• 車種別
  • パーツ
  • 整備手帳
  • ブログ
  • みんカラ+

ディーゼルオート店のブログ一覧

2013年11月19日 イイね!

特殊鋼の研究・開発と鍛造技術の研究

特殊鋼の研究・開発と鍛造技術の研究トヨタ自動車 75年史  (2012年)
> 文章で読む75年の歩み
> 第1部 『自動車事業への挑戦』
> 第2章 『自動車事業の確立』
> 第3節 基礎技術の研究・開発
第3項 特殊鋼の研究・開発と鍛造技術の研究

[写真] 製鋼工場の小型圧延機による圧延作業

自動車事業に進出するに際しての最大の問題は、自動車製造に適した鋼材がなかったことである。当時、艦船や航空機などの兵器用としては、優れた鋼材が供給されていたが、自動車の大量生産に適した鋼材は開発されていなかった。製鋼会社に開発を依頼しても、消費量が限られているため、引き受け手がない状況であった。

豊田喜一郎は、東北帝大の本多光太郎博士 1.を仙台に訪ね、わが国の製鋼技術で自動車用鋼材が製造できることを確認したうえで、製鋼所の建設に取りかかることとし、1934(昭和9)年1月に豊田自動織機製作所に製鋼部を設けた。2.製鋼所建屋は同年7月に完成し、続いて9月に2トン電気炉、10月には4トン電気炉が操業を開始し、小型圧延機の据え付けも11月に完了した。

また、喜一郎の知人である東京工業大学の山田良之助博士が材料試験に詳しいところから、製鋼部の材料試験施設の企画立案を依頼した。そのアドバイスをもとに、試作した鋼材を試験・分析する設備を導入し、特殊鋼の研究がスタートすることになった。

新しい鋼種の開発は、まず研究所の5kg高周波誘導電気炉で試作を行った。その試作品を試験して、目的とする性状を満たした場合には、順次大きな電気炉で鋼塊を作って鍛造加工し、さらに品質を確認したのち、2トン炉や4トン炉で生産した。

最初は簡単な鋼種から手をつけた。織機の材料に使用される構造用炭素鋼SA1(現在のS25C 3.相当)に始まり、同じく構造用炭素鋼SA2(現在のS40C相当)、炭素肌焼鋼SA9(現在のS15CK相当)などへと進み、ばね鋼SS4、炭素工具鋼SB2・3(現在のSK3~6)などが開発された。

豊田自動織機製作所製鋼部は、自動車の量産に適した鋼材、すなわち、切削性がよくて耐久性があり、品質・寸法が一定な鋼材の製造を目指した。その後、トヨタ車の生産増強に伴い、生産能力を拡充していったが、1940年には「製鉄事業法」の許可会社の恩典を活用するため、製鋼部を分離独立することになった。こうして、1940年3月8日に豊田製鋼株式会社が設立され、1945年11月には愛知製鋼株式会社に社名を変更した。

豊田製鋼が設立される直前の1940年1月から同年末にかけて、製鋼工場では米国人ルイス・ヘンリー・ベリー(Louis Henry Berry)技師の指導を受けた。4.同技師は、日本スピンドル 5.が導入した米国製電気炉の技術指導に来日した技術者で、製鋼技術にも精通していた。同技師から指導を受ける際には、齋藤尚一 6.が通訳兼助手となった。

また、豊田自動織機製作所の製鋼部では、発足とともに、紡織機製造用の鍛造設備である2トン、1トン、1/2トンの3基のフリーハンマーを利用し、自動車用鍛造部品の試作を開始した。その後、1935年初めまでの1年間に、型打ち用スタンプハンマーの1トン2基、1/2トン1基、1/4トン1基の計4基を増設し、自動車部品の型鍛造を行った。さらに、1937年には2トン・フリーハンマーを増設した。

6気筒「A型エンジン」のクランクシャフトの鍛造は、1トン・フリーハンマーにより大雑把な形状に成形する荒打ちを行ったうえで、2トン・フリーハンマーに鍛造型を取り付けて型打ちした。しかし、2トンでは力不足のため、2分割した鍛造型で二度に分けて荒打ちしてから、一体になった仕上げ型で成形した。

クランクシャフトがコネクティングロッドと結合するピンの部位も、加工が困難なものの一つであった。相互に120度の角度をつける必要があり、現在はツイスト工程で簡単に加工できるが、専用設備のない当時は大変な作業で、天井走行クレーンでピン部を引き上げて角度をつけた。7.

製鋼部の鍛工場では、自動車用鍛造部品の試作が進み、クランクシャフトのほか、カムシャフト、コネクティングロッド、バルブロッカーアーム、プッシュロッド、ディファレンシャル・リングギア、リアアクスル・シャフトなどの製造に成功した。1935年5月にA1型試作乗用車が完成した際には、その鍛造部品はすべて鍛工場で作られた。

注1. 愛知県碧海郡矢作町(現・岡崎市)出身。物理学者、冶金学者、鉄鋼の世界的権威で、東北帝大金属材料研究所初代所長、東北帝国大学総長。

注2. 豊田喜一郎は、「自動車製造部拡張趣意書」(『豊田喜一郎文書集成』194ページ)のなかで、鋼材について、次のように述べている。「只コヽニ問題トナルモノハ製鋼材料ニシテ、果シテ自動車ニ最モ適スル材料ガ安価ニ得ラルヽヤ否ヤノ点ナリ。本多光太郎博士ノ意見ヲ仙台マデ行キテ尋ネタルニ吾国ノ製鋼技術ニ於テ充分出来ルコトヲタシカメ、直チニ製鋼工場ノ設立ニ着手シ四頓炉、二頓炉及ビ研究用トシテ三十五キロ及ビ三百キロ、百五十キロノアジャックスノ電気炉ヲ買入レ、ローラートハンマーヲオキテ製鋼鍛錬ノ研究ニ着手セリ。斯クシテ幸ニ自動車ニ最モ適スルト思ハレル材料ヲ自家供給スルコトニヨリ、更ニ進ンデコノ研究ヲナシウルニ至レリ」。なお、引用文中の「四頓炉、二頓炉」はアーク式電気炉、「アジャックスノ電気炉」は米国の誘導加熱炉(誘導加熱機)のメーカー「アジャックス社」の高周波誘導加熱炉、「ローラー」はロール鍛造機(一対のロール間に加熱した鋼材を挿入して加圧成形する鍛造機)、「ハンマー」はハンマー鍛造機(蒸気圧で上下動するハンマーで、加熱した鋼材を打ち据えて成形する鍛造機)。

注3. S25Cは、JISの機械構造用炭素鋼の鋼種。炭素を0.25%(0.22~0.28%)含む炭素鋼で、米国SAE1025に相当。S40Cは、炭素を0.40%(0.37~0.43%)含み、SAE1040に相当。

注4. 豊田喜一郎は、ベリー技師の指導について、次のように語っている。「米国で云ふ『グレンサイズ』を思ふ様に小さくするには如何にすべきかと云ふ研究、材料の選定方法、その他色々な方法を各方面から聞いて『良い』と云はれることは片端から実施して見て居るが未だ完全なるものは出来ない。ある米人が斯う云ふことを云って居たことを記憶している。それは『自動車に適する鋼は鉱石からそれに適当した物を作らなくては本当のものが出来ぬ』と。私はその時、優良な材質が出来ぬと云ふ意味に解して大して気にも留めなかったが、事に依ると鉱石その物の質が一定であることにより、一定の材料を作り得らるヽと云ふことが本当の意味であったのかも知れない。(中略)『デュワラビリティ』のある『マシーナビリティ』の良い鋼を作るには鉱石から選ぶ必要がありはせぬかと斯う考へて来ると、吾々の自動車事業確立には鉱石から研究してかヽらねばならぬといふ事に思ひ及ぶのである」(「自動車材料用製鋼工業の強化に就て」〈『豊田喜一郎文書集成』413ページ〉)。喜一郎は、加工性がよく耐久性に優れ、自動車の量産に適した材質の鋼材を開発するため、知り合いの学者、専門家や先輩などに研究してもらっている。しかし、「これならば」という名案が出ないため、米国人技師の指導まで受けたのである。結論は得られなかったものの、電気炉操業に関する指導から、それまで日本には紹介されていなかった多くの知識を得たとのことであった。

注5. 日本スピンドルは、精紡機の糸巻き(木管)を高速回転させるための回転軸を製造した。岸和田紡績社長の寺田甚吉(トヨタ自工取締役就任)が設立し、豊田喜一郎は同社の役員を兼務していた。

注6. 1935年入社、学卒第1号の技術者。主に生産技術を担当、のちにトヨタ自工会長。

注7. その様子について、「クランクをクレーンでひっぱって百二十度曲げた。イモ鍛(削り代が多く、大まかな形状の鍛造粗形材)のものすごいものであった」との回想が残されている(「座談会 前社長をしのぶ」〈『豊田喜一郎文書集成』561ページ〉の齋藤尚一の発言)。

トヨタ自動車 75年史  (2012年) より


≪くだめぎ?≫
 「自動車製造に適した鋼材」が無いことが、自動車事業に進出するに際しての最大の問題とある。しかし、"当時、艦船や航空機などの兵器用としては、優れた鋼材が供給されていた"ことが「新しい鋼種の開発」の原動力となったことは想像できる。いつの時代も"兵器用"と結果的に表裏一体になる可能性はあるね・・。
Posted at 2013/11/19 01:22:13 | コメント(0) | トラックバック(0) | トヨタ自動車 75年史 (2012年) | クルマ

プロフィール

「「Yamato」体重計 ♫〜」
何シテル?   04/02 16:02
 「昔々、有ったとさ、 『トヨタディーゼル店』、『トヨタパブリカ店』、『トヨタオート店』、『トヨタビスタ店』・・・」。      身長165cm・体重6...
みんカラ新規会員登録

ユーザー内検索

<< 2013/11 >>

      1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 1112 13 14 15 16
1718 19 202122 23
242526 272829 30

リンク・クリップ

新明和工業・特装車事業部 
カテゴリ:鉄道・バス
2016/09/29 08:29:33
 
マイナビ ニュース 
カテゴリ:マスコミ
2013/02/20 15:01:45
 
都道府県タクシー協会 
カテゴリ:鉄道・バス
2011/01/06 11:50:45
 

愛車一覧

ダイハツ ハイゼットカーゴ ダイハツ ハイゼットカーゴ
"MT車"、9.8万キロ走行、である。 前車ハイエースを年末に買取りしてもらう。 ほぼ、 ...
トヨタ ルーミー 「タンク」顔の"ルーミー" (トヨタ ルーミー)
[写真・画像] 6/25(日)10:37 青森トヨタ・ネッツトヨタ青森 TwiN pla ...
スバル サンバー スバル サンバー
母の嫁入り道具、父は車持ってなかった。後に事故廃車。
トヨタ マークIIバン トヨタ マークIIバン
事故廃車したため、購入。コロナバンがなかった・・。
ヘルプ利用規約サイトマップ
© LY Corporation