」で表されます。
(コイルスプリングにかかる荷重がばね定数✕縮み量で表されるようなもの)
ここで、
Gf :ロール剛性(フロント)
Gr :ロール剛性(リヤ)
φ :ロール角
とすると、「ロール剛性✕ロール角」は「(Gf+Gr)・φ」で表されます。
ところで例えばクルマが定常円旋回していると、ロールの角度は一定です。
ロール角が一定ということは、「ロールさせる力」と「ロールに対抗する力」が釣り合っているということなので、それぞれを記号で表すと
W・Yg・ΔHg=(Gf+Gr)・φ …(式1)
という式が成り立ちます。
やったね!
次に、もうひとつ大事な式を出します。
あっごめんなさい、ひとつじゃなくて2つでした^^;
ΔWf・Tf-Wf・Yg・Hf=Gf・φ …(式2♯フロント)
ΔWr・Tr-Wr・Yg・Hr=Gr・φ …(式2♯リヤ)
(式2♯フロント)は「フロントのロールセンタ周りのモーメントの釣り合い」を、(式2♯リヤ)は「リヤのロールセンタ周りのモーメントの釣り合い」を表しています。
まぁ、2つもあるとややっこしいので、、基本的にはフロント側だけで話を進めますね。
ここで、記号WfやWrはそれぞれ「フロント荷重」「リヤ荷重」です(ΔWfやΔWrとは別なので区別してくださいね)
残りの記号が何だったか忘れてしまった方は、さっきの図を再びご覧ください。
ところで大事な式のうちふたつめの式をよく見てみると、引き算が入っています。
ΔWf・Tf - Wf・Yg・Hf = Gf・φ (式2♯フロント)
これって一体どういうことなんでしょう?
式の右辺は「フロントのロール剛性✕ロール角」なので、考え方そのものは(式1)と同じです。
でも左辺がよく分かりませんね。
記号を言葉に変換してみましょう。
荷重移動量(フロント)✕トレッド幅 - 荷重(フロント)✕横G✕ロールセンタ高さ(フロント)
モーメントの釣り合いとして、「荷重移動量(フロント)✕トレッド幅」というのはいいんですが、そこから何を引き算してるんでしょうか?
ここの引き算って必要ないんじゃないの?
もしかしてこの式って間違ってるんじゃないの?と当時の僕は思いました。
カーロ君ごめんなさい(笑)
でも、よく考えるとそうじゃないようです。
もうちょっと分かりやすくするために、(式2#フロント)を変形してみました。
さらにややこしくなってしまって、ごめんなさい(汗)
でも、この式の中で見て欲しいのは2つだけです。
足し算のうち片方にはφ(つまりロールの大きさ)が入っていて、もう片方にはHf(つまりロールセンタ高さ)が入っている。
この式は何の式かというと、左辺がΔWfなので、フロントの荷重移動量を求める式です。
クルマがコーナリングするときには内輪からは荷重が抜け、外輪の荷重は増える。
その量がどれくらいなのか?を表しているわけですね。
(この式を実車に適用するにあたってはいろいろ条件が必要なので、実際の荷重移動量の計算とは少し異なります。実車は複雑なのです。笑)
ここで、足し算の左側にはφが入っているので、ロールが大きければ大きいほど荷重移動量も大きくなることが分かります。
ただしGfも入っているので、「バネを柔らかくすればロールが大きくなって荷重移動量も大きくなるかもしれないなー!」ってのはナシですよ(笑)
バネを柔らかくするとロールの量は増えてもGfが小さくなってしまいますから、同じことです。
で、足し算の右側にはHfが入っています。
ロールセンタ高さが増えると、荷重移動量が増える?
うーん、どうなんでしょうね。
これは逆に言うと「ロールセンタ高さを減らせば荷重移動量を減らせる=メカニカルグリップが上がる」ということになります。
ロール軸を下げればグリップ上がるってことでしょうか?
だったらみんなロール軸を地の底まで下げてやればいいんじゃない?
結論から言うと、重心高さが変わらずロールセンタ高さだけ低くなる場合は、右辺の左側(φが入っているほう)が大きくなるので、結果的に荷重移動量は変わりません。
でもでもそれが具体的にどういうことなのか、いまいち感覚的に分かりにくいですね。
分かりにくいときはよく考えるといいのですが、よく考えても分からないときは、お絵描きしてみましょう!
要素をロールだけに限定するため、今回はロールしかしないサスペンションを使います。
へんてこですね(笑)
このクルマを使って、ロールセンタの高さが荷重移動量にどのように影響しているか?を考えてみましょう。
ロールセンタを高くすると、荷重移動量はどうなるのか?
ロールセンタを高くしてみました。
あれっ、でもこれだと重心も上がっています。
重心が高くなって荷重移動量が増えるのは当たり前なので、正確な比較が出来ませんね。
というわけで「重心高さが同じでロールセンタ高さが違う」という比較です。
左の図と右の図では、何が変わるでしょうか?
ひとつ分かることは、ロールの大きさが異なると思われます。
左のほうがΔHgつまり「重心からロール軸までの距離」が長い。
右は短い。
そのため左のほうがたくさんロールする気がしますね。
でも右の図はロールが小さいからといって、荷重移動量も小さくなるとは限りません。
たぶん荷重移動量はどちらも同じです。
もう少し見てみましょう。
ちょっと図が分かりにくいかもしれませんが、ロールセンタを地面高さより低くしてみました。
ロールセンタが地面より低いということは、Hfがマイナスの値になるということです。
それはつまり
この足し算のうち、右側がマイナスの値になるということでもあります。
荷重移動量を計算する式の中に、マイナスが出てくるのだから、さすがにこれなら荷重移動量が少なくなるんじゃないか?
つまりロール軸を下げると荷重移動が少なくなってグリップ上がるんじゃないか?と思われるかもしれませんが、でもでも図をよくご覧ください。
なんとなく、そんなことはなさそうですね。
何故ならこれもΔHgが大きい(長い)からです。
重心は地上にあるのに、ロール軸が地面より下にあれば、当然ΔHgは大きくなりますね。
結果として荷重移動量は変わらない。
ここから分かることは、つまりこういうことです。
「
荷重移動量というのは2つの要素から成り立っている。
ひとつはΔHgの長さからくるもの。(≒ロールの大きさから判断できる)
もうひとつはHf(またはHr)の高さからくるもの。
Hfが地面より下にあるとき、マイナスの値をとることになるため、本来の荷重移動の方向とは逆向きのモーメントが発生する。
ただしそのような場合においては、それに応じてΔHgが大きな値になるので、結果として荷重移動量は変わらない。
」
ΔHgの長さからくる荷重移動は、例の式のうち左側の要素であり、Hfの高さからくる荷重移動は、右側の要素であるわけです。
以上、長くなってしまいましたが、この式はそういうことを表しています、という説明でした。
それを踏まえて
<4-2、左右荷重移動におけるロールセンター高とロール剛性前後配分>の後半部分を読んでいただくと、重量配分、ロール剛性配分、ロールセンタ高さ配分という3つの要素それぞれが、どのように荷重移動量と関わっているか?ということが感覚的に分かりやすくなるんじゃないかと思います。
ただし荷重移動量を実際に計算する際は
という式だとφが入っていて計算しづらいので、(式1)と(式2)から
という式に直す必要があります。
参照元のページでもそうなっています。
今回は上記イラストに合わせて感覚的な理解を促すために、変形した式を使いました。
たぶんどんな文献にも出てこないヘンテコな式なので、間違っても暗記したりしないようにしてください(笑)
いつものことですが、長い割に何の意味があるのかよく分からないブログでした(^▽^)/