
とりわけ若い頃の話だが、人生というか生業というか、そういうものが例えばでっかい歯車的なものとして、これはいったん動き出せばあとはそんなに難しくないんだ。
ただこのでっかい歯車的なものが最初のうちは押せども引けどもビクともしねー。
みんカラにいる人はおおかたもう中年だろうから忘れちゃってるだろうが、若い頃を振り返るとこの押せども引けどもどうにもなんねー的感覚をたいていの人は経験してるんじゃないだろうか。
さて私がごく若い頃、そんな感じで日々何とも言えない閉塞感を抱いていたが、ふとTVをつけた時に見たメジャーリーガー。
日本人だった。
大きく伸びあがるようにグラブを高々と上げ、それからくるりと打者に背を向ける。
トルネード投法と呼ばれ、ストレートとフォークしか投げない。
夏の暑い日に陽炎が、これは部屋から見える景色に立ちのぼっていたのか、ブラウン管の向こうがわの遠い、自分のいる地点とは限りなく遠い場所で行われているデーゲームのグラウンドから立ちのぼっていたのか覚えていないが、陽炎とともに飄々とマウンドに立っている男を私は見ていた。
その男がとりたてて何か言ったわけではないがその背中から、窮極の場面ではこれはもう手練手管ではなく真っ向勝負しかないことを私は知った。
野茂英雄。
あれはもう名前どおりのヒーローだったね。
ただそんな誰もが知ってるヒーローばかりじゃなく、人生のいたるところで特に名前の知られてないヒーローというのは介在してきてるはずなんだ。
それは人によって小学校時代の担任の先生かもしれないし、電車でたまたま隣に座った名前も知らない人物かもしれない。
まあ他人の人生をふとしたことでぐいと日の当たる方向に曲げてくれる力を持っている人物というものは、案外身近にもいるものだ。
この漫画の主人公である医師もそういう男で、鹿児島県甑(こしき)島(現在の薩摩川内市)に実在した医師をモデルにしているといわれる。
離島医療に従事して無名だが、卓越した実力を持っている医師として描かれている。
ただ、卓越した実力を持っているだけじゃとくだんヒーローってことにはならないんだ。
他人の人生をぐいと日の当たる方向に持って行く力。
これはもう資質というか、なろうと思ってなれるものでもないだろう。
現在連載が中断され未完となっているが、再開の気配がないまま、もう長い年月が経っている。
Posted at 2022/04/15 03:36:37 | |
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