
スタンリー・キューブリック監督によるホラー映画。
キューブリックはユダヤ系アメリカ人だが、映画業界内のしがらみを嫌い、イギリスに定住してハリウッド資本の映画を撮るというスタイルで、しかも極度の飛行機恐怖症のため、アメリカ本土に出向くことはめったにない。
こうした理由からもっぱら娯楽偏重に流れていったハリウッド映画とは立ち位置を異にしている。
この映画は冬季に孤立したコロラド州・ロッキー山中のホテルを舞台にしているが、キューブリック本人がアメリカでのロケを行ったかはわからない。
作中の雪に覆われた光景は、多くは雪のかわりに塩を使用している。
また撮影に同行したキューブリックの娘がのちに「『フルメタル・ジャケット』は暑い地域のシチュエーションが実際は寒いのをごまかすのに苦労したが(『フルメタル・ジャケット』後半の舞台はベトナムだが実際はイギリスでロケを行っている)、『シャイニング』では撮影中、雪景色なのに暑さで汗だくになるのをごまかすのに苦労した」と述懐している。
「完璧主義者というより完全主義者」と評されるキューブリックのこの映画でのロケは丸一年に及んだ。
冬季だけ雪で閉鎖するホテルの管理人を任された父、母、幼い息子の三人家族のうち孤独な環境が生活へのプレッシャー、アルコール依存を進行させてしまった父親の精神をおかしくしていき、家族への殺意を芽生えさせる。
しかし父親の異常は本人のせいだけではなく、ホテルそのものに漂っている「悪意」「害意」から引き起こされている。
この漂っている「悪意」「害意」を『シャイニング』という見えないものが見える能力を持つ幼い息子は敏感に感じ取っている。
このホテルではかつて凄惨な殺人事件があった。
「たとえばトーストを焼いて食べれば、完全にその場からトーストが消えるわけではない。しばらくは焼いたトーストの匂いが存在して漂っている。このホテルの状況も同じだよ。君も私も『シャイニング』だからこのホテルの見えない異変を感じとってるんだ」
序盤に家族へホテル生活の引継ぎをして去った黒人料理長は幼い息子にそう説明している。
あとの展開はひたすら怖い。
ふつうホラー映画って怖いんだけどちょっと笑えるようなとこあるじゃない。
ゾンビ映画とか特に「なんでやねん」みたいな。
そういうの一切なく凄惨な映像が断片となって繰り返し現れる。
そのことによって凄惨な結末を観る者は予見させられるが最後は…。
ところでこの映画でいう『シャイニング』ってごくフツーの人にももともと少し備わってるんじゃないかという気がする。
たとえば営業職、接客業だったりする人は顧客との交渉において「理屈とカンが相反して迷った場合は自分のカンを優先する」ということが経験則としてないだろうか。
仕事だったりで神経が研ぎ澄まされているときの「カン」というのは侮れず、だいたい正解であることが多い。
理屈のほうはあとからついてきたりついてこなかったりするが、理屈がわかると後日になって「あ、なるほど」と腑に落ちることがある。
そういえば私もこのあいだ、横浜市内の一般道で深夜1時にトラックを走らせてたら信号待ちの停車中に「○○まで乗せてくれないか」というおっさんがいたが、なんとなく違和感があり即座に「無理だよ」と言って、信号が変わると同時にブッブーとトラックを発進させた。
都会の横浜市内だと深夜とはいえ知らない人に「○○まで乗せてくれ」と言われること自体はまれにある。
違和感はなんだったんだろうな、というのはしばらく走らせてから気づいたが、そのおっさん、助手席側から私に話しかける前にいったんフロントガラスのほうに回り私の顔をのぞきこんだ。
普通の人は停車中とはいえクルマの前、ましてやトラックの前には立たない。
運転席の私の様子を確認したか、あるいは「悪意」のある人間特有の世の中、他人をどこか舐めた態度からそういう行動をとったのではないかと推測するが、理屈よりは違和感でその男を避けた。
おっさんを乗せてた場合は結果、なにかあったのかなかったのか、それはわからないが、私のなかの『シャイニング』が発動したと思っている。
Posted at 2023/05/15 03:52:37 | |
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