
『琵琶伝』、『海城発電』とも泉鏡花のわりと初期の短編です。
泉鏡花って世間に対して斜に構えてるどころか、もう完全に背中向けちゃって取りつくしまないよね、ってイメージだったんですが、この頃の作品は奇想天外、荒唐無稽なストーリーを絢爛な文章で書いていて、ドラマチック過ぎるんじゃないか、という気もしますが、「若いなあ」と勢いを感じ、これはこれで魅力があります。
泉鏡花って『金色夜叉』の尾崎紅葉の弟子ですから、初期に関しては内容・文章ともに尾崎紅葉の影響が出ています。
当時は文壇も徒弟制度が色濃かったんでしょうか。
ちなみに熱海に『金色夜叉』の貫一・お宮の像があって、あれ見て恋人間DVとか明治って男尊女卑だったんだなとか勝手なこと思ってたんですが、最近『金色夜叉』読んだら全然そんな内容じゃなかったですわ。
男女の哀しいすれ違いっつーか。
『琵琶伝』
幼馴染の男女がいつしか相思相愛になり、ふたりにはどこか幼さもあるんですが、長じて女のほうは親の決めた許嫁に嫁いでしまい、引き離されてしまいます。
徴兵されていた男は帰郷の折に女に逢いに行くが、帰営に間に合わなくなり脱営とされ、銃殺される。
女は夫に連れ出され、その光景を見せられる。
タイトルの琵琶というのはふたりが飼って可愛がっていたオウムで、ふたりが別れたあと空に放たれてたんですが、夜空に飛び、ふたりが仲良かった頃に覚えていた言葉を発す。
『海城発電』
日清戦争中に清国の捕虜となっていた日本の赤十字社の看護員が釈放されますが、今度は日本軍の尋問を受けます。
「敵軍の状況を見てきただろう。言え」と。
看護員の男は「自分は日本軍ではないし、赤十字社の社員なのだから、職務でない以上、見てないし知らない」と言います。
日本軍の士官たちは「それでも忠君愛国の情があるのか」と罵り騒ぎます。
士官たちは「敵に情が移っていただろう」と、清国の娘を看護員の前に引き立てます。
上記二作とも日清戦争、富国強兵の時期で、狂騒して「万歳!万歳!」騒ぎ、一緒になって騒がない人間を「不忠不義の非国民がー!」と罵倒する民衆に泉鏡花が「はあ?くっだらね」と思ってたことは容易に想像つきますが、この頃はまだなんだかんだ言論は自由な空気だったんですよね。
時期が下って太平洋戦争中なら検閲で絶対ひっかかって発行できない内容ですからね。
ちなみに太平洋戦争中に出された泉鏡花全集にはこの二作は入ってません。
もちろん泉鏡花のことですから反戦思想とかではなく、「威張ったヤツ嫌い」「弱く優しいものへの共感」ってのが透けてうかがえますが、そういうストレートにヒューマニズムが出てくるあたりに「泉鏡花も若い頃あったんだなあ」と感じます。
Posted at 2020/05/07 02:16:19 | |
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