
いつもいろんな車のインプレッションをお届けしている私の新車試乗記ですが、年一回ぐらいはスペシャルな車をじっくり乗ってレポートしてみたいなと思っています。前回は昨年の今頃に
日産GT-Rに乗りましたが、今年は写真の車です。
というわけで、キングオブアメリカンSUV
ハマーH2に乗ってみました!
(まずお断りなのですが、試乗車は最終モデル(2008年)ではないため、現行仕様と各部に差異があります。)
ハマーH2は、米軍の軍用車である「HMMWV(High Mobility Multipurpose Wheeled Vehicle:機動多用途装輪車両、通称:ハンヴィー)の民生仕様「ハマーH1」の雰囲気を踏襲して、既存のGMのSUVをベースに作られた車です。
巨大なボディサイズと独特なスタイルが個性を放っています。また、外装のメッキパーツや20数インチ、場合によっては30インチ近いホイールも入るというカスタムのスタイルも強烈ですね。
◯だった点
・デカい!・かっこいい!
全長4820㎜×全幅2130㎜×全高2060㎜ととにかくデカいです!多人数乗車するわけでもない車でこれだけ場所を取るのはいかがなものかという気もしますが、やはりデカさはアメ車の要!!素直に「デケェ!カッコいい!!」と思います。
遠くからでも存在感は抜群ですし、近くに寄るとそのデカさに圧倒されます。ベンツが来ようがフェラーリが来ようが、遙か上の方から睥睨することができ、優越感満点です。
・周りの人を楽しい気分にする(笑)
この車に乗り始めたとき、みんなこっちを見てくるので何なんだろう?と疑問に思ってたのですが、どうやらみんなこの車に注目しているようです。
2日間乗っていただけで、子供が追いかけてくる、中学生が「ハマーだ!スゲエ!」って叫ぶ、信号待ちで視線を感じるので、ふと見ると路線バスの中の人がみんなこっちを見てる、車停めてたら通りがかりの人に話しかけられる・・・と、まるで有名人になったかのような体験をすることができました。
高額車に乗っていると感じる羨望、というより「ケッ!高い車に乗って見せびらかしやがって・・・」的な嫉妬心のこもった視線ではなく、純粋に「ハマーだ!すげえなあ!いいもの見た」的な視線でなんとなく周りの人にハッピーを振りまいて走っているような気分になりました。
もう少し頑張ってほしい点
・デカい!
日本の道路事情下では全長4.8m×全幅2.1mの巨体は当然大きなデメリットとなります。
私は仕事でよくハイエースのスーパーロングワイド(全長5.4m×全幅1.9m)を運転するのですが、ハイエースは大きさのわりに見切りが良くてハンドルが切れるので、狭い路地でもスイスイ入って行けますが、ハマーは全長がずっと短いのに取り回しが悪いです。
ハンドルが切れないため、交差点を曲がるのやUターンに神経を遣いますし、ボンネットに機能的な意味のない突起物があって、車幅感覚が掴みづらいです。
(ちなみにH2の最小回転半径はなぜかメーカーから公表されていません。)
また、この車幅なので一般的な駐車場の枠内に収めることが難しく、有料駐車場に停めるとき係のおじさんに、「こりゃ〜2台分だな…」と言われ、2台分料金払わなきゃいけないのかと思ってヒヤヒヤしました(笑)。
(結局一台分でオッケーでした。)
・ゆるい走行フィール
SUVとは言え乗用車ベースではなくトラックがベースなので、運転フィールはトラックそのものです。ステアリング形式はいかにもトラックといったボール循環式ですが、遊びが大きくて路面からのインフォメーションをあまり伝えてきません。(ある程度速度を出せば直進性はそれほど悪くありませんが…)
足回りも危険なほどではないのですが柔らかく、ボヨンボヨンとした乗り味です。加速を試してみようと高速道路の合流でフル加速してみましたが、アクセルを床いっぱいまで踏み込むと
「モモモモ……
ンモオオォォォォォォォォ!!!」
という豪快な音と共に3トンの車重をものともしない力強い加速をするのですが、まるでパワーボートのような揺れで、同乗していた嫁さんが「なんか不安を感じる加速だね…」というぐらいで、決して飛ばしてはいけない車です。
また、この車重なのでブレーキの効きも十分とは言えません。止まらなくて怖いと言うほどではないのですが、ペダルタッチがスポンジーなことと合わせて、強いブレーキを踏もうという気になりません。
・デカいのにあんまり広くない室内
巨大なボディサイズにもかかわらず、室内は大して広くありません。床が高くて天井が低いという独特のプロポーションからもたらされるものですが、頭上空間にはあまり余裕がありません。
室内の絶対的な幅は広いのですが、前席の場合幅の広いセンターコンソールが中央に鎮座していて、座席スペース自体は広いわけではありません。(後席の場合は横に3人余裕を持って座れます。)
この車のイメージ的なベースになったHMMWVも同様に、車幅が広いわりに室内は狭いのですが、HMMWVの場合はロードクリアランスを確保するため床面の高さを上げ、敵から発見されにくくするため全高を抑え、幅広いセンターコンソールは銃座にするためという合目的性があります。
H2はHMMWVのイメージだけをなぞっているので、実用性に問題が生じています。
・「質感」という言葉と無縁の内装
フォトギャラリー(内装編
①、
②)もご覧いただきたいのですが、内装はプレミアムSUVらしい質感とは全く無縁です。
一応本革だがまるでビニールのようにテカテカのシート、内装パーツのチリの大きさ、カチカチプラスチックのダッシュボード、ガチャガチャして遊びの大きい各操作系など、これが800万円以上もする車とは思えません。
最終(2008年)モデルは内装のデザインが変更され質感が向上しているそうですが…
・絶句する燃費
この車に乗って燃費云々言うのはいかがなものかという気もしますが…
今回の試乗で204KM走って43.8リッターを給油、すなわち燃費は4.66km/Lでした。6リッターV8エンジン、車重約3㌧の車の燃費がいいわけがないのですが、半分以上が高速で、残りも一定速巡航が多かったにも関わらずこの燃費というのは絶句してしまいました。
・アメ車的な使い勝手
①キーレスエントリーで全ドアが解錠されない。
②パワーウインドウが開のみオートで閉はボタンを引き続けなければいけない。
…など、日本車に慣れていると操作に違和感がある部分がありました。
①については、一気に全ドアが解錠されると、強盗などが乗り込んでくるので防犯上という理由がありますし、②はワンタッチで全閉になると、手や首などを挟んで傷害を負ったということで訴訟になったりするので(なんせ洗った猫を電子レンジで乾かそうとして猫を殺してしまった人が、注意書きがないのが悪いと言って家電メーカーを訴える人がいる国ですからww)敢えて装備していないのでしょうが、文化の違いと割り切るしかありませんね。
それからリアハッチの位置が高い上に閉めるのが目茶苦茶重く、開閉に一苦労します。一応ハッチにストラップは付いているのですが、そのストラップも位置が高い上に、体重が軽いとそのストラップにぶら下がってもハッチが閉まらなさそうです。
身長150センチの私の嫁さんはハッチを閉めることができませんでした。
ついでにこのハッチを閉めると、「バシャーン!!!」という大音響が響き、車内にいるとビックリします。
それからこの車、初期型はスペアタイヤが荷室左側にあったそうですが、車内がゴム臭いと不評だったため背面スペアタイヤとなりました。その際に空いたスペースに座席を装備しなかったため、3列目シートは右側しかないという珍妙な事になっています。
(2008年モデルから3列目左側席が備わっているようです。)
総評
…と、いろいろと短所は書いたのですが、この車の運転は文句なしで本当に楽しかったです!
楽しかったというのは、車の運転自体よりも、ハマーのある生活、というか、みんなに注目されて声掛けられて…というハマーに乗っていることによって起こる体験が楽しかったです。普段はのび太キャラ(笑)の私ですが、この車に乗っている時はつかの間のジャイアン気分に浸ることができました。
ハマーH2のハードとしての出来自体は、プレミアムSUVとはいえ中身はトラックであることと、2002年登場と基本設計が古いこともあり、今更特に語るべきものはありません。H2の豪華仕様(タイプG)は新車価格955.5万円ですが、この値段のSUVなら、ポルシェ カイエンSやBMW X5、ランドクルーザー200あたりの方が動力性能や品質面での満足度は圧倒的に高いでしょう。
ハマーという車は、男らしく豪快な外観デザインとデカさに惚れて乗るというのがすべてではないかと思います。短所はいろいろ書いたのですが、それらは乗る前にわかることであり、このスタイルや雰囲気の前ではいかなるデメリットも些細な問題。気に入れば買いという車ですね。
今年に入ってから報じられている通り、ハマーブランドのGM中国企業への売却交渉が決裂し、ハマーが消滅してしまうことが確定的となりました。
もともと世界規模で環境意識が高まって、大型のSUVは環境への悪影響の点からいかがなものかという風潮があったところに、ここ数年の原油価格に高騰、さらにはリーマンショックに端を発した世界不況によるGMの経営破綻と、巨大なSUVであるハマーにとっては逆風の連続となり、ついにはブランド消滅となったのは大変残念です。
確かに、特に日本人的な視点から考えれば、これだけの巨大なボディサイズに、これまた巨大な6リッターV8エンジンを持つ車がこれからの社会にすんなり受け入れられるとは思えません。
しかし、この車を生み出したアメリカという国の文化や社会的背景を考えると、大きな車が一概に悪とは言えません。
欧州大陸から命懸けで大西洋を渡り、苦労して荒野を開拓してきたアメリカ人にとって、馬車を曳く馬は一頭より二頭、二頭より四頭、八頭、それ以上の方が頼りになると考えるのは当然のことでしょうし、それが車に投影され、より大きな車、より力強い車が求められるのはごく自然なことだと思います。
また、日本のヤンチャな男の子たちがセルシオやマジェスタ、クラウンなどいわゆる「VIPカー」に憧れるのと同様、アメリカ人、特に若い黒人男性にとってハマーは憧れの対象だったそうです。
景気が悪いとは言え日本は社会全体がそこそこ豊かで、「空気を読む」という言葉に代表されるように、周りの顔色を伺ってみんな横並びの仲良しごっこになってしまいました。
一方、信じられないぐらい貧富の差が大きく、また人種差別が残るアメリカ社会では、例えば貧しい黒人は金持ちになるためにはバスケットボールの選手になるか、ラッパーになるか、もしくは犯罪者になるかというなか、ハマーのような車に乗りたい、いい暮らしがしたい、金持ちになりたい、いい女と付き合いたいと考えるのは、人間として当然の欲望であると思います。
そういった欲望がアメリカを世界に冠たる大国に押し上げ、世界中にカネを巡らせてきた原動力だと思うのですが、最近日本の若い人達が「草食系」という言葉に代表されるように車やカネ、権力に対してあまり欲望を持たなくなってしまうと、最終的に日本社会から活力が失われ国際競争力の低下に繋がらないかと危惧してしまいます。
ガソリンを垂れ流して走るような車がいいとは言いませんが、夢も希望もなく、欲望の対象にならないような車ばかりがあふれる社会が果たして多様性のある豊かな社会といえるのか疑問に思います。
…すみません、話が横道にそれました(笑)
ハマーはせっかくボディが大きくスペースに余裕があるのですから、ハイブリッドシステムや電気自動車のバッテリーを積むことも容易なはずです。
またメーカーのGMは技術力が高く、シボレーボルトのようなハイブリッド車を作り上げる力があります。
幸いにして(?)ブランド売却交渉が決裂したことで、ハマーブランドが中国企業のものにはなっていません。時期を見て環境にも配慮した新時代のハマーがGMから復活すると面白いですね。
↓↓フォトギャラリーに写真があります↓↓
ハマーH2乗ってみました 外観編①
ハマーH2乗ってみました 外観編②
ハマーH2乗ってみました 内装編①
ハマーH2乗ってみました 内装編②
ハマーH2乗ってみました 使い勝手編
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