この記事は、
ステレオとモノラルは違う音 について書いています。
しょうがねぇなぁww(;^ω^)
ここ数日、車内で
ジャクリーヌ・デュ・プレというチェリストの全集 を聴いています。
ご存知の方も多いと思いますが、
デュプレ は若くして難病の多発性硬化症を患い、16歳から26歳までの10年間しか満足な演奏活動を行うことができませんでした。
しかし、その熱情と力強さ、瞬発的な即興性に満ちた演奏は、多くの人々に愛され、残された録音は今も愛聴されています。
ジャクリーヌ・デュ・プレの半生は
映画 にもなっていますし、その名前を冠したバラの品種もあります。
そんな彼女の演奏の中から1曲
ベートーヴェンのチェロソナタ
1970年8月のエジンバラ音楽祭でのライヴ録音
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これは伴奏者で夫のバレンボイムのインタビューとドキュメント風の動画ですが、リマスターされたCDはずっと音質が良いです。
もちろん演奏も素晴らしいんですが、50年以上前の録音にもかかわらず、ライブ録音で観客のノイズが気になる部分もあるが、EMIらしからぬ非常に生々しい良い音だと思います。
EMIの録音(特に70年代後半から80年代のアビー・ロード・第一スタジオでの録音)は、時に作為的な程に音質に手を加えられているように聴こえ、クラシックファンの間ではあまり評判がよくありません。
彼女の活動期間の初期にはモノラル録音もあり、この全集CDの中にはモノラル録音とステレオ録音が混在しています。
例えば、バッハの無伴奏チェロ組曲1962年のEMIのスタジオ録音はステレオですが、カップリングされているヘンデルはBBCの放送用モノラル録音です。
私は若い頃から、フルトヴェングラーやトスカニーニといった戦前の指揮者のSP復刻盤を聴いていましたので、モノラル録音にも慣れています。
ですから、聴いていて「あっ、これはモノラルだな」と気づきます。
モノラルとステレオの本質的な違いについて、視覚に置き換えて説明をしてみましょう。
三角測量 というのをご存知でしょうか?
これを人間の目に当てはめてみると、Aが左目でBが右目、目と目の間の距離がXとなります。
それぞれの目で見た画像がこうだとして
私たちはPにある物を取ろうとする時、2つの画像の情報から、Pまでの距離を瞬時に正確に計算して、手を伸ばしてPにある物を取ります。
これはなかなか凄い能力だと思います。
聴覚でもだいたい同じことをしていて、右の耳と左の耳で聞いた音の音量差・時間差・位相差を感じて、音源の方向や距離などを感知します。
しかし、光と音の性質の違い、伝播の仕方の違いにより、視覚ほど正確な情報は感知できません。
ここで分かるのは、目も耳も左右2つの情報の違いにより、方向や距離などを感知しているということです。
片眼しか使えないと距離感が分からなくて、うまく物を捕まえられません。
片目で見ている状態がモノラル・両眼で見ているのがステレオと考えれば分かりやすいと思います。
ミキシング というのは、モノラル+モノラル+モノラル+モノラル・・・・で、ステレオ的な音を作る技術を差す場合もあるようです。
しかし、モノラル録音には左右の音量差・時間差・位相差などの情報が欠落しているので、いくつモノラルを足しても、左右に分割して配置しても、本来の音源が持っている立体的な位置情報は生成できません。
それでは、ステレオ録音はモノラル録音より、方向や距離などが良く分かるのでしょうか?
ステレオで録ったボーカルとモノラルで録ったボーカルを比べてみましょう、
ステレオ
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ザビーネ・ドゥヴィエル マーラー/交響曲第4番
モノラル
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カメリア・ジョルダナ バルバラ/九月(なんと美しい季節)
自分が普段聞いているような曲で、あまり良い例が無かったんですが、こんな感じでしょうか。。。。
ステレオで録ったヴォーカルは、ふわんと広がった声というか響きがあって、歌手の立ち位置がどこなのかイマイチはっきりしません。
モノラルで録ったヴォーカルは、声そのものがクリアに録れていて、定位もど真ん中で芯がある感じに聞こえます。
つまり、モノラルで録ったヴォーカルの方が、定位(すなわち音源の位置)がはっきり分かります。
先ほど視覚に例えて三角測量まで持ち出した説明とは逆の結果になってしまいました。
どういうことでしょうか?
答えは簡単です。モノラル録音で録ったヴォーカルは、ミキシングで定位を作っているからです。
ミキシング用語で定位の事をパンというそうです。ヴォーカルは真ん中に、ピアノはちょっと左奥にパンするという言い方をするようです。
モノラル録音で録った音をミキサーで配置する方が、定位を作りやすいそうです。
対して、ステレオ録音の方は定位を作るようなことはしていません。
音楽が演奏されている場、つまり音場空間をできるだけそのまま切り録ります。
クラシックの演奏者たちは「音を遠くへ飛ばす」「ホールの一番隅まで響かせる」事を目指しています。
ですから、ほぼクラシックしか聴かない私は「定位」という物を、あまり厳密に考えていません。
演奏者一人一人の立ち位置が正確に分かり、一つ一つの楽器がクリアに聞こえ、情報量の豊富な録音が良い録音とは言えない場合もあるのです。
モノラル録音は、空気の振動である音そのものを録っている。
ステレオ録音は、音楽が演奏されている空間を録っている。
そんな風に私は考えています。