先週のことですが
ホンダeの試乗を行ってきました。
初期生産分は販売終了していて次期ロットを受注中とのことで
試乗するにはホンダのカーシェアに入会するぐらいしか手段はないかなと思っていたのですが
担当営業マンが気を回して手配してくれたので貴重な体験ができました。
私自身、EVを運転したのは日産リーフ新旧とBMW・i8、テスラ・モデルSとXの5種しかありませんが
いずれも航続距離を少しでも長くしようとしたEVでシティコミューターに徹した軽量コンパクトなEVは初めてのことです。
東京モーターショー以来に目の前にするホンダeはやはり見た目だけでも欲しくなるクルマだという思いを再び抱かせました。
世界的に小型車やベーシックカーでも昨今は他者を威嚇するような顔つきや全体のフォルムが攻撃的なデザインが増えた中で、とても異彩を放つ姿だと思います。
パッケージングを抜きにして4代目フィットもこのぐらいやった方がインパクトがあったのではないでしょうか。
座ってみて驚いたのがシートの取付け位置そのものが低いということです。
ホンダ小型車はセンタータンクレイアウトが共通コンポーネントだっただけに
前席フロアの高さは避けられなかったのですがEV専用プラットフォームが活かされた
シートポジションは新鮮な感じです。
ステアリングはフィット4と共通で一番握る機会の多い部分に表皮の継ぎ目があるのは個人的に大嫌いな手触りですが・・・
ドライビングポジションを決めて気になったのがシフトコンソールの角が左膝に当たりやすくて痛いという所と少々グラつきがあるということでした。
試乗コースは横浜市民なら一度は走るであろう環状2号線の一部を2往復しました。
走り出しての第一印象は心地よい硬さというべき乗り心地です。
45扁平17インチのミシュランパイロットスポーツという立派なスポーツタイヤだったので単なるエコ一辺倒なクルマで無いことは想像できましたが
乗り味の方向性としてシビックタイプRとの繋がりを感じさせる感触なのが如何にもホンダらしいなと思いましたね。
ポンポン跳ねるような硬さではなく、引き締まった脚という表現をされる類のセッティングなので不快さが積もる感じではないのですが、シティコミューターを名乗るならやはりもっとしなやかでソフトな乗り味の方が相応しいのではないでしょうか。
どうしてもこの味付けにしたいならホンダeをベースにしたスポーツカーを作るべきだと思います。
後輪駆動だけに上り坂での発進や加速時に明らかに後ろから押されるところや
タイヤ以外の抵抗を感じないステアリングフィールは実にスポーツ走行向きの素地を持っているのですから。
そしてEVならではの静粛性も驚くほど高く、現行の日本のホンダ車ラインナップで最も静かなアコードよりも静かに感じます。
理由はやはりエンジンが無いことでホンダの2モーターHVはエンジンが発電に徹しているとはいえ
予期しないタイミングでエンジンがかかり、意外とその音が聴こえやすいという共通点があります。
私もステップワゴンに乗り換えて3ヶ月、フリードより静かではあるものの流石に慣れてしまい
エンジン音が耳障りに感じてしまうようになりました。
ホンダeで一番音量が大きい走行音はタイヤが引き起こすロードノイズだと思います。
パイロットスポーツではなくもっとコンフォートなタイヤだったら静けさは良くなるのではないでしょうか。
使い勝手で一番懸念だった
モニター式サイドミラーですが
映像の見え方としては物理的な鏡と全く遜色の無いはっきりくっきりとしたもので室内にあるため視線移動も少なく済みますし、ミラーが外に無い分斜め前方の視界がとても良いのはシティコミューターにはもってこいの装備だと思います。
このモニター式サイドミラーなら今すぐ他車にも設定してほしいですね。
同じくモニター式バックミラーも私のステップワゴンのものより世代が新しいせいか
映像の解像度も高く、視線を移動してピントが合うまでの時間も速くて確実に進化していました。
ただ画面の反射がひどく、サイドウインドウ越しの周りが写り込んでしまうのが気になりましたね。
センターにドーンと構えたディスプレイも非常に視認性は良いのですが前方視界を確保するため高さが無く、時計などが表示されている黒帯の部分は消せないので地図表示が思っていたより狭いことが気になりました。
また全画面を地図にできないのも個人的には残念です。
ところでホンダeにも日産のワンペダルドライブと同様のシングルペダルモードという機能があり帰りはそちらで走ってみました。
Dレンジボタンの下にあるペダルを踏むアイコンのボタンを押してシングルペダルモードになり
更に回生ブレーキの強さをステアリングパドルで調整できるのが特徴です。
3段階ある回生ブレーキの中で中間を選んで運転すると、まだエンジンブレーキが確実に効いていた時代のMT車を運転している感じに非常に近く、実に懐かしくて心地よいドライブフィールを与えてくれます。
回生ブレーキを最も強くするといきなり2速にシフトダウンしたような減速力があり普通にアクセルペダルから足を離してしまうと信号機のはるか手前で停止してしまうので、ペダルを離すのではなく踏みながら戻すという作法を足に覚えさせるとペダルの踏み変えなしに停止発進ができるので、市街地や交差点でのちょっと停車して発進を繰り返すような状況では実に有用なものへと変わります。
気になったのはシングルペダルモードを解除するとオートブレーキホールドまで同時に解除されてしまうことです。
私は知らなかったので試乗のラスト付近でシングルペダルモードを解除してブレーキペダルを踏んで信号停止してブレーキペダルから足を離したらクルマが動き出したので少し慌ててしまいました。
とっさにブレーキペダルを踏んでブレーキホールドボタンを押せたのはステップワゴンで慣れたからですが、発進停止をコントロールするモードと停止状態を保持する機能は別物として考えるのがドライバーの感覚として自然ではないでしょうか。
以前から私はオートブレーキホールドはボタンでいちいち設定するのではなく
メルセデスベンツのように一旦停止した後にブレーキペダルを踏み足すことで発動する操作の方がドライバーの心理的動作に一番沿っていると思っています。
またシフトボタンのPレンジと電動パーキングブレーキが相変わらず連動していないのも気になります。
シフトバイワイヤなら余計な動作を省略する方向に振れるはずなのに妙にアナクロな操作ロジックが残っているのが先進性と逆行していると感じました。
シティコミューターとしてはいささかスポーティーすぎる乗り心地や新世代と旧世代が入り混じったインターフェースはまだ残念ですが
試乗を終えて担当営業マンに開口一番「これは欲しい!」と言ってしまいました。
スムーズで素早いレスポンスと後輪駆動ゆえの加速と操舵フィールはどれもスポーツカーに求められる要素ですがそれらをこのコンパクトなボディで味わえるクルマは今や世界中でもなかなか無いのではないでしょうか。
テスラはモデル3でもやはり大きいですし、サービス体制の問題がありますから・・・
曲がりなりにも実用的なハッチバックボディなので普段使いにも十分対応できますし
一度の走行で200kmも走ることは滅多にしなくなったので航続距離の短さも実際は気にならなくなるかもしれません。
私が一人暮らしだったら買っているかもしれないクルマなのは間違いないです。
気になるのはホンダがこのクルマで得たモノを今後どう活かせるのかという面です。
国内市場はどんどん縮小化し売れる商品も決まりきっているのでは
チャレンジングなクルマは登場しなくなる可能性が高いからです。
ホンダeはよそがやらないことをやった久しぶりにホンダらしいクルマだけに
何かしらの形でDNAを受け継ぐクルマに登場してほしいのですが・・・