デミオSKYACTIVに乗ってみました。
グレードは13-SKYACTIV、ボディカラーはスカイアクティブ専用色のアクアティックブルーマイカです。
現行デミオには
昨年沖縄旅行でレンタカーとして乗った際に試乗記を書いてみたのですが、先月マイナーチェンジと同時にマツダの環境技術「SKYACTIV TECHNOLOGY」の第一弾・高効率ガソリン直噴エンジン「SKYACTIV-G」を搭載したので、その事を中心に書いていきたいと思います。
○だった点
・既存技術を磨き上げて低燃費を実現したこと
デミオSKYACTIVの最大の売りは、やはり10・15モード30km/Lというその燃費性能です。
この燃費を達成するために、デミオに導入されたのが「SKYACTIV TECHNOLOGY」です。これはエンジンはもとより、トランスミッション、ボディ、シャシーを軽量化・高効率化する技術で、デミオSKYACTIVを皮切りにマツダ各車に搭載されていくようです。今回デミオSKYACTIVにはまず、市販ガソリンエンジン車としては世界一の高圧縮比14.0を実現した「SKYACTIV-G」が搭載されました。
このSKYACTIVテクノロジーはもちろん革新的な技術群だと思うのですが、特筆すべきはハイブリッドなど飛び道具に頼らず、既存技術の地道なブラッシュアップによって構成されているという点です。
近年の環境技術・低燃費技術といえばトヨタ・ホンダを中心としたハイブリッド車(HV)や、三菱iMiEV・日産リーフに代表される電気自動車(EV)など、ガソリン離れというべきか、出来るだけガソリンエンジンを使わず電気に仕事をさせるというというのがトレンドでした。
プリウスに乗ると、これだけ高度な仕組みを違和感なく日常使用できることに驚嘆しますし、当然燃費の数値は素晴らしいものです。また、航続距離に不安があったりコストパフォーマンスに大きく劣っていたEVも、iMiEVやリーフを見ると進化を実感できます。
ただ、HV・EVとも使用済みのバッテリーのリサイクル技術はまだ確立していないといわれますし、そもそもHV・EVは常に重いバッテリーを載せて走らなければなりませんが、自動車にとって車重が重いことは走る・曲がる・止まるの三要素になんらメリットを与えません。
単純に燃費の数値だけならHVの方がいいかもしれませんが、正直今のHV車はどれも運転が楽しいとは到底思えません。勤務先に現行プリウスがあり、時々乗るのですが、運転感覚は極めて退屈で、長時間だと運転することが苦痛になってきます。楽しみといえば燃費計とにらめっこしながら「あ、0.1km/L上がった」とか喜んでいるぐらいでしょうか・・・
燃費の数値ばかり気にして運転の楽しさをおろそかにするのは本末転倒というか、自動車の自殺であると感じます。
ガソリンエンジンは熱効率(燃焼時に動力に転換させる熱量の比率)が30%程度であると言われ、残り70%前後を無駄にしているということになります。(ちなみにディーゼルエンジンの熱効率は46%程度であると言われる)既存のガソリンエンジン車の持っているポテンシャルを最大限引き出そうとするSKYACTIV TECHNOLOGYは技術の可能性に対する誠意のある挑戦であると思います。
・i-DM
メーター内に効率の良い運転をアシストするモニター機能「I-DM」が装備されていて、加減速等の運転行動から、運転を評価してくれます。
この手のモニターは燃費運転偏重で、「こんな加速してたら周りの車に迷惑だろ」と思うような発進加速でないと良い評価がもらえなかったりしますが、I-DMはドライバーのアクセル、ブレーキなどの操作を検知、運転操作を判定してスキルのレベルを色を使って表示するという、燃費だけではなく、「スムーズな運転」「上手な運転」を判断する、いかにも運転の楽しさにこだわるマツダらしいシステムで好感が持てます。
・アイドリングストップ機構の性能向上
アクセラやビアンテ等マツダ車に採用されていたアイドリングストップ機構「i-stop」がデミオSKYACTIVにも採用されました。現行アクセラに採用されたばかりの頃のi-stopは、エアコンオンの状態や市街地等でのゴーストップの頻度が高いとあまりアイドリングストップせず、標準車に比べてそれほど実用燃費が良くありませんでした。
また、アイドリングストップ状態からハンドルを操作するとエンジンが掛かって右折待ちなどの素早い発進に備えるという機能もなく、まだ未成熟なアイドリングストップ機構という印象でしたが、デミオはこれらが改善されている他、後退時にはアイドリングストップが作動しないなど、最新のアイドリングストップ車らしい機能が盛り込まれています。
これまでに運転する機会のあったアイドリングストップ車(マツダアクセラ、スバルステラ、日産マーチ)の中では最も制御が洗練されていると感じました。
気になった点
・燃費オタクになり過ぎwww
ハイブリッド車以外の市販車としては初めて30km/Lという燃費をマークしたこの車ですが、やはりちょっと燃費スペシャルというか燃費オタクになってしまっている点があります。
実はSKYACTIVにはメーカーオプションでもHIDヘッドライトが選べません。これには事情があって、圧縮比14.0:1という高圧縮を実現するためにエンジンブロック強化する必要上、エンジンブロックが大きいということと、エンジン始動時のバッテリー負担が大きいアイドリングストップ機構が備わっているためにバッテリーを大型化しているのですが、それゆえにエンジンルームがいっぱいいっぱいになってしまって、HIDライトユニットの入るスペースがなくなってしまったそうです。
HIDライトなどなくて困るものではないですが、それでもコンパクトカーでも常識になってきているHIDライトを、先進的なSKYACTIVで選べないのはちょっとがっかりです。
また、軽量化のため燃料タンク容量が標準車の41Lから35Lに少なくなっています。上述の通り、エンジン本体・バッテリーの大型化による重量増を相殺するために燃料タンクを小型化して重量を削っているそうですが、これでは航続距離が短くなってしまいます。
余談ですが、私が乗っているスイフトの燃料タンク容量は43L、燃費の最高記録は25.5km/Lなので(ちなみに10・15モード燃費は18.8km/L)、航続距離は1100km近くになります。ところがデミオSKYACTIVは航続距離はカタログ燃費で走ったとしても1050kmです。遠出すればまだ伸びるのかもしれませんが、もう少し燃料タンク容量が大きくないと低燃費の特徴がいまひとつ生きないのではないでしょうか。
このように燃費スペシャルな点があるのは、個人的には嫌いではないのですが、一般に広く受け入れられるためには、特殊な部分は少しでも減らす方がよいと思います。
・もう10kg重量を削って!
上述の通り、燃料タンク容量を削ったり、座席をSKYACTIV専用にするなど軽量化に徹底的にこだわっていますが、車重が1010kgなので、重量税のことを考えるともう少し頑張って1000kg以下に収めていただきたかったものです。(ま、数千円のことですが・・・)
・走りの楽しさが退化した
標準デミオの試乗記で走りが素直で楽しいと述べましたが、この美点がSKYACTIVはやや退化してしまったのかなあと思わせられます。燃費重視のセッティングのせいか、以前乗ったトルコンAT車よりも巡航時のエンジン回転数を低く低く誘導していて、巡航からの再加速がワンテンポ遅れる印象があります。
また、長所で記した通りアイドリングストップ機構「i-stop」は非常に優秀なのですが、エンジン停止が頻繁なうえエンジン再始動時の音や振動がやや気になるので、ちょっとうっとうしくもあります。
環境性能と素直な運転感覚を両立するのはなかなか難しいですね。
・MTが設定されていない
標準デミオは最近の車にしては珍しくMTのラインナップが豊富で、スポーティ仕様のSPORTはもとより、15C、13Cにも設定されていますが、残念ながらSKYACTIVにはMTの設定がありません。コストや需要の面から見送られたのでしょうが、乗り方によっては驚異的な燃費を叩き出せるMTとSKYACTIVエンジンの組み合わせをぜひ見てみたかったのに残念です。今後、MTが必須の欧州市場へも投入されるのでしょうから、追加設定を期待したいところです。
総評
昨今エコカーの本流といえば、なんといってもプリウスに代表されるHVです。2011年上期の新車販売台数はHVを擁するフィットが1位、プリウスが2位。2010年通年はプリウス1位、フィット2位でした。
それだけ社会にHVが浸透いるということなのですが、HVを購入された方の中には、とりたててHVは必要ないが流行りで・・・という方も多いことでしょう。そういう方は、HVがガソリン車等に対してLCA(Life Cycle Assessment:個別の商品の製造・輸送・販売・使用・廃棄・再利用までの各段階における環境負荷を明らかにすること)の点で疑問符がつくということはご存じないのかもしれません。
常に無駄な重量物(バッテリー)を積んで走り、大きなバッテリーの廃棄・リサイクルの技術・ルートが確立されていないHVを、単にエコなイメージだけで購入する風潮には、私は大いに疑問を感じています。人間というもの、どうも物事の本質を熟慮しないで、流行に流されてしまうことがあるのかもしれませんが・・・
私が考える本質的な自動車とは、小型軽量で運転が楽しいことが必須であると思っているのですが、デミオは自動車の本質を理解する方にぜひお勧めです。
手元に、マツダのデミオ開発担当主査の水野成夫氏に日本経済新聞がインタビューした記事があるのですが、水野氏は「HVを否定するつもりはない。エコだけだったらHVの方がいいのかもしれない。ただ、2人の時間、家族の時間をメインにするのであれば、HVが正しいと思わない。重たいということは楽しさを損なう」「楽しさを追求するためにガソリンで出来るだけ頑張るのが正論だと思う。競合とは思っていない。楽しむというのは(疾走感を表現したブランドメッセージ)『Zoom-Zoom』の方向そのものだ」と語っています。デミオは作り手自身のこのような明確なメッセージ性が伝わってくる素晴らしい車です。運転が好き、車が好き、楽しさと環境性能の両立を重視するという方には是非お勧めしたい車です。
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