
2016年8月2日
「レクサス」はなぜ「メルセデス・ベンツ」に勝てないのか
Text : 渡辺陽一郎
[写真・画像]
(上左)レクサス GS
(上右)レクサス SC
(下右)トヨタ 新型クラウン
レクサスの日本展開から10年余、「成功」と判断するのは難しい
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2005年、日本でのブランド展開開始から10年以上を経過した「レクサス」について改めて考えたい。
国内での開業当時は
「GS」と「SC」のみだったレクサスの取り扱い車種も、今では9車種に達する。2015年における登録台数は「4万8231台」であった。トヨタブランド(小型/普通乗用車)の125万3109台と比べれば4%程度だが、プレミアムブランドの枠組みで、メルセデス・ベンツやBMWと比べたらどうだろう。
メルセデス・ベンツは2015年に「6万5159台」、BMWは「4万6229台」を登録したから、レクサスは両輸入ブランドの中間に位置する形となる。2016年上半期(1~6月)も同様に、メルセデス・ベンツが「3万2236台」、レクサスが「2万8421台」、BMWが「2万4639台」となる。
上記を見る限り健闘しているとはいうものの、販売台数でメルセデス・ベンツを抜けないのでは「成功した」とはいえないのではないだろうか。
レクサスを考える時に重要なのは、なぜ「レクサス」ブランドが存在するのか、だ。どうして「トヨタ」ではダメなのか。
その理由は、北米を中心とした海外の販売事情にある。
日米で異なる事情(1)/北米では「低価格ブランド」、日本では「高級ブランド」であったトヨタ
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トヨタは初代クラウンの時代から対米輸出を開始しているが、北米では(他メーカーを含めて)ほとんど成功しなかった。日本車が注目されたのは1970年代前半のオイルショックからで、理由としては日本車の「低燃費」「低価格」「故障の少なさ」が歓迎された。
つまり、北米における日本車は“実用重視の低価格ブランド”であり、高級車のイメージには合わない。そこで別途、高級ブランドとして「レクサス」が設けられた。
ちなみに初代ダットサン240Z(日産 初代フェアレディZ)はオイルショック以前にヒットしたが、これも人気の裏には「直列6気筒エンジンを搭載したスポーツカーを“安く買える”こと」という背景があった。
一方、日本におけるトヨタ車のスタートは北米とは違って一般的には1955年に発売された初代「クラウン」だ。
この後、コロナ(現在のプレミオ)、カローラ、マークII(現在のマークX)と車種を普及させたので、もともとが高級なイメージも兼ね備えていた。トヨタが、北米におけるレクサスの位置付けまでカバーしていたことになる。
日米で異なる事情(2)/古くから「階級ブランド」が存在した北米、「ボディが大きなクルマが高級」な日本
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北米メーカーは吸収合併を繰り返した経緯もあり、例えばGM(ゼネラルモーターズ)であれば、キャデラック/ビュイック/オールズモビル/ポンティアック/シボレーといったブランドが存在し、「大きなシボレーよりも小さなキャデラックが高級」と認知されている。
この階級の考え方は様々なところに浸透しており、エアラインも古くからファースト/ビジネス/エコノミーに分かれている。客室だけでなく待ち時間を過ごすラウンジや搭乗の順番まで区分され、つまり社会のあり方がクルマに影響を与えた。
日本のトヨタは「ボディやエンジンの排気量が大きなクルマが高級」というヒエラルキーを築いた。上からクラウン/マークII/コロナ/カローラ/パブリカという具合だ。
ほかのメーカーも同様で、もともと日本のトヨタにブランドで階級を区分する概念は存在しなかった。
また個人的な意見だが、日本では階級の考え方は好まれず「同じ釜の飯を食う」という発想が根強い。例えば大企業の発展期を振り返ると、その多くが社長室などを持たない「大部屋」で仕事をしている。
今でも社長などの富裕層に、特別扱いされることを嫌う人は多い。
日米で異なる事情(3)/サービスに問題を抱えていた北米ディーラー、元々質の高かった日本のディーラー
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トヨタによると「北米における自動車ディーラーは、歯医者と並んで最も行きたくない場所」という調査結果があったという。
そこで北米のレクサスでは、ていねいな接客を心掛ける、修理などのサービスは顧客から注文された通りに行う、納期は確実に守るなど、顧客が快く来店できるサービスと店舗作りを行った。
上記の北米市場におけるレクサスのサービスは、日本のトヨタ系ディーラーの方式をそのまま水平展開しただけだ。
どれも当たり前の話だろう。日本のディーラーにも差はあり、セールスマンやサービスマンの個性もさまざまだが「歯医者(これも最近は快適になったが)と並んで行きたくない」とは思わない。
日米で異なる事情(4)/顧客がディーラーに足を運ぶ北米、セールスマンが訪問してくれる日本
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北米の場合、顧客がディーラーに出かけるのは当然だ。またホテルでも、食事はレストランに出かけて食べる。「もてなし」は来店した顧客に対して行われる。
最近の事情と少し異なるが、高齢になったクラウンの顧客でディーラーに出かけたことのない人は多い。車両の契約から、点検の引き取りや納車まで、セールスマンが自宅に来てくれる。
同様のことは日本のさまざまなサービスに当てはまる。例えば日本の旅館は、安い宿でも食事を運んでくれて、蒲団も敷いてくれる。昭和の時代には、酒屋の店員さんが「奥さん、何か不足してませんか?」と訪ねてきて、醤油の1本でも配達する「御用聞き」が一般的だった。
つまり日本における一番の「もてなし」は、「お客様に足を運ばせず、売る側が出向くこと」だ。高級な店舗に来店させることではない。
中古で購入したレクサスオーナーはラウンジが使えない
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以上のように、レクサスは北米の事情に基づいて設けられているため、日本では少なからず違和感を伴った。
これを助長したのが「接客」だ。開業当初のレクサスに勤務するセールスマンは、大半がトヨタ店やトヨペット店で経験を重ねたベテランであったが、ホテルマンを招いたりして接客態度を改めさせてしまう。それによって、顧客にも違和感が生じた。
例えば、知り合いのセールスマンがレクサスに異動になったので、顧客が次はGSでも買おうかとレクサス店に出向いたとする。知り合いのセールスマンに「最近、スキーには出かけているの?」などと軽く話掛けると「スキーでございますか、最近はですね・・・」などと返答される。これでは戸惑ったり、気分を害するのは当然だ。
後年になって、あるトヨタのレクサス担当者から「開業当初の接客では、お客様から慇懃(いんぎん)無礼という批判が多かった」という話を聞いたが、それも当然だろう。
さらに、2006年にレクサスLSが発売された頃は「レクサス車はタクシーに使わせない」という話も聞いた(今ではレクサスのタクシーも走っている)。
これもナンセンスであった。タクシーに乗ったことで静かさや乗り心地に感心して、レクサス車の販売に結び付いたり、ブランドイメージが高まることもあるからだ。
そして今でも、一般の中古車販売店でレクサス車を買った顧客には、点検などを引き受けてもレクサスオーナーズラウンジは使わせないという。どうでも良さそうな話だが、顧客は気分を害する。中古車で買った顧客も手厚くもてなせば、「次はレクサスを新車で買おうか」と考えることもあるだろう。
前述でも触れた「差別」が、さまざまなところに散見され、顧客に不快感を与えて販売促進でもマイナスに作用している。
トヨタに「全幅の信頼」を寄せている顧客も未だ多い
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トヨタが本質的に勘違いしているのは、前述したとおり日本においては「トヨタこそが最高のブランド」であることだ。
今でもクラウンの新型が発売されると、現物を見ないで注文する顧客が多いという。これは、決していい加減な買い方をしているのではない。トヨタとクラウン、トヨタ店とそのセールスマンに全幅の信頼を寄せているからだ。これ以上のブランドはない。
日本のレクサスの扱い方には、いま一つ根本的に無理が生じている。
30~40代の輸入車ユーザーがターゲットだが・・・
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なぜトヨタが日本でレクサスを開業したかといえば「30代から40代の顧客にクラウンなどトヨタ車の人気がいまひとつで、メルセデス・ベンツやBMWが支持されている」からだ。
それならばセルシオ(以前のレクサスLSの日本版)、アリスト(同じくGS)の販売に力を入れれば良さそうだが、トヨタはメルセデス・ベンツやBMWという「ブランド」に対抗すべくレクサスを国内に導入した。
ただし、メルセデス・ベンツを買うということはスゴロクでいえば“アガリ”であって、レクサスには代替えしない。
レクサスのビジネスチャンスは「日本車から欧州車に代替え“しそう”な顧客」を、上手くレクサスに向かわせることだ。その中にはトヨタの顧客も多く、前述の慇懃無礼は逆効果になってしまう。トヨタと同様のサービスを、レクサスにも適用する必要がある。
そこで、接客態度と併せて重要なのが「店舗数」だ。トヨタの4系列は日本国内で約4900店舗を展開するが、レクサスは約170店舗だから3%にとどまる。しかも輸入車に対抗することを重視して出店は「都市部」が中心となっているため、東京都には新車販売店舗が20箇所以上あるのに、わずか1店舗しかない県も存在する。レクサスは日本車だが、日本で購入の困難な地域があるのだ。
最近は出店母体の販売会社が工夫して、整備だけは地元のトヨタ店などで受けられたりするが、これも一種の差別だろう。
レクサスの店舗が少ない地域では、トヨタ店やトヨペット店の大型店舗に「レクサスコーナー」を設けて対応すれば良いと思うが、トヨタはこれも認めていない。
日本では「トヨタあってのレクサス」を考えるべきでは
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今の状態では、レクサスが日本の多くの人達に歓迎されるようなブランドになり得ないと思う。
読者諸兄の中にも「レクサス?関係ないね」と感じている方は少なくないだろう。接客態度とか販売網は間口を広げ、中古車ユーザーを含めて多くの人達に優しくなるべきだ。これには販売会社というより、トヨタの理解が求められている。
また、メルセデス・ベンツなどとは違うサービスも考えたい。例えば、複数の車両を持つファミリーユーザーに向けたレクサスならではの対応だ。
レクサスと複数のトヨタ車を所有する顧客には、レクサスの担当者がコンシェルジュになり、残価設定ローンなどを活用してすべての車両の面倒を見る。クルマのことは担当者に任せておくと、一定のコストでオトクに使えるようなシステムを構築すれば、複数の車両を持つ富裕層に喜ばれるだろう。
このほか、トヨタはトヨタホームとして住宅事業も行っている。同社で新築するとレクサスに特別低金利が設定されたり、トヨタファイナンスの住宅ローンに車両のローンを割安に組み込めるサービスがあれば、メルセデス・ベンツなどとは異なる利便性が生まれる。
日本のユーザーにとってのレクサスは、プレミアムブランドとしては新入りで、メルセデス・ベンツを追いかける存在。となれば多くのユーザーがメルセデス・ベンツを選ぶのは当然として、トヨタは国内市場に適した「トヨタあっての日本のレクサス」をもっと真剣に考えるべきだろう。
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≪くだめぎ?≫
『アリスト』『チェイサー』時代の"シャコタン"がほとんど見られないのも、「若者のクルマ離れ」「貧困化」があるとは言え、「レクサス」車のブランドイメージが定着した証拠かな。その点ではトヨタ自動車のブランド戦略は成功したとも・・。
"「レクサス」はなぜ「メルセデス・ベンツ」に勝てないのか"は問題にしてないフシがある。
ただ、『クラウン』の販売量に比べれば、「レクサス」車は印象が薄い・・。トヨタ店・トヨペット店でレクサス店運営している所が多いが、カローラ店・
ネッツ店で運営して無い所も多いのも、一因かと。いずれにしても、「わずか1店舗しかない県も存在」を解消することが"地方創世"と本体が思うことが・・。