OX3832さんのところでばねの自由長の話題が出ていました。
今日は「ばねの自由長が変わるとどんな要素が変わるのか?」について考えてみましょう!
その前に、皆さんにご紹介したいWEBサービスがあります。
東海バネ工業がホームページ上で提供しているコイルばねの検討ソフト、「コイルばねっとver1.0」です。
コイルばねっとver1.0

ちなみにこちらは公式キャラクター、ばねのことなら何でも知っている「ばねっと君」です。
「コイルばねっと」では、ばねを作るのに必要な寸法情報を入力することで、ばね定数や荷重/応力特性、形状の適切さなどを知ることが出来ます。
試しに次のような寸法で入力してみましょう。
・材料径 … 12mm(線材の太さ)
・中心径 … 65mm(いわゆるID65とかID70とか)
・自由高さ… 178mm(自由長)
・有効巻数… 5巻き
・総巻数 … 6巻き
するとバネ定数が123.48と表示されました。
単位はN/mmなのですが、出てきた数字を9.8で割ってあげると、我々が親しみのあるkgf/mmに変換できます。
したがってこの寸法だと 123.48 ÷ 9.8 = 12.6kgf/mm のばねが作れることになります。
やったね!
皆さんもいろいろ入力して遊んでみてください笑
ちなみに下のほうにばねっと君からのアドバイスが表示されます。
この寸法では全て適正なようです。
さてこのようなばねの寸法のうち、自由長と密接な関係にあるのが「有効巻数」です。
コイルばねは金属の丸棒を機械で巻き巻きして作りますが、このうち密着部分などを除いた「ばねとしてのボヨヨンという働きを持つ部分」の巻数のことを有効巻数といいます。
試しに先ほどの入力値を「有効巻数3、総巻数5」に変更してみましょう。
するとバネ定数が246.97と表示されました。
9.8で割ると約25.2kgf/mmです。
めちゃめちゃ固いばねが作れました笑
しかしばねっと君からは「有効部が少なく、ピッチが荒過ぎます」と怒られてしまいました。
えーっ、ごめんなさい…。
これだと巻きが荒すぎてすぐにヘタってしまうので、あまり良くないようです。
では次に、「有効巻数20、総巻数22」ではどうでしょうか?
今度は「タワミ量減少。自由長増加か、総巻数減が必要」と怒られてしまいました。
というか線径12mmのばねを20回も巻いたらそれだけで240mmなので、どう頑張っても178mmでは収まりません。
こちらも都合が悪いですね。
そんなわけで有効巻数というのは自由長である程度決まってしまう面があります。
ばねメーカーさんも賢明なので、7インチとか8インチとかいろんな自由長のラインナップがありますが、ヘタりにくく、作動長に問題のない範囲でしか有効巻数を設定しません。
例えば一番最初に入力した条件のばねで、自由長のみ178mm→152mmに変更したとしましょう。
しかし作動長の関係から、有効巻数5、総巻数7が必要だったとします。
するとバネ定数が148.18N/mmになりました。
これは約15.1kgf/mmのばねです。
有効巻数を減らしたのでばねが固くなってしまいました。
ダンパに装着する関係で中心径は変えたくないので、あと変えられる要素は材料径しかありません。
これを減らして、11.465mmにしてみます。
バネ定数が123.47N/mm(約12.6kgf/mm)となり、最初のばね定数とほとんど同じに出来ました。
まぁ厳密に言えば鉄の中に混ぜ物をしたり熱処理の方法を変えたりすると横弾性係数が変わるのでそこでも多少の変更が出来ないわけではないのでが、横弾性係数によってばね定数を調整するメーカーなんてどこにもないので汗、現実的には「同じばね定数&中心径で自由長を短くしようと思うと、材料径を細くする必要がある」ということになります。
ちなみに中心径を大きくするとばね定数は小さくなり、中心径を小さくするとばね定数は大きくなります。
このあたり感覚的によく分からない場合は、頭の中でコイル状のばねの巻きを戻して元の1本の丸棒にしてみましょう。
中心径が大きく、巻数が多いほど、丸棒の長さは長くなります。
その逆は短くなります。
この丸棒をトーションバーだと思ってもらって、「短いほどばねとしては固い」「長いほどばねとしては柔らかい」と考えればイメージしやすいと思います^^
また材料径についてはスタビ(アンチロールバー)などと同じで、丸棒が太ければ固く、細ければ柔らかくなります。
さてタイトルの件、自由長を変えると反発力は変わるか?ということについてですが、工学的には「ばねの反発力(ばね反力)はばね定数×たわみ量(ストローク量)で決まるため、ばねの長さは関係ない」ということになります。
ばね反力は"力"ですので単位はNやkgfです。
たまに他の要素をばねの反発力と混同される方がおられますがばねの反発力というのはこれ以外にありませんので、解説サイトなどで表現の曖昧さに違和感を感じたときは「この人、単位を分かって書いてるのかな?」と注意して読んでみてください。
でも「短いばねvs長いばね」という論争は昔からあります。
ヘタりやすさから言えば短いばねより長いばねのほうが有利です。
でも「反発力が変わるのだ!そのように感じたのだ!」という主張も多くあります。
トレースの渡海さんのコメントについての記事を書いたときと同じ結論になりますが、もしも反発力に違いがあるとすれば、個人的には「商品表記上のばね定数と実際に出ているばね定数が違う」ということだと思っています。
ただあんまり厳密に追及しようとも思っていなくて、「ボクは確かに違いを感じました、そして車高は同じに合わせました」とかいってても実際に車高が同じとは限らないし、ばねの長さ以外の要素が本当に何も変わっていないかどうかを確認することは出来ないので、あまり気にしていません。
ただ、工学的な基本知識を持った人の言うことと、まったく何も知らない人の言うことは説得力に違いがありますので、例え主張の内容が変わらないとしても工学的な基本知識は押さえておきたいですね。
ばねに関して勉強したい方は日本ばね学会が発行する
「ばね」という本で学ぶのが間違いないのですが値段がチョー高くて2万2000円するので、図書館の工学書コーナーに行ってみてください。
そこそこ大きい図書館ならたぶん置いてあります。
全部しっかり読もうと思うと数年かかると思いますが、興味あるところだけをかいつまんで読むだけでも勉強になります。
かく言う僕も興味あるところしか読んでません笑
そんなわけで今日は「ばねっと君って便利だよね」って話でした笑
ちなみに圧縮コイルばねにヒステリシスがあると思っている方もたまに見かけますが、ばねっと君のQ&Aを調べてみてください。
はっきりと否定されています。
どんな主張をしたっていいんですが、基本は押さえておきましょうね^^