
大韓航空007便の録音開始10分後からミサイル被弾直前までを訳してみて、まず注目したのが18:04:55から18:07:48まで007便と015便が風向きについてやりとりをしていて、015便が風速35ノット40度方向の追い風を受けているとしたのに対し、007便が215度の向かい風を受けているとした点です。
ニューヨーク発アンカレッジ経由ソウル行であった007便から、15分遅れでアンカレッジを離陸したロサンゼルス発アンカレッジ経由ソウル行の015便の風向きのデータが通常であれば、大きく異なるはずはありません。実際には007便が航路を500㎞以上逸脱していたので(撃墜地点での最終的な航路逸脱距離は674㎞)風向きのデータが全く異なっていたのですが、これを受けて18:05:05の「こうなった理由(The reason why to do this)」続いて18:05:55と57の2度「彼は我々の前にいるのでは?(Is he ahead of us?)」と呟いています。この呟きの発言者は明記されていませんが、おそらく夜明けの時間の疑問を示した副操縦士だと思います。この後、18:07:28に「彼を先に行かせましょう。015便と我々のノッカ通過が同じ29分頃となってしまいます。彼を先に行かせましょう」と発言しています。この事から、少なくとも副操縦士は007便と015便との位置関係に疑問を持っていたようです。
しかし、015便から高度を35,000フィートへ上げる事を提案され、高度上昇の操作が爆発直前まで続きますので、015便を先行させるやりとりは記録されていません。また、18:04:20に015便との通信で「ノッカ通過予測は18:20乃至18:25」と発言していますが、007便はノッカ通過の報告をしていません。ノッカは北太平洋航路を通過する旅客機が必ず行わなければならないチェックポイント報告なので、高度上昇操作中にノッカを通過したので上昇操作が終わってから報告しようとしたか、報告しようとした際に、中華航空312便の交信が入ったので、それが終わってから報告しようとしたかのいずれかだと思います。いずれにしても、ミサイル攻撃がなければノッカ通過を東京通信局へ報告したはずです。また、18:15:21に「何て事だ!無線がひどく調子悪い(Oh myGod!This Radio is very bad)」と発言されていますが、これは無線の不調では無く、航路逸脱により距離が離れた事によって無線が通じ難くなっていたのだと思います。
最後にボイスレコーダーを訳してみて全体の個人的な印象ですが、007便のクルーに明確な異常は無かったと思います。確かにコクピット内や015便と私的な会話や雑談をしていますが、国際線で長距離を飛行中、慣性航法装置INS(通常オートパイロットとされる装置)を作動させてしまえば、定地点報告を行う以外特にやる事はありません。乗客は映画を見たり、音楽を聴いたりできますが、パイロットはそうはいきません。日本の飛行機会社のパイロットが書いた手記やエッセイを読んでみても結構国際線長距離の飛行の際は色々雑談しているようで、007便のクルーが私的な会話や雑談をしていたとしても、それを非難する事は出来ないと思います。また、015便との会話が多いのも、同じ航路を同じ時間帯に飛行する以上空中衝突防止のため速度と高度は頻繁に伝えあう必要(この頃の旅客機にはまだ衝突防止装置TCASは実用化されていません)があったと思います。柳田邦男氏も「撃墜」の文中で言っていますが007便のクルーは居眠りしていたわけでも無く、真面目に操縦していたのだと思います。ただ、何処かで決定的な誤りがあったのでしょう。
原因として考えられている三つの説①慣性航法装置INSの緯度経度のデータインプットミス。②離陸後INSへの切替わらず、ヘディングモード(方位のみ一定で飛び続ける自動操縦)で飛行した。③INSを起動させる際に機体が停止した状態で行わなければならないのを、何らかの理由で機体が動いたままで起動させた。以上のいずれかとされています。ICAO(国際民間航空機関)報告でも原因は特定出来ず、INS関係とヘディングモードの両論併記としています。私は注目するのは、ノッカ通過予測時刻と風向きを報告している点です。747にはINSを3台搭載しており、通常No.1現在位置No.2次のウェイトポイントまでの距離と時間No.3風向・風速を表示させる筈です。ただ、これは明確に決められているわけでは無いので、何を表示させるかは乗員次第ですが、ウェイトポイント通過予測と風向きを報告している以上、INSは通常の表示をさせていたのではないでしょうか。「現在地は北緯○○度××分東経△△△度□□□分」と現在地を明言する音声が残っていたら良かったのですが。副操縦士が夜明けの時間や015便との位置関係に疑問を持ちつつも、それ以上追及しなかったのは、INSの現在地が正常な数値を表示していたからではないでしょうか。インプットミスやヘディングモードの場合はINSに異常な表示が出る以上、自分も柳田邦男氏と同じく③のINSを起動させる時に機体を動かしてしまい座標軸がずれた事で航路逸脱したとする説が一番有力だと思います。ただ、これも可能性の問題であり、実際の操縦がどうであったのか、007便のクルーが全員死亡しているので確定させる事は出来ないと思います。
最後に犠牲となられた269名のご冥福を心よりお祈り致します。
なお、国際線の機内の様子については元全日空国際線747機長であった内田幹樹氏の著書を参考にさせていただきました。
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2010/10/27 21:48:23