もう明らかに予想された事ですが、開発を凍結していた
国産旅客機のMSJ、とうとう開発中止になりましたね。前回の
開発凍結のニュースからはもう2年半も経っていますから、今更どうやっても遅れを取り戻すのは不可能でしょうが残念ですね。興味の無い方なら「三菱住友?」とか「ユニバーサルジャパンの間違い?」とか言われそうです(爆)。
開発凍結が決まった時点で受注もキャンセルされたので、たとえ開発が再開出来たとしても受注を取り戻すのは難しかったでしょうし、当初は「コロナ禍が収束すれば需要も回復して開発再開すれば顧客も確保出来る」との読みがあったかもしれません。実際にはコロナ禍はなかなか収束しない上にウクライナ紛争や半導体不足、円安などで経済状況がどんどん悪化していったのは想定外とは言え開発計画にとどめを刺した感じですね。
実際問題として型式証明が5回も遅延したのが計画の大きな欠陥のような気がしますが、それに関しては三菱MRJでは、国土交通省航空局(JCAB)の型式証明と同時に、連邦航空局(FAA)の証明を取得する方針を採ったものの、JCABとの連携で満足な基準を作れず、完成した試作機2016年にを米国に持ち込んだものの型式証明を認められなかった時点で「日本という国家が、航空機の安全を国際的に担保する能力に欠けている」と言う烙印を押されたという残念な証明になってしまったようです。
それに比べると規模は明らかに小さいものの最初は道楽で始まったようなHONDAJetが成功し、パーソナルジェットのカテゴリー内でここ数年トップセールスを続けているほどの大成功を収めたのは、開発拠点、製造拠点を米国に置いて米国で設計開発された正真正銘米国製の飛行機だからなのでしょうね。HONDAは自動車生産で色々苦労して米国での現地生産にいち早く踏み切った経緯もあって航空機は始めから米国でのビジネスにしたのかもしれません。
三菱重工には日本のメーカーとしてのプライドもあったかもしれませんが、航空機を新規に開発するにあたっての色々な条件をもっと真剣に検討するべきだったのかもしれませんし、経産省とNEDOが実施したMRJに向けての技術研究は、国による認証制度に対しては非常に不十分だった事が今回の事態を招いたのではないでしょうか。
そういう意味で当初の目論見が外れた事例としては、静岡県民ならお馴染みで最近全国ニュースでもちらほら取り上げられ始めたリニア新幹線の工事です。
これが完成すれば品川ー名古屋間が30分ちょっとで料金も現行新幹線と大差無いと言えばメリットだらけ(特に山梨県民…というか甲府周辺の方)のような気がします。都内からならもう名古屋へは飛行機を使う必要は全く無くなるくらいの利便性ではあります。
それが何故頓挫しているかと言えば、甲府から岐阜県の駅に向かう区間で静岡県が北部に出っぱった南アルプスを貫通する工事に対して懸念があるからです。
大まかに言うと①トンネル工事による水系枯渇②生態系の破壊③工事による残土の処理問題ですが、①と②は工事計画が始まった時点からずっと問題視されている事です。何故今になっても問題解決の糸口すら見えないのか…静岡県知事のわがままのように捉える意見もありますが、そう簡単な問題では無いと思っています。
静岡県民でもあまり御存知無い方も多いですが、戦前の1918年に始まった東海道本線の丹那トンネルの工事はかなりの難工事で、トンネル工事中の破砕帯からの流水を排出するために水抜き坑を14Kmも増設し、結果として芦ノ湖の3杯分の水を丹那流域から抜いたそうです。
その結果何が起こったか…それまで肥沃でわさび田などがあった丹那の農村地域では農業用水はおろか飲料水の確保にも困るまで水が枯渇して当然農業は出来なくなり、酪農への転換を余儀なくされた訳です。
更にこの工事は当時の国策として推進されたため該当地域の住民には十分な説明も無しに強行され補償もおざなりで、泣き寝入り状態でした。現在は観光施設などあり酪農が有名な函南町ですが、こうした悲しい黒歴史もあるのです。当時の鉄道省の関係者の人等は当然全員故人でしょうから、責任の所在も闇の中でしょうね。
皮肉な事に、この丹那地域の失われた伏流水は何処に行ったかと言うと、流れを変えて熱海方面に向かったため、それまでは飲料水の確保にすら困っていた熱海の住民には福音となり、その後の温泉の発展にもつながったようです。
今回の工事による大井川水系に直接関係する破砕帯だけでも、(平均的に)幅800m、深さ500m、そして長さは30㎞という膨大なもので過去に類を見ない規模でその影響はかなり予測が困難です。
この大井川水系の利用自治体は10市町で約57万人ですから、戦前の丹那地区の数千人?に比べると多大な影響を及ぼす可能性があります。ですから、静岡県知事だけではなく、静岡県民の懸念も真っ当なものなのです。
実際にどれだけの水量枯渇が起きるかは予断を許さないものの、現実的な対処としては大井川最上流部から富士川に水を流している東京電力田代ダムの取水を抑制するというのが対処療法としては最善かもしれませんが、こんな事は工事計画時から分かっていた事なので、JR東海の対応の不備に感じてしまいます。
そもそも2027年の開通目標ありきでとにかく工事を推進する、という態度がありありなのが、今回のMSJ開発計画頓挫に通じるものがありますね。リニア開通に対して反対する積もりはありませんが、一方的な工事計画の押し付けは反感を買うだけです。
ちなみにリニア新幹線が開通しても静岡県民には全くと言うほどメリットはありません。リニア推進派が良く言う、「リニアが開通すれば東海道新幹線ののぞみの本数が減ってひかりやこだまの本数が増えて静岡県にもメリットはある」とか言ってますが、
熱海から名古屋方面にこだまに乗車した方は痛感するところですが、静岡県内に6つもある新幹線の駅で三島駅、新富士駅、静岡駅、掛川駅、浜松駅で、こだま号はのぞみやひかりの通過を待つために各駅で最低5分、酷い時には10分以上停車して2本の列車の通過を待たされています。
このため、熱海に停車するひかり号なら1時間ちょっとで到着するところが2時間以上かかります。新幹線どころか在来線の快速並みです。そんな列車でも1時間に1本か2本なのでローカル線並みですし、それでいて料金はしっかり新幹線の特急料金を取られます。しかも東海道本線の在来急行は廃止されているので、他には鈍行しか選択肢がありません。
リニアが開通したら便利になるのではなく、現在の状態が異常で不便な事をJR東海は認識すべきです。
高速道路が高速料金を取っておいて50Km/h制限だったらみんな激怒するでしょう。今の静岡県内の新幹線は同様の状況です。異常な状況を正常な状態に戻すのがそもそも当然で、「静岡県民の利便性を向上する」と言った安易なお題目ではありません(怒)。それなら、真下を新幹線が走っている富士山静岡空港に新駅を設置して空港直結の日本一便利な駅にすべきです。
ちなみに、たとえリニア新幹線が名古屋まで開通したとしても本来の目的地の大阪までの開通は2035年と全然先ですし、当初は奈良を経由予定だったのが今頃になって京都が「やっぱりリニアは京都を通して欲しいなぁ」なんてごね始めているので(爆)、こちらも当初の開通予定は伸びそうですね。
新東名高速も本来だったら東京オリンピックまでに海老名ー豊田の区間が全通するはずだったのに用地買収やら地盤脆弱やらで工期は伸びに伸びて未だに海老名ー御殿場区間は工事中です。リニア新幹線だって2027年に開通させる必然性は別に無いので(爆)、静岡県民の同意をしっかり得る積もりが無いまま急ぐのなら、いっその事大回りで山梨県内だけ通るもっと北回りのコースでとっとと開通させてはいかがでしょうか(苦笑)。
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Posted at
2023/02/09 05:09:18