
新型
フェアレディZに乗ってきました。
グレードはバージョンST、トランスミッションは7M-ATx、ボディカラーはプレミアムアルティメイトイエローです。
最初にお断りしておきますが、一般道での試乗で最高出力336PSのこの車のポテンシャルを発揮させることはできませんので、あくまでも日常的な使用+α程度の走り方をした印象とお考え下さい。
こういった車をフルに楽しむためには、やはりサーキットで安全に楽しく走るべきでしょう。
(フォトギャラリーに写真があります。↓がリンクです。)
フェアレディZに乗ってきました その1
フェアレディZに乗ってきました その2
フェアレディZに乗ってきました その3
ついでに
Zと言えば・・・
○だった点
・車体剛性感の向上
以前先代Z33を試乗したのとほぼ同じコースを走ってみることができましたが、下り坂のややタイトな右ターンで、クリッピングポイント付近に大きなギャップを超えるというかなり厳しい状況でも、全輪がきちんと接地している印象です。固いハーシュネスはあるのですが、それが一発で収まり、またサスペンションがきちんとストロークしています。
Z33で同じコーナーを走った際には、ボディ全体がワナワナする感じが少し伝わってきて、ギャップで外へ飛ばされるような印象を受けましたが、新型はボディが足を活かしきっているようです。
Zは代々大きなハッチバックを持つデザインのため、車体剛性にはかなり厳しいはずですが、新型はこの点に全く不満はありません。
・車体のコンパクト化
最近モデルチェンジされる車はほぼ例外なくボディサイズが拡大していく中、Zは運動性能の向上をねらって全長を60㎜、ホイールベースを100㎜短縮しました。
同じ日産のGT-Rが重量級スーパースポーツ路線を突き進む中、Zは初代S30を思わせるような軽快さを演出しているところが、スポーツカーらしくて好感が持てますね。
・スポーツカーらしさの演出
ロングノーズ・ショートデッキのウエッジシェイプのスタイル、囲まれ感のある2シーターの室内、エンジンを始動した時の「ヴォン!!!」という音、パワフルだけど少しラフなエンジンフィールと、この車は見ても乗っても紛れもなくスポーツカーです。
静かで広くて速い車は今いくらでもありますが、スポーツカーにはやはりスポーツカーであることを感じさせる演出は重要です。
・高性能と燃費の両立
排気量を約200㏄拡大してエンジン出力を大幅に向上させた新型ですが、燃費はZ33型から向上しているようです。スポーツカーといえども、環境性能・経済性を無視できない昨今、燃費の向上はこの種の車が今後も生き残っていく上で極めて重要です。
・ATの7速化
レクサス・トヨタ各車が6~8速ATを採用する中、日産は最上級のフーガでさえ5速ATで、ATの多段化では水を開けられていましたが、ここに来てスカイラインの一部改良と同時にZも7速ATを採用し、やっと遅れを取り戻した感があります。
Zは代々AT比率が高いので、ATの7速化は北米のユーザーを中心に歓迎されるでしょう。
・ブレーキの効きの良さ
交通状況がよいのを見計らって、80km/h程度からABSが作動する寸前のブレーキを踏んでみましたが、4輪で地面を捉えるような安定した姿勢で、内臓が前に寄り、目ん玉が目からポロッと落ちそうになるぐらい(笑)強烈な減速Gで停止します。
・ラゲッジルームが使いやすくなった
先代Z33にはラゲッジルームに大きな があり、荷室の使い勝手を悪くしていましたが、新型はシートバックにバー状の物があるものの小型化しており、先代よりも使い勝手が向上しています。
もう少し頑張ってほしい点
・斜め後方視界の悪さ
Z34で最も気になるのがこの点です。Cピラーやハッチゲートのフレームが太く、クオーターウインドゥが小さくなった影響で、斜め後方の視界が極端に悪いです。助手席背もたれの角度によっては、左後方がほとんど見えません。車線変更や駐車場などからのバックでの出庫の際には相当気を遣わされそうです。
・ダッシュボードのデザインが煩雑
先代Z33は計器類、ナビ、オーディオ、エアコン各操作部が明確にわかり、操作がしやすかったのですが、新型はスイッチ類が多く非常に煩雑です。他の日産車と共通イメージを狙っているのでしょうが、スポーツモデルはシンプルなほど良いと思います。
質感そのものは先代よりも向上しています。
・スピードメーターのスケールが180㎞/h
欠点といえるかどうかわかりませんが、スピードメーターのフルスケールは180㎞/hとロマンのない数値です。(笑)
高級車・ハイパフォーマンスカーはもとより、スイフトスポーツですら220㎞/hスケールですから、もっとハッタリをかまして欲しいところです。(笑)
・400万円クラスの車としては装備が微妙にショボい
バージョンST・Tのパワーシートがフルパワーじゃない(座面の高さ調整が手動)、ボンネットを支えるのがダンパーではなくロッドなど、この価格の車としては装備が微妙にセコいというかショボいのが気になります。
数万円価格アップしてもこれらを装備するか、軽量化を狙って豪華装備を徹底的に省略してしまうか、どちらかのほうがいいのではないでしょうか。
・デュアルクラッチ式トランスミッションがあってもよかったのでは?
ATが先日一部改良されたスカイラインと同様7速となりました。トヨタに比べ多段化で遅れを取っていた日産が盛り返してきましたが、スポーツモデルの自動変速機の最近の世界的トレンドはトルコンATではなく、ポルシェのPDK、BMWのM-DCTなどに代表されるデュアルクラッチ式トランスミッションです。トルコンATが悪いわけではありませんが、最新型スポーツモデルとしてはデュアルクラッチ式トランスミッションのほうが適切ではなかったでしょうか。
総評
2000年に日産の経営不振によりZが生産中止となり、30年以上続いてきたZの歴史が途絶えてしまったのは残念でしたし、2002年にカルロス・ゴーン体制の下、Zが復活したのは本当にうれしかったです。
Z32時代は極僅かなマイナーチェンジはありましたが、動力性能には基本的には大きな変化がなく、11年のモデルライフを実質的に店晒しのままで終えてしまいました。
ところがZ33になってから毎年のようなこまめな部分改良で商品力を保ち、約6年というZとしては短いモデルライフで新型にバトンタッチしたことは、ゴーン体制になって以降の日産が、この車のブランド価値を向上させていこうという意思を感じます。
近年は環境問題やエネルギー問題、衝突安全対策など、スポーツカーにとっては逆風が吹き荒れ、また車が昔のような憧れの存在ではなくて、あって当たり前になり、若い人たちがスポーツカーに憧れるのではなく、bBやタントみたいな車に乗って満足している時代です。
それなら、Zのようなスポーツカーにはもう存在価値はないのかと言えば、むしろ逆です。
自動車の魅力は単にA地点からB地点への移動手段としてだけでなく、移動の時間そのものや人馬一体になるドライビングの楽しみ、美しいスタイルの車を所有し眺めて楽しむ、写真を撮って楽しむ…などということも挙げられます。今売れているコンパクトカー、軽、ミニバンに果たしてそういった楽しみはあるのでしょうか?
(全くないとは言いませんが、スポーツカーに比べれば、圧倒的に魅力度は低いと言わざるを得ないのでは?)
例えが適切かどうかわかりませんが、ペットボトルのお茶がどんなに出回ろうとも茶道(茶の湯)がなくなることはありません。ペットボトルのお茶は安価にどこでも手に入り、多くの人ののどの渇きを潤すものであり、茶道はその様式や所作、お道具や軸、菓子などを総合的な美として楽しむものです。
実用的な車がペットボトルのお茶とすれば、スポーツカーは茶道。お茶といってもそれぞれ全く別の存在であるように、車といってもスポーツカーと実用車は全く別のもので、比較することに意味がありません。
車好きではない人で、「スポーツカーは狭くて人がたくさん乗れないし、乗り心地も燃費も悪いしからいらない!」というようなことをおっしゃる方がおられますが、「茶道は堅苦しくて、お茶が飲めるまでに時間が掛かるから、ペットボトルのお茶の方が優れている」と言っているのと同じであることに気づいていただきたいものです。(爆)
スポーツカーは市場規模が縮小していったり、内燃機関を用いなくなるなどその形態を多少変えていくとしても、今後も生き続けるべき存在であり、それゆえにスタイルの美しさや動力性能、ブランド性を更に磨き続けるべきでしょう。
歴代フェアレディZはL、VG、VQなど大きくて重く、エンジンフィールもいいとは言えない実用車のエンジンを流用し、ボディサイズも(Z33、Z34はやや小型化したとはいえ)スポーツカーとしてはかなり大柄で、この車がリアルスポーツカーと呼べるかどうかは議論があるところです。
また、大昔は日本製本格的スポーツカーはほぼZしかありませんでしたが、現在はZよりも速い日本車はいくらでもありますし、輸入車が身近になったことで、いわゆるステイタスシンボルとしてやブランド性を求めるなら、今やZよりも輸入車の方が優れているでしょう。
しかし、幼心に西部警察の大門団長が駆るスーパーZに憧れ、Z31のV6ターボ230PSに驚愕し、バブル絶頂期に280PS・3リッターツインターボと豪快なスタイル、豪華な装備で登場したZ32・・・
と、日本車で最もかっこよく、最もハイパワーで、最も速い車は私にとってはZなのです。Zは常に特別中の特別の存在です。
Z最大の試乗である北米の景気後退で、今後もZにとって厳しい状況が予想されますが、日本製スポーツカーではトップクラスの伝統とブランド性を持つZが、今後も世界中で末永く愛され続け、世界中の車好きにとっての特別の存在であり続けることを願ってやみません。