THE 28th TOKYO MOTOR SHOW 広報資料 October 1989
AZ-1が発売される3年前の第28回東京モーターショー。この時AZ-1のプロトタイプであるAZ-550と一緒に出品されていたのが、このガルウィングドアを持つ、ミッドシップスポーツカーのTD-Rでした。
本日はこのクルマの広報資料を紹介していきましょう。
TD-R 参考出品(試作車)
コンセプト
世界的なスポーツカーブームとともに、ここ日本でもようやくスポーツカーが市民権を得るまでになりました。スポーツカーの定義は人それぞれ異なるものの、『運転する楽しさ』『流麗なスタイリング』と、人の心をワクワクさせるものが必要不可欠なことは誰しもが認めるところです。
単なる移動のための交通手段ではなく、走ること自体を目的としたドライビング、あるいは移動が目的の場合でもその時間をいかに楽しく過ごせるか、そしてガレージに停めた愛車を思わず振り返って眺めてしまうような愛着感がスポーツカーにとっては重要なのではないでしょうか。
しかし、走ること自体を目的としたドライビングに関して言えば、『走らせる』という行為は同じでも、『どこで走らせるか』といったものは人それぞれ異なります。高速の大きなRのコーナーで横Gを長い時間感じながら正確なステアリングワークで抜けることを楽しむ人、2速3速を駆使するようなワインディングロードでテールスライドに喜びを感じる人、あるいはダートでフルカウンターに熱中する人など様々です。
このように走るフィールドが異なれば自ずと求められる性能も変わってきますので、通常は1台のクルマですべてをカバーすることは不可能です。とくに今までのスポーツカーはオンロードを主体としたものが多く、オフロードはバギーや車高を高くしたシープタイプの4WD、あるいはラリーカーが主流となっていました。つまり、オフロードを高速で走ることを得意とするようなスポーツカーは存在しませんでした。
そこで、『あらゆる路面、とくにオフロードにおける運動性能を追求したピュア・スポーツ』を我々は開発しました。
ワインディングロード、オフロードにおいて、高いポテンシャルを発揮する短い全長、ワイドトレッド、超ショートオーバーハングの軽量ボディ。走ることのみに的をしぼった2シーター、ミッドシップ、フルタイム4WDというピュア・スポーツならではのレイアウトがこのクルマの大きな特徴となっています。
搭載されるパワーユニットは1.6ℓDOHC16バルブ・インタークーラーターボエンジン。それをコクピット背後に本格派ミッドシップならではの縦置きにマウントしました。こうすることにより、前後左右の重量配分を理想的なものにするとともに、オフロード走行に必要な長い上下アームを備えたダブルウィッシュボーンサスペンションと制御幅の大きい車高調整システムの採用を可能にしています。スタイリングはドリフト走行時の視界を確保するガラスキャノピーキャビンに代表されるように実戦的かつ精悍なスポーティなもので、魅力的なフォルムとなっています。
このTD-Rは、ワインディングロードから、アメリカのパイクスピークヒルクライムのようなフラットダートといった幅広い領域で、スポーツカーならではのドライビングの楽しさを提案しています。
メカニズム
TD-Rはレーシングカーがサーキットを走ることのみを追求したように、『走り』に照準を合わせて設計されていますが、異なるのは走りのフィールドがハイウェイからオンロードのワインディング、そしてオフロードと多岐に渡っていることです。
そこで、車体構成は2シーター、ミッドシップとオンロードスポーツカーと同じレイアウトになっていますが、オフロード走行での走破性を高めるために駆動方式はフルタイム4WDを採用しています。さらにオフロード走行で要求される高いシャーシー強度と剛性を確保するために、軽量スチール製チューブラー・スペースフレーム+カーボン製ボディパネルという構成としました。ボディ剛性を一段と高くすることに有効な深いサイドシルを採用した結果、ドアはトップヒンジ式(ウイングトップドア)となり、これはデザイン上の特徴ともなっています。
サスペンションは4輪ダブルウィッシュボーン方式を採用。走るフィールドに応じて最低地上高をコクピット内のスイッチ操作により130㎜、180㎜、230㎜の3段階に変えられる車高調整システムを装備しています。このシステムはダンパー減衰力可変機構、オートレベライザーとしても働いています。また、100㎜もの車高変化によるキャンパー変化を少なくするために、前後サスペンションの上下アームは長いスパンの物を採用しています。
車高を上げた状態
車高を下げた状態
このように長いサスペンションアームと、前後左右の好ましい重量配分を確保するために、ミッドシップにマウントされるパワーユニットは縦置きとなっていますが、ファミリアFWDの横置きのユニットをそのまま90°向きを変えるというアイデアが生かされています。
つまり、横置きレイアウト時のトランクアクスルからフロントアスクルへのアウトプット部分をそのまま、前後トランクアクスルへトルクを配分するセンターデフとして機能させているのです。トルクスブリットは50:50で、ビスカス・カップリングによるLSDも装着されています。
ギアボックスは5速マニュアル、ステアリングはラック&ピニオン、ブレーキ・システムは4輪ディスク・ブレーキとなっています。
装着されるタイヤ/ホイールは、オフロード走行に適した195/65R15に6JJのアルミホイールの組み合わせとし、小柄なボディとは対称的なワイドで径の大きな足元がデザイン上のポイントともなっています。
エクステリア・デザインは小柄なボディの四隅にホイールをレイアウトした超ショートオーバーハングが特徴で、オフロード走行時の取り回しの良さを狙っています。
コクピットはドライバーとパッセンジャーが走りに熱中できるフルバケットシートに代表されるタイトな空間とし、スポーツムードを盛り上げています。
縦置きミッドシップ4WDなんて、まるでWRCのグループBカーの様なスペックですが、下記の諸元表から面白いことが分かります。
AZ-1の諸元表
全長, 3295mm. 全幅, 1395mm. 全高, 1150mm. 室内長, 910mm. 室内幅, 1150mm. 室内高, 965mm. ホイールベース, 2235mm. トレッド・前, 1200mm. トレッド・後, 1195mm. 最低地上高, 135mm. 車両重量, 720kg.
全長3440㎜とありますがAZ-1の全長は3295㎜とわずか13㎝しか変わりません。
最低地上高もほとんど同じで、車重はAZ-1の方が10%軽いですね
なによりボディ構造がスペースフレームにパネルを装着するというAZ-1と同じ様な成り立ちに、高いサイドシルからなるトップヒンジドア(ガルウィング・ドア)の採用。
この頃のMAZDAはかなりこのボディ構造を研究していたと思われます。
TD-Rでは1600ccでしたが、商品化に際しこの頃のMAZDAの開発は大はFD RX-7。中はロードスターが進んでいた為、小として軽自動車の枠内で開発するのが合理的だったのでしょう。同じモーターショーにこのTD-Rの流れをくむAZ-550が出展されていたのも偶然ではないような気がします。
TD-R。
AZ-1のご先祖様の1つとして個人的に覚えておきたいと思います!
☆☆☆☆☆☆ AZ-1生誕20周年ミーティング ☆☆☆☆☆☆
2012年10月7日、広島県安芸郡府中町マツダ本社内にて開催
詳しくは下記のリンクへ!