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主人公のプリマが、

徐々に精神を病んでいく様は、

痛々しく、
絶望的で、
哀しいのだけれど、

狂気に彩られた美と妖艶さは、
通常の精神状態のものとは根本的に別世界のものとなり、
その負の魅力で観る者を圧巻する。


ナタリー・ポートマン。


主演女優賞は当然の結果だろう。

端正な顔立ちに、
主人公ニナの生い立ちからくる絶望的な抑圧の影を浮かべ、

大きな瞳は、
いつもなぜか潤んでいるように見える。

本物のプリマのような鍛え上げられた肉体は、
もはや、女性という性の匂いを完全に消し去り、
まるで、彫刻のように完成された美しい芸術作品と言える。


人はだれもが自分の中にいくつかの自分を抱えている。

そもそも、
自分とは何なのか。

それは、
自分がそう認めただけの、
「自分とはこういう人間だ」と認識している、
あくまでも主観的なイメージでしかない。


臆病で、繊細で、貞淑なニナ。
大胆で、奔放で、官能的なニナ。
彼女の中の二面性。


親の歪んだ愛にがんじがらめにされ、
自分の中にある本当の自分を封印し、
母親の作りだした母親のニナを、
自分自身であると疑わず、
彼女は必死に親の期待にこたえようとする。

本当の自分は、
何を求めているかもわからないまま…。


現実と狂気が混在し、
観客も徐々にその境界を見失っていくほどの、
絶妙な演出。

「ファイト・クラブ」を思い出したが、
そちらよりも本作品の方がリアリティーがあり、
「ファイト・クラブ」にはなかった“狂うことの恐怖”を、
ニナとともに、観客はまさに体感することになる。

「ビューティフル・マインド」では、
統合失調症による幻覚を、かなり詳細に再現していたが、
本作品は、よりエンターテイメント性が高く、
テンポの良い脚本や、
緊張感のあるカメラワークや特殊撮影や編集により、
純粋に娯楽として楽しめる仕上がりになっている。


ラストの黒鳥の舞は、
あまりの美しさに息をのむ。


黒く艶やかな黒い翼は、
それこそがニナの本当の自分であり、
本当の美しさであったのかもしれない。


解き放たれた彼女の最後の笑顔は、
実に晴れやかで、輝かしい。


いろいろとまとまりのないことを書いてきたが、
とにかく確実に自信を持って言えることは、

本作品は、
大画面・大音響の劇場で、
圧巻のバレエの舞台シーンを堪能すべき映画だ、ということだ。