紅の・・・

お話し？

そうだな・・・あれは戦争の最後の夏だった。

俺たちは、いつものパトロールに、イストリアを目指して　アドリア海に出たんだ。

俺の横を、ベルリーニが飛んでいた。
古い仲間でな・・・・　
ヤッコサン２日前　結婚したばかりだったよ。

俺が、立会人になって、結婚式（しき）をあげたんだが
休暇が足りなくて、その足で　戦場へ、
とんぼがえりしたんだ。

まわり中、敵も見方も　ハエの様に落ちていった。

俺は、手練の　３機に追い回されてな
仲間に、気を配る暇もなかったよ。

そのうちに、味方は俺だけに　なっちまった。
それでも奴らは、やめねぇ～んだ。

死物狂いで　逃げ回ったよ。

手も足も、しびれてきて　目まで眩んできやがってなぁ～
もぉダメだ！って、思った。

その時だ。　突然目の前が真っ白になっちまった。

『真っ白？』

あぁ～　光の中と、言った方がいい。
妙に明るいんで　雲の中だと気がつくまでに、ずいぶん時間がかかったよ。

俺は疲れきっていて　操縦する気力も残っていなかった。
それなのに、飛行艇（ふね）は、勝手に飛んでいくんだ。

雲の平原を　音も無く　滑るように進んでいた。

『雲の平原・・・』

あぁ・・・やけに静かでな
空が、本当に綺麗だった。

ずーっと　高いところを　
不思議な雲がヒトスジ流れていてな・・・・

ゴーグルを外して、その不思議な雲を見上げてた。
よく見ると　それは　数え切れないほどの飛行艇で、雲のように悠然と流れていくんだ。

雲の平原の中から・・・　そう、水中から現れるように
ヤラレたはずの、飛行艇が　次々と現れた。

その中に、ベルリーニの飛行艇（ふね）を見付け、俺は、とっさに叫んだ。
『ベルリーニ！無事だったのか！』

奴は、こちらに気付く様子もなく　上へ飛んでゆくんだ。
『ベルリーニ！待てっ！何処へ逝く！』

ほかの奴らも、俺に気付く様子はなく、ただ
音も無く、静かに　上空の雲へ飲み込まれてゆく飛行艇たち

『ベルリーニ逝くな！　ジーナを　どうする気だ！』

必死に、奴を止めた。
『俺が代わりに逝く！・・・・』

俺は、雲の平原に沈んでゆく。

どれだけ時が流れたのか分からないが、
気が付いたら　海面スレスレを　俺だけ独りで飛んでいた。

『神様がまだ来るなって言ったのね』
へっ・・・俺には、お前は、ずっとそうして一人で飛んでいろ！って言われた気がしたがね。

『そんなはずはないわ！ポルコはいい人だもの！』
良い奴は、死んだやつらさ。
それに、あそこは　地獄かもしれん。

さっ！　お話は終わりだ。
寝てくれ。

ジャンク屋のヤロウ、サビ弾よこしやがった。

『私し、ポルコが生きて帰ってきてくれて嬉しい』
『私し、ポルコ好きだもん』
『おやすみ！』