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酸素のブログ一覧

2009年04月02日 イイね!

暗く怖い場所の追想†幕†

「暗く怖い場所の追想」THEME-SONG




ここまでのあらすじ
身を隠した私を捜し回るユビキタス。
退路を断たれた私は、暗い密室での食事を余儀なくされた。

ろくに味も分からない弁当を文字どおり胃袋に収め終わった頃、周囲に響いていた足音が再び消える。
時間を潰す手段も尽きた私は、心を決めると外の世界への扉を開いた。
それでも暫くは警戒を怠らなかったが、今度こそ帰ったようでユビキタスは現れなかった。

それから何日もしない、ある夜のこと。
帰宅直後からネットゲーム上でチャットを満喫していた私は、自分のキャラクター宛に届いたゲーム内メールに気付き、内容を確認する。
「ユビキタスがそっちに行けって五月蠅いんですが^^;」
それはT先輩の使用キャラクター、リリエール(仮名)からのものだった。
このゲームを私の部屋に来た際に知った先輩は、すぐさま購入すると私以上に電脳世界の虜となっていたのだ。
迷うことなく幼女風アンドロイドを誕生させ、初っ端から「なりきりプレイ」に撤する様は、ネカマ道を先行していた私にさえ畏怖の念を抱かせるものだった。
そのリリがこんなメールを送ってきた時点で、私は事の重大さを理解した。
普段のリリなら、こんな口調は決して使わない。
「ユビキタスがそちらに行けと五月蠅いんでしゅの><」
人としてどうかは別にして、これが正常なリリだ。
ここから導きだされる結論はただひとつ。
リリを利用して私の電脳生活を覗き見るため、ユビキタスがT先輩の部屋に押し掛けているということだ。
「無茶しやがって・・。」
私は目頭が熱くなった。
見つかったら何をされるか分からないのに、奴の目を盗んでダイイングメッセージを残してくれたリリ。
「gj」と書いてグッジョブ、リリ。
「アタイ、アンタの死を絶対に無駄にはしないよ・・。」
ひとしきりT先輩を殺し終えると、速やかに行動に移る私。
なお、キャラクター目線になってしまっているのは、ネカマを続けた副作用だと思って許して欲しい。

とにかく、先ずはゲーム仲間に被害が及ぶのを防がなければならない。
その頃の仲間には、プレイヤーの性別に拘らず女性キャラクターの使い手が多かった。
ネカマと断言してしまうと、ここが炎上するので自重させて頂くが。
多くのプレイヤーは、実際の性別を根掘り葉掘り聞かれるのを嫌った。
対して、私に恋人がいてもおかしくないと思っているユビキタスのことだ。
簡単にタブーを犯しかねない。
まして、それを代行させられるくらいなら、リリが死を選んだのも当然のことと言える。
「アタイがいいって言うまで、絶対にここを動かないで。」
こう言い残すと、独り仲間の許を離れる私のキャラクター、ヨメ(仮名)。
心安らぐ場所に別れを告げ、孤独な戦いに身を投じることを決めたのだ。

次に私がしたのは、ヨメでのプレイを終了し、僅かに創っておいた男性キャラクターの一人、レイ(仮名)で繋ぎ直すことだった。
T先輩のような同類にならともかく、趣味的には一般人だと思われるユビキタスにネカマ認定され、ランチタイムの話題を提供する気はなかったからだ。
別にヨメが会社の新人に激似で、ユビキタスを更に刺激しそうだったなどと云うことは、少しもなかったと記憶している。
キャラクター変更を完了すると、仲間から遠く離れた地点に降下し、リリにメールを打つ私。
「暇だから来ないっすか?」
ぜひ棒読みして欲しい。
男性キャラクターを持たない主人(マスター)に仕えるリリも精一杯の男言葉で了解の返信をすると、程なく私の前に現れた。
傍でユビキタスが見守っているのであろう、ぎこちない口調のリリと短時間プレイを共にする。
そして、私が次のカードを発動させるターンとなった。
「う・・なんか急に頭が痛くなって来たから寝るっすおやすむなさい。」
勿論、棒読み以外はありえない。
ボイスチャットが主流になる前で、本当によかった。

リリの眼前でログアウトした私は、別のキャラクターで改めてゲームフィールドにアクセス。
オンライン状態を他者から察知されない機能を使い、再び仲間と合流することに成功する。
念のため付け加えるが、決してリリを見捨てたわけではない。
ここでのリリには独自のコアな交遊関係があったため、ユビキタスの都合で私に縛り付ける方が気の毒と言えたのだ。
とは言え、リリを巻き込んでしまったことは心苦しかった。
「このままではいけない。」
ユビキタスへの怒りと共に、こんな感情が私の中に芽生えた。
そもそもユビキタスのしていることは、自分自身にとってもマイナスになっているようにしか見えなかった。
それは、穏和なT先輩すら閉口させた、今回の行為に留まらない。
例えば、社用車の予約状況チェックから始まる、送り迎えにも似た待ち伏せ。
勤務時間をストーキングに費やしていると思われる場面は、他にも数多く目についた。
勤勉な女性社員が多い職場で、長時間の持ち場放棄が顰蹙を買っていないとは考え難い。
「次に遭ったら、ガツンと言うしかないかもな。」
私は決意した。
これ以上、報われない行為に犠牲を払わせるわけには行かないのだ。

その日、私の頭は朦朧としていた。
モチベーションが高ければ分からないが、そうでない私にとって、労働条件は悪化する一方に思えた。
一向に成果の上がらない経営改善計画、リストラされていく上司達、山と積まれた引き継ぎ資料、思い知る自らの適性の無さ、優れない体調。
それでも眼前に迫った納期だけは守るべく、残業前の食料調達に向かう私。
性懲りもなく、前方のT字路を絶妙のタイミングで横切るユビキタス。
職場の仲間と思しき女性を同伴している。
この行為に、一体どう言って付き合わせているのだろうか。
平気で他人を巻き込んで、こいつは何がしたいのか。
ふいに湧き上がった強い怒りが、本当に偶然かもしれないという可能性を打ち消した。
同時に、するべきことも見失わせた。

気が付くと、私はユビキタス達の眼前で、来た道を180度Uターンしていた。
「あ、あーあ・・。」
何故か同伴の女性の方が、背後で悲痛な声を上げる。
我ながら最悪だった。
何もかもが、どうでもよく思えた。
だが、この行為によってもたらされた変化は、私にとって意外なものだった。

数日後、外出のため車に向かった私の視界に、若い男が入ってくる。
記憶にない顔なので他部署の新人か何かだと思うが、客観的に見ても間違いなく色男である。
間髪を入れず目についたのは、親しげに話しかけるユビキタスの姿。
顔と顔を、恋人同士でなければありえない距離まで近づけ、身振り手振り話をしている。
「な…なんなんですか?なんでボク連れてこられたんですか?」
男がこんな表情でさえなければ、私は恋人同士と信じて疑わなかったはずだ。
しかしこの出来事のおかげで、私の中に一つの仮説が生まれた。
屈辱には屈辱を、敗北感には敗北感を。
ユビキタスがしているのは、恋愛などではないのではないだろうか。
おそらくは戦い、もしくはゲームのようなものではないのか。

結論が出ないまま、同じような場面に再び遭遇する。
ただしこの時、既に運転を開始し進行方向を見ていた私は、彼らを視界の片隅に捉えたに過ぎなかった。
よって印象的だったのは、助手席に座っていた上司が、怒りとも驚きともつかない表情で凍り付いていたことだけだ。
何か、とんでもなく不謹慎なものを見せられたようなリアクションだったことからすると、キスでもしていたのかもしれない。
かつて、私の席を頻繁に訪れたユビキタス。
それを見ていた上司であることを考えれば、そこまでの行為には及んでいなくとも、私への露骨な当てつけを感じ取り、固まっていただけかもしれないが。

いずれにせよ、私は肩の荷が下りた気がした。
これで、恋に破れた哀れな男として、思い残すことなく去っていける。
始まりからして自暴自棄な気持ちで潜り込み、ぶら下がっていただけの会社。
潮時だと思っていた。
自分が先々、この仕事で生き残っていける器でないことも、痛いほど解った。
それに、暫くはネットゲームに集中したい。
ユビキタスから逃れられることなど、辞める動機の1割にも満たない。
あのグループや関係者だけを見てもどうだ。
Aも社長秘書も、同僚を共に見送った女の子も参加することはなくなった。
同僚の後、Kも故郷のS県に転勤となった。
新人は辞め、行動を共にした受付嬢も去った。
U.N.オーエン夫妻に招かれた絶海の孤島で、そろそろ私が退場する番だろう。
いや、むしろ遅すぎたくらいだ。

私が去って程なくT先輩も籍を外れ、その後、会社にはある法律が適用された。
ちっぽけな存在である私などが一因となったかは分からないが、この場を借りて一応は申し上げておきたい。
正直すまんかった。



関連情報MOVIE①


関連情報MOVIE②

Posted at 2009/04/02 01:17:09 | コメント(15) | トラックバック(0) | 恐怖体験 | その他
2009年03月29日 イイね!

暗く怖い場所の追想10

「暗く怖い場所の追想」THEME-SONG




ここまでのあらすじ
上階から迫る女の靴音。
ユビキタスとの遭遇を避けるため、私は咄嗟に、見知らぬ部屋へと逃げ込んだ。
考えなしの行動が、再び自らを追い込むとも知らずに・・。

真の闇が支配する密室で私が最初にしたことは、閉じたドアのノブを両手で握り、力の限り閉まっている方向、つまり手前に引っ張ることだった。
ノブには捻って閉めるタイプの鍵もついていたが、うっかり音でも立てたら気付かれる。
部屋に滑り込んだタイミングは、それくらい間一髪だった。

そんな私の耳に、大した劣化もなく外界の音が飛び込んで来る。
カツーン・・・・カツーン・・・・カツーン・・・・カツーン・・カッ!?
カカッ!!・・カッ!!!・・・・ダンッ────!!1
カツーンカツーンカツーンカツーンカツーンガッ!!!
カツンカツンカツンカツンカtンカツンカツンカツンカツナkツンカツンカt

「ええええええええええ・・・・。」
ドアノブを握る私の手が、みるみる冷たくなって行く。
それが明かりの下ならば、蒼白となった色まで確認出来ただろう。

階下に到達したユビキタスは、網にかかったはずの私が居ないことを確認。
すぐに捜索を開始したようだ。

要約すれば何のことはない、これだけの話である。
勿論、素直に帰ってくれないことも想定はしていた。
だからこそ、こうして手に力を込めていたのであるが・・。
いくらなんでも、この「気」の豹変は想定外だった。
こいつは一体、何に変化したというのだ。
魔物か?スーパーサイヤ人か?
鉄の扉一枚隔てた向こう側で、髪を振り乱すような気配がざわめいている。
「まずい・・。」
居場所に気付かれノブに手をかけられたら、締め切っていられる自信が無くなってきた。
鍵がかかっていると思わせるには、ドアを微動すらさせてはならないのだが。
この相手に対して、そんなことが本当に可能なのだろうか。
ドラキュラ伯爵の居城に迷い込み、その手下でもやり過ごしているような気分になった。

幸い、外の気配は別の動きをとってくれた。
通用口の外を一通りチェックすると、エレベーター前を通って裏口へ。
その周辺にも居ないと見てとるや、階段を駆け上り始めた。
「今だ。」
慎重かつ速やかにドアノブについた鍵を回す。
よほどの大音量でもない限り聞かれはしないはずだが、それでも「カ、カチンとか音なんか出したら、絶対に許さないんだかんね!!」と鍵に向かって呟きながら。
特に目立つ音を出すこともなく閉まる鍵。
安全地帯の確保に成功した瞬間である。
だが、この戦いが予想以上に厳しいものになることを、この時の私は知る由もなかった。

カカカカカカカカカカカ!!
再び迫る靴音。
上階で成果の得られなかったユビキタスが、階段を下りてきたのだ。
ゼエゼエという息づかいが近くなる。
「こ~~こ~~か~~~~?」
メリメリと軋みながら開く扉、差し込む外界の光と、覗き込む狂気の笑みを湛えた瞳。
鍵を閉めていてもなお、こんな恐ろしい想像が頭をよぎる。
さすがにこれは無理でも、私に気付いた時、奴はどう出るだろうか。
開けるまで扉を叩き続けるか、あるいは小声で「待ってますよ、キャハ♪」と笑うのか。
いずれにしても、寿命が縮むことは避けられそうにない。
「ガコン!」
ここで、我々のいる1階にエレベーターが到着する。
「おつかれさま~。」
聞こえてくる女の声。
別の従業員が退社のために乗ってきたようだ。
「おつかれさま~(ゼエゼエ」
同じ挨拶を返した後、即座にこんな質問を付け足すユビキタス。
「これ乗る時、誰か見なかった?(ゼエハア」
なんという執念・・やはり私を捜している。
解ってはいたが、改めて事実を突きつけられ、全身に戦慄が走った。
「見なかったよ・・どしたの?」
回答する女の声。
「ううん、なんでもない(ハアハア」
言い切るユビキタス。
これだけ息を切らしながら、どの口がそんな台詞を発しているのか。
「そう?・・じゃあね(クスクス」
女は、「変な子」とでも言いたげに笑うと、ユビキタスを置いて帰って行った。

ユビキタスによる私の捜索が再開された。
範囲を広げたようで、靴音が時々、妙に遠くから聞こえる。
こうなると正確な位置の把握は難しいが、どうやら周辺道路までシラミ潰しにしているようだ。
これだけ確信を持って探し回るのは、上階で私の不在を確認して来たということか。
それにしても、である。
私がユビキタスを出し抜いて待ち伏せを回避したことは、これまでにもあったはずだ。
その度にこんな半狂乱を繰り返し、時には席に着いた私を確認に、6階まで上がって来ていたのだろうか。
想像しただけでゾッとする。

どれほどの時が経ったろう。
外の靴音が消える。
諦めて帰ったのだろうか。
しかし、ここまで散々予想を外されて来た私は、そうは思わなかった。
ドアの隙間から外を見た瞬間、歓喜に震えるユビキタスの瞳と鉢合わせるに決まってる。
こう考えた私は、ある決断をする。
ここで食事をしようというものだ。
これには心を折れ難くする効果も期待出来たが、どちらかと言えば、単純に時間が惜しいという気持ちが強かった。
私はしみじみと思った。
本当に恐ろしいのは幽霊や悪魔ではなく、人の心に宿る情念の炎でもなく、自分をここまで追い込む仕事だな、と。
早速、暗闇の中でしゃがみ込み、床に置いたコンビニ弁当の開封を始める私。
入口の脇に照明のスイッチがあることは確認していたが、僅かな光でも漏れたらと思うと、点けることは考えられなかった。
見えない唐揚げを見えない割り箸でつまみ、見えないご飯を口の中にかき込む。
「暗闇に目が慣れれば多少は物が見えてくる。」
小さい頃に何かの冒険物語で仕入れた、こんな知識は嘘っぱちだったなと思いながら。
コンビニで温めて貰った弁当は、既に冷え切っていた。
食べながら、涙が溢れた。

案の定と言うべきか。
再び靴音が聞こえ始める。
しかも近い。
恐怖に打ち勝つため、無理に楽しいことを考えるよう心がけたわけでもないのだが。
ふいに、大好きな「うる星やつら」という作品の、こんなエピソードが思い出された。


■■■面堂終太郎の物語■■■
暗所恐怖症と閉所恐怖症に悩む終太郎は、その原因を断つため、ラム達と過去に向かった。
そこで幼い頃の自分に酷い仕打ちを受けた終太郎は、逆上して反撃に移る。
暗い瓶(かめ)の中に逃げ込んだ幼い自分を、周囲の瓶を破壊しながら追い詰める終太郎。
そう、恐怖症の原因は自分だったのだ。=完=


作者である高橋留美子先生が私を見たら、こう仰ったに違いない。
怖がるか食べるか思い出すか、どれか一つにしろ、と。



関連情報MOVIE①


関連情報MOVIE②

Posted at 2009/03/29 02:06:26 | コメント(13) | トラックバック(0) | 恐怖体験 | 日記
2009年03月22日 イイね!

暗く怖い場所の追想9

「暗く怖い場所の追想」THEME-SONG




ここまでのあらすじ
自分から挨拶してしまった日を境に、毎朝ユビキタスとニアミスするようになってしまう。
いや、偶発的なニアミスであれば諦めもついたのだが・・。

「冗談ではない。」
どこかの大佐のような台詞を呟く私。
一日の中で最もテンションの低い時間帯に、知る限り最もテンションの高い人物と絡まなければならない悲劇。
おまけにユビキタスは、そこからタイムカード置き場まで私に随伴するようになった。
出くわす社員達に、横で明るく挨拶している。
これでは、まるで私と一緒に出勤して来たみたいではないか。

数日後、私は究極の選択を試みた。
いつもの駅で下車するのをやめ、他の多くの社員が使っている駅から出勤したのである。
分かっていたことだが、ここにも私の安息の場は無かった。

ゆっくりと会社に向かって歩く社員達。
1人の者もいれば、同じ部署や仲のいい人間と肩を並べている者もいる。
彼らは等間隔で列を作り、その間隔を乱そうとはしない。

私は歩行速度が速いのだろうか。
普通に歩くと追いつき追い抜いてしまうため、ペースをセーブすることを強いられた。
それが他部署の人間だとしても黙って追い抜くのは気が引けたし、かといって抜く度に挨拶していたらキリがないからだ。
他の社員も考えは同じだろう。
間隔が乱れないことが何よりの証拠だ。
道中には信号もあるのだが、そこでも大きな変化は起こらない。
かつて絹の道を旅した隊商でも、ここまで統率が取れていただろうか。
暗黙の了解、恐るべしである。
このストレスを味わう度に、私の脳裏には同じフレーズが浮かぶのだった。
・・疾風の如き・・死神の列・・・抗う術は・・我が手にはない・・・・

ふと、前方の男女に気付く。
夫婦だか恋人だか知らないが、一緒に出勤とは随分な物好きもいたものだ。
あくまで個人的な意見になるが、そんな行為は頼まれても御免である。
会社一のお気に入りが相手なら2日くらいは付き合ってもいいが、ぜいぜいそこまで。
出勤では誰でも一人一人きり(精神的な意味で)って名台詞を知らないのかよ?」
その男女も2日目以内かもしれないのに、こんなことを思う私。
ここで、更なる事実を発見。
女の方は、なんとあのAではないか。
説明的に書くなら、私が最初のパーティーでテンションを上げたけど以降の集まりには来なくなってしまったAではないか。
「なるほど、そういうことか。」
別に少しもショックは無かったが、こんなことを考えた。
「ユビキタスもこれを見たのだろうか。」

翌朝、もう同じ駅を使うことはなかった。
やはりあのストレスには耐えられそうもなかったのだ。
以前から利用していた方の駅で下車し、暫くの間ユビキタスの思うままとなる。

ある朝、問題の路地を回避し、別のルートで会社にアプローチしてみた。
とにかくユビキタスに遭いたくない、という理由以上のものはなかったのだが。
考えなしの行動が、残念な結果を生む。

その道は、いつも私が通る路地を、出口側から見ることが出来るのだが。
出口付近の、入口から見れば死角にあたるブロック塀の陰にそれは居た。
自転車を脇に駐め、いつも私が来る方向に目だけ出して様子を伺う女。
まるで銃撃戦でもしているように、素早く顔を引っ込めたりもしている。
言うまでもなくユビキタスである。

「見るんじゃなかった。」
だが、おちおち後悔している暇もなかった。
間もなく、恐ろしいことが起こったのだ。
気配を感じたのだろうか、振り向いたユビキタスと目が合ってしまう。
一気に心拍数が上がり、早い呼吸になる。
お互いに気まずい沈黙が続くかと思ったが、違った。
「あれえ?なんで今日はこっちからなんですかあ??」
怒りを含んだ口調で質問して来るユビキタス。
完全なる逆切れである。
近くに鳥がいたら、一斉に飛び立ちそうな空気が漂う。
「た、たまたまそういう気分だったんだよっ!!」
私も切れた。
そのせいか苦手な朝のせいか、こんな判断力の欠如した返答しか出来なかった。
こちらから質問し、ユビキタスにストーキングを認めさせるターンのはずなのにだ。
「とにかくもうやめろ。」
早足でビルの入口に向かう私。
「クスクス・・クスクス・・」
追っては来なかったが、背後で上機嫌そうな笑い声を上げるユビキタス。

他にも、異常な確率でユビキタスと遭遇するタイミングがあった。
それは、社用車で外出する時と戻る時。
2階の鍵置き場か、嫌でも通る1階の通用口付近がステージとなった。
ある時、私はPCから予約出来る社用車の使用時間を、わざと実態とずらしてみた。
案の定、ユビキタスは現れない。
つまりそういうことだった。
だが、時間を実態とずらし続ければ他の使用者に迷惑がかかる。
残念ながら、毎回この手段をとるわけには行かなかった。

もう1つの遭遇タイミングが、夕方の、軽食の買い出しの前後だった。
主に近くのコンビニで買っていたが、暫く同じルートを使っていると出くわすようになった。
こちらに気付かない風に前を横切るユビキタスに、私が鉢合わせて話しかけざるを得なくなる形も朝と同じだった。
軽食を買える店は異なる方向に何軒かあったため、私は日によって店を変えてみた。
するとやがて、戻った会社の通用口で遭遇するようになる。
私はそこのエレベーターで持ち場のある6階に上がるのだが。
それまでは丁度1階に来ており、すぐに乗れることも多かったエレベーターの箱。
それが必ず別の階にあり、待たないと乗れなくなっていた。
そうしてそこにいると、脇にある階段からユビキタスが降りてくる。
上階の窓から私の戻りを確認し、通用口に達するタイミングでエレベーターのボタンを押し足止め。
大方こんなところだろう。
私はエレベーターと向き合っているため、この時は向こうから挨拶して来るが。
口元が不自然に引きつったままの笑顔を見るのが辛かった。

その日は普段以上に帰りが遅くなりそうだったため、ややボリュームのある弁当を仕入れて会社に戻った。
エレベーターを待っていると、上階から近づく女の靴音。
ジリジリ音を立てて絡め取られる感覚。
女郎蜘蛛の巣にかかった、カトンボの気分だった。
ここで、そのカトンボが抵抗を試みる。
気の重い残業を前に、精神的ストレスになるイベントを少しでも減らしたかったのだ。
咄嗟に身を隠せるポイントを探す。
真っ先に目についたのは守衛室だが、守衛に何を言って飛び込めばいいか分からなかった。
そんな私の目に、それまで意識したことのない鉄の扉が飛び込んできた。
守衛室とエレベーターに挟まれた壁に浮かび上がる、存在感の無いドア。
手をかけると、鍵は開いていた。
中は暗くてよく見えないが、電気や動力の設備を集約した部屋のようだ。
私は考えなしにそこに飛び込んだ。



関連情報MOVIE

Posted at 2009/03/22 20:08:32 | コメント(14) | トラックバック(0) | 恐怖体験 | その他
2009年03月21日 イイね!

暗く怖い場所の追想8

「暗く怖い場所の追想」THEME-SONG




ここまでのあらすじ
真夜中に鳴り響く、玄関のチャイム。
どうやら私は、ストーカーをやり過ごすことに失敗したらしい。
正体不明、神出鬼没のストーカー。
私はこの謎の女を「ユビキタス」と呼ぶことにした。

全く別の人物が訪ねて来たと思いたかったが、どう考えても無理があった。
こんな時間に予告もなく訪問を受けたことなど、それまでの人生で一度もなかったのだから。

玄関へと向かいながら、私は考えていた。
「刃物でも持たれていたら、無事では済まないかもな。」
女性としては間違いなく強い部類に属する腕力。
更にユビキタスには、私の予想を裏切る能力があるとしか思えない。
一瞬でも油断すれば、いや、油断せずとも命の保証は無いだろう。
「ままよ。」
覚悟を決めた私は、こう呟くとドアに手をかけた。

ドアの向こうには、予想どおりの人物が予想を超える態度で待っていた。
満面の笑みで、息を切らしながら。
そして、物騒な物を手にしていないか確認する間もなく言われた。
「やっぱりww車があったからwww」
第一声から痛いところを突かれ、返す言葉もない私。
「車があって在宅中だったら、お前は夜中でも人の家に押しかけるのか。」
こうも思ったが、声にならない。
鏡で自分の顔を見たら、たぶんツンデレ風に赤くなっていたと思う。
危険性に気付いていながら隠蔽を怠った、面倒くさがりな自分を呪った。
ここまで来て明かりを点けてしまった、詰めの甘い自分を呪った。

ユビキタスが続けて何か言うかと思ったが、その気配は無かった。
能面のように張り付いた笑顔を絶やさず、ひたすら息を切らすばかりだ。
階下のどこかで私の部屋の明かりを確認、大急ぎで向かってきたというところだろうか。
「ま、とりあえず上がろうか。」
耐え難い「間」に折れた私から提案する。
言ってから、溜め息がこぼれた。

数秒後、部屋には言いようのないシュールな絵が出現していた。
スペースが限られているから仕方が無いのだが、中央の万年床を挟むように、向き合って座る男女。
男の背後のTV画面では、マスターを失ったネットゲームのキャラクターがポリゴンの身体で立ち尽くしている。
「いいんです解ってるんです。駄目って解ってるんです。」
女は、途切れることなくこんな台詞を言い続ける。
部屋に上がるよう勧めた直後の、短い廊下から既に始まっていた。
対する男はと言えば、上下が不揃いなスウェット姿で、呆けたように固まっている。
後は寝るだけだと思っていたので気にせず組み合わせたが、人に見られると分かっていれば流石にしない格好だった。
自称デリケートな私からは、この時点で中央の空間を使ってどうこうという選択肢は消えていた。
いや、もともと無かったが。
「チョコを受け取ってからそうすることでしか収拾が付かないのであれば、あるいは。」
こんな覚悟だけはしていた。
ところがどうだろう。
ユビキタスの奴と来たら、手ぶらなのである。
いや、やたらと気合いの入った品を持って来られても、それはそれで困るのだが。
それなら一体、こいつはここに何しに来たのだろう。
駄目と解っていながら夜中に突撃訪問し、躊躇なく上がり込み・・・・そして?
今なら何となく解るが、この時の私には全く理解出来なかった。
そして言葉を失っていた。
呆れて物も言えない、という状態に近かった気もするが、そればかりではなかった。
こんな場面で断る側に回った経験が無かったせいもあるかもしれないが、仮にあっても難しい状況だったと思っている。
なにしろこの相手の、見事に自己完結しているリフレインには僅かの切れ目も無かったのだから。

それでもやがて、この場から逃れたいという気持ちが勝る。
正直、タイミングは計りかねたが。
「うん・・。じゃあ明日もあるし、そろそろ帰った方がいいよ。」
なんとかこれだけ口にすると、穏やかに、それでいて有無を言わさぬ雰囲気でユビキタスを玄関に案内する。
幸い、抵抗せずに従ってくれた。
ひとしきり言いたいことを言って気分が晴れたのだろうか。
ドアが閉まる直前まで、一般的な別れの挨拶か何かを口にしていた。
来た時と少しも変わらない、凍り付いたような笑顔で。

部屋に戻った私を、猛烈な疲れが襲う。
「さすがに今夜は、もうゲームをする気にはなれない。」
こう思った私は、すぐに明かりを消すと布団に入った。
これで全てが終わり、平穏な日々が戻ってくれるよう祈りながら。

それから数日間は、ユビキタスに遭わなかったと記憶している。
遭わない日がないほどに遭遇率の上がっていた社内で、それがピタリと止んだのだ。
もともと一部を除き、同じフロアの人間以外とは顔を合わせる機会の少ない会社だった。
そういった意味では正常に戻っただけなのだが。
劇的な変化に感動した私は、この平和が続くことを願った。
しかし事態は、ある日を境に急変する。

私は朝が苦手である。
そんな苦手な朝に、どうでもいい会話をするのも苦手である。
それを避けるため、私は一部の上司がやっていたように、多くの社員が利用する駅とは異なる駅で降りていた。
会社はその2つの駅のほぼ中間にあったが、私の使う駅からはやや遠く、その場合は裏門から職場にアプローチすることになった。

そんなある朝の出勤時のことである。
細い路地を抜け、会社の裏門に面する道路に出ようかというタイミングでそれは起こった。
ある人物が私の眼前で路地の出口を横切り、裏門から会社の敷地に入って行く。
数日ぶりに見る、ユビキタスだった。
後から敷地に入った私だが、彼女が自転車を置き場に駐めているところに追いついてしまう。
置き場はビルの裏口に向かう経路にあるため、脇を通過しないわけにはいかないのだ。
とは言え、こちらに気付いている様子もなく、たまたまタイミングが合っただけにも見える。
「おはよう。」
偶然ならば無視するのも不自然だと思った私は、背中を向けている彼女に向かって声をかけた。
振り向いたユビキタスは、ただ事では無い喜び方で挨拶を返して来た。
私は咄嗟に、何年も前に別れた恋人の仕草を模倣してしまった。
何事も無かったように振る舞いながらも微かに困ったような笑顔を浮かべ、2人の間には一定の距離があることをアピール。
あの仕草のおかげで、私はその後ストーカーにならずに済んだ気がする。
だがあの仕草のおかげで、その時まだ引きずっていたのではなかったか。

翌日から毎朝、同じタイミングでユビキタスとニアミスするようになった。



関連情報MOVIE

Posted at 2009/03/21 03:58:07 | コメント(9) | トラックバック(0) | 恐怖体験 | その他
2009年03月14日 イイね!

暗く怖い場所の追想7

「暗く怖い場所の追想」THEME-SONG




ここまでのあらすじ
Yと距離を置くことも兼ね、ネットゲーム三昧の日々を過ごす私。
しかしKという伏兵の出現により、その計画に狂いが生じ始める。
その後もKは、飲み会や越前ガニ食い倒れツアーに私を誘って来た。
いかにヴァーチャルに没頭していようとも、リアルとの接点を完全に絶つわけにはいかない。
そう考えた私は、誘われれば基本的に断らなかったのだが。
参加すれば、そこには必ずYがいた。

ここまで来ると、疑う余地はなかった。
私とYの仲を取り持つ、愛のキューピッド。
それがKの役割と見て間違いない。
ここで私の中に、デジャヴにも似た感慨が湧き起こる。
かつてそれを、自分の役割だと信じて張り切っていたのは果たして誰だったか・・。
「ミイラ取りがミイラ。」
何故か、そんな言葉が頭をよぎった。
だが私にもまた、キューピッドの矢は通じない。
挫折した堕天使は、後輩の天使にも逆らい続けるのだ。

それは、その年のクリスマス。
私は数日前から、Yにこう詰め寄られていた。
「イヴの日、空いてますか?」
空いていると言えば空いているし、ネットゲームで忙しいと言えば忙しい。
とは言え、ネットゲームを理由に人の誘いを断るのは常識的に考えて問題だろう。
何故なら、それは真の一級廃人になることを意味する。

しかし、単純に空いていると答えれば面倒なことになる。
こう思った私は、先手を打って珍しくもない回答をした。
「空いてるから、K達も誘ってどっか行こうか。」
やや不満そうにしたのは、Yだけではなかった。
その後、私が話を持ちかけた時のKも、露骨に「2人きりで行けばいいのに・・。」という顔をしてくれた。

当日はT先輩の他、過去のパーティーや食い倒れツアーに来たことのある受付嬢もメンバーに加わった。
ここまで団体行動を共にしてきたにも拘わらず、特に進展の無かった男女が、他に予定も無いため惰性で集合。
そんなオーラを隠す様子もなく放つグループが、夜のベイエリアに繰り出した。
私のそれまでの人生でも、特に珍しい風景ではなかったので分かっていた。
こんな消化試合で、今さら何かがあるはずもないと。
多少なりとも盛り上がっているのはYばかり。
他のメンバーなど、下がろうとするテンションと闘う兵士に見えて仕方がない。
時々、物言いたげな顔で私を見る者もいる。
付き合わせてしまって、本当に済まない。
だが、私とて努力はしたのだ。
いくつもの場面で、Yに気持ちを向けるよう自分に言い聞かせてきた。
でも駄目だった。

「すぐ別れるにしても、とりあえず1回やってあげればいいじゃないですか。」
別の後輩に、こんなことを言われたこともあった。
「お前に譲る。」と返す私を、「無理ww凄いことされそうだしwww」と一蹴する後輩。
「俺は人柱か!!」
こう怒りながら、私はハッとしていた。
同じだった。
私がYにネガティヴになってしまう理由。
その根底にあるのは、正に後輩と同じ、それだったのだ。
肉体的な意味だけではない。
精神的な意味も含めてだ。

決して性格が悪いわけではない。
しかし、普段から見せる押しの強さに加え、感情が高ぶった時の暴走気味な行動。
スポーツを愛する精神を宿した、男勝りの恵まれた肉体。
いや、スポーツ云々は蛇足かもしれないが。
親の車を自分で運転して帰って行くYを、最初に会ったパーティーで見送って以来、ずっとそうだった。
Yと同じ空間にいる時の私と言えば、彼女が平静でいてくれるよう、常に祈っているような状態だったのだ。
恋人同士でもないのに、である。
やはり、どう考えても前進という選択肢は無い。
自宅付近だと言う路上までYを送ると、そこで集まりは解散となる。
1時間弱のところにある自室へと車を走らせながらも、私はネットゲームのことばかり考えていた。

そんなクリスマスを終えた、冬のある日。
私は、謎のストーカーによってダメージを被ることになる。

その日は休日だったこともあり、起床から部屋を出ず、ネットゲームに勤しんでいた。
実は映画に誘われていたのだが、「遠方の実家で、法事的なイベントがある。」という理由で断っていた。
勘のいい読者は既にお気付きのとおり、そんなのは真っ赤な嘘である。
私の趣味に合う映画だったが、恋人でもなく、関係を進展させるつもりもない女性と2人きりで観るつもりはなかったからだ。
「それに、今は映画よりネットゲーム。」
こんなことを真剣に呟きながら、何人もの女性キャラを並行して育成し、ネカマへの道を突き進み始めていた。
後の「俺きめぇwwwwシリーズ」である。

我を忘れて女性になりきっている内に、日が落ちてきた。
暗所でのゲームプレイは目に良くないと思い、部屋の明かりをつける私。
およそ10秒後、部屋に携帯電話のベルが鳴り響いた。
そう頻繁にはかかって来ることのない、私の携帯電話のベルが久々に、である。

誰からの電話か、なんとなく予想がついた。
こんなタイミングで来る電話に、他の心当たりなど存在しない。
しかし、それは決して当たって欲しくない予想でもあった。

恐る恐る、傍らの携帯端末に手を伸ばす私。
一気に鼓動が早くなるが、心を決めて表示画面を確認する。
そこには予想どおり、最も見たくない名前があった。
一瞬とるのを躊躇した私だが、すぐに諦める。
それによる状況の悪化を恐れたのだ。
「はい。」
たったこれだけの台詞を絞りだすのに、これほどの精神的労力を伴ったことがあっただろうか。
恐らく無かったと記憶しているが、そんなことはお構いなしに相手の言葉が飛び込んでくる。
「あれれ~?居るんですねぇ?」
全身の毛が逆立つのが、ハッキリと解る。
「ちょ、ちょっと体調が悪かったもんで・・。」
こんなベタな言い訳しか浮かばない私だったが、仮に芸術的な台詞を言えたとしても、意味は無かっただろう。
「キャハハハハハハハハハ!!1(プツッ・・・・ツー・・ツー・・)」
発言半ばにして、こんな笑い声に掻き消されてしまったのだから。

暫く動けない私。
文字通り、凍っていた。
頬を伝う汗が、驚くほど冷たい。
「見張ったね!!恋人にだって見張られたことないのに!!1」
こんな気持ちがようやく湧き上がって来たのは、かれこれ30分ほど経ってからのことである。
カーテンを閉めるが、「まだ見張られているのでは?」という不安が消えるまでには、更に1時間ほどを要した。
浮気を疑われ、恋人や妻に見張られる男。
ドラマなどで見かけるこんな色男ポジションに、少しだけ憧れたことがあるのは否定しないが。
恋人も妻もいないから浮気のしようがないのに、付き合ってもいない女に見張られる男。
これは、夢が叶ったなどという生易しいレベルではない。
飛び級か?
恋の超上級者編に、私は一足飛びに進級してしまったのか?
こんなイベントが起こるクラスに居るくらいなら、ずっと初心者のままでいたいものである。

次の恐怖は、バレンタインデーに訪れた。
その日は平日だったため、平常通り出勤していたのだが。
いつもより早く帰宅した。
そうしないと、ストーカーに出くわす可能性が増す気がしてならなかったからだ。
詳細は後ほど紹介するが、この頃、会社でのストーカー遭遇率は異常だった。

しかし、帰りの電車の中で携帯が鳴る。
最も危険なエリアからの脱出に成功した安堵感だろうか、私は電話に出てしまった。
「今夜は予定あるんですか?」
どこか記憶にある展開。
迷わず、「うん。」と答える。
「恋人さんと過ごすんですか?」
質問は続く。
ネットゲームオタクを前に、どうすればそんな発想になるのか解らなかったが。
せっかくなので「まぁそんな感じ。」と返して電話を終える。
やはり簡単には逃がしてくれないようだ。

部屋に向かいながら、私は次の手を考えていた。
ストーカーは、また来るに違いない。
こうなったら、本当に外出するか。
少し前に、出向先で同期だった人と、G県のキャバクラに行ったことを思い出した。
そこで会った娘に久々にピンと来た私は、その後も1人で逢いに行っていた。
正直、そこでの手応えは余り期待の出来るものでは無かったが、ストーカーの恐怖に怯えながら過ごすよりはマシである。
しかし結局、私は外出を取り止めた。
「今はキャバ嬢よりネットゲーム。」
そんな心の声に負けてしまったのだ。
問題は、駐車場に置いてある愛車。
故郷での法事なら「車を使わず電車で行った。」というストーリーも成り立ったが、今回は無理があるような気がする。
そのため、どこかに隠そうとも思ったが、面倒なので中止した。
「車で迎えに来た恋人と出かけて行く、モテモテな私を想像してくれたまえ。」
誰にともなく、こんなことを呟いていた。

既に夜だったが、9階にある部屋の明かりを消してゲームをする私。
今こうしてゲームが出来るなら、引き換えに多少の視力などくれてやる。
この情熱を他のことに注げていれば、もう少し違う未来があったかもしれない。
そんな鬼気迫るまでの情熱が、この時の私には確かにあった。

一般的な夕食の時間くらいに始めたのだが、気付けば日付が変わっていた。
我ながら、よく集中したものである。
それにしても、さすがに目が疲れて来ていた。
こんな暗闇で、光る画面を見続けていたのだから無理もない。
さすがのストーカーも、もう今夜は来ないだろう。
そう確信すると、部屋に明かりを灯した。
1分ほど待っても、電話は鳴らなかった。

安堵のもと、ゲームを再開する私。
そこに、玄関のチャイムがけたたましく鳴り響く。
誇張でも何でもなく、心臓が止まるかと思った。
抜けていく全身の力。
ストーカーの執念と共に、才能にも驚いた。
「頭いいな・・・・単調ぢゃない、恐怖の演出ってものが解ってる・・。」
言うことを聞かない四肢に気持ちの鞭を入れ、立ち上がると玄関に向かう私。
出たくはなかったが、出ないわけには行かなかった。
ふんだんに狂気を含んだ、こんな鋭い音のチャイム。
痺れを切らして連打されたら、私の精神が崩壊してしまうだろうから。



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Posted at 2009/03/14 16:39:57 | コメント(12) | トラックバック(0) | 恐怖体験 | その他

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「@soyoka555 新宿のソチラは閉店、もはや銀座が最後の砦みたいなのですがそれは」
何シテル?   11/19 20:09
こ、こんな動画ちっとも興味ないけど、関連動画だから仕方なく貼ってあげてるだけなんだかんね! とゆう体で好きな動画を紹介するだけの空虚なページがこちらです。

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