
試乗編では、おもに機能的な視点でクラウンについて書いてみましたが、本編では、別の視点からクラウンを論じてみたいと思います。
少しエラそうな事を書いてしまいました。もしお気に障った場合は、ひとりの車好きの放言だと読み飛ばしていただければ幸いです。
最初にお断りしておきますが、ミドルクラスの車からクラウンに乗り換えた場合、ここで書いたような何か足りないものを感じることはほとんどないと思います。
私自身は数年前まで高級車にはあまり興味がなく、長年ミドルクラスの車に乗ってきました。220クラウンに乗り換えた当初は満足していました。
しかし、クラウン購入後に高級車に興味を持つようになり、色々な高級車に試乗するたびにクラウンに足りていないものを感じるようになってきました。他の高級車を見なければ、今でもクラウンに満足していたと思います。
ただ、他の高級車を知ることで、クラウンの高級車としての相対的なポジションを理解できるようになったと思います。
現在、私は220クラウンの次に乗る車を探しています。
クラウンクロスオーバーのRSアドバンストなら私の(機能面での)選定条件をほぼ満足しますが、あまり購買意欲が湧きません。
先進の駆動システムを搭載した、走りの良い、カッコいい車だとは思うのですが、大きく欠けているものがあります。私が欠けていると思うものは、内装の質感に代表される、ラグジュアリー性(高級感や贅沢さ)の欠如です。
個人的には、先代も含めて最近のクラウンはラグジュアリー性に関して、かなり貧相になってきたと感じています。
クラウンを他の高級車と比較してきた中で気がついたことがあります。クラウン=高級車という漠然としたブランドイメージに長らく幻想を抱いていましたが、最近のクラウンはもはや昔のクラウンのようなラグジュアリーな高級車ではないという現実です。
クラウンはボディサイズ的にはEセグメントに分類されますが、価格や装備を考慮するならDセグメントとして捉えるのがおおむね妥当だろうと思います。Eセグメント(≒エグゼクティブクラス)のサイズを持ちますが、高級感ではEセグメントのレベルには届かず、中・上級モデルでアッパーミドルクラスに相当するぐらいでしょうか。
新型クラウン(クロスオーバー)のボンネットを開けると、エンジンカバーはなくなり、ボンネットを支えるエアダンパーは、ただのつっかえ棒になりました。
21インチタイヤは一見押し出しが良いのですが、よく見れば、タイヤが細くて、薄っぺらな感じがします。
エンジンもターボが付くとは言え、V型6気筒3.5Lから直列4気筒2.4Lへのダウンサイジングで、排気音がかなり寂しくなりました。
新型クラウンでは各部のコストダウンが徹底しています。
ここでふと覚えたのが、高級車とは何か?という疑問です。
高級車メーカーによって、重視するものが変わってきますが、アウディの上質な内装や操作感の良さ、BMWの走りについての感性的な熟成度の高さ、ベンツのステータス性やラグジュアリー性など、各社それぞれの特徴があります。
ほぼ共通しているのは、五感で感性的に感じられる質感や性質を多大のコストをかけて実現していることです。
トヨタブランドとレクサスブランドを比較してみるとわかりやすので、例にあげてみます。
トヨタ車とレクサス車では、目指している高級車像が少し異なるように思われます。
レクサスでは、ブランド名の元にもなっているラグジュアリー性が重視されています。レクサス車の内装の質感の高さは、トヨタ車とはコストをかける優先順位が大きく違っているからでしょう。
トヨタ車で重視されているのは、動力性能や走行性能、乗り心地、安全性といった機能性の部分で、質感に関わるラグジュアリー性はおざなりにされているように感じます。
ボディサイズが近い車を比較すれば、両者の方向性の違いがよくわかると思います。
ラグジュアリー性を二の次として、機能性を最優先で開発されたトヨタ車、対して、少なくともベースモデル以上の機能性を維持しつつも、ラグジュアリー性に多くのコストをかけたレクサス車。両者の方向性の違いは明確です。
おもに大衆車を販売しているトヨタブランドとおもに高級車を販売しているレクサスブランドで、方向性に違いがあるのは当然なのですが、問題(というより疑問)はトヨタブランドの方向性がクラウンという高級車に対しても徹底されていることです。
クラウンをレクサス車やドイツ車と比較すると、価格の安さが際立っています。コストダウンを徹底したコストパフォーマンスの良さはバーゲンプライスと言ってもよいほどです。
無駄を排したコストダウンであれば、何も問題がなさそうですが、車って本来嗜好品(贅沢品)なんです。
軽自動車や商用車ならまだ経済性や合理性を説明できますが、クラウンぐらい高価な車になれば、もはや贅沢品以外の何物でもないわけです。
しかし、贅沢品であるはずなのに、機能を最優先して、無駄を省いていった工業製品が、今のクラウンです。
贅沢品(高級車)とは、贅沢さという無駄(あまり役に立たないもの、よけいなもの)を伴って作られるべきなのに、機能性以外の贅沢さの多くをそぎ落とすという、そもそもの出自に反する作られ方をされているのがクラウンであるとも言えます。
静かにスムーズに発進できたり、しなやかな乗り味を持っていても、高級車の条件を満たしているとは言えないところがあります。
ミドルクラス車以上の機能性は高級車の必要条件ですが、機能性を実現しただけでは高級車にはなりません。
贅肉としてコストカットやコストダウンされてきたものの多くに、高級車を成り立たせるために必要な重要なパーツや素材が含まれていたと思います。
高級車っていうのは機能性だけで語られるものではなく、合理的な視点からは無駄でしかない感性的な贅沢さ(ラグジュアリー性)が必要だと思います。
素材の質感(艶、深み、肌理の細かさ、なめらかさ、鮮やかさ、きらびやかさ)、肌ざわり、ぬくもり、自然な色合い、華麗さ、豪華さ、希少さ、人の感性に沿った操作系の自然な反応などは、目指す方向が異なるためコスト優先の工業デザインではなかなか到達できないものだと思います。
私もそうですが、みんカラのクラウンユーザーで内装の質感を改善させるためのカスタマイズをしている人はかなり多いです。皆さんクラウンの内装に物足りなさを感じていたからでしょう。
なぜこういう方向にクラウンが変化(ラグジュアリー性の軽視)してきたのか、高級車の販売がレクサスブランドに移動したこと以外にも、日本人の相対的な所得の低下や富裕層と貧困層の二極化など、社会の変化も大きく影響しているのでしょうが、クラウン=高級車という従来イメージとの乖離を感じます。
今回のモデルチェンジでクラウンが人気を盛り返すなら商業的には成功なんでしょうが、成功すれば成功するほど、クラウンのコモディティ化が進んでいくようにも思います。
新型クラウンについて考えていく中で、私自身が抱いていた漠然とした高級車のイメージがかなり明確になりました。
高級車を高級車たらしめている本質(あくまでも私が考えている本質ですが)は、五感に関わる感性的な贅沢さ(ラグジュアリー性)にあることが腑に落ちました。
トヨタブランドの高級車と私が求める高級車は方向性が異なるため、今のトヨタ車の中には乗りたい車は見当たりません。
長年お世話になったトヨタブランドですが、いったん離れて、レクサスや輸入車の中から次の車を検討しようと思います。