
今年のモトGPは明暗がはっきりし過ぎていて、あまり面白い展開ではないという声をよく聞きますが、それは日本側に軸足を置いた見方でしょう。ドゥカティがモトGPに参戦して苦労をしながら築き上げてきた足跡を見れば、感慨深いものがありますし、アプリリア、KTMについても同様です。日本メーカーのホンダ、ヤマハは苦戦が続き、今年の第11戦カタルニアGPでは予選1日目で下から6つを日本車勢が独占という有り難くない状況です。何故、歴史ある最高峰クラスで、それまで栄華を極めてきた日本メーカーが勝てないのかを少し考えてみたいと思います。良かったらお付き合いください。
① ヤマハ、ホンダともトラクションが足りない・・
ヤマハ、ホンダのライダーともトラクションが足りないというコメントが多いですね。トラクションコントロールの制御が悪いのか、メカニカルグリップなのか。そもそも原因が特定できてないのか、原因は理解しているが今シーズン中は無理なのか。どうなんでしょう?
反対にトラクションが良くかかるマシンはアプリリアだと言われていて、スリッピーなコースと言われるカタルニアでも予選総合2、3,4、15位と好調です。1位はドゥカティのバニャイア、以下5~8位はドゥカティ、9位にKTMのビンダーでした。アプリリアは加速時のグリップが良く、前に出られる(ドゥカティ・ベッツェッキ談)というコメントも。アプリリアのエース、アレイシ・エスパルガロはタイヤのグリップに自信を持っており、コーナーの侵入で5~8Km/h速いと言っている。つまり抜群のタイヤのグリップ感を感じながら、速くコーナーに侵入し、これまた抜群のトラクション性能で抜けていくという事なのだろう。
日本車に話を戻すと、なぜかタイヤのグリップを感じられないというコメントが多く。ブレーキングミス、コーナー侵入でのフロントからのスリップダウン、コーナーリング中のハイサイドが多く感じる。何よりライダーが怖がって乗っている印象が強い。
② 空力に関するアプローチが遅れている
日本メーカーは空力デバイスについてのアプローチには最初懐疑的であまり興味は無かった。逆に空力デバイス(フェアリング形状ではなく、後にいわれるウィングの類)はドゥカティが長い事掛かって開発し、リードしてきたものだ。
③ ライドハイトシステムの信頼性が低い
いわゆるレーシングスタートデバイスだが、今のモトGPバイクはハイテクマシンであり、スタート時はゼロヨンマシンの様なペタペタの車高短状態。これとトラクションコントロールシステム(TCS)を使用して、ウィリーの無い抜群のスタートが決まる。スタート後は車高は通常の車高に復帰するのだが、復帰することが出来なかった事例も何件かある(これはアプリリアにもあるが)。
エンジンパワーに関しては各社それほどの違いは無いと思う。むしろ有り過ぎるパワーをどう路面に伝えるのかに苦労しているのだから。日本メーカーで期待できたのは昨年で撤退したスズキである。スズキが継続できたなら、今年はもっと面白かったと思うが、今さら言ってもしょうがない。
日本メーカー別に見ていくと、
ヤマハはサテライトチームが無くなったことで、開発にかかる時間が大幅に減った。データ取りもままならず、開発も遅々として進まない。トラクション不足を再三ライダーが訴えている様なので、コーナリング性能も良い訳がない。今となっては唯一の直4エンジンであり、スーパーバイクでは活躍しているエンジン形式だが、搭載位置、パワー特性含め難しい問題になっている気もする。
こういった問題から起きるライダー(ファビオ・クアルタラロ)のマシンの信頼性の低下が一番の問題でもある。来年型のマシンをテストするミサノテスト後の彼のコメントにも注目だ。なお、もう一人のライダー、フランコ・モルビデリは今季でヤマハから離脱するが、その後の去就は現在不明(ドゥカテイか?)
ホンダには個人的には言いたいことは一杯あるが、ホンダはマルケス依存が強すぎる。マルケス以外のライダーに対する扱いが雑。これではライダーからの信頼は得られないだろう。今季唯一の勝利を挙げたアレックス・リンス(アメリカGPで)でも、その扱いは勝利後もサテライトチームの一員のまま。今季始まる前には実質はワークス待遇と言われていたようだが、扱いに不満で来期はヤマハワークスへ移動する。中上貴晶は献身的にホンダのマシン開発をしてきたが、その為に彼のレーサー人生を消費している。勝ちを目指すレーサーから、開発レーサーになっている気がするのだ。そういうのが好きなレーサーもいるが、それなら真っ先に来季の契約をすべきだったのは中上だ。理由は速いレーサーがいくら来ても勝てないマシンでは勝てないからだ。変わり者はいるものでヨハン・ザルコはプラマック・ドゥカティからホンダのサテライトに来る変わり者だ(失礼!)。プラマックチームはワークス機を使用しているし、今期のザルコは何度も表彰台に登壇している。だが、ドゥカティからは来季1年とその後はスーパーバイク(SBK)に行って欲しいというオファーが納得行かなかったようだ。SBKは前年に続き、今季もバウティスタがチャンピオンを取りそうな勢い。でもバウティスタももう39歳。次なるワークスライダーとしての指名だったのだろう。でもザルコはホンダのモトGPで2年、オプションでもう1年の契約を取った。彼は開発ライダーに向きかもしれないし、良いかもしれない。ホンダが雑な扱いさへしなければという注釈が付くが。スズキから来たジョアン・ミルは今一番辛い位置にいる。2020年の年間チャンピオンだった彼は今の状況は悪夢でしかない。彼が恨むのはスズキの決断か?ホンダの仕事ぶりか?己の運命か?頑張ってほしい。マルク・マルケスは諸悪の根源と言っていい。こういうと聞こえが悪いが、マルク主導のHRC体制がここまで低迷させた原因である。彼は器用で多少のマシンの不利は乗りこなしてしまう。そして結果を出してきた。この間マシンは進化していたか?おそらくペドロサがいた頃にはそうだった。ペドロサがいなくなってからはマルケスとHRCで進化させてきた。だがスムーズなライディングでヤマハ時代にチャンピオンを獲得したホルヘ・ロレンソは乗りこなせず、KTMから来たポル・エスパルガロも目立った成績は無かった。アレックス・マルケスがRC213Vを褒めたコメントはあまり無い。それはマルケスしか乗りこなせないマルケス・スペシャルだからだ。
そのマルケスも2020年の自身のケガ(右上腕部横断骨折)で長期離脱。マシンはマルケス抜きで修正するも効果なし。マルケスの実力と回復を信じるHRCは破格の4年契約の契約金の一部返還を求めることなく復帰を待つ。完全復帰後、マルケスが乗ったマシンはそもそもの従来の乗り方が通用しないマシンだった。以前よりも大幅進化した空力デバイスがブレーキングさへ変えてしまった為である。今年の開幕戦で前走者のマルティン、オリベイラに追突、自らも指のケガでまた離脱。その後もマシンの不利を取り戻すべく鬼気迫る走りを見せるが他者を巻き込み、自滅の日々。一時は中上以外の三名はケガで離脱という状態でGPの名門チームとは思えない低迷っぷりはホンダファンでなくても泣きたくなる状況だ。
ホンダは長いGPの歴史の中で常に挑戦者で勝利者だった。そんなホンダには名門としての驕りがある気がする。ポルがホンダに来た時もKTMの事を聞かれたことは一度もないという。ロレンソからドゥカティの事は聞き出せたのであろうか?リンスやミルからスズキのマシンのことを聞き出せたか?参考にしたか?それは解らないが、一つ言えるのはHRCの渡辺康治社長曰く、四輪も含めたHRCの総力を結集してマシンの開発に挑むという事だった。リソースの大きさではなるほどと思われるが、それらの技術力が結集するのはいつか?というのは重要な問題ではある気がする(ここでも我が道を行くホンダの姿勢を貫いている)。
文が長くなったのでここらで終わりにするが、ホンダ、ヤマハに足りないのは開発ライダーだよ。テストライダーでなくてね。KTMのペドロサ、ドゥカティのミケーレ・ピッロみたいなね。
情報は入手できる範囲の事実を参考にしていますが、あくまで個人の意見であります。
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レース | クルマ
Posted at
2023/09/03 21:37:17