
北陸新幹線
■主要技術--異周波数対応
北陸新幹線沿線の商用電源周波数は、群馬県内は50 Hz、長野県内は60 Hz、新潟県内は50 Hz、富山・石川・福井県内は60 Hzとなっている[29]。営業中の新幹線路線で異周波数接続が存在する路線は北陸新幹線が唯一である[注 20]。異なる周波数の電流が混触すると大電流が流れるおそれがある[30]ため、電気的な絶縁を保ちつつ変電所間での電源系統の切替を行うために、新軽井沢き電区分所(SP)、新高田SP、新糸魚川SPに周波数切替セクションが設けられている。列車の通過に連動して自動的にき電を切り替えるため、新幹線車両はこれらのセクションを力行したまま通過できる[31] a。高崎駅 - 軽井沢駅 - 新軽井沢SP間が50 Hz、新軽井沢SP - 佐久平駅 - 上越妙高駅 - 新高田SP間が60 Hz、新高田SP - 糸魚川駅 - 新糸魚川SP間が50 Hz、新糸魚川SP - 黒部宇奈月温泉駅 - 金沢駅 - 敦賀駅間が60 Hzとなっている[32]。
また、新幹線の保安装置であるATC(自動列車制御装置)では、異周波数電源が突き合わされるSP付近において異周波妨害が起こる。そのため1997年の長野開業時には異周波妨害対策法を開発することで50 Hzと60 Hzの両周波数に対応し、当時東北・上越新幹線で用いられていたアナログATC(ATD-1D)と互換性を持つアナログATC(ATC-HS型、HS-ATC[注 21])が導入された[33]。その後東北・上越新幹線で導入が進められたデジタルATC(DS-ATC)は電源周波数が50 Hz用であったため、金沢開業を前に新たに60 Hz対応のDS-ATCが開発され[34]、北陸新幹線に導入された[35]。
新潟県内の50 Hzき電を担う新上越変電所の異常時には、隣接する変電所からの救済き電により、新高田SS - 新糸魚川SS間を60 Hzき電に切り替えることが可能である。そのため、この区間では50 Hzと60 Hzの両対応のATC装置や電気設備が設けられており、周波数に応じて切り替える構成になっている[31] b。
■脚注--注釈
[注 20]^ 東海道新幹線の富士川以東では沿線の周波数は50 Hzであるが、周波数変換変電所で60 Hzに変換しているため、全区間60 Hzで供給されている。
[注 21]^ 文献によって表記が異なる。ATC-HS型[33] a、HS (Hokuriku Shinkansen) -ATC[34] a
■脚注--出典
[29]^ 兎束哲夫 et al. 2008, p. 29.
[30]^ 長谷伸一, 持永芳文 & 八木英行 1998, p. 930.
[31]^ a b 須貝孝博 2015, p. 560.
[32]^ 寺田夏樹, 赤木雅陽 & 横田倫一 2014, p. 20.
[33]^ a b 奥谷民雄, 犀川潤 & 館裕 2001, p. 32.
[34]^ a b 寺田夏樹 et al. 2012, p. 17.
[35]^ 須貝孝博 2015, p. 559.
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デッドセクション
デッドセクション(dead+section)は、電化された鉄道において、異なる電気方式や会社間の接続点に設けられる、架線に給電されていない区間・地点のことである。
死電区間(しでんくかん)、無電区間(むでんくかん)、死区間(しくかん)ともいう。
■設置の類型
デッドセクションが設置される類型としては、以下のものがある。
1.直流電化区間と交流電化区間の境に設けられるもの。(電流区分セクション)
2.同じ電化方式であっても、使用電圧の異なる区間の境に設けられるもの。(電圧区分セクション)
3.同じ電化方式・電圧の交流電化方式の区間において、交流電流の位相が異なる区間の境に設けられるもの。具体的には変電所同士の送電区間の境目となる場合が多い。(異相区分セクション)なお、直流電化区間ではデッドセクションではなくエアセクションが設けられる。
4.交流電化方式の区間において、使用する周波数の異なる区間の境に設けられるもの。(周波数区分セクション)
5.電化方式も電圧も同一の場合で、相互乗り入れを行う場合に、会社間(海外では異国間)の電源分離を行うために設けられるもの また、上下線や本線 - 車庫線で電気的に分離する場合において主に渡り線上に設けられるもの。(電源区分セクション)
6.異なる電化方式・電圧を用いる路線同士が、平面交差する地点に設けられるもの。(平面区分セクション)
・1.のような直流電化区間と交流電化区間の間に設けられるデッドセクションを交直セクション、3.・4.のような交流電化区間の間に設けられるデッドセクションを交交セクションともいう。
デッドセクションは、碍子やFRPなどで造られたインシュレータ(日本の在来線で長さ8 m 程度)をトロリ線に挿入する方式、主にヨーロッパの本線上で見られる2つのエアセクション間に無加圧区間を設ける「中セクション方式」のいずれかで絶縁を行うが、以下の注意が必要である。
・列車が力行のまま通過するとパンタグラフがそれまでの送電区間を抜け出た瞬間に大きなアークが発生して危険であるため、その手前に「架線死区間標識」を設けておいて運転士はこれを視認し、惰行状態で通過させる必要がある。
・パンタグラフは発条力で上昇させる構造のため、無架線状態での上昇跳ね上がりによる破損の可能性から、無加圧区間は通電はしなくとも架線かそれに代わる物を張る必要がある。
・また、列車が走行する軌道のレールは、主電動機で使用された電力を変電所に戻す役割があるため、デッドセクション内では、レールに絶縁継目と呼ばれる、隙間を設置することでレールに絶縁区間を設けているが、これでは信号機の制御に使用されている軌道回路の電流をレールに流すことはできないので、インピーダンスボンドを絶縁区間の線路脇に設置して、軌道回路の電流だけを流す役割を持たせる場合がある。
上述類例3.の異相区分セクションは交流電化区間の随所に存在するが、前述した中セクション方式では高速下で運転士が架線死区間標識を見落としやすい上に、惰行運転が速度維持の妨げとなるためデッドセクションの数を増やすことができない。つまり、変電所の数を増やすことが困難であるため列車本数や編成長で制約を受ける欠点があるものの、TGVやKTXなどの高速鉄道はこの方式の下で運転されている。
これに対して日本国有鉄道は1964年(昭和39年)の東海道新幹線開業に際し、2つのエアセクション間に1 km 程度の中間セクションを設置して、それが真空開閉器を介して変電所や饋電区分所に接続されており、列車が中間セクション通過中に真空開閉器により電源を0.05 - 0.3秒程度の無電時間を介して、進行後方側から進行前方側の変電所に自動で切替える[注 1]饋電(きでん)区分切替セクション方式を開発して、惰行することなく異相区分セクションを通過できるようにした。
・ただし、加速もしくは回生制動が作動中にセクションを通過すると無電時間の開始・終了時車両制御装置が一定時間停止後、フルパワーでリトライするために前後方向の衝動が発生する。これを避けるために切替セクションの位置を覚えておき、自主的に惰行状態で通過する運転士もいる。またN700系ではデジタルATCと連動させて、切替セクションに差し掛かる前に自動的にノッチオフ・ブレーキ解除、通過後にノッチオン・ブレーキ作動する機構を搭載する。
■車上切替方式
電車・電気機関車がセクション通過直前でマスコンをノッチオフ(ノッチ戻し)することで主回路を開放し惰性で走行して、直後に運転士がスイッチまたはレバーにより手動で電気方式を切替えてからデッドセクションを通過する。その際には、交流遮断器により主回路を一旦切り離してから、交直切替器による切替を行い、切替先の電力を検知すると交流遮断器により再び主回路が閉じられる動作を自動的に行い、再び力行・制動が可能になる電源切替方式である。たとえば直流から交流に転換する場合は、交流遮断器の主回路開→交直切替器の回路切り替え(直流回路開、交流回路閉[注 2])→セクション通過→交流検知→順次自動的に交流遮断器の主回路閉となる[注 3]。
・「切替先の送電区間までに無給電区間を走りながら回路を切替えてから、全パンタグラフが切替先の送電区間に進入後に再び通電」という誤解が広くなされているが、これは間違いである[注 4]。
セクション通過時に設計年次が古い電車の場合では、一時的にヘッドライトは片側のみの点灯となり、室内の照明が消え空調が停止するとともに、蓄電池からの電源により非常灯のみが点灯する。これは回路を切り替える際に遮断器(ブレーカー)が作動し一時的に編成全体が停電状態となるためである。
・一方で設計年次の新しい車両では、種別・行き先表示が消えるが、補助電源(数秒間許容)で車内灯が点灯する、あるいは照明を直流電源(数分間の停電を許容)としているため消灯しないが、空調装置などは一旦停止するため再稼動する際の音でセクション通過を判断できる。機関車から暖房電源供給している一部の客車は、空調が止まる例がある(国鉄50系客車(青函用))。
・「水前寺有明」や国鉄24系客車の熊本駅停車中の連結作業中[注 5]やTRAIN SUITE 四季島の気動車⇔電車切替[注 6]も同様である。
また地上側でも車両側の切替忘れ防止[注 7]の観点から、標識設置・ブリンカーライトの点滅・車両に搭載されたATSやATCを使用して、運転士がスイッチまたはレバーを手動で電気方式を切替えず、すべての操作を自動で行う自動切替装置の導入などの対策を行っている。
なお、気動車もしくはディーゼル機関車・蒸気機関車牽引の列車では架線から電気の供給を一切受けないため前述の動作は必要ないほか、剛体架線採用区間のデッドセクションでは、FRPを用いず剛体を平行にすることで対応する。
■地上切替方式
駅構内で架線に流す電流を切替える方式。電気機関車牽引の列車が少なく、電車が主流となった日本の鉄道では採用例が少なく、常用のものは以下の例のみであったが、2018年までにすべて廃止された。
・仙山線作並駅:1957年9月 仙台 - 作並間交流電化開業にともない設置。1968年9月、仙山線作並 - 山形間の交流電源切替により廃止。
・東北本線黒磯駅:1959年7月 黒磯 - 白河間交流電化開業にともない設置。2018年1月、デッドセクションを黒磯駅構内(北寄りの高久・仙台方)に移設し廃止された[1][2][3]。
・奥羽本線福島 - 庭坂間:1960年3月 東北本線白河 - 福島間交流電化開業にともない設置。1968年9月、奥羽本線福島 - 米沢間の交流電源切替により廃止。
なお、2006年9月24日西日本旅客鉄道(JR西日本)北陸本線長浜 - 敦賀間・湖西線永原 - 近江塩津間の直流電源切替に伴い敦賀 - 南今庄間に交直デッドセクションが新設されたが、下り線のセクションは上り勾配上に設置されたため切替中に万一セクション手前で停止したような場合に備えて、以下の非常時のみ取扱の地上切替方式という形態での設備を設置した。
・デッドセクション手前の直流区間の架線電源を交流20kVへ切替える切替断路器
・その際に交交セクションとして機能するデッドセクションの中間部を交流加圧し無電区間の長さを短縮するための断路器
■日本のデッドセクション
・直流・交流接続
デッドセクションを挟んだ区間では、同じ路線でも使用可能な車両が異なり、ほとんどの場合は運転系統や本数など輸送そのものが分断されている。中には黒磯駅のように別路線のようになっているものもある。
特に交直流電車は高価なことに加えて単行運転ができないので、セクションを越える区間のローカル輸送は全線電化にもかかわらず、羽越本線[注 8]などのように、近辺の非電化路線と共通運用の気動車を運行している路線もある。
また、仙石東北ラインのように線路は接続し直通列車も運行してはいるが、一定の距離を非電化にして架線自体は接続していないケースも存在し[注 9]、この場合も気動車を使用する。
・異周波数接続
日本においては、異周波数交流をデッドセクションで接続した例は存在しない。下記は、あくまでも参考として挙げたものである。上述の新幹線異相区分セクションと同様、切替セクションにより異周波数交流を接続しているため、接続点であるこれら3か所のき電区分所には無電区間は存在しない。一般的なデッドセクションとは構造の異なるものであるが、異方式電源の接続方法の類例として挙げる。
・北陸新幹線 軽井沢(50 Hz) - 佐久平(60 Hz)間(新軽井沢き電区分所)
・北陸新幹線 上越妙高(60 Hz) - 糸魚川(50 Hz)間(新高田き電区分所)※JR東日本と西日本の異社間セクションを兼ねる。設備はJR西日本。
・北陸新幹線 糸魚川(50 Hz) - 黒部宇奈月温泉(60 Hz)間(新糸魚川き電区分所)
■脚注--注釈
[注 1]^ 切替は軌道回路からの列車条件を元に連動して切替える。
[注 2]^ DC>AC。まだ直流区間であるが、電源検知回路により交流用回路は開であり、交流遮断器による主回路開後に回路の切り替え操作をとった上であれば、交流遮断器による主回路閉操作をしても問題は生じない。主回路閉のままの操作では切り替えが完了する前に異種電源(直流電源)に接続されるため許容されない。
[注 3]^ 日本のほか、韓国でもこの方法で切り替える(日本のシステムを韓国に持ち込んだもの。韓国鉄道1000系電車を参照。415系/485系とほぼ同じ)。欧州では走行中にパンタグラフを下げて回路を切換、その後パンタを上げる方法で切り替える(youtubeに当該動画がある)。黒磯駅でのJR貨物EH500形電気機関車の切替も同様であった。欧州では、本電化区間でパンタを下げて,異電化や(貨物駅の輸送コンテナの荷役線(そもそも架線が設置できない)など)無架線区間、まで惰性で走るパターンもある。その場合は機関車停止後、エンジンか蓄電池で自走するか、他の機関車に牽引して本来の架線区間の戻す方法もある
[注 4]^ 仮に485系9両編成を例にすれば、編成間両端モハ484形同士で100m以上離れている上に、100km/h=1.67km/min=28m/s程度で走行している場合確実に編成がセクションに入った事を確認して、さらに操作を完遂するために必要な時間と余裕を考慮すればデッドセクションが数km必要になる。
[注 5]^ 連結作業中は電源供給を止めてから作業しないと配線/ジャンパ連結器等で作業員が感電事故の危険があるため、電源バスを遮断する必要がある。JR九州783系電車が熊本駅停車中の電源車連結の場合、「駅停車→ドア開→真空遮断器解放→パンタ下げ→電源車連結→ジャンパー接続→発電機から通電→ドア閉→出発」の手順が必要。
[注 6]^ 切替の際、架線電源遮断→発電設備接続の手順が必要。
[注 7]^ 異種電源接続は機器を損傷する可能性があり危険である。安全装置が正常に動作すれば機器の大きな損傷は避けられ、直流→交流の冒進では遮断器が作動するだけなので機器を操作すれば運転継続が可能であり比較的影響は少ないが、交流→直流への冒進事故は、交流側回路を保護するため取付けられたヒューズの交換が必要となりそれまで交流区間では運転ができなくなるなどリスクが大きい。直流→交流の冒進では無電区間走行(約0.5秒)の検知により遮断器を動作させられるが、交流→直流では交流電化区間に交交セクションが存在することにより「無電区間突入=交直セクション突入」を前提とした機構を構成することが不可能でありヒューズ以外の十分に確実性のある防護措置が確保できないからである。
[注 8]^ JR東の新潟支社が通勤・近郊形の交直流電車を保有していないという事情もある。羽越本線#新発田駅_-_村上駅_-_酒田駅間
[注 9]^ よって厳密に言えばデッドセクションではない。 仙石東北ライン#仙石線・東北本線接続線
■脚注--出典
[1]^ 鉄道界2012年12月号 P44-45
[2]^ a b “東北本線黒磯駅電気設備改良切換工事に伴う列車運休及びバス代行輸送計画についてのお知らせ” (PDF). 東日本旅客鉄道株式会社 (2017年11月24日). 2018年1月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年3月20日閲覧。
[3]^ a b 佐藤正樹 (2017年11月28日). “交流・直流の切換えは仙台方に…東北本線黒磯駅構内の全面直流化が2018年1月3日に完了へ”. レスポンス (株式会社イード) 2019年3月20日閲覧。
≪くだめぎ?≫
電気的な絶縁を保ちつつ変電所間での電源系統の切替を行うために、
新軽井沢き電区分所(SP)、新高田SP、新糸魚川SP
に周波数切替セクションが設けられている。
メインの"き電区分所"は「エアセクション」であり、使ってきた架線の横に新たな架線が寄り添い、使ってきた架線が横に外れる、と新幹線電車にとっては連続して電力が供給される仕組みのままである。
そして、メインの"き電区分所"の「エアセクション」を中心に
「1 km 程度の中間セクション」・"エアセクション"を設置、
新幹線電車が侵入して"軌道回路"が反応、
"真空開閉器"が「周波数」の異なる電力を切り替え、
この"0.05 - 0.3秒程度の無電時間"により、
新幹線電車"自身"が「周波数」の異なる電力を切り替え、通過していく。
「エアセクション」の隣同士の架線に、
「周波数」の異なる電力が"長時間"流れることには無いようである。
新幹線電車が無い時間は「中間セクション」が無電区間になり、
東西の電気的な絶縁を保ちつつ、電源系統を分けている。
通常時、新高田SP - 糸魚川駅 - 新糸魚川SP間が50 Hzで通電。
新潟県内の50 Hzき電を担う新上越変電所の異常時には、隣接する変電所からの救済き電により、新高田SS - 新糸魚川SS間を60 Hzき電に切り替えることが可能、
"長大な"地上切替方式である。