2025年06月28日
減衰力
今日は減衰力のお話です。
まずはこちらの動画をご覧ください。
(ホワイトボードを使って説明されてるので最初真っ白な画面が出てきますが映像トラブルではありません)
内容が難しいのでちょっと分かりにくかったかもしれませんが、とても大事なことが説明されているので、今回取り上げてみます。
減衰力について説明されるときって、よく「ばねはストロークの量を決める、減衰力はストロークの速度を決める」みたいに言われますね。
ただ、減衰力の働きというのは2つあるんです。
1.ストロークの速度を決める
2.ばねを経由せずにボディ→アームへと力を伝達する
このうち1についてはあちこちで散々語られてるのでいいとして、2のほうはあんまり注目されることって少ないですよね。
でも実際のモータースポーツ現場では「減衰が強すぎちゃってタイヤが全然グリップしてないなぁ」とか「減衰力が効いてるからレスポンスあっていいね!」とか言われたりします。
こういった現象って1だけでは十分に説明できない面があるので2も大事なのですが、あまり突っ込んだ話を見かけないので、ここでどういうメカニズムが働いているのか?を考えてみましょう。
動画の中では「ばねがなくて減衰力だけかかってる状態」を想定して説明されています。
実際にはばねがないとクルマは車高を保てないのでイメージしにくいかもしれませんが、例えば走行中にばねが折れてしまったりすると現実にそういうことは起こります。
でもやっぱりイメージしにくいと思うので、こういう前提にしてみましょう。
「ばね定数がめちゃくちゃ低くて自由長がめちゃくちゃ長いばねに、プリロードめちゃくちゃかけて車高を保ってる状態」
要はばねがとんでもなく柔らかいってことです、理論上ばね定数をゼロには出来ませんがゼロに近いくらいばね定数が低いものとして、「ばねがない状態」に似た状態をイメージしてください。
乗り心地はフワッフワです。スカスカと言ってもいいでしょう。
車高は保ってるけど、もはやばねが効いていないに近い。
でもダンパの減衰力はしっかり効いている。
そういうクルマでハンドルを切って、重心に横Gがかかると、各部にかかる力はどうなるでしょうか?
当然クルマはロールするんですが、ばねがスカスカだった場合、サスペンションにはほとんど力がかからずボディがコテンと倒れるようにロールするはずです。
でも、ダンパの減衰が効いていると、そうはなりません。
減衰力はロールの速度を遅くすると同時に、ボディ⇔アーム間でロールの力を伝える働きをします。
つまりバンプ側のサスペンションにはつっぱるような方向に力が発生して、リバウンド側のサスペンションには引っ張るような方向に力が発生するわけです。
ばねがスカスカだと、減衰力がなかったらここの動きもスカスカになるので、減衰力の働きによって力が伝えられることになります。
このときの力がいわゆる減衰「力」であって、力の単位はN(ニュートン)またはkgfです。
これは荷重と一緒です。
動画の中で「400kgのうち減衰力が50kgfだったら残りの350kgはストロークスピードに使われる」という趣旨の説明がありますが、ちょっと分かりにくくなるので横に置いといて頂いて、これ要は、残りの荷重は普通にばねを縮めるために使われるってことです。
減衰力によって「バンプ側のサスペンションにはつっぱるような方向に力が発生して、リバウンド側のサスペンションには引っ張るような方向に力が発生する」とどうなるかというと、クルマがロールしたときにアウト側のタイヤにかかる荷重が増えます。
イン側は引っ張られるので、タイヤにかかる荷重が減ります。
つまり減衰力ぶんの荷重移動が発生するわけです。
もし減衰力がなかったら、前提としてばねがスカスカなので、「ロールはするけど荷重移動はほとんど発生しない」ことになるはずです。
分かりますよね、クルマがコテンと倒れるようにロールするとき、ボディは傾くけど各タイヤの荷重はほとんど変わりません。
フルストロークした後についてはもちろん荷重移動が発生しますが…笑
クルマをロールさせる力の源泉はロールモーメントです。
ボディは慣性力によって直進しようとするし、タイヤはコーナリングフォースによって横に行こうとするので、このときのボディの高さ(正確には重心高さ)とコーナリングフォースの発生高さ(つまり地面の高さ)に差があることによって回転の力が発生して、それがロールモーメントと呼ばれるわけですね。
減衰力が発生すると、ロールモーメントのうち減衰力ぶんの力が「ばねを経由せずに」タイヤへと伝えられ、残りの力はばねを経由してタイヤへと伝えられます。
どっちにしてもロールモーメントの大きさが変わるわけではないので、荷重移動量そのものは変わりません。
「ばねを経由するか」「ばねを経由しないか」の違いです。
ばねを経由しない場合、具体的にはボディ→アッパーマウント→ピストンロッド→ダンパオイル→ダンパケース→サスペンションアーム→ハブキャリア→ホイール&タイヤという経路で力が伝えられます。
ただ減衰力ってダンパが動いてるとき、つまりストロークしてる最中しか効かないので、定常円旋回のモードに入ると発生する減衰力はゼロになって、ロールモーメントはすべてばねが受け持つことになります。(路面の凹凸によるストローク分は除きます)
ばねの反発力(厳密に言うとそこにアンチロール力を加えた合計値)がロールモーメントと釣り合うことで、ロール角度は一定のところで止まってそれ以上ロールしなくなります。
「フロントのバンプ側の減衰力が大きいとハンドル操作初期のレスポンスがいい」というのはまさにそのとおりで、ロール初期には減衰力がしっかり効くのでレスポンスが良くなりますが、コーナ頂点あたりになるとその効果というのはなくなるわけです。
(でもコーナ頂点を過ぎてロールが戻り出すとイン側がバンプを始めるのでそちら側で再び減衰力の効果が出ます、ただしドライバーさんは運転中にアウト側しか意識しないのであまり注目されることはありません。リバウンド側も同様です)
ただ、減衰力が強すぎるとサスペンションアームの角度変化が遅くなるので、基本的には曲がりにくくなります。
このあたりは車種やセッティング、走るコースなどによっても変わりますが、走行中のアームの角度は走行中のロール軸の位置と傾きを決定しているので、減衰力が大きいことで「クルマが曲がりやすい状態になるのが遅い」ということにもなるわけですね。
まぁでもいろんな要素が絡むので、ちょっと一概には言えませんが。
そんなわけで減衰力のお話でした。
減衰力の働きについて「ストロークスピードを遅くする」ということだけでは説明つかないな、というケースに当たったときは、「ばねを経由しない力の伝達」という部分に目を向けてみると解決に向かうかもしれません。
いつものように「そんな人いるんかい」って話ですが笑
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Posted at
2025/06/28 12:49:36
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