
1980年代に講談社が発行していたコミックシルクロードのうちの1編を、最近ゴマブックスが再発行したもの。
王昭君は中国が漢の時代(紀元前1世紀頃)、後宮にいた絶世の美女だが、当時後宮には何千人もの女性がおり、皇帝も後宮にいるすべての女性を知っているわけではなかった。
当時漢と度々対立していた匈奴の単于(統率者)が友好のしるしとして後宮の女性との婚姻を希望し、皇帝は後宮の女性の似顔絵から醜いものを選ばせたが、いざ皇帝と単于の眼前に呼び出されたのは、絶世の美女、王昭君だった。
匈奴の単于は大喜びし、皇帝は激しく後悔する。
他の女性が似顔絵の絵師に賄賂を渡し美しく描かせたのに対し、王昭君は絵師に賄賂を贈らなかったために醜く描かれてしまい、このような事態になった。
王昭君は護衛に護られ馬上の人となって、遠い匈奴へ嫁いでゆく。
悲劇的な運命の女性として、その後長いあいだ中国・日本で盛んに詩や絵画の題材になったが、実際は「似顔絵から醜い女性を選ばせたら、絶世の美女の王昭君だった」というのは、漢の後の晋の時代にいろいろな逸話を小説に近い形で集めた『西京雑記』による創作らしい。
確かに現実的に考えれば当時、漢は200年以上も匈奴と抗争を続けており、力関係も対等、その匈奴との友好を図り対立を解消するための婚姻という、外交的に極めてシビアな局面で醜い女性、しかもそれを似顔絵で選んでしまうというのはあり得ないように思う。
このように有名な逸話のわりに創作の要素が強くリアリティが低いため、この漫画でも内容の持って行きかたに苦心した様がうかがえる。
割りきってフィクションとして面白く読ませる方向だが、ここで王昭君を匈奴まで送る護衛として陳湯が出てくる。
陳湯は王昭君とほぼ同時代の人物だと思うが、実際はかなり有能な将軍なので、匈奴の地まで花嫁を届けるというような、ある意味危険度の少ない任務をやることは考えにくい。
その陳湯でググってたら、陳湯が西方の匈奴を攻略していた際に、金髪、赤髪、碧眼で密集隊形をとる重装歩兵と交戦しており、これはローマ兵ではないか?という説を見かけた。
ローマ帝国が現在の中東にあったパルティアを攻めた際に逆にパルティアによる包囲殲滅作戦を受けて壊滅したんだが、西方への退路を断たれたローマ兵の一部が東進した結果、中央アジアまで勢力を伸ばしていた匈奴と遭遇し、傭兵として組み入れられていたのではないか、とのこと。
こちらはけっこう途方もないが、わりと現実味の高い話だと思っている。
Posted at 2022/01/07 08:13:31 | |
トラックバック(0) |
漫画 | 趣味