
 2016年7月1日
G’sシリーズ初の「2代目モデル」/トヨタ 新型
 ヴォクシー・ノア「G’s」試乗レポート 
Text : 山本シンヤ
●G’sの立ち上げ第一弾に選ばれた意外な選択肢のワケとは
トヨタは2010年、東京オートサロンで新スポーツブランド「G’s」、「GRMN」の2ブランドを立ち上げることを明言し、「売れるクルマよりもいいクルマ」を目指した。これらのモデルの開発は量産車チームとは別組織の「スポーツ車両統括部」が担当。様々なモデルをベースにした「スポーツコンバージョンモデル」を生んだ。
そんなG’s第一弾に選ばれたのは何とミニバン「ノア/ヴォクシー」だった。
「ミニバン=運転がつまらない」という概念の払拭と、「誰でもスポーツカーを体験して欲しい」いう狙いがあったからだと言う。
そのコンセプトは「このようなモデルを待っていた」とユーザーからも高く評価され、トヨタ自身もスポーツモデルを望む人の多さを確認できたと言う。その後、G’sは「ヴィッツ」「プリウス」「マークX」「アクア」「アルファード/ヴェルファイア」とクルマのカテゴライズに関係なくラインナップを拡大。クルマファンからの認知も上がっていった。
●G’sシリーズとしては初となる2代目モデルの誕生
しかし、G’s元祖の「ノア/ヴォクシー」は、ベースモデルが2014年にフルモデルチェンジすると、ラインナップからG’sが消えた。
実は二代目の企画段階では社内からも「本当に必要なのか?」、「チューニングは本格的にやるべきなのか?」と反対意見もあったそうだが、ユーザーから「G’sはいつ登場するのか?」と言う声が予想以上に高いことからも市販化を決意。
2016年の東京オートサロンに「G’sコンセプト」と言う名のプロトタイプを参考出品し、4月に正式発売となった。
実はG’sの二代目としては初となるヴォクシー・ノア「G’s」。それはG’sが一過性の物ではなく“継続”を意味していた。
●基本コンセプトは不変の「コントロール・アズ・ユー・ライク」
2代目ヴォクシー・ノア「G’s」の基本コンセプトは「コントロール・アズ・ユー・ライク(=意のままに操る喜び)」と不変。
だが単に「走りがいいよね」だけでなく、「所有する喜び」や人から「いいクルマに乗っている」という満足感もプラスさせるトータルコーディネイトだ。商品企画を担当する久野友義さんは、「前モデルは何もない所からのスタートでしたので試行錯誤でしたが、今回はユーザーからの期待も高く、これまで以上に力が入っています」と語る。
●2代目モデルにスポット溶接追加が行われなかった理由とは
G’sのキモとなるのはシャシーチューニングである。「走りのレベルを引き上げるためには“体幹”を鍛えることが重要」と、今回もボディ剛性アップが行なわれているが、先代で実施されたG’s定番のチューニングの「スポット溶接追加」はゼロで、補強ブレースなどによる補強のみである。
その理由を久野さんに聞くと「やらなかったのではなく、やる必要がなかった…と言うのが正しいですね。ノーマルの基本性能が底上げされている証拠です。これも『もっといいクルマ作り』が浸透している一つの例です」と語る。
更に空気の力で操安性をアシストする「空力フィン」がフロント床下周りに追加されている。
●専用チューニングの足回り、そのポイントは「バランス」
サスペンションは専用チューニング(フロント-20mm、リア-25mm)品、タイヤ&ホイールは、ベース車から2インチアップとなる215/45R18(BSポテンザRE050A)+専用アルミホイール(エンケイ製)、スポーツブレーキパッド+レッド塗装ブレーキキャリパー(オプション)などを採用。また、新たに電動パワステの専用チューニングなども行なわれている。
G’sのマスターテストドライバーの江藤正人さんは「G’sの走りの考え方は 『しなやかさと素直さ』、『違和感なく普通に走れる』ことです。もちろん、コーナリング性能は引き上げられていますが、大事なのは『クルマのバランス』ですね」と語る。
●フロントエアロはバンパーから全て専用デザインに
エクステリアは、専用エアロパーツで差別化されるのは前回と同じだが、今回はフルバンパータイプに変更。よりデザインの自由度が増し、アグレッシブで迫力のある印象に変貌。
先代はLEDやメッキを多用していたが、現行モデルはノーマルのエアロ付モデルが先代G’s並みにスポーティなデザインとなっているので、G’sは更に上を目指した…と言うことだろう。恐らく、このデザインが今後のG’sのトレンドとなるはずだ。
●衝突回避支援パッケージ「Toyota Safety Sense C」を新採用
インテリアはブラック+シルバーのステッチのコーディネイトを採用。アルミ調のメーターやスポーティシート(フロント)、ピアノブラック+スエード調のインストパネルの採用し、スポーティさだけでなく質感の高さも追求している。また、ドアを開けると床にロゴを映し出す「LEDアクセントライト(ディーラーOP)」など遊び心も忘れていない。
また、新型では衝突安全支援パッケージ「トヨタセイフティセンスC」を装備。これまでG’sは安全装備に関して積極的ではなかったが、これは嬉しいポイントでもある。
●尖ったチューニングモデルではなく、理想の「ノーマル(普通)」である
ただ、2代目ヴォクシー・ノア「G’s」の走りはいい意味で“普通”である。
最近のミニバンのレベルも高くなっているものの、全高の高さによるコーナリングの怖さやドライバーの操作に対する応答性や高速走行時の安定感などは乗用車に比べると不利なため、スムーズに走らせるにはドライバーは余分な動きを出さない丁寧な運転を要求する。だがG’sは「ミニバンであることをあまり意識させない」走りなのである。
ステアリングを切れば切っただけシッカリと応答するし、タイヤの状況も的確に伝えてくれる。ロールもいきなりグラっと来るのではなくジワーッと一定なのでコーナリング時の恐怖感も少ないし、タイヤも路面にシッカリ追従しながら路面にピターっと張り付いている感覚だ。
つまり、より人の感覚にマッチしたチューニングになっているのだ。
●「パパ、運転上手くなった?」と言われちゃう!?
体幹を鍛えたボディとサスペンション、タイヤ&ホイールや空力アイテムの相乗効果なのだが、どこかのアイテムが主張するわけではなく、運転が楽になるだけでなく同乗者とっても不安な感じが減っているので、「パパ、運転上手くなった?」と思ってもらえるだろう。
全体のバランスがよく、その味付けもいい塩梅な調律は、ノーマルの良し悪しを知るワークスならではと言える部分だ。
そう思うと、クルマ好きにとっては『理想のノーマル』と言える存在かもしれない。
●アシは「しなやかな硬さ」
確かに18インチの45タイヤを履いていることもあり、路面の凹凸に対してはノーマルよりもコツコツ来る部分はあるものの、決して不快ではなく「しなやかな硬さ」。
ただ、タイヤの空気圧に対して若干センシティブなほうで、元気に走って内圧が上がるとやや突き上げも気になったシーンも。だから空気圧管理は慎重にしたほうがいい。逆を言えば、そんな細かいことでクルマの走りの違いも解ると言うことを意味している。
●いざとなればサーキット走行だってこなす実力も
新型 ヴォクシー・ノア「G’s」には、ミニバンには不釣り合いなサーキットでも試乗したが、速度レンジやコーナリングGが高いステージでもその印象は一般道と大きく変わらない。
気がつくとコース幅を目いっぱい使って一生懸命走る自分がいた(笑)。
●次なる「G’s」の展開にも大いに期待したい
ちなみに2代目ヴォクシー・ノア「G’s」は、多くのアイテムを後架装ではなく工場の生産ラインで組み付けることにより、大きくコスト削減も実現。価格もノーマル+38万と従来(ノーマル+約60万)よりもリーズナブルなプライス。これはユーザーメリットも高いと思う。
欲を言えば、「パドルシフトが欲しい」や「パワートレインがもっと元気だったら…」と次々に欲が出てしまうのだが、まずはG’sがより一般のユーザーに評価され、継続していくことが大事だと思う。
そう考えると、G’sは現状維持で、ノーマルとは異なるパワートレインなどが搭載されるG’s以上GRMN未満と言った第3のモデルが用意されるといいと思うのだが!?
●ノーマルにも新グレード「ノアハイブリッドSi/ヴォクシーハイブリッドZS」が追加
G’sの登場と合わせて、ノーマルにも新グレード「ノアハイブリッドSi/ヴォクシーハイブリッドZS」が追加された。
これまでヴォクシー/ノアのハイブリッドモデルは重量(燃費基準JC08モードの車重区分)の問題でエアロ付きグレードを設定することができなかったのだが、何とトヨタは16インチの軽量アルミホイールと燃料タンク容量の小型化により、重量問題をクリアさせたのである。
ちなみにこの軽量ホイールは何とBBS製の鍛造品で、恐らくコストも結構かかっているだろう。
「燃費のためにここまで…」と言う人もいるかもしれないが、トヨタ/ホンダ/日産のMクラスミニバン三つ巴バトルを戦い抜くためには、トヨタもやる時にはやるのだ。
●こだわりの鍛造アルミホイールの拡大採用もあり得る!?
実はこのホイール変更はハンドリングにも影響しており、凹凸を乗り越える時のアタリの柔らかさや足の動きの軽やかさ、スムーズさなど質感が上がる方向のレベルアップを感じた。走りにメリットがあるなら、他のグレードにも装着できるようになれば、より「もっといいクルマ」になると思うのだが…。
[レポート:山本シンヤ]
●トヨタ ヴォクシー ZS「G’s」[2.0ガソリン/FF] 主要諸元
全長x全幅x全高:4795x1735x1810mm/ホイールベース:2850mm/車両重量:1620kg/乗車定員:7名/駆動方式:前輪駆動(FF)/エンジン種類:「3ZR-FAE」型 直列4気筒 DOHC 16V バルブマチック付 ガソリンエンジン/総排気量:1986cc/最高出力:152ps(112kW)/6100rpm/最大トルク:19.7kgf-m(193N・m)/3800rpm/トランスミッション:Super CVT-i(自動無段変速機)/タイヤサイズ:215/45R18/メーカー希望小売価格:3,119,237万円[消費税込]
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≪くだめぎ?≫
 "ユーザーから「G’sはいつ登場するのか?」と言う声が予想以上に高いことからも市販化を決意。"
 "まずはG’sがより一般のユーザーに評価され、継続していくことが大事だ"
ヴォクシー・ノア「G’s」フルモデルチェンジ。おめでとう、と言つたところか。