さて、クルマはハンドルを切って曲がろうとするとロールしますね。
これは荷重移動が起こるからそうなるわけですけど、荷重移動する量はクルマのフロント側とリヤ側で一緒とは限りません。
フロント側が何%でリヤ側が何%、という感じの割合があって、ロールセンタの高さが変わるとその割合がどんなふうに変わるか、というのが前回のお話でした。
(1)前後ロールセンタ高さが重心高さと同じ場合
→1Gでの前後重量配分に従う
(2)前後ロールセンタ高さがゼロの場合
→前後ロール剛性配分に従う
(3)前後ロールセンタ高さが重心高さの半分の場合
→1Gでの前後重量配分と、前後ロール剛性配分のそれぞれに半分ずつ従う
あっ、ちなみに「ロール剛性って何?」っていう方のために説明しておきますと、これは乱暴に表現すれば「クルマのバネの硬さ」みたいな感じです。
ロール剛性=クルマを単位角ロールさせるのに必要な力の大きさを表したもの=数字が大きいほどロールしにくい、です。
厳密に言えばロール方向に働くバネの力はバネだけじゃないんですけどバネ以外にもスタビとかゴムブッシュとかダンパガスとかタイヤとかボディ自体とか、バネじゃないバネはいろいろあるので…(ややこしい。笑)
でも一番基本になるのはサスペンションのバネですよ^^
ところでロールは荷重移動の結果として起こるわけですけど、荷重移動によってタイヤにどういう原理が働くかというのを表したのが次のグラフで、
参考:本田技術研究所の論文サイト掲載「フラットベルト式 サスペンションタイヤ試験機」
(1)左と右のタイヤの荷重が同じ場合(どちらも4000N)
CP左右合計 = 1300 + 1300 = 2600
(2)2000Nの荷重移動が起こった場合(左2000N、右6000N)
CP左右合計 = 800 + 1420 = 2220
CP(コーナリングパワー)というのが分からない場合、ここでは「曲がる力」とでも思っておいてくださいね。
上のグラフから「左右方向に荷重移動すると、曲がる力が小さくなる」ということが分かります。
言い換えると、
荷重移動が大きい=曲がる力がたくさん減る。
荷重移動が小さい=曲がる力があまり減らない
って感じでしょうか^^
ここで、「その1」にて出てきたイラストを思い出してみると、
グレーの鉄板はクルマのボディを表していて、赤のパイプはロール軸を表していますが、ここから分かることは「バネが硬いほうがたくさんの荷重を受ける」ということでした。
そのため、例えばこのイラストのバネA側がフロント、バネB側がリヤだったとすると、これがクルマだったら「リヤのほうがたくさん荷重移動する=リヤのほうが曲がる力がたくさん減る」となるわけですね。
つまり、リヤ側のバネを硬くすると、リヤタイヤの曲がる力が減ってしまう。
反対にバネを柔らかくすると、あまり減らない。
フロント側も同様で、バネを硬くすると、フロントタイヤの曲がる力が減ってしまう。
反対にバネを柔らかくすると、あまり減らない。
ただしこれはフロント/リヤの割合を決めているだけなので、どちらも柔らかくしたほうが良いのかというと、そういうことではないんですけどね^^;
フロント/リヤの割合について、フロントの曲がる力>リヤの曲がる力であれば「オーバーステア」、その逆であれば「アンダーステア」になりますので、これはクルマの特性を決める上でとっても重要なところですね。
前回のお話で、荷重移動量の前後配分に関して、(2)前後ロールセンタ高さがゼロの場合→前後ロール剛性配分に従う、というのがありましたね。
これは例えばバネの硬さがフロント>リヤであれば、荷重移動量の前後配分もフロント>リヤになる。
逆に、バネの硬さがフロント<リヤだったら、荷重移動の前後配分もフロント<リヤになる、とそういうことを表しています。
荷重移動量が大きいと曲がる力がたくさん減り、荷重移動量が小さいと曲がる力があまり減りませんから、そこでアンダー/オーバーが決まります。
クルマって面白いですね^^
えーと練習問題です、例えば「前後重量配分が50:50で、前後ロール剛性がフロント60%、リヤ40%のクルマがあったとする。このクルマの前後ロールセンタ高さがゼロであった場合、フロントとリヤのCPはどちらが大きくなるか」
回答:
前後ロールセンタ高さがゼロの場合、フロント/リヤの荷重移動量の割合は前後ロール剛性配分に従うため、フロント60%、リヤ40%の荷重移動となる。荷重移動量が大きいほうがCPの減る割合が大きいので、リヤに比べてフロントタイヤのほうがCPの減る割合が大きい。したがってCPが大きいのはリヤタイヤ」
ってとこでしょうかね(笑)
おお、勉強っぽい(笑)
ただし!
「前後重量配分がフロント60%、リヤ40%で、前後ロール剛性配分が50:50のクルマがあったとする。このクルマの前後ロールセンタ高さが重心高さと等しい場合、フロントとリヤのCPはどちらが大きくなるか」という問いがあったとして…。
僕の書いたお話の内容だけですと、回答は「フロントとリヤのCPはどちらも同じ」になるんですが、本当はそうなりません(汗)
これは荷重移動とは無関係なく前後重量配分が前後タイヤのCPの大きさに影響するためです。
前後重量配分って大事ですね(笑)
もちろん、クルマのアンダー/オーバーに関わる要素はこれだけじゃなくて、例えばアライメントを変えたり、ダウンフォースの大きさを変えたりすれば、アンダー/オーバーのバランスが変わりますね。
ブレーキの効き具合の前後バランスを変えてもアンダー/オーバーが変わります。
ただ、サスペンションチューニングにおいては今回のお話のところが最も基本的な部分のひとつかなと個人的には思いますよ。
例えばロードスターの車高調ですと、コイルスプリングの硬さがフロント6kg/mm、リヤ4kg/mmとかの車高調キットがあったりします。
ここからスプリングレートを上げていくと、一般的に多いのはフロント8kg/mm、リヤ6kg/mmとか、フロント12kg/mm、リヤ10kg/mmとか。
こんな感じでフロントとリヤの差が2kg/mmのものが多いんですけど、でも、フロントとリヤの割合で言ったらフロント12kg/mmならリヤは8kg/mmにしたほうがいいんじゃないの?って疑問に思った人は多いのでは?
なんで車高調メーカーがそういう設定にしているのか、それを考えていくと、ロールセンタ高さとか、あるいはスタビの硬さとかの諸要因が関係していることが分かります。
ちなみに「RoadsterNA/NBメカニズムBOOK」(三樹書房)によれば、NBロードスターのロールセンタ高さはフロント41mm、リヤ120mmだそうです。
かなり、前のめりのロール軸ですね^^;
NBロードスターの重心高さは資料がないのであれですけど、だいたい465mm前後くらいらしいので、こんな感じで他の数字がいっぱい分かると計算するのが面白そうですね(笑)
…と、ここまでいろいろ書きましたが所詮はシロートの書くお話なので鵜呑みにしないでください(笑)
もし興味と熱意のある方はそれぞれの資料の出典元を参考にしたりして自分で調べてみてくださいね。
僕のようなどこの馬の骨とも分からない人間がインターネット上で無責任に書いてる内容に、どれだけの信頼性があるか…各々のご判断をお願いします(笑)
きちんとした書籍や論文などですと、記載内容に責任が伴いますので、そっちのほうがいいかなっと思いますよ。
でもインターネットは調べ物をするときの「手がかり」になるのでとっても便利ですね。
知りたいことの手がかりになれば幸いです^^
次回は「その2」に出てきた数式の補足説明を書きます。
あれだけじゃ訳わからんので(笑)