
インチアップとインチダウンについて ~その2 メリット・デメリット~で、
その車にとっての最適なホイールとタイヤサイズは「メーカーが設定したタイヤのサイズ」が最適解と書きました。
けれどもカタログを見ていると「おや?」と思うことがあります。
2020年代の車は、1990年代の車とは違いエンジンは単一化されており、これにハイブリットか否かが主流です。
トヨタ カローラ・フィールダーを例にとってみます。
【カローラフィールダーのホイール・タイヤサイズのデータ】
X・G ガソリン5MT:175/65R15 15インチ5J+39 最小回転半径4.9m
X・G ハイブリット :185/60R15 15インチ5.5J+45 最小回転半径4.9m
このタイヤサイズが違う理由は、ガソリンエンジンとモーターのトルクの出方の違いです。
ガソリンエンジンはエンジン回転が上昇していくことによってトルクが上がっていきます。一方、モーターは回転した時から常に最大トルクです。
ですので、ハイブリットの方が0加速からのトルクがあるため太いタイヤを履いています。
ところが。
G W×B:185/55R16 16インチ5.5J+45
最小回転半径5.5m
と、15インチから16インチ化で最小回転半径が一気に0.6m増加しています。「G W×B」はガソリンもハイブリットも同一サイズです。
ホンダも同様です。
ホンダのフィット・シャトルを見てみます。
・ハイブリットX:185/60R15 最小回転半径4.9m
・ハイブリットZ:185/55R16 最小回転半径5.2m
こちらも最小回転半径が広がっています。
カローラ・フィールダーG W×Bもフィット・シャトル ハイブリットZもメーカー出庫状態で16インチが装着されています。
純正でもインチアップされているからという理由だけでインチアップ装着車を購入すると「最小回転半径が増えるケースがある」ということです。
純正インチアップされた車はメーカー出庫状態で、すでに185/55R16 16インチ5.5J+45が装着されており、メーカー側で意図的に最小回転半径が調整されています。
この16インチ装着車を後で15インチにインチダウンしたとしても最小回転半径は16インチの時と変わりません。
タイヤ外径で見てみます。
フィールダーで比較してみます。
①X・G ガソリン5MT:175/65R15 15インチ5J+39 最小回転半径4.9m
②X・G ハイブリット :185/60R15 15インチ5.5J+45 最小回転半径4.9m
③G W×B :185/55R16 16インチ5.5J+45 最小回転半径5.5m
を較べてみます。
①175/65R15 15インチ5J+39 → タイヤ外径 609.0mm
②185/60R15 15インチ5.5J+45 → タイヤ外径 603.0mm
③185/55R16 16インチ5.5J+45 → タイヤ外径 610.4mm
①と③のタイヤ外径を比較すれば、わずか1mm程度の差です。
インセットで見ても、③は①と比較してホイールは外側に+0.35mm、内側に-12.35mmとなります。そして②③では、外側は同一で内側にタイヤが出ていることになります。
この程度の差で、タイヤとホイールだけで最小回転半径が0.6mも変わるはずはありません。
なぜ、この差がでるのか?なぜ、メーカーで意図的に純正インチアップでは最小回転半径を調整するのか?
メーカーは、どんな人間がどのように扱ったとしても問題ないようにタイヤサイズを設定します。
これは、純正装着サイズのタイヤでチェーンを巻いた時のことも含まれています。
車メーカーは、装着した純正ホイールサイズのタイヤをスタッドレスタイヤに換装し、チェーンを装着をするということを考えます。そのため「同一車種での純正ホイールのインチアップはチェーン装着まで考えているため、チェーン装着により大きくなったタイヤ外径を考慮し、タイヤハウスに接触するのを防ぐためハンドル切れ角を狭くしている。その結果、最小回転半径が広がる。造った車はどの地域で乗るのか分からないため、工場出荷時から切れ角が調整されている。」と言えます。
金属チェーンは各種サイズがあります。15インチは15インチ用、16インチは16インチ用で互換性はありません。そして、当然16インチチェーンのほうが大きく作られています。
16インチの方が装着しているタイヤ幅が15インチよりも太いものが多いためです。
チェーンの厚みが9~12mm程度と考えれば、16インチチェーンの方が当然直径と幅が大きくなるわけです。
そうなると、ステアリングを一杯に切った状態でフルバンプ(サスが一番縮んだ状態)でタイヤハウスに当たらない状態に切れ角を設定する必要があります。これが最小回転半径が違う理由と言えます。
ディーラーオプションでのインチアップでは、この最小回転半径は変わりません。あくまでも、メーカー出庫状態でのインチアップ装着車では最小回転半径は増加することが有り得るという話です。
【分かっていてもメーカーはインチダウンをしない】
ダイハツ コペン Sについて。
現行コペンにはローブ・X-play・セロがあり、それぞれビルシュタインサスペンションを装着した「グレードS」があります。内装も豪華になっています。
で、コペンの標準タイヤは165/50R16です。ノーマルもSも同一です。
コペンの165/50R16は実際ノーマルでもかなり固い部類になります。それが強化されたサスペンションであるビルシュタイン製なら尚のこと。
ですので、ディーラーオプションとしてCPOEN×D-SPROTからビルシュタインダンパー用にコンフォートダウンスプリングが発売されています。
ダイハツも分かっていたわけです。165/50R16じゃ乗り心地が悪いことに。ノーマルならまだ許容範囲ギリギリ(ディーラーメカニック曰くノーマルでも固いという女性ドライバーは多いとのこと)。それがビルシュタインとなると購入者から不満が出るケースがあるわけです。で、そのために最初からSにはコンフォートスプリングが用意されています。
乗り心地をよくするのなら15インチにインチダウンしてタイヤを厚くすれば解決します。しかし、それはしません。
それは、設計当初より16インチで設計しているためだと考えられます。改めて15インチを標準化すれば、コスト増やクレームなど別の問題が発生するためです。売れている車でもないのでメーカーとして何とかするわけでなく、ディーラーオプションとして対応していると思います。
乗り心地改善のために16インチから15インチにインチダウンするか?スプリングを変えるか?となれば、コペンに乗る人にとってはスプリング交換を選択する方が多いです。今の流行りは大径ホイールに薄いタイヤですし。
日本メーカーは一度タイヤサイズを設定したらマイナーチェンジ時以外では変更することは余程のことがない限りしません。