ロールセンターとサスペンション•ジオメトリー。
投稿日 : 2017年10月14日
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乗り心地や操縦性、スタビリティを司っているサスペンション。
その歴史は、路面からの衝撃を軽減するだけのモノから始まっているが、自動車の発展と共に走行性能、安定性を左右する重要な役割を担うようになっていきます。
そこには、自動車開発者達の苦悩の歴史があるワケですな。
今回は、そんな足回りのロールセンターとサスペンション•ジオメトリーについて少し踏み込んでみようと思う。
◎ロールセンター高とスイングアーム長
自動車の開発でまず最初に選定されるのが、前後のロールセンター高とスイングアーム長。コレを決めなければ、アームやピボット位置が決まらないからである。
ロールセンター高でロール角が変化するのは、車体重心高の内の重心からロール軸までの分をバネやスタビライザーで、ロール軸の高さ分をサスペンションアームが各々分担して受けている為だ。
ロールセンターは、旋回時におけるロールの中心であり、この前後のロールセンターを結んだロール軸を中心に車体はロールする。
その位置は車体のロールと共に移動し、ロール軸の位置も上下左右に移動する為、設定されたロールセンターはロールし始めの車体回転中心に過ぎないが、車両のコーナリング特性を支配している重要な要素であるのは間違いなく、これにプラスして車体に対してタイヤが上下にストロークする際の接地中心か描く軌跡の半径であるスイングアーム長という要素が、旋回時の挙動を決定づけている。
ロールセンターは左右軸のスイングアームの交点であり、スイングアームと車両中心線の交点でもある。
ロールセンターが決まると、接地中心とロールセンターを結ぶ直線が決まり、それに沿って接地中心からスイングアーム長の分、離れた点が接地中心の瞬間中心になる。
接地中心の瞬間中心は車両中心線に対して接地中心と反対側にあるので、ロールセンターが地面より高い場合は接地中心の瞬間中心も地面より高い位置になる。
こうして設計されたクルマの車高をオーナーがあとから変えると、ロールセンターも変わり、重心との関係も変化する。
車高調やダウンスプリングを使って車高を変えた時にハンドリングが変化するのは、これによる要因もあるだ。
この辺の変化は、図を見てもらった方が早いだろう。
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◎ロールセンター軸
多くのクルマが、フロントのロールセンターをリヤのロールセンターより低く、ロール軸が前下がりになるように設計している。
ロールセンターが高い場合は、ロールに伴う接地中心の横移動が発生→外輪側のトレッドが拡大するので、それに伴ってスリップアングルが付き、同時に車体の横移動が伴わずに横力が発生するのだが、フロントがリヤよりも低く設定される理由は、前輪のスリップアングルはステアリング操作で制御出来る為だ。
こうしてロールセンターを前傾させる事で、後輪の荷重移動を早めて、操舵輪である前輪に対して後輪の追従性を高めているのである。
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大きなジオメトリーが決まると、キングピン角、キャスター、キャンバー、トーが決められる。この部分だけで見ても図のように、これだけのセッティング要素が含まれているのである。
ここを細かく分けて説明していこうか。
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◎キングピン角度
キングピン角度とは回転軸を前方(あるいは後)から見て、上下の転舵点を結んだ仮想軸の角度の事を指す。
この傾斜角が大きいと転舵した時の外側前輪のポジティブキャンバーが大きくなり、横力が減少するからアンダーステアになる。
逆に小さく出来れば転舵時のポジティブキャンバーを抑制出来るが、ホイール内側にはブレーキ装置がある為に、キングピンオフセットの事を考慮するとサスペンション形式によっては傾斜角を立てるのは困難と言える。
とにかく、ステアフィールや復元力に大きく関わってくる角度がこれだ。
この回転の中心となる軸の事をキングピン軸と言い、この軸の延長線上の路面の交点と、タイヤの接地中心との距離をスクラブ半径という。
仮想軸の接地点がタイヤの中心より内側にあるのがポジティブスクラブで、この位置が接地中心から大きく離れていると、ブレーキング時にトーアウトになって不安定になりやすい。転舵時にタイヤがキングピンを中心に転がりながら向きを変えるのでFR車には良いが、FF車ではトルクステアが強く出る傾向になる。図左端がそれ。
仮想軸の接地点がタイヤの中心にあるのがゼロスクラブで、ハンドル操作が一番軽く、また走行時に操舵に影響する様な力は働かない。図中央がそれ。
仮想軸の接地点がタイヤの中心より外側にあるのがネガティブスクラブで、タイヤに横力が加わるとトーイン方向に変化させる力が働く他、仮想ピボットを設定してキングピン軸を立てる事で、このレイアウトが可能となり、キャスターやキャンバーの設定幅が大きくなる為、タイヤにかかる外力の影響を受けにくいハンドリングにする事が可能になる。図右側がそれ。
近年ではリヤサスペンションもキングピンを意識していて、地面上や車軸上のキングピンオフセットを小さくなるようにセットするようになってきているようだ。
尚、この辺りのセットアップは、ホイールスペーサーを入れたり、インセットの違うホイールに交換する事で簡単に崩れてしまう要素ですね。
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◎キャスター
キャスターは回転軸を前方側面から見て上下の転舵点を結んだ仮想軸の角度の事を指し、キングピン軸延長線の路面交点とタイヤ接地中心からの距離をキャスタートレールという。
殆どのクルマのキャスター角度は後に傾いていて、キャスタートレールによってキングピン軸上には常に復元モーメントを発生させており、これが直進性を高める事になっている。
ただ、キングピンオフセットを小さくする為にキングピン傾斜角を大きくした時に発生する悪影響の解消と直進安定性を増す為に、キャスター角度を過大にするとキャスタートレールが大きくなってセルフアライニングトルクが増大し、ステアリングが重くなってしまう欠点が出て来る。これを防止する為にはキングピンを車軸に対して後方にオフセットする必要が出て来る。
そこで登場したのがフォアラウフ配置だった。
フォアラウフ配置とは、前輸を横から見たときにホイールセンターより後方にオフセットしたキングピン軸配置を指すモノで、大きなキャスター角でキャスタートレールが大きくなりすぎない設定にしたいとき採用する。
多くのクルマがこの配置を採っている。
逆にナッハラウフ配置とは、前輪を横から見たときにホイールセンターより前方にオフセットしたキングピン軸配置を指す。車輪に復元力を与えるために小さなキャスター角で大きめのキャスタートレールを確保したいときに採用する。
この方式はステアリングの応答性に優れるというメリットがある。
どちらも図を参照にしてほしい。
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◎キャンバー
タイヤとホイールを前(あるいは後)から見た時に、路面に対して立っている角度をキャンバー角度という。
タイヤをしっかり路面に接地させる為には、あらゆる走行状態で最適な対地キャンバーが要求される。
クルマがロールしてもタイヤは傾かず、路面に対して垂直に保たれるのが理想的である為、ロールが深くなるにつれて対車体キャンバーが変化するようにサスペンションは設計されている。
サスペンション形式によって、この辺の自由度は違っている。
クルマを前(または後)から見て、下側が広がって立っているものがネガティブキャンバーで、逆に上側が広がっているのがポジティブキャンバー。
実際は図のように見て分かるほど極端に広がっているわけではなく、0度から3度の範囲内で角度が付いている。
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◎トー
タイヤを上から見た時の左右の整列具合をトーと呼ぶ。
前が狭いのがトーイン、逆に後が狭いのがトーアウト、全く付いていないのがトーゼロとなる。
多くのクルマが静止状態で0mmから2mmの間で設定されている。
直進性やハンドリングに大きく関わってくる重要なアライメント要素である。図を参照。
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◎バンプステア
サスペンションがストロークするとキャンバー変化もあるが、トーも変化している。
これはナックルに取り付けられたアーム類やタイロッドなどが円運動で動く為に、サスペンションのバウンドやリバウンド時に長さの違いや取り付け位置の違いによって発生するモノである。
中にはブッシュの撓み等で意図的に動かすものも存在する。
図はタイロッドが後付けのストラットタイプだが、バウンドするとキャンバーはネガティブに、トーはアウトに変わっていくセットアップだ。
このように、クルマはロールセンターやサスペンション•ジオメトリーだけ見ても色々と細かいセッティングがある事がわかる。
今回は入門編であるので触り程度だが、まずはココを知らないと何も見えて来ないし分からない。
クルマの足回りをイジるなら、あぁしたいこうしたいの前に、まずは足回りの基礎知識を理解するといいと思う。
そうすれば、単純に車高調でベタベタに車高を下げるだけというのが、如何に危険で馬鹿な事であるのか、よく分かるだろうからなww
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