
『封神演義』は中国・明代に成立した、悪政を行う殷王朝を太公望(姜子牙)率いる周が倒し新たな王朝を開くまでを扱った小説。
仙人、妖怪が各々の軍に属したり与したりして超常的な戦いが繰り広げられ、史実を扱うというよりは幻想小説の趣が強い。
この偕成社版は偕成社が児童向け出版社ということもあり、わかりやすい文章をきれいな挿絵とともに読める内容となっている。
『封神演義』は中国国内での人気に較べて日本では『西遊記』『三国志演義』『水滸伝』が古くから人気を得ていたことにひきかえると、ほとんど認知されてこなかった。
脚光を浴びたのは安能務が1989年にリライト小説を発表し、藤崎竜が1996年からそれをベースにした漫画を少年ジャンプに連載してからである。
この『封神演義』偕成社版も刊行は1998年。
日本で受容されてこなかった理由として読んで感じたのは、まず内容が単調であること。
基本的には西方の周軍が東方の殷王都に向かって進軍していくだけで、途中波乱がなく、最終的に周が殷を倒すことはわかりきっているので途中で飽きてくる。
また哪吒はじめ登場キャラクターが仏教系など殷周時代の中国に登場すると不自然に感じるものが多く、整合性がなく荒唐無稽な内容となってくる。
そう考えると、私が読んだのは他に藤崎竜の漫画、それと横山光輝が同時代を扱った『殷周伝説』だが、いずれも原本をベースによく練りなおしていたことがよくわかる。
たとえば殷・紂王の息子で母を死に追いやられ殷の追手から山中に逃亡した殷郊・殷洪兄弟は原本では単純に太公望をねたむ申公豹にそそのかされて周に敵対するだけだが、藤崎竜のものでは悩みつつ「自分の国を見捨てられない」と周軍の攻撃を始めた兄・殷郊を、弟・殷洪が戦いのさなか、止めに入る内容となっている。
横山光輝『殷周伝説』では殷郊・殷洪兄弟は山中の仙人にどうするか問われると「周がただしいとはいえ私たちが殷を滅ぼすわけにはいかないでしょう」と、それよりは山中で修行をしながら争いに巻きこまれず静かに暮らしていく決心をする(この展開はすごく横山光輝らしい)。
原本でことあるごとに太公望の邪魔をした申公豹は、藤崎竜のものでは最強クラスの実力者でありながら周・殷どちらにも与さないミステリアスな存在として描かれる。
横山光輝『殷周伝説』ではそもそも申公豹は登場しない。
Posted at 2024/12/20 08:51:08 | |
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