新型ステップワゴンの試乗を行ってきました。
グレードはeHEVスパーダプレミアムラインというトップグレードです。
今回いつもの試乗コースが大渋滞していたため
特別に自宅までのルートを試乗させていただきました。
お陰で自分のRP5型との違いがよく分かり、自宅周辺の狭い生活道路や駐車場での取り回しも確認できたので非常に有意義な結果になりました。
自分のRP5型や先日試乗したトヨタノアハイブリッドS-Zと比較してのインプレッションです。
◉良かったところ
・RP5型に比べ静粛性と滑らかな走り味が向上
乗り出してすぐに気付いたのはこの点で、頭周辺の外部ノイズの侵入や
エンジンルームからの雑音が巧みに抑えられていました。
登り坂を走るときやエアコン負荷が増えたときに発電のためにエンジンが掛かりますが
そのエンジン音は聴こえてくるものの、はるか遠くに搭載されているかのごとく
音量は小さく、アコードやヴェゼルより少し耳に届きやすいというレベルになっています。
もちろん高速道路での合流など全開加速に入った時の音量は定かではありませんが
一般道のスピードレンジでもエンジンが掛かった途端にノイジーな室内空間へと変貌する
RP5型に比べて明らかに快適性と上質感がクラスアップしています。
またゼロ発進時や中間加速時の動きもグワッとした俊敏性よりもじわじわと速度が
乗ってくる感じで滑らかに加速する様はより上級感が増していると思いました。
ではノアHVに比べてどうでしょうか
走り出しの軽快さは車重が70kgほど軽いノアの方がやはり勝りますし
グンッと前に出るEVっぽさを感じさせる演出に長けていると思います。
エンジンが頻繁に回るTHS2ですが、以前レポートしたように
エンジン音や動力分配装置のうなり音はかなり小さく抑えられていて
HVインジケーターがECOゾーンに入るや否やモーター走行に切り替わるので
意識的にEV走行に持ち込みやすいのは実はノアの方ではないかと思いました。
どちらも静粛性に関しては先代よりはるかに向上しているので
走行シチュエーションの差異はあっても甲乙つけがたいハイレベルです。
・軽めながらも手応えのあるステアリングフィール
あまりにもドッシリ重いオデッセイより軽く、拍子抜けするほど軽いノアより重い
RP5のステアリングフィールと同じ方向性の仕上がりで
少なくとも左右に切った時の手応えは感じることができます。
路面インフォメーションを逐次漏らさず伝えて来るような精緻なものでは無いのですが
何気ないカーブでもタイヤがそこにあるという反力が手に伝わってくるのは安心感があり、
かつ駐車場での切り返し時もRP5のようなゴムがよじれるような抵抗もなく
スムーズに回せるように変わっていました。
・全速度に対応したレーンキープアシスト
運転支援システムについてはノアに比べ先進性という面では見劣りしますが
片側だけでも車線を認識できますし、ステアリングアシストがいい塩梅で掛かります。
信号機のほとんどない田舎道を延々と走る場合などに役に立ってくれそうです。
水戸ICからツインリンクもてぎまでの道程などで試してみたいですね。
・アダプティブクルーズ中の減速からの停止や再加速が
より滑らかにかつ素早くなった
RP5に比べて前走車の認識が早く正確になったので、よりドライバーの意思に近い
車間距離と速度調整が可能になっているように感じました。
ただスバルのように再加速時の車間距離詰め具合の度合いまで
設定できるようになっていてほしかったですね。
・空調パネルの操作性が良くなった
ダイヤルがあるだけで直感的にブラインドタッチが可能になりました。
同じ様な形やサイズのプッシュボタンが並ぶだけのRP5やノアに比べ
明らかに操作性で勝っていると感じました。
またシートヒーターの温度設定が3段階になったのも
長時間運転時の腰痛対策に役立ってくれると思います。
ただやはりステアリングヒーターは装備してほしかったですね。
・サイズアップしてもRP5とほぼ変わらない取り回し性
新型は全長4800ミリを超え、車幅も1750ミリにアップしたため
自宅周辺の狭い生活道路や2箇所の直角コーナーでの内輪差、縦列駐車の要領で
停めなければならない自宅駐車場でクルマが最も斜めを向く所で
前に電柱、後ろに自宅の垣根がそびえるために
取り回し性の大幅な悪化を懸念していたのですが想像よりも小さな杞憂で済みました。
プレミアムラインは17インチホイールを履くために最小回転半径は5.7mと
他のグレードやRP5の5.4mはもちろん、ノアの5.5mよりも大回りになるのですが
直角コーナーへのアプローチを変えればクリアできることを確認。
駐車場に入れる時に斜めに向いた時は対角線上にギリギリのスペースしかなく
コーナーセンサーが鳴りっぱなしになりますが、慣れで解決できるレベルだと思いました。
ただマルチビューカメラ映像でバンパー前後に黒い影が出る
のはRP5と変わっていないので
ノアのようにシースルー表示やより進化した自動駐車システムなどが欲しかったですね。
◉悪かったところ
・視線移動が大きく、視認性の悪いメーター表示
RP5やフリードのようなダッシュボード上面奥に配置されたメーターパネルに比べ
ドライバーに近く、ステアリングホイールの隙間から覗くメーターは想像以上に
視線移動が大きく、表示内容が増え、フォントが細く小さくなったこともあり
運転中の視認性は明らかに悪化しています。
以前ファーストインプレッションで指摘したとおり、ミニバンのようなアップライトな
ドライビングポジションになるクルマにとっては全くもって相容れない設計です。
この点はノアも同様でヘッドアップディスプレイがOPで用意されているとはいえ
最上級グレードにしか装備できませんし、私は昼間の運転では偏光グラスを掛けるため
ヘッドアップディスプレイは見えなくなるので役に立ちません。
トヨタはかつてエスティマでダッシュボード上面奥にメーターを配置していたのに
現行のミニバンラインナップではシエンタのみになってしまいました。
ホンダも次期フリードまでこの様な人間工学的に無意味なレイアウトを行ってしまうのか・・・
・大画面感が感じられないナビ
11.4インチというノアの10.5より更に大きいナビ画面は表示も精彩で
老眼で近眼の私でも文字がくっきり見えるのは良いのですが
上部の黒帯部分は消すことができません。
無駄にでかい時計表示や現在地の詳細住所なんて常に表示する必要があるのでしょうか?
肝心の地図を全画面表示できないため、縦方向の表示面積が小さく
進行方向への道路状況の先読みやそれに伴うルート変更などの判断材料に乏しいという
大きな欠点があると思います。
北が上を向くノースアップも進行方向へスクロールするのも私は使いますが、
東西南北どの方向にも情報量は均等であるのが地図ではないでしょうか。
・日本の気候に合わないシート表皮
これはプレミアムラインのみの話ですがシート表皮がスエード生地になっており
体が滑りにくいのはいいのですが、とんでもなく蒸れやすいです。
試乗日が外気温29℃に達する夏日だったとはいえ車内はエアコンが効いていて
暑くも痒くもないというのに、背中や腰回り、腿裏などスエード面に接している部分は
試乗中にどんどん蒸れていくのが分かります。
いったん自宅に着いた所で車を降りて背中を触ると、汗でしっとりとしていました。
RP5の撥水撥油生地も織物とは思えないぐらい蒸れやすく暑いのですが
少なくとも前席はドライバーやナビにとって真の快適性とは何かをもっと重視した
吸汗速乾性に優れた素材や構造への変更か
シートベンチレーションの搭載を早急にお願いします。
それと400万オーバーに達するグレードならランバーサポートは内蔵してほしいですね。
・斜め前方の死角が大きい
開発側からの発表資料によれば車内側からの視界は向上したとのことですが
RP5から劇的に良くなったようには感じませんでした。
特に右斜め前の死角は車内側Aピラーのカバーが太くて
ノアに比べ大幅に劣ります。
せっかくフィットでピラーの配置と構造に工夫をこらし、剛性を犠牲にすること無く
視界良好なAピラー構造を実現したのに、
後発のモデルに全く活かされていないのが
開発部署ごとの縦割り構造が未だに残り
「ホンダのクルマかくあるべし!」になっていないのが残念でなりません。
・上下方向のみゴツゴツした固さのある乗り心地
これはノアの試乗でも指摘しましたが、路面の細かいうねりや段差、素材の異なるところを
通過した際の突き上げだけが悪目立ちするという現象です。
しかも時速50km以下で顕著に感じるところまで同じでした。
路面状況にもよりますが時速60km以上になればフラットな乗り心地に変わり
55扁平17インチゆえのドタドタしたバネ下の動きこそあれど、意外にも乗り心地は悪くないのですが、余計に低速域でのゴツゴツ感や足元の細かい振動が目立つのです。
先代というより4代に渡って改造に継ぐ改造を重ねてきたシャシーを使うステップワゴンと
完全新設計のTNGA世代に変わったシャシーのノアで
同じ様に低速域で固さを隠しきれない症状が出ているのは興味深いですね。
16インチホイールになるスパーダやエアーでこういった固さが解消できるのか
いずれ機会があれば確かめたいと思います。
・ゴォーーーーーーッ!!!というロードノイズが響く車内
ディーラーへの帰路は国道1号線を走ったのですが、速度が上がるに連れフラットな乗り心地に変わって行き「これなら17インチでも悪くないな・・・」と思い出した矢先に
タイヤが巻き起こすロードノイズのボリュームがどんどん大きくなっていきます。
装着されたタイヤはブリヂストントランザでRP5と同じ銘柄ですが
往路で感じた上質さや静粛性を全て台無しにするロードノイズの音量に驚きました。
RP5より向上した静粛性ですがタイヤハウス周辺やフロアからの侵入音への対策までは
そこまでお金を掛けられなかったのでしょうか?
国道1号でこれだと保土ヶ谷バイパスを走った日にはどうなることやら・・・
・運転席のスライドドアスイッチの操作性が悪い
運転席でのスライドドア開閉は予想通り改悪でしかありませんでした。
ドアスイッチを押そうにも通常のドライビングポジションでは全く見えません。
右下を覗き込んでも見えるのは右側のスイッチだけで手探りの操作では開閉を押し間違えるぐらいブラインドタッチで明確に違いが分かる形状にもなっていません。
これでは後方を確認しながらスライドアを開閉するのは難しく
何のためのパワースライドドアなのでしょうか?
後席に誰を乗せようがスライドドアの開閉はドライバーである私が行うように決めているので
開閉スイッチの操作性の良し悪しは非常に重要なのですが
世のミニバンユーザーは大して重要視していないからこのような位置に変更したのでしょうか?
・サングラスポケットの鏡が無くなった
旧型にもあったヘッドコンソールのサングラスポケットですが半開きの状態で固定でき
貼り付けられたカーブミラーによって後席の様子が分かるという
子育て世代にアピールする装備でしたが
私は左斜め後方の様子を確認するために使っています。
ブラインドスポットモニターが選べないRP5でルームミラーや
左ドアミラーの死角をカバーするこの鏡は隠れた功労者なのです。
新型で無くなったのは使わない人が多かったからか
コスト削減でミラーレスにしたのか分かりませんが
ここにサングラスを入れっぱなしにしたらルーフの熱で
サングラスがおかしくなったりはしないのでしょうか?
私が設計者ならここにもっと大型のマップランプか
パワースライドドアのスイッチを設置するでしょうね。
・欲しいボディカラーが無い
これは試乗とは関係ないのですが、クルマの購入において個人的に重要です。
身銭を切って買うからには好きな色を選びたいのが人情だと思うのですが
残念ながらスパーダもエアーも欲しい色が皆無です。
そういう時に私が選ぶのがシルバーメタリックなのですが
それすら設定が無いという始末・・・・・・・・
先日試乗したノアはレッドマイカが意外なほどに似合っていましたし、
ブロンズメタリックとダークブラウン内装は落ち着いた上質感が漂います。
セレナのオレンジやオーテックブルーも魅力的ですね。
しかし最近のホンダはメリハリに欠けたぼんやりした色ばかりが増えている気がします。
唯一、プレミアムクリスタルブルーは収縮色である青なのに曇天でもパッと目に入るという
濃いのに異常に彩度が高い発色が好きなのですが採用例が少ないのが残念です。
もちろん色は個人の嗜好が反映されますから周りのクルマにケチをつけるつもりは毛頭ありませんが、無彩色や暗色が大嫌いな私にとって選択肢が無いのは如何ともし難いです。
総評として
・フルモデルチェンジに期待する驚きや高揚感の不足
本来フルモデルチェンジでは旧型を超えるのが最低の条件ですが
RP5に比べその向上度合が大きなインパクトを与えるほどではありませんでした。
もちろん静粛性や乗り心地は確実に良くなっていますし
予約ドアロックやブラインドスポットモニターなど旧型では最後まで採用されなかった
便利機能や安全装備が標準化されているのは喜ばしいのですが
今更珍しいものではなくそこから更に先を行く「なにか」が無いのが残念です。
デザインだけは世の中のメインストリームに対するアンチテーゼ的で
シンプルな面で構成された立体物は個人的に大好物なのですが
むしろエアー1本で勝負できるほど工業デザイン的な魅力に達していないからゆえの
スパーダの併設としか思えません。
シャシーがキャリーオーバーなら動的質感の向上は旧型でもやろうと思えば
近しいレベルにできたのではないでしょうか?
便利機能も年次改良で十分追加できたはずです。
型式がRPのままという事実からもビッグマイナーチェンジかつ
最後の変身!!といった印象が拭えないのが正直な感想です。
最大の売りながらも戦犯にされたワクワクゲートを無くしてまで提供するものが
ただの電動テールゲートでしかもエアーにはリアセクションの寸法に収まらないから
採用できないというなんとも残念な設計・・・
私は電動テールゲートより手動で任意の位置で途中固定できる軽いテールゲートの方が
機能と金額の面からも1つのセールスポイントにできたと思いますし
むしろ見たかったのはワクワクゲートの進化版だったのですがね。
他にも旧型より良くなったのは自立するようになった普通のリアワイパーですが
どうせならN-VANのように上部に着けてくれた方がちりとりにならずに良かったのに・・・
と落胆せざるをえない工夫の無さにがっかりです。
現状のレベルでは購入するとしたらノアHVの方になるでしょうが
無理してまで乗り換えたいクルマかというとそれも微妙です。
今後の改良次第では大化けするポテンシャルはあるはずなので
ホンダにはたゆまぬ努力を怠らずに続けてほしいですね。