先日ご紹介させて頂いたFainal gearのKさんという方の動画について、他の動画も見ていたら、ちょっと気になったところがありました。
ロールセンタに関する動画です。
基本的な内容としては「車高を落とすとロールセンタが…とか言うけど、実際はスプリングを硬くするからそんなの気にしなくて大丈夫だよ!」というものなのですが、これについて僕も全く同意見です。
トップクラスに速い人で「ロールセンタが狂うから車高は落さない」なんて人はどこにもいません。
なので皆さん安心して地の底まで車高を落としましょう!(おいおい。笑)
さて、気になったところを一部引用します。
「また硬いスプリングを入れて車高を落とすというのは、実は理にかなっていたりするんですよね。タイヤはスプリングの反発力によって路面に押し付けられるわけなんですけれども、その反発力が高ければ高いほど、タイヤのグリップ力も高くなるわけです。高い反発力を得るには硬いスプリングをより多く縮めることができればいいわけなんですけれども、ここで重要になるのがロールセンターなんですよね。ノーマルの車高のまま硬いスプリングを使うよりも、車高を落として硬いスプリングを使った方が、ロールセンターの影響でより高い反発力を得ることができるわけです」
これは一体どういうことでしょうか?
次のイラストをご覧ください。
これは重心の高さが同じでロール軸の高さが違う2台を比較したものです。
ご覧のように左のイラストのほうがロール軸が高く、右のイラストのほうがロール軸が低いですね。
重心からロール軸までの距離のことをロールアーム長と言いますが、右のイラストは重心高さとロールアーム長が大体同じになるように作ってあります。
さて、右のイラストのようにロール軸を低くすると、同じ橫Gを受けたときのロール量が増えます。
ロール軸が高い状態で硬いスプリングを使うよりも、ロール軸を低くしてロール量が大きくなるような状態で硬いスプリングを使ったほうが、スプリングの反発力が大きくなり、タイヤのグリップ力が大きくなる。
というのがKさんのご意見のようです。
でも僕はそう思いません。
仮に外側タイヤにかかる荷重が増えたとしても、そのぶん内側から抜けるので左右タイヤの合計のグリップ力は減ってしまうのですが、それ以前の話として、これ、ロールアーム長が長くなっても外側タイヤの荷重は増えません…。
ロールアーム長が長くなると「硬いスプリングがより多く縮む」というのはその通りです。
でもこれ、だからといって外側タイヤの荷重が増えるわけじゃないんですよね。
このことを理解する上でポイントになるのが、アーム角度によるアンチロール効果です。
理屈としては簡単で、壁に対してナナメに取り付けられた棒を地面と平行に引っ張ると、地面と平行の力だけでなく下方向の力が発生する。
壁に対して押し込もうとすると上下の方向が逆転して同じ現象が起こる。
というのと同じです。
アンチダイブもアンチリフトもアンチスクワットもジャッキアップ現象もジャッキダウン現象も全部同じ理屈です。
先ほどのイラストを正面視で見てみましょう。
フロントとリヤでロールセンタは異なるのですが、ここでは説明のためにフロントのロールセンタを使います。
ロールセンタを上げるとアームの角度(厳密にはダブルウィッシュボーンであればアッパーアームとロアアームの延長線が交差する点とタイヤの接地中心とを結ぶ線の角度)がハの字のようになり、アームがタイヤからの入力を受けると「ボディの内輪側が下がって外輪側が上がる」=「ロールとは逆方向に傾く」というアンチロール効果が生まれます。
ロールセンタを下げるとその逆です。
このアンチロール効果は、名前の通りロールとは逆方向のモーメント(回転の力)として働きます。
力の源はタイヤのコーナリングフォースです。
ただしその力の伝達はタイヤ→サスペンションアーム→ボディという経路になるので、スプリングを経由しません。
あくまでアームの角度の問題だからです。
そして例えば定常円旋回中などロール角度が一定の場合、クルマをロールさせようとするモーメントとそれを押し戻そうとするモーメントは釣り合うわけですが、ロール軸が高くアンチロールが働いているときのモーメントの釣り合いは
「荷重移動によるロール方向のモーメント」 = 「ロール剛性によるロールとは逆方向のモーメント」+「アンチロール効果によるロールとは逆方向のモーメント」
となります。
荷重移動がクルマをロールさせようとするのに対して、スプリングやスタビといったロール剛性と、アンチロールの働きが、それを押し返そうとする。
それらのモーメントが釣り合ってる状態を表しています。
これに対して、重心高さとロールアーム長が等しく、アンチロールが働かない場合のモーメントの釣り合いは
「荷重移動によるロール方向のモーメント」 = 「ロール剛性によるロールとは逆方向のモーメント」
となります。
アンチロールが働かないので、荷重移動によるモーメントは全てロール剛性が受けなければいけなくなります。
さっきまでアンチロールさんが助けてくれてたのに、今度は助けてくれないので、ロール剛性さんはたった一人で頑張らなきゃいけません。
同じモーメントをたった一人で受け止めるのですから、ロール剛性さんは大変です。
なので、アンチロールが働いている場合よりもたくさん縮みます。
たくさん縮むんですが、結局のところ、タイヤにどれくらい荷重がかかってるか?というのは初期荷重と荷重移動量で決まるので、ロールモーメントが大きいか小さいかは関係ありません。
スプリングがたくさん縮んでいるとその反力でタイヤにも大きな荷重がかかるように感じてしまいますが、スプリングが少ししか縮まない場合でもアンチロールの反力がタイヤにかかっていますから結局トータルでは同じなわけです。
ちなみにロール軸を地中深くまで下げるとモーメントの釣り合いは次のようになります。
「荷重移動によるロール方向のモーメント」 + 「ロール増大効果によるロール方向のモーメント」 = 「ロール剛性によるロールとは逆方向のモーメント」
この場合、さっきよりさらにたくさんロールします。
でもコーナリングフォースによるロール増大効果がロール角を増やしているだけなので、スプリングの反発力が増えた分はコーナリングフォース×ロールアーム長が受け止めることになり、あくまでタイヤにかかる荷重は変わりません。
というわけで、ロールセンタを下げてスプリングの反発力が増えることでタイヤのグリップ力が上がるなんてことはありませんので、ますます何も考えずに車高は地の底まで下げればいいということになります。
車高を落とすとダンパ底突きやアームロック(アームがボディに当たる)、タイヤ天突き(タイヤがボディに当たる)の問題が出てきますが、それらの物理的限界との兼ね合いで下げられるギリギリのところまで下げるというのが通常のセッティングになると思います。
細かいこと言うとアライメント変化の範囲の問題がありますが、ほとんどの人は1G状態のアライメントしか気にしないし動的アライメントは分からないので、速さを求めるならそのあたりはトレードオフで「まぁしょうがない!」って感じですかね^^;
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Posted at
2024/12/28 12:24:08