
すでに話題沸騰中の本年度日本カー・オブ・ザ・イヤー(JCOTY)受賞車・
トヨタiQに乗ってきました。試乗車のグレードは100G レザーパッケージ、ボディーカラーはブラックマイカです。
本当は先週乗ってきていたのですが、この車には言いたい事がいっぱいあるので、ついついブログ書くのに時間が掛かってました(汗
この車、各ネット掲示板等で賛否両論が渦巻いており、またまだ発売されていないにもかかわらずJCOTYを受賞したことについての批判の声もありますが、その辺りの話も総評にて...
○だった点
・個性的なパッケージング
iQの最大の特徴はなんと言ってもこれでしょう。3m未満の全長でありながら大人3人+子供1人が乗れるという、他では見られないパッケージングです。
ヴィッツやフィットなど、コンパクトカークラスには室内の広い車は他にいくらでもあるのですが、コンパクトカーは近所への買い物や通勤などで、乗車人員は大人一人(+子供)で使用することが多く、室内が広くてもそれをフルに活用する状況はあまりないでしょう。
ヴィッツやフィットなどは確かに非常に良く出来た車ですが、経済性も走りも室内の広さも・・・と、あれもこれもと欲張っている印象ですが、iQは車の使用の実態に即して、思い切り無駄を省いて小人数乗車に特化した合理性を持っている点が素晴らしいと思います。
・小回りが利く!
これもiQの大きな特徴ですが、3m未満の全長と2mのホールベースを生かして、非常に小回りが利きます。
これだけショートノーズの車だとエンジンルームがいっぱいになり、ハンドルの切れ角が制限されるのでは?という危惧もあるのですが、iQはエンジン・トランスミッション・補機類をコンパクトにまとめてあるため、ハンドルの切れにも影響していません。
フルロックまでハンドルを切ると、まるで後輪を軸にしてフロントが回っているような不思議な感覚を味わえて、非常に面白いです。
・よく煮詰められている乗り味
これだけショートホイールベースな車だと、どうしてもピッチングが気になりそうですが、iQの乗り味はよく煮詰められており、少なくとも街中でゆすられる動きが出ることはありません。前を向いて走っている限り、こんなに短い車を運転しているとは思えない、落ち着いた乗り味です。
・室内空間の横方向のゆとり
室内の横方向へのスペースにはかなり余裕があり、助手席に座った人と距離が近すぎるということはありませんし、ドライバーとドア内貼りとの空間もかなり余裕があります。
横方向のスペースについては、小さい車にありがちなせせこましさと無縁です。
・軽量・コンパクトへの取り組みと演出
外観がいかにも小さいiQですが、薄型のシートやグローブボックスの省略、シンプルなルームランプ、エンジンルーム内の補機類の小型化など、軽量・コンパクトさを感じさせる演出がなされていて、いかにも新しい感覚の車に乗っていると感じられて面白いです。
室内空間はセンターコンソール後半部分を断ち落として右脚が楽に前に出せるスペースを作っていますし、助手席シートレールをミニバンのように床に埋め込んでいることによって、絶対的なスペース以上に広さ感があります。
もう少し頑張って欲しい点
・視界が悪くて車両感覚が掴みにくい
運転席から前方を見ると、ボンネットが全く見えない上に、ピラーが太くて窓が小さく、さらにドアミラーが大きいので、視界が悪くて運転がしにくいです。小さな車だから運転しやすいと思っていると完全に裏切られます。
・閉鎖的な室内空間
小さなボディサイズと衝突安全性や動的安全性を共存させるために仕方なかったのでしょうが、窓が小さくて、さらにこの種の車としては全高が低いので、室内空間が閉鎖的です。
上述したように横方向には余裕があり、また前後方向のスペースについては、iQは割り切っているので欠点にはなりませんが、高さ方向のスペースは完全に不足しています。
前席の頭上や側頭部のスペースににが少なく常に圧迫感がありますし、後席に至っては天井(というよりハッチゲート上部)に後頭部が当たります。後席は窓面積も小さいため、まるで穴倉の中にいるような閉塞感があります。絶対的なスペースは極端に狭いわけではないのに、広さ感がなくて損をしているように思います。
もう10cm全高が高ければ開放感があったと思うのですが、恐らくトヨタの開発者には同様のコンセプトで登場したスマートが、転倒事故を起こしたことが頭にあり、対策として室内空間を犠牲にしても全高を抑えることにしたのでしょう。
・シートリフターが欲しい
この車、なぜかシートリフターの設定がありません。座席の着座位置は比較的高いので、シートリフターで調整できるようになっていれば上述の頭上空間の問題も解決できたのに、と思ってしまいます。
着座位置を下げると、その分どうしても前後方向のスペースが食われてしまうので、それを嫌ってあえてシートリフターを設定しなかったのだと思いますが、どんな体格の人にも正しい運転姿勢を取らせることを優先してほしかったです。
・気持ち悪いエンジンフィール
以前
ヴィッツの試乗記でも書いたのですが、巡航中のエンジン回転数をギリギリまで抑えているため(40~60㎞/h巡航時でおよそ1100~1400rpm)、常にエンスト寸前のようなブルブルブルブルという振動を発します。
燃費向上のためでしょうが、そこまで燃費を気にするなら、なぜマニュアルミッションを設定しないんでしょうか?MTなら燃費のために高いギアで低速を走ることも出来ますし、それが気持ち悪ければシフトダウンするという選択の余地がありますが、CVTは車に押し付けられたギア比で、気持ち悪いのを我慢して走るしかありません。
本気でエコ云々を言うなら、例え販売台数が望めなくてもMTを設定し、ユーザーに選択の余地を与えるべきだと思うのですが・・・
・かっこよくも可愛くも先進的でもポップでもない内外装
同一コンセプトの先輩・スマートの内外装デザインは合理性の中に遊び心があり、ポップでファンな車だなと思うのですが、iQは正直スマートの劣化コピーの域を出ていない印象です。
この車そのものについても、スマートがなければ存在したかどうか疑問ですね。
・やや高い価格
iQと同じ1リッター3気筒でもヴィッツやパッソなどとは明確にキャラクターを分けているということなのでしょうが、価格は140~160万円と割高です。
トヨタとしては、ベーシックなコンパクトカーや軽とは違うんだという位置づけにしたいのだと思うのですが、日本では大きな車=値段が高い・小さな車=値段が安いというヒエラルキーが出来上がっているので、トヨタ最小のiQが車体サイズの大きいヴィッツやパッソよりも高いというのは、顧客の側からすると納得いかないものがあるでしょう。
総評
とかくトヨタが出してくる車は、保守的な従来からの典型的トヨタユーザー層に向けているか、綿密なマーケティングのもとに出してきているかという二極分化しているように思いますが、このiQはそのどちらにも当てはまらない、トヨタとしては相当冒険的・実験的な車だと思います。
逆に言えば、ヴィッツなどよく出来たベーシックなコンパクトカーが売れているからこそ、iQのような冒険が出来たんだなあとも思います。
ただ、現状のトヨタの中でのこの車の位置づけは、本気で売って次世代の主力にしていこうというより、「こんなのもありますよ」「環境を考えてますよ」というアドバルーンに過ぎないものでしょう。
今後のためにこういった車の存在も必要ですが、今のところは存在自体にあまり必然性が感じられません。世界の大トヨタなんですから、もう少し本気で作って、自動車の未来に明るい展望を抱ける車にして欲しかったと思うのですが、今のiQにはそこまでの魅力が到底感じられないのは残念です。
それから、一般発売されていないのに受賞したなど、何かと物議を醸したiQのJCOTY受賞ですが、JCOTYは「今年を代表する車」に与えられるという点から見ると、iQはまさしく今年を代表する車、すなわち環境や安全に対して配慮し、かつ必要十分なコンパクトサイズにまとめたという、まさしく今年らしい車だと思います。
余計な話ですが、ネットの掲示板やブログ等で「GT-Rが受賞車にふさわしいんじゃないのか?」という意見も見られますが、巨大なボディサイズに大パワーのエンジンで、ニュルのラップタイムが云々、ポルシェに対して云々というGT-Rのような車が、これから社会的に広く受け入れられるとは到底思えません。我々のような車好きの目で見るとGT-Rは魅力的ですが、社会的なGT-Rの立場はあくまで傍流、カルトカーに過ぎないと思います。
そういった意義深い車であるiQだけに、トヨタが(おそらく)JCOTYを受賞したいがために発売日よりも発表日を大幅に早めて、今年のJCOTYの選考対象期間に間に合わせた、いわばゴリ押しをしたことは、極めて納得がいかないことです。トヨタは車と環境の共生を考えてこの車を発売したのでなく、単に評論家に受けの良さそうな車でJCOTYを受賞して販売につなげよう、企業イメージを向上させようという考えなのでしょう。
JCOTYでの賞取り合戦に対する問題は別にトヨタだけでなく、ホンダや一昔前の三菱にもありましたが、正直こんなものを取ったこととユーザーがその車を評価するかどうかなんて、全く別問題です。一般ユーザーで賞を取った車かどうかなんて気にしている人はほとんどいないでしょう。
にもかかわらず、ユーザー不在で毎年茶番劇を繰り広げる各自動車メーカーとJCOTY選考委員会は、ずいぶん世間一般の感覚からずれてるんだなあという印象を持ちます。
結局彼らの仲間意識・身内意識の方が「ユーザーのために」という思いを上回っているんでしょうね。
それから、最近トヨタはネットでの評判を気にしているようで、発売前のiQの一般ユーザー向け事前試乗会参加者選考の際、
ブログをやっているかどうかをチェックして、ネットでの口コミで評価を拡げようとしていたみたいですが、そんな小賢しいことやる前に、車そのものの出来で勝負してほしいものです。
とかくトヨタというメーカーは、派遣労働者の雇用問題やリコール隠し、他社の車を臆面もなくパクって後出ししてくるなど、その社会的影響力に比例した尊敬される企業であるかどうか疑問符がつくのですが、今回のiQを見てもその思いが払拭されることはありませんでした。
今回のJCOTYにしても、iQの受賞には必死になるくせに、10ベストカーにも入らなかった
アルファード/
ヴェルファイアのような環境負荷の高い大型ミニバンを毎月1万台以上販売するなど、ダブルスタンダードが目に付きます。
トヨタが単に金儲けのうまい企業としてだけでなく、自動車メーカーとして本当に尊敬される企業になる日はいつ来るんでしょうか・・・