
商用車がなくなる?! トヨタ主導で変わる業界図
クルマ作りもハードウェアからソフトウェアへ
桃田 健史 : ジャーナリスト 2021/07/07 5:30
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(上)商用バンで絶大な人気を誇るハイエースシリーズ(写真:トヨタ自動車)
(下左)2022年初夏に発売予定の小型EVトラック「デュトロ ZEV」(写真:日野自動車)
(下右)2022年春発売予定の小型EVバス「ポンチョ ZEV」(写真:日野自動車)
今、「商用車」という“クルマのカテゴリーのくくり方”が、大きく変わろうとしている。
近年、モノの移動/人の移動とIT技術の融合によるMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)という文脈で、国や地方自治体、トラック・バスメーカーなどがさまざまな議論を進めているが、荷主、公共交通事業者、そして一般の人たちにとってのよりよいサービスという観点で深掘りすれば、商用車の存在意義自体を根本的に見直すべき時期になってきたように感じる。
そうした中、トラック・バスの大手メーカーである日野自動車が2021年6月24日に株主総会を開き、新社長にトヨタ出身の小木曽聡(おぎそ さとし)氏が就くことを発表。これを受けて、メディア関係者との意見交換を主体とする形式でオンラインでの社長就任会見が行われた。
■グループで進める“やわらかい連携”
質疑応答の際、筆者(桃田健史)から小木曽社長に、「トヨタグループ全体として、商用車の位置付けが変わる時期ではないか」と次のような質問をした。
「トヨタ車体は小型商用、日野はトラック・バスなどの大型商用と区分けされているが、顧客からのニーズや社会変化を踏まえれば、商用車同士の垣根はなくなるべきではないか。これまでトヨタグループとして、こうした観点で対外的な情報発信があまりないが、ご見解をお示しいただきたい」
これに対して小木曽社長から、以下の回答をえた。
「トヨタグループ内では議論しているが、対外的には出せないのかもしれない。私は2018年から(2021年1月まで)トヨタ車体を含む、トヨタのCV(商用車)カンパニーのプレジデントを務めた。その際、CASEやMaaSの領域では、商用車は大きさに関係なく、トヨタ車体、日野、さらにはダイハツを加えたトヨタグループとして一括で連携を進めてきた」
そして、トヨタ全体の今後の取り組みを次のように示唆した。
「各社がそれぞれの機能を持った(商用車としての)ハードウェアを持っているが、これらをグループ内でしっかりつなぐための動きを進めている。(合弁事業など新規の)会社形態ではなく、トヨタグループ内での『やわらかい連携』として行う」
■そもそも“商用車”とは何なのか?
ここで改めて考えてみると、そもそも「商用車」という言葉に法的な定義はない。
道路運送車両法では、普通自動車、小型自動車、軽自動車というくくりの中で、トラック・バスと乗用車が混在し、また道路交通法では普通乗用車に対してバス・トラックを大型自動車、中型自動車、準中型自動車として区分けしている。
そのほか、一般社団法人 日本自動車販売協会連合会(自販連)による車種別新車販売台数という括りでは、普通自動車と小型自動車に対して、トラックは普通貨物車と小型貨物車に分類されている。
一方、乗用車を扱う日系自動車メーカーのホームページを見ると、カーラインアップの区分けとして、トヨタが「ビジネスカー」としている以外は、日産、ホンダ、マツダ、スズキ、三菱、ダイハツが「商用車」と表記している。つまり商用車とは、自動車メーカーが商品戦略として設定した独自の区分なのだ。
そう考えれば、トヨタグループでは、日野がバス・トラック、トヨタが「ハイエース」「タウンエース」「ダイナ」、そしてダイハツが軽自動車の「ハイゼットトラック」や「ハイゼットカーゴ」など商用車(ビジネスカー)全体を、小木曽社長が指摘したような「やわらかい連携」で一括管理・運用することは十分可能だといえる。
■電動化ではすでに横展開が進んでいる
小木曽社長が筆者の質問に対する回答の中で、電動化分野ではトヨタ(トヨタ車体)・日野・ダイハツとの連携がすでに始まっていることを改めて示している。
ハイブリッドシステムや燃料電池車の技術は、トヨタが研究開発と量産化の軸足となり、トヨタが“ヨコテン”と呼ぶ「水平方向への展開」がさらに進む。
日野では、すでに物流事業者のニーズを捉えた「物流のラストワンマイル」に特化する超低床かつ荷室内ウォールスルーを考慮した小型EVトラック「デュトロZ EV」や、これを応用した小型バス「ポンチョ ZEV」を発表済み。電動化車両の導入と運用のソリューションである、日野と関西電力の共同出資によるCUBE-LINXと合わせて、2022年の市場導入を目指している。
■商用車と乗用車の垣根はなくなりつつある
CUBE-LINXのサービスは、商用モビリティ利用のオープンプラットフォームとして位置付けられており、トヨタグループだけではなく、日野が小型トラック部門で提携することになった「いすゞ」も含めた、商用車の垣根をなくすための“業界の基盤”になりそうだ。
垣根がなくなるのは、トラック・バス、小型貨物、軽トラックだけではない。昨今のキャンピングカーブームで明らかになってきたように、商用車と乗用車との垣根すらなくなりそうな需要も生まれてきている。
■ミニバンの起源は商用車にある
具体的には、「バンコン(バンコンバージョン)」と呼ばれるハイエースや日産「キャラバン」をカスタマイズしたキャンピングカーや、スズキ「エブリイ」やホンダ「N-VAN」といった軽商用車をベースとした「軽キャン(軽キャンピングカー)」が人気だ。
こうした4ナンバーの商用車を3ナンバー・5ナンバーの乗用車や乗用軽自動車のように使うトレンドについて、これまでの流れを振り返ってみると、1980年代にタウンエースやハイエースといった商用ワンボックス車の乗用化モデルの登場がきっかけにあると考えられる。
ワンボックス車の乗用仕様はブームといえるほど各メーカーに広がり、乗用専用ワゴンのトヨタ「エスティマ」が1990年に誕生するなど、現在のミニバン文化の原点を商用ワンボックス車に見ることができる。
近いところでは、トヨタ車体が2017年の東京モーターショーで発表した、多目的の利活用が可能な小型商用車と乗用ミニバンの融合である「LCV(ライトコマーシャルヴィークル)コンセプト」という存在もある。
このときは、1つのモデルをベースとした小口配送車仕様、ビジネスラウンジ仕様、車いすアスリートの移動を想定したトランスポーター仕様が提案された。
“商用車”というくくりが今後、どう変化していくのか。そのカギを握るのが日野、トヨタ車体、ダイハツからなるトヨタグループであることは間違いない。トヨタグループ各社の今後の動向を注視していこう。
桃田 健史(ももた けんじ) Kenji Momota
ジャーナリスト
桐蔭学園中学校・高等学校、東海大学工学部動力機械工学科卒業。
専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。海外モーターショーなどテレビ解説。近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラファイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。
※このプロフィールは、東洋経済オンラインに最後に執筆した時点のものです。
東洋経済オンライン
≪くだめぎ?≫
今まさに「ミニバン」ブームである。でも象徴であった
「エスティマ」でも廃盤になる時代である。電動化・車椅子仕様車などいろいろな角度での開発の都合で見たかが変わるが・・。