今日はばねが動く速さについて書きたいと思うのですが、その前にひとつ訂正です!
タツゥさんのブログを読んでいたら、インリフトとリヤスタビの関係について書かれていました。(
S2000の後輪がインリフトする条件)
僕すこし前のブログで、インリフト対策として「スプリングを遊ばせてあげるだけでも、ばね下重量の分でタイヤを接地させてくれるので効果が見込まれます」と書いてしまったのですが、スタビがあるとコーナリング中に内輪を縮めようとする力がスプリングの遊びをなくす方向に働きます。
タツゥさんのブログでS2000の具体的な計算が掲載されており、そこでの計算結果はばね下重量35kg(+ダンパのガス反力20kgf)に対してスタビが持ち上げようとする力は124kgfでした。なんと!
僕のロードスターのリヤスタビのホイール端ばね定数は(しっかり測ったことないけど)たぶんS2000の10分の1くらいなので、実際のところスタビの力がばね下重量+ガス反力に対してどれくらいの大きさなのかはクルマ毎に確認してみないと分かりませんが、もしスタビの力のほうが大きい場合はスプリングを遊ばせたりヘルパースプリングを入れたりしても全く意味がないことになってしまいますので、「お前が書いたことを信じてヘルパー入れたのにぜんぜん効果なかったぞ!」という方がおられましたらごめんなさい(いないと思うけど。笑)
よく分からない場合は、ばねを遊ばせてから片側だけジャッキアップすると確認できるので、とりあえず確認してみましょうね^^
というわけで本題です!
ばねに働くメカニズムについて、例えば「荷重とばね定数と縮み量」の関係は皆さん自分で計算したことがあったりして馴染みがあると思うのですが、ばねが動く速さの求め方はあまり一般的ではありませんね。
そのため例えば「プリロードをかけるとばねが速く動くようになる」とか「固有振動数が大きいばねをクルマに取り付けるとばねが速く動くようになる」など、巷では想像力豊かにいろんなことが言われていたりします。
ずいぶん前にも少し触れたことがありますが、今日はこのようなばねが動く速さについて、どういった要素が関わっているのかを確認してみましょう!
例えばクルマが直進中、何か大きな障害物を踏んで、フロント左タイヤだけに瞬間的に大きな衝撃が入ったとします。
このとき厳密に言うと車体も少し持ち上がるのですが、計算を簡単にするために、車体の上下動は無視してフロント左タイヤに入力されたエネルギーが全てフロント左サスペンションを縮めるために使われたものと仮定しますね。
ここで、衝撃によって縮められたばねが、再び伸びるときの速さを求めてみましょう。
なおクルマ側の諸条件は以下のとおりです。
サスペンションレバー比:1
フロント左のばね下質量:30kg
衝撃によるばねの縮み量:30mm
ホイール端ばね定数:5kgf/mm
まずばねが動く速さを求める公式は
となります。
ただし
v : 速度(単位はm/s)
x : ばねの縮み量(単位はm)
k : ばね定数(単位はN/m)
m : 質量(単位はkg)
であり単位を合わせる必要があるので、ばねの縮み量30mmを0.03mに、ばね定数5kgf/mmを49000N/mにそれぞれ変換したうえで計算します。
すると
= 0.03 × 40.410394702
= 約1.2
というわけで、ばねが動く速さは約1.2m/s(1秒間に1.2メートル動く)になることが分かりました。
実際にはダンパの減衰力やいろんなフリクション、あるいはダンパブラケットのマウントゴムやサスブッシュのヒステリシス損失など各種の非保存力が働くので実測するともう少し遅い値が出るかたちになりますが、それらを除いた純粋なマスばね系としての速さは以上のようにして決まります。
で、何故こうなるのか???というと、ばねの特性として、ばねに蓄えられた弾性エネルギーは次にばねが伸びる際の運動エネルギーに変換されるため、
弾性エネルギーを求める公式 E = 1/2kx²
運動エネルギーを求める公式 E = 1/2mv²
これらが等しくなることから
1/2kx² = 1/2mv²
これをvについて解くと、冒頭の公式 v = x√(k/m) になるわけです。
この式から「衝撃によってばねが縮んだ量が大きいほど」「ばね定数が大きいほど」「ばね下質量が小さいほど」ばねが伸びるときの動く速さは速くなる、ということが分かりますね!
ちなみに車体が持ち上がる分も含めて計算するとどうなるか、ちょっと複雑になりますがついでに計算してみましょう。
衝撃が1輪だけだとボディ角度の計算が入ってきて難しいので、4輪同時に同じ衝撃を受けたと仮定しますね。
なお、ばね上質量は1000kgとします。
・4輪トータルでの弾性エネルギー
E = 1/2×49000×0.03²×4 = 88.28J(ジュール)
・ばね上とばね下が動くときの速度比
ばね上の速度を大文字のV、ばね下の速度を小文字のvとして、
また、ばね上質量を大文字のM、ばね下質量を小文字のmとすると、
V = (m/M)v = {(30×4)/1000}v = 0.12v
・運動エネルギー
エネルギーの総和はばね上質量とばね下質量それぞれの運動エネルギーの和だから、
E = 1/2MV²+1/2mv²
これをvについて解くと、
v = √{2E/(m+m²/M)}
数字を代入して
v = √{2×88.28÷(120+120²÷1000)}
= 1.14455231423
したがって
ばね上質量の速度V = 約0.14m/s
ばね下質量の速度v = 約1.14m/s
ばねが伸びる速さは「ばね上質量の速度」と「ばね下質量の速度」の差となることから、
1.14 - 0.14 = 1m/s
つまり1秒間に1メートル動く、ということになります。
最初の計算で出した1.2m/sと比べて少し遅くなりました。
入力されたエネルギーが車体を持ち上げる分でちょっと食われちゃうからですね。
さて、どちらの場合でも速度の算出には「変位」「質量」「ばね定数」しか使いません。
厳密に言うとこれは初速度を求める計算で、ばねの動く速さは等速円運動の射影なのでストローク位置によって変わりますが、それを含めても結局、速さに関わる要素というのは「変位」「質量」「ばね定数」です。
ばねにプリロードをかけても弾性エネルギーが増えるわけではない(30mmの変位が変わらない)ことから、プリロードはばねが動く速さに直接関係していないことが分かります。(伸び切り時を除く)
またばね単体の固有振動数はF=1/2π√(k/m)で決まるため、例えば中心径が細く巻きの少ないばね(=線材の短いばね)を使うと有効質量mが減ることで固有振動数は増える(要は軽いばねのほうが速く動く)のですが、ばねの有効質量と比べてはるかに重たいばね上やばね下を動かすときの速さを求めるにはそこに働くエネルギー量の問題になるので、結局のところ「ばね定数と質量が変わらないのであれば、固有振動数の大きいばねを使っても固有振動数の小さいばねを使っても、ばねが動く速さは同じ」ということになります。
まぁでも厳密に言えば、軽いばねを使うと結果的にクルマ自体が少し軽くなるので、そういう意味ではばねが動く速さは速くなるかもしれません。
ただ…銘柄によるばねの重さの差ってせいぜい1本あたり500gくらいですからね。
ロアアームに500gの重りを貼りつけてブラインドテストを数回行い、重りの有無を正しく言い当てられなかったのであれば、実質的には変わらないかなと思います。
以上、ばねが動く速さについてのお話でした。
「変位、質量、ばね定数」、はい皆さんご一緒に、「変位、質量、ばね定数」!笑
これらがばねが動く速さを決める要素になります。
といってもクルマのセッティングに使う機会はほぼありません!笑
横Gや縦Gの入力は(速いように感じても)ここまで瞬間的じゃないので、ピッチングやロールによるストローク速度は上のような条件と比べると文字通り桁違いで遅いからです。
そんなわけでサスペンションおたく向けの知識となりますが、「これって本当なの?」って疑問を解決するくらいの役には立つかもしれません^^
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Posted at
2025/02/04 12:34:20