OX3832さんのところで高レートのサブスプリングの話が出ていました。
1Gで密着しないサブスプリングというのはあまり馴染みのない方が多いと思いますが、この分野で有名なのは
BaseMの間野さんですね。
ブログを読ませて頂いてもいろいろと参考になるところがあり、すごいなぁと思っていたのですが、数年前にお亡くなりになってしまったのが残念です。
さてレートが高いか低いかに関わらず、サブスプリングのセッティングというのは密着荷重がとても重要です。
メインのレートと合成レートがどのタイミングで切り替わるか?ということが密着荷重で決まるからです。
例えばスイフトスプリングからは4kgf/mm、5kgf/mm、 6kgf/mmのアシストが発売されていますが、陥りやすい勘違いとして、5kgf/mmと6kgf/mmを実際に試してみて6kgf/mmの方が効果が大きいように感じたからということで 「柔らかいスプリングだとタイヤを地面に押し付ける力が弱いから効果が少ないんだ」と思ってしまう、というものがあります。
仮にメインスプリングのばね定数が4輪とも10kgf/mmだった場合、5kgf/mmまたは6kgf/mmのサブスプリングを使うと合成レートはそれぞれ3.33kgf/mmと3.75kgf/mmです。
ステア特性は前後バランスで決まりますから、反対側の10kgf/mmに対して密着解けた側の合成レート3.33kgf/mmと3.75kgf/mmの違いなんてあってないようなものです。
しかしスイフトの場合、作動長が42mm(ID65は41mm)と固定されているので5kgf/mmと6kgf/mmでは密着荷重が60~70kgf近く違います。
それはコーナリングのどの段階で合成レートに移行するのか?が異なるということを意味していますから、これがステア特性に大きく影響します。
といっても密着が解けた瞬間が分かるほど唐突じゃないですけどね。
(ドライバーは結果的なタイヤのグリップバランスの変化からそれを認識するかたちになりますが、クルマの構造上、密着が解けた瞬間の各輪荷重はアシストの有無による差がまだないため、ドライバーはアシストの密着が解けてから少し遅れてそれを感じるかたちになります。「オレは感覚が鋭いから密着が解けた瞬間が分かるぜ!」って無邪気に主張してくる人がいたら「あぁー…」と思っておきましょう)
(このような事情から「ぴったり1G付近で密着させたい」という場合でも、実際に乗ると、ちょっとくらいの誤差はたぶん分かりません。ハンドルの切り始めはだいたいブレーキかアクセル踏んでることが多いのでそもそもフロント・リヤ共に1Gじゃなかったりもします)
ちなみに間野さんも書かれていますが「どれくらいの密着荷重が最適なのか?」というのを計算で出すことはできません、全く不可能ではありませんが普通の個人では無理です。
こないだご紹介した荷重移動量簡易計算ツールのような可愛いもんじゃなくて、やろうと思うと地獄見るようなレベルの計算になってしまいます。
これに関しては実際に試してみるしかありません。
ところで、同じサブスプリングとは言っても2kgf/mmのヘルパースプリングと20kg/mmのプライマリースプリングとでは10倍違うので、サブスプリングの種類が変わればばね定数も大きく変わります。
合成レートはどれくらいになるのか、1Gで密着させるのか、その結果リバウンドストロークやタイヤにかかる荷重はどうなるのか?ということを考え出すと難しいように思えますが、基本的には
ストロークの管理の延長なので、やってること自体は特別難しくはありません。
要は「実ストロークのうち、どこからどこまでを何kgf/mmで使うか?」ってだけの問題です。
ケース(1)
ケース(2)
ケース(3)
ケース(4)
ケース(5)
難しくはないんですが、ストロークのどの部分が何kgf/mmなのか?というのは必ず把握しておかないといけません。(ざっくりで構いませんが)
基本的なことですが(1)ダンパロッドの長さ(1)ダンパにかかる1G荷重(3)ダンパにかかる最大荷重、それぞれの数字が必要で、(3)に関しては走るコース毎に実測することになります。
それからプライマリースプリングなど密着荷重が大きいサブスプリングの場合はメインスプリングのばね定数を上げないと、ただサブスプリングを追加しただけでは1G付近のばね定数が合成レートになって下がってしまうわけですが、じゃあメインは何kgf/mmがいいのか?という話になったとき、サブスプリング追加前と追加後で数字上のばね定数を合わせるだけではうまくいかない(レスポンスが悪い)ことが多いようなので、そうなったらもっとメインを上げるのか?サブを上げるのか?減衰力でやりくりするのか?バンプラバーに当てるようにするのか?を迫られることになります。
極端に密着荷重が高い、または極端に密着荷重が低い場合であればサブスプリングの影響を少なく出来るのでまだマシですが、そのあたりをうまくやりくりしながら合成レートのつながりがスムーズになるようにトリプル化して…とかやっていくと、それって行き着く先はただのバリアブルレートスプリングです。
「ただの」って書いちゃうと失礼かもしれませんね、理想的な特性を求めてやりくりしてる人はたくさんいます。
またサブスプリングのセッティングに限った話ではありませんが、リバウンドストロークを増やすとバンプストロークが減ります。
フロントであれば「内輪のリバウンド不足によってアンダーなのか?外輪のバンプ不足によってアンダーなのか?」ということで対策が変わるわけですが、症状としてはどちらも同じアンダー方向なので、レート変更やプリロードなどで「結果的にアンダーが一番マシになるようにストロークバランスを調整する」ことが必要になります。
リヤの場合はオーバー方向ですが、事情は同じです。
でもまぁ最近はエンドレスさんのMBRも出たことですし、リバウンドストロークを稼ぐならメインのレートをちょっと落としてバンプ側はバンプラバー任せにする、という選択肢も人によってはアリかもしれません。
たぶんですけど下手にサブスプリングでセッティングするよりまともに走ります。
バンプラバーはバンプラバーですから「コーナ入口でアンダー、コーナ出口でオーバー」の問題は少なからず残ると思いますが、昔ながらのバンプラバーに比べればずいぶんマシになるんじゃないかなぁと。
最大荷重の実測とかしなくていいぶん作業もラクチンですしね、あんまり潰し過ぎるとタイヤの角が減りますけど。
で、いろいろ書いといて何ですが結局シングルできっちりセッティング出来るならクルマに余計なものつけなくていいのでそれが一番だったりします。
でも人それぞれ事情があってシングルではどうしてもうまくいかないこともあるでしょう。
一般道を違法な速度で走る人は「上りのヘアピンでリヤがインリフトしちゃって…」って人もいるでしょうし、あるいはスキー場の駐車場とかで草ジムカーナしてると結構飛んだり跳ねたりするのでリバウンド増やしたくなる気持ちも分かります。
サブスプリング使うと絶対遅くなるってわけでもないですし、悩みながら試行錯誤を重ねてみるのもいいでしょう。
ただ、「安易にサブスプリングに頼ろうとする前に、シングルのセッティングに本当に問題がないのかもう一度よく考えなさい」とは僕の死んだおじいちゃんから口すっぱく言われていたことなので(嘘)、サスペンションストロークをきちんと管理出来ているかどうか改めて確認することは大事です。
でもでもサブスプリングやり出すと…めちゃくちゃ楽しいですよ笑笑