
小川未明は日本の童話黎明期の作家。
幻想的な話のなかでなにか大事なことを伝えようとしてる気がするんだけど、どういった内容?というと、なんとも要領を得ないというか、表現しづらいといった話が多い。
代表的なものを二つ。
〇赤いろうそくと人魚
ある北海の暗い海に身重の人魚が棲んでいた。
あまりにも海は寂しいので、これから生まれる子供がかわいそうだと思った人魚は、陸の人間に生まれてきた人魚の女の子を託す。
人間はこの世のなかでいちばんやさしいものだと聞いている。
娘を明るく楽しい地上でだいじに育ててくれるに違いない。
ー人魚の娘は子供のいない、ろうそく屋のおじいさんとおばあさんに可愛がられ、すくすくと育った。
おじいさんとおばあさんの恩に報いようと人魚の娘はろうそくに魚や貝の絵を描き始める。
そのきれいなろうそくをもつと、海難に遭わないと評判になりろうそく屋は繁盛する。
しかし噂を聞きつけた行商の口車に乗って欲の深くなったおじいさんとおばあさんは、人魚の娘を売ってしまう…。
売られてゆく間際、ろうそくに絵を描く時間のなかった人魚の娘は、最後にろうそくを真っ赤に塗る。
その日の夜分、その赤いろうそくを買いもとめにきた見知らぬ女があった。
…以降、海は荒れてもとに戻ることはなく海難事故が続き、その海辺の町はすっかり廃れてしまった。
〇野ばら
大きな国と小さな国とがあり、それぞれの都を遠く離れた辺ぴな場所の国境でひとりづつの兵士、老人と青年が国境の警備にあたっていた。
国境は野ばらが咲き、それに蜜蜂が群がるのどかな場所だった。
老人と青年はほかに話し相手がないので話をするうちにすっかり仲良くなってしまい、のどかな天気の日には外で向かいあって将棋を指しながら過ごしていた。
大きな国と小さな国との間で利害関係から戦争が始まった。
小さな国の青年は北方の戦地へと向かった。
大きな国の老人は辺ぴな国境にひとり残った。
…時が流れてある旅人がその国境を通りがかったとき、老人はたずねた。
「戦争はどうなりましたか?」
「大きな国の勝ちで戦争は終わって、小さな国の兵士はみな殺しになったよ」
旅人は答えて去っていった。
…老人はうつらうつら居眠りをしていた。
遠くから一列の軍隊が粛々とやってきて指揮官は例の青年であった。
その軍隊が老人の前を通るときに、青年はこちらを見て黙礼し野ばらのにおいをかいだ。
…老人は目が覚めた。そして、しばらくして故郷へと帰っていった。
Posted at 2024/10/10 07:16:43 | |
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