銀の匙/中勘助

生まれてから17歳までのことがとりとめもなく書き綴られていて、文章はそれほど上手くないというか技巧もなくぎこちないんだが、不思議と惹きこまれてページをめくっていってしまう。

幼少年期もっぱら叔母の手で育てられた身体の弱い臆病な少年は、物心ついたときから周囲の人たちと馴染めず、人と接すればいじめられたり嫌なことばかりで「生きもののうちでは人間がいちばん嫌いだった」

小学校へ入るのも当初かたくなに拒んでいたが、いったん学校というコミュニティに入ってしまえば否応なしに先生、同級生、ほか周囲の人たちと接するようになる。
相変わらず臆病で人に対して不器用でどうしてよいかわからず嫌なことも多いんだが、次第に他人に対して興味を持つことや、それにともなって嬉しく思うことも多々起きていく。

16歳の頃には、かつてひ弱で臆病だった少年は、いろいろな出会いや別れ、嫌なこと嬉しいことのなかで少しだが以前と変わっていた。
「私にとっては知らない人間はすなわちきらいな人間である」
人間が嫌いなことには依然変わりないんだが、出会って大切に思う人もいくらかいる。

幼少年期から唯一、一方的な愛情を少年に注いでくれていた叔母との別れが近づく。
この時には少年はもう大切な人との別れがいつかあることも、これから先にまた何か今は知らない出会いがあることも知っていた。