2022年07月17日
私がそのブランドを知ったのは小学校高学年のころだった。
1970年代半ば。
当時の新聞広告に、毎週1回くらい宝石店の広告が入っていて、その広告の時計コーナーで一番高い時計は、いつも「オーデマピゲ」という時計だった。
時は流れ、2010年。
たまたまebayで見かけた古いロンジンの時計のデザインに惹かれ、落札したのを契機に機械式腕時計に興味を持った。
その後何本かの腕時計を買ったが、子供の頃に広告で見た「オーデマピゲ」の記憶が蘇り、高嶺の花と思いつつ神戸・元町の時計店に実際に見に行った。
実物は、写真で見るのと比べ物にならないほど、美しかった。
2011年、当時のオーデマピゲのラインナップで一番安い時計は、ロイヤルオーク41mmの3針モデル、ステンレスブレスの物で、値段は120万円だった。
どうしても欲しくて収集していたものを色々売り払ってお金を作った。
仕事で川崎に出張した帰り、家とは逆方向の銀座へ行き、オーデマピゲ銀座ブティックで、ロイヤルオークの白を買った。
帰りの新幹線で、遂に買った!という思いと、本当に買って良かったのか?という思いが交差していた。
家に帰って時計をしばらく眺めた後、オーデマピゲのユーザ登録を行った。
単なるユーザ登録を行うだけだったのに、身分不相応な物を買ったのだなと思い知らされた。
名前、住所、電話番号、と入力を進めていき、職業欄でしばらく止まった。
職業の選択肢に、「会社員」が無かった。
最初の選択肢は「会社役員」、次の選択肢は「会社経営」、その次の選択肢は「国家公務員」、その後は医師や弁護士などが続いたが、「会社員」は無かった。
仕方なく「その他」を選択し、「(会社員)」と入力した。
続いて年収欄でまた驚いた。
年収欄の選択肢が、「1000万円未満」、「1000万円~5000万円未満」、「5000万円以上」の3つしかなかった。
当時ギリギリ1000万円に達していなかったが、見栄を張って「1000万円~5000万円未満」を選択した。
ロイヤルオークは、とても美しく、とても傷つきやすい時計だった。
ベゼルをネジ止めしているマイナスネジの溝の向きまで計算され尽くしている。
バックスケルトンから見えるムーブメントは美しく、22金ピンクゴールドの金無垢ローターには見事な彫刻が施してあった。
ベゼルやブレスレットに刻まれた極細の溝が光を反射してキラキラ輝く。
薄暗目の照明の雰囲気の良いレストランなどでは、腕に光の輪をはめているように見えた。
しかし、この光を生み出す極細の溝は非常に傷つきやすく、少し擦っただけ簡単に傷がついた。
傷つくことを恐れては日常使用出来ない時計だった。
小心者の私は、傷つくことを恐れ、いつも細心の注意を払ったが、それでも多少の傷はついた。
確か交換用のステンレス製のブレスレット単品でも50万円ほどしたので、おいそれと交換もできなかった。
そういう日々は長くは続かず、購入から僅か半年で、私はロイヤルオークを売りに出した。
ずっと気を遣うことに疲れたのと、傷がつき過ぎて価値が下がることを恐れたからだ。
ヤフオクの落札価格は60万円だった。
120万円で買った時計を半年で売って60万円。
値下がりしたことよりも、売ってしまった後悔が上回ったが、私にはそれ以上維持できなかった。
やはり身分不相応な時計だったのだ。
とはいえ、美しい煌めきが忘れられず、またいつか余裕が出来たらロイヤルオークを買おうという思いが残っている。
私が昔買ったのと同等のモデルは、2022年現在、290万円以上となっている。
中古でも200万円以上。
高くなり過ぎて、今はまだ手が出ない。
ロイヤルオークが気軽に買える人には笑われると思うが、子供の頃から始まるオーデマピゲとロイヤルオークへの私の思いを書いてみた。
Posted at 2022/07/17 12:44:55 | |
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