本項は「
其の瑞鶴は千代に麗し ~プリンス・グロリア(S6系)の生涯~ --①-- 」の続編です。
なお本ブログでは、日産自動車の経営陣及び経営方針を批判することはあっても
日産車及びユーザーを非難する意図は無いことを明示しておきます。
-◆S6系グロリア 年次毎の変遷--
-●1967年4月15日(フルモデル・チェンジ)--
発売されたのは2ボディ(4ドア・セダン/5ドア・バン)/基幹3グレード/5車種であった。
4ドア・セダン
グロリア・スーパーデラックス(PA30-QM)
グロリア・スーパー6(PA30-D)
グロリア(A30-S)
5ドア・バン
グロリア・バンデラックス(VPA30)
グロリア・バン(VA30)
上:グロリア・スーパー6(PA30-D) 下:グロリア・スーパーデラックス(PA30-QM)
上:グロリア(A30-S) 下:グロリア・バン(VA30)
1960年代前半は、最大手のトヨタでさえ乗用車は3車種(パブリカ・コロナ・クラウン)のみであり
各メーカーともにラインナップの過半数は商用車(乗用派生のバン/ピックアップを含む)であった。
プリンスも、乗用車はグロリア・スカイラインの2車種のみの編成であり、多数のグレードや
ボディ・バリエーションを用意することによって、市場の多様なニーズに応える形をとっていた。
S4系グロリアは4ドア・セダン、5ドア・バン/5ドア・ワゴンを基本に
デラックス・スーパー6・スペシャル・6ワゴン・グランドグロリア・グロリア6・6エステートという
7グレードに及ぶ豊富なバリエーションを展開し、S5系スカイラインと共にプリンスの主力を担った。
しかし、S6系では日産との合併に伴いバリエーションの縮小を余儀なくされた。
グランド・グロリアの後継たる3ナンバー大型車は、1965年に登場したばかりの
プレジデントとの競合を望まない日産側の思惑によって廃止された。
市場が小さく、販売台数も僅かであった6エステートの後継たる5ナンバー乗用ワゴンも
セドリックの乗用ワゴンに販売を集約すべく、消滅の憂き目にあった。
6気筒エンジンを搭載する廉価車種のグロリア6も消滅し、廉価車種は日産製4気筒に絞られた。
これらはいずれも、クラスがバッティングする日産側のプレジデント/セドリックに対する
「配慮」という、政治的な意向によって消滅の憂き目にあったモデル達であった。
車種の削減は「傍流」のプリンス車と「嫡流」たる日産車の競合を避ける為という
内向きの理論で決定されたものであり、日産は合併による効果を発揮することよりも
プリンスを「経営の足枷」と捉える過剰なコスト削減、「身内潰し」に躍起になるばかりであった。
國内第3位メーカーたるプリンスを吸収したことにより、一時的には日本最大規模の
自動車メーカーとなった日産であったが、プリンスの優れた技術や製品を生かして
業界第1位のトヨタに対抗することよりも、自らよりも優れたプリンスを否定することに奔走し
結果的に合併効果は水泡に帰した。
対するトヨタは1966年に日野、1967年にダイハツと相次いで提携した。
トヨタは2社を吸収することなく、それぞれの独自性を保ったまま
ダイハツは軽自動車・小型商用車、日野は大型トラック・バスに特化させたことで
「分業」を実現、トヨタ自身は得手とする乗用車に注力することが可能となった。
3社それぞれの得意分野に特化することにより、トヨタ・グループは盤石な体制を確立し
遂には世界最大の自動車メーカーの地位に到達した。
軽・商用車のコニー、高級車・スポーツカーのプリンスを相次いで傘下に収めながら
その資産を徒に磨り潰すばかりの日産とは対照的であった。
「販売のトヨタ」「技術のニッサン」などと云われた、トヨタと日産の”差”は
表面的な車種や販売手法などが原因では無く、根源的な企業体質に起因するものであった。
日本第2位メーカーが外資の軍門に下るという1999年の屈辱は
1966年の時点で既に、静かに始まっていた「緩慢な自殺」とさえ云えるものであった。
歴史に「if」は無いが、もしプリンスが独自性を保ち存続したのならば
キャディラックやリンカーン、メルセデス・ベンツやロールスロイスと伍する高級車が、
あるいはフェラーリやポルシェと覇を競うスーパースポーツが日本から生まれていたことだろう。
レクサスより20年も早く、世界で認められる日本の高級車が、
高性能車が有り得たかもしれないのだ。
その損失は、あまりにも大きい。
-●グロリア・スーパーデラックス(PA30-QM)の概要--
”端麗でフォーマルな装い、豪華な室内。グロリア・スーパー・デラックス、プリンスの最新鋭です”
PA30-QMはS6系の最上級車種にして、S4系のスーパー6(S41D)に相当するグレードである。
価格は111万円と豪華装備に見合った高額なものであったが、プリンス車の顧客は
富裕層の割合が高かったこともあり、販売の主力はこのPA30-QMであった。
(なお当時はコカ・コーラが35円、バスの一ヵ月定期券が630円程度という物価であった。)
S41Dが比較的フォーマルな性格であったのに対し、PA30-QMは
かなりパーソナルな性格付けとなっている。
従来のフォーマルなポジションは、スーパー6(PA30-D)が受け持つことになった。
S40Dが登場した1962年頃は、フルサイズ・クラスのユーザーの殆どが運転手付の
公用車や社用車などで占められていたが、高度成長に伴い自らステアリングを握る
富裕層が増加したことにあわせて、パーソナル・ユース需要を切り拓くべく
オーナー・ドリブンの性格付けが強調されたのであった。
日本の自動車生産台数は、高度経済成長の波の乗って1960年中頃から急速に増加し始めた。
そして1968年には、遂にアメリカに次ぐ世界第2位の自動車生産國の地位に到達したのであった。
これは同時に、上級志向に伴う個人所有の高級車需要の増加をも意味していた。
1967年4月に登場したPA30-QMは、その潮流を確実に捉えたモデルであった。
元来プリンス車はダイナミックなテールフィン、煌びやかなクローム、
鮮やかなメタリックのカラーなどによって豪奢な印象を持ち
やや地味な競合他車に比して、多分にパーソナルな米車的魅力を湛えていた。
そういったことからも、職業柄保守的にならざるを得ない法人オーナーよりも
派手好きな個人オーナーの割合が多かった。
PA30-QMのカタログ・カラーは、ノーブルな雰囲気を湛えるホワイトであった。
競合する3代目クラウン(50系)は、個人需要を狙い「白いクラウン」のキャッチコピーを掲げ
ホワイトのイメージ・カラーを強く打ち出したが、それはグロリアに遅れること半年後であった。
当時、クラウンやセドリックは黒やグレー、ブラウンといったカラーの比率が高かったが
ホワイトの明るいカラーで「公用車」的なイメージを払拭しようという意図があった。
しかしプリンス車はライトブルー・メタリックやシャンパン・ゴールド、カッパーブラウンなど
派手なメタリック塗色が人気で、競合他車とは一線を画す文字通り「異色の存在」であった。
「白いクラウン」は、個人ユーザーの取込みを意図して創られたキャッチ・コピーであったが
グロリアは、生粋の”パーソナル・ラクシュリー・カー”であった。
オーナー・ドリブンたるPA30-QM、その性格が最も顕著に表れているのが前席である。
当時一般的であった前後3人掛ベンチシートを採用せず、前席は
リクライニング機構付セパレート・シートとし、座席の間にはアーム・レストを兼ねた
大型センターコンソール・ボックスを配し、前席2座/後席3座の5名乗車としている。
これは乗車定員を稼ぐよりも、ゆったりとした居住性を実現することが狙いであった。
ホワイトで統一された内装は、明るく清潔な雰囲気を湛える
インストゥルメント・パネルは良く整頓された集中配置方式で、明快かつ合理的な
レイアウトによって、はじめての運転でも迷うことなく操作することが可能であった。
4つの警告灯(オイル・充電・駐車ブレーキ・速度超過)は、メーター・ユニット下側の
見易い場所に、デザインの一体感を重視した形状で収められている。
コラム左手側にシフト・レバー、右手側にターンシグナル・レバーとライト・コンビネーション・レバー
が配置されており、扱い易く操作ミスが起こりにくい完成された方式が引き続き採用された。
両端には、フェイス・レベルに走行風を導入するセカンダリー・ベンチレーターが備わる。
三角窓や足元に備わるサイド・ベンチレーターによって、走行風だけでも
充分な快適性を確保することが可能であった。
後方にはリヤ・ドラフター(エア・アウトレット)が備わるので、澱んだ空気の滞留がなく
煙草の煙による不快感や、湿度の高い雨天時の窓の曇りを防ぐことが出来た。
リヤ・ウィンドウには窓の曇りを防ぐリヤ・デフロスターと、後席用スピーカーが備わる。
グローブ・ボックスは大型で、照明とコンセントが完備されている上に
グラス溝付のリッドを開くと、テーブルとしても使える優れものであった。
人間工学に基づいて設計された、ホールド性の高いバケット式セパレート・シートは
柔らかなフォーム材クッションで成型されている。
大型車並みの前後シート・スライドと、微調整機能付のリクライニング機構を
備えるシートは、合理的な集中配置のインストゥルメント・パネルと相俟って
如何なる身長/体型のドライバーであっても、ベストなポジションを得ることが可能であった。
ボルグ・ワーナーAT搭載車のインストゥルメント・パネル、コラム上のATインジケーターに注目
大型メーター・ユニットには、速度計・積算距離計・区間距離計・燃料計・冷却水温度計・
方向指示器表示灯・主灯表示灯が組み込まれており、
曇天やトンネル内での走行時に威力を発揮する、照度調整機能も備わっていた。
ブザーとランプで注意を促す速度警告灯は、任意の速度で作動するように設定できた。
高感度ラジオには、プッシュ・ボタン以外にもシーソー式オートチューナー・スイッチが備わる。
グロリア専用エア・コンディショナーは非常にコンパクトで、インストゥルメント・パネルの下に
スッキリと違和感なく収まるよう、設計とデザインが施されていた。
”運転席は体にピタッとなじむパーソナル・シート”
前席アームレストは大型コンソール・ボックスとなっており、白手袋や煙草など
運転中の手廻り品の収納に便利であった。
前席の間に納まる、大型センターコンソール・ボックス
背面には後席用のラジオ・チューナー、シガーライター、ヒーターファン・コントロール、灰皿が
備わっており、ラクシュリー・4ドア・セダンの名に相応しい充実した装備となっていた。
なお、このセンターコンソール・ボックスは130セドリックにも用いられた。
安全対策のひとつとして、國産初となる組込式ヘッドレストが採用された。
ヘッドレストは前後席に4つ用意され、高さは任意で調節することが可能であった。
法規制に先駆けた先進的安全装備であると共に、格納しておけば
後方視界の妨げならないという優れた機構であった。
クローム仕上げのインサイド・ドアハンドルやウィンドウ・クランクハンドルは
微妙に形状が違うものの、S4系と共通のデザインとされた。
各種スイッチ・ノブ類は、S44P用の重厚なアルミ削り出し品を引き継いで採用した。
ドア内張りの上側には、細長いクロームのパネルが飾られた。
ドア内張り下側は黒の布張りとして、安定感を演出している。
足元には、地図や手廻り品を納めることの出来るポケットが設けられた。
グレアープルーフ・バックビュー・ミラーの防眩用昼夜切換ツマミは
S4系の前後方向から回転式の操作に改められた。
先端の尖ったステーもS4系と共通のデザインであった。
リビング・ソファのような後席にはアーム・レストが設けられ、読書灯、長大なレッグ・スペース、
リヤ・トレーに配されたスピーカーやデフロスターによって、極めて快適な空間が創りだされた。
ただし、最上級グレードで6人乗りが選択出来ないのは不評であったらしく
1968年10月の最初のマイナーチェンジの際に、セミ・セパレート仕様の6人乗りが追加された。
ボルグ・ワーナーAT車のエンジン・ルーム、左手前にはAT用のオイル・クーラーが確認できる
日本の技術水準を3年リードしている、とカタログに謳われたG7型・直列6気筒OHCエンジンに
機微なるセッティングを可能とする4バレル・キャブレターを組み合わせ
最高速度160km/hの連続高速走行を可能とすると共に、徹底した遮音対策や
振動軽減策によって、比類なき静粛性・快適性を実現した。
エア・クリーナーは新設計の薄型で、全高を抑えると共にブローバイ・ガス対策も施された。
ブロアー・ファンはS4系のバルクヘッド側から、左フェンダー側に移設された。
これは、モーターの騒音を出来る限り車内に侵入させないようにという配慮からである。
バルクヘッドの運転席側には、パワー・ブレーキ付のタンデム・マスターシリンダーが確認できる。
AT車なのでクラッチ・マスターシリンダーが備わらない点にも注意。
イグニッション・コイルの位置が変更されるなど、S4系に搭載されたG7型エンジンとは
搭載方法やレイアウト、エンジン自体の外観がかなり変更されている。
ウィンドウ・ウォッシャー・タンクは、モーター・ユニットを組み込んだS4系のボックス型から
日産製の廉価なバッグ型に変更された。
アクティブ・セーフティ/パッシブ・セーフティの両面から徹底して追求した安全性や
イージー・ドライブ、メンテナンス・フリーの為の新機構が惜しみなく投入された。
新設計のディスク・ブレーキがフロントに標準装備となり、制動力が大きく向上した。
軽い踏力で確実に作動するパワー・ブレーキ(油圧真空倍力装置)、万一の際にも制動力を
全喪失する危険のない交差配管方式、大容量のタンデム・マスターシリンダーの採用など
2重3重の安全機構が採用されている。
プリンスでは、1965年2月に登場したスカイライン2000GTに初めてディスク・ブレーキを採用。
続く1965年12月にはS44P-2型に標準装備、S41D-2型にオプション設定するなど
その高速性能に見合った制動力を得るべく積極的に採用を進めていた。
一般走行とは比較にならない程の高熱に晒されるレース・シーンでの技術の蓄積もあり
当時國産車では普及していなかったディスク・ブレーキに関して他社を大きくリードしていた。
フロント・グリルは亜鉛ダイキャスト製で、クローム仕上げの煌びやかなものであった。
グリル・パターンは繊細な造形の星型で、中央に十文字を配した水平のラインによって
特徴的な縦目4灯ヘッドライトとの均整を図っている。
プリンスのアイコンたる十字を彫り込んだ、クローム仕上げの眩い輝きを放つ無数の星
特徴的なグリル・パターンはフォークを模したとも云われているが、1959年型フォードの
強い影響が感じられるデザインとなっている。
S6系に限らず、歴代プリンス車のデザインはフォードの影響が大である。
特徴的なフロント・グリルを持つ1959年型フォード
グリルの下にはS4/5系と同じくスリットを設け、ターンシグナル・レンズはスリットの両端に配した。
乳白色のレンズを採用することによって、フロント・エンド全体の一体感を演出している。
スリットには本来、S44Pと同じように「 P R I N C E 」の文字が入る予定であり
ボンネット・マスコットも「 P 」のイニシャルが入る予定であったが、日産からの圧力によって
車名の変更を余儀なくされ、菱形のオーナメントに置き換えざるを得なかった。
ボンネット・マスコットも「 N 」の文字に換えられた。
輝かしき血統を誇るプリンスの高級乗用車には相応しくない「 N 」のエンブレム
なお、皇室御料車プリンス・ロイヤルのボンネット・マスコットには「 P 」のイニシャルが入る
前期型は「 P 」、後期型は「 N 」というのは誤りで、いずれも「 N 」である。
「 P 」のエンブレムが備わるのは、取扱説明書などに掲載されている
市販されることのなかった極初期の生産車(増加試作車)のみである。
合併はS6系の発売直前であり、既に試作車も完成しており
プリンス側ではカタログ撮影まで済ませていたが、これらもすべて破棄することを強要された。
取扱説明書に掲載されている車輛は、車名変更前の正真正銘の「プリンス・グロリア」である。
合併の際には、プリンス側の石橋会長の強い要望により
「プリンスの車名を永久に残し、その発展を図ること」
「両社の従業員の融和を図り、差別しないこと」
という文言が盛り込まれたが、日産社長の川又はそれらを悉く反故にし
プリンスの社名/車名を次々と廃止・消滅させた。
日産側労組の塩路は、傷害事件を起こしてまでもプリンス側の労組を徹底し弾圧。
(ただしプリンスの労組は総評左派の全金系であった点に留意)
日産自動車女子若年定年制事件などに繋がった、プリンス出身者への様々な差別を行った。
今や日産の一番のブランドが、プリンスの「スカイライン」というのは、なんと皮肉なことであろうか。
トヨタがダイハツと提携し、軽自動車部門で成功を収めたのに対し
傘下に収めたコニーを生かすことなく廃止、今更になって三菱やスズキからのOEMで軽自動車を
販売し、しかもそれが屋台骨となっているという現在の惨状を見ても
日産経営陣が如何に先見の明に欠けていたかがわかるというものであろう。
リヤ・グリル(リヤ・ガーニッシュ)は、リブの刻まれた細長いものが装着されている。
フロント・グリルと同じく、グレード毎にパターンが差別化されているのが特徴である。
PA30-QM(1型)のリヤビュー、ウィールキャップは2型用を装着している点に注意
リヤ・グリルには、後退灯とスライドカバー付キーホールがスマートに組み込まれている。
リヤ・グリル上側には「 N I S S A N 」のエンブレムが配置されている。
トランク・フードに備わる鶴のエンブレムは(1型では)PA30-QMのみの装備となる。
リヤ・バンパー下側には繊細な曲線を描くバランス・パネルが備わり、後姿を引き締めている。
ワイド感を強調する縦型テールレンズの頂点にはクリアランス・ソナーが備わり
夜間の運転や車輌感覚の把握に絶大な効果を発揮した。
彫刻的なスリットやプレスが特徴の、PA30-QM及びPA30-D(1型)用のウィール・キャップ
Cピラーを飾る鶴のエンブレムには、合併によってモデル廃止の危機に直面したグロリアに対する
「鶴のように長寿であれ」という、プリンス陣営の強い想いが込められたものであった。
Cピラーを飾る印象的な鶴のオーナメント(3型用)
2型まではPA30-QMにのみ装着されていたが、1969年10月の年次変更以降は
換気孔が新設され、セダンの全グレードの備わるようになった。
”瑞鶴”という言葉にある通り、鶴は古来から目出度いものの象徴である。
エクステリア・カラーとインテリア・カラーはそれぞれ3色が設定され、内外装の
コーディネートを考慮した組み合わせが用意された。
(外装色) (内装色)
アイボリーミスト ・・・ブラック
シーダーブルーメタリック ・・・ホワイト
ブラック ・・・レッド/ホワイト
フォーマルなブラックの他に、美しいホワイトと瀟洒なブルーメタリックが
用意されていることがプリンスらしさを感じさせる。
グロリア・スーパーデラックス(PA30-QM)仕様
・寸法
全長:4690mm 全巾:1695mm 全高:1445mm WB:2690mm
トレッド:前 1385mm/後 1390mm 最低地上高:175mm
客室長:1830mm 客室巾:1420mm 客室高:1135mm
・重量
車輛重量:1295kg 車輌総重量:1625kg 乗車定員:5名
・性能
最高速度:160Km/h 登坂能力:40.8%(Sinθ) 最小回転半径:5.5m
制動距離:13m(初速50km/h)
・エンジン
型式:G7 6気筒直列・OHC 内径×行程:75mm×75mm 総排気量:1988cc 圧縮比:8.8
最高出力:105PS/5200r.p.m 最大トルク:16.0m-kg/3600r.p.m キャブレター:下向通風4連
エアクリーナー:濾紙式 燃料ポンプ:ダイヤフラム式 燃料タンク容量:50ℓ
潤滑装置:全圧送式(フルフロー式) 冷却装置:強制循環式(ワックスペレット式)
バッテリー:12V-35AH ジェネレーター:12V-45A スターチングモーター:12V-1.4kw
クラッチ:乾燥単板式 トランスミッション:オールシンクロメッシュ式 3段+OD(オーバードライブ)
Low:2.957 2nd:1.572 Top:1.000 OD:0.785 Rev:2.922 減速機形式:ハイポイドギア式
減速比:4.875
ステアリング形式:リサーキュレーティングボール式 歯車比:19.8
・走行装置
前車軸:独立懸架式 後車軸:半浮動式 タイヤ:6.95-14-4PR(ホワイトライン・チューブレス)
・ブレーキ装置
主ブレーキ:前 ディスク式/後 リーディングトレーリング式 油圧真空サーボ付独立2系統式
駐車ブレーキ:機械内拡 後2輪制動
・懸架装置
前輪:独立懸架ウイッシュボーンコイル式 線径16.5×中心径120×自由長352.5-有効巻数6.3
後輪:半楕円板バネ 長1442×巾70×厚6-枚数1/厚7-枚数1/厚6-枚数1
ショックアブソーバー:油圧複動式 スタビライザー:トーションバー式
価格:111万円
●グロリア・スーパー6(PA30)の概要
”こんなに運転し易い車がいままであったでしょうか”
パーソナル・ユースを狙ったスーパー・デラックスに対し、スーパー6は
ショーファー・ドリブンとしての性格付けをなされている。
カタログ・カラーもPA30-QMが清楚な雰囲気を湛えるホワイトなのに対し
PA30-Dは社会的責任や品格を表すブラックとなっている。
外観上の差異は前後グリル・パターンや、エンブレム程度に留まっており
ウィール・キャップも共通となっている。
これは、グレード毎の差を価格や装備によって付けるのではなく、需要に合わせた
性格によって差別化するという企図から来ている。
シャープな近代感覚と気品が調和したロイヤル・ライン
サイド・ビューからは、リヤ・フェンダーのエンブレム程度しか違いは確認できない。
最も大きな違いは乗車定員で、PA30-QMが前席セパレート・シートの乗車定員5名
なのに対して、PA30-Dは前後ベンチ・シートの乗車定員6名となっている。
ヘッドレスト組込式シートのPA30-QMに対し、PA30-Dはヘッドレストがオプションとされた。
ダイナミックなフォルムと、繊細なディティールが見事に調和したPA30-Dのフロント
フロントはヘッドライト・ベゼルと連続した太い水平のラインと、細い縦のラインを
中央に据え、細かな十字が隙間なく並んだパターンのグリルが装着されている。
アンテナは電動式で、視界を妨げないように左フェンダーに備わっている。
天地の広いリヤ・グリルに、美しいリブが整然と並ぶPA30-Dのリヤ・ビュー
フロント・グリルと同じように、リヤ・グリルにも専用の意匠が採用されており
PA30-QMのものよりも天地の幅が広く、隙間なくリブが刻まれている。
リヤのエンブレムは、リヤ・グリル内に収まる「Nissan」のみとなる。
スクエアで大型のトランクはスペア・タイヤを床下に収納、燃料タンクを背負い式とすることで
広大かつ使い易い空間を実現、6人分のゴルフ・バッグやキャリーケースを呑み込むことが出来た。
テール・ランプは大型のうえターン・シグナルを独立させ、レンズ自体にも
レクトアングル・カットを施して視認性の向上を追求した安全型であった。
クローム仕上げのテールライト・ベゼルには、テール・ライトの光を反射することによって
実際のレンズのサイズよりも一回り大きく見せる効果を持たせていた。
サイド・ウィンドウにはプリンス車初の曲面ガラスが採用され、室内空間に一層の余裕が生まれた。
張り出した四隅により車輌感覚が掴みやすく、スクエアなキャビンの巾一杯に広げられた
リヤ・ウィンドウは大きな後方視界を生み出し、開放的な室内と安全運転に寄与した。
ライセンス・プレートによって殆ど隠れてしまうプレート・ハウジングにもリブが刻まれている。
大型の計器盤は透過光方式の無反射タイプで、数字も読み取り易いので誤読の心配がなかった
前席の背面には後席用の各種アメニティ装備と、大判の地図なども収容できるポケットが備わる
スイッチ類はPA30-QM用のアルミ削り出しに対して、S4#Dと同じ一般的な樹脂製となる。
シート、ドア内張りのパターンはS41D-2と共通した色/模様の格子柄を採用している。
ワイパーはS4系の対向作動式から、より広範囲を払拭できる並列式に改められた。
強力なモーター・トルクによって、浮き上がりや拭き残しが減少した。
ウィンドウ・ウオッシャーはワイパー操作に連動する定量噴霧式が採用されている。
エンジンはPA30-QMと同じG7型で、2バレル・キャブレターが組み合わされるが
105PSという出力の表示に差はなかった。
PA30-QMと同じくサーボ付ディスク・ブレーキが備わるなど、機構的には大きな差異はない。
画期的な2年・6万kmに渡る長期無給油を実現し、イージー・ケアの充実を図った
数値や外観に表れない性能にも対しても、プリンス技術陣は妥協なき追求を挑んだ。
乗り易さというものを運転のし易さに留まらず、日常の点検・保守の容易さや
長期に渡る高い品質の維持という領域にまで踏み込んだ。
フル・ディッピングによる完全な防錆、最新鋭の設備によって行われるハイ・クオリティな塗装。
プリンスの推進してきたメンテナンス・フリーの更なる充実。
そして、ドアやトランクを開閉した際の音や手応えといった
数値では表しようのない”感性”という性能までを追い求めた車であった。
グロリア・スーパー6(PA30-D)仕様※PA30-QMとの差異を主に示す
・重量
車輛重量:1275kg 車輌総重量:1605kg 乗車定員:6名
・エンジン
型式:G7 6気筒直列・OHC 内径×行程:75mm×75mm 総排気量:1988cc 圧縮比:8.8
最高出力:105PS/5200r.p.m 最大トルク:16.0m-kg/3600r.p.m キャブレター:下向通風2連
エアクリーナー:濾紙式 燃料ポンプ:ダイヤフラム式 燃料タンク容量:50ℓ
・ブレーキ装置
主ブレーキ:前 ディスク式/後 リーディングトレーリング式 油圧真空サーボ付独立2系統式
駐車ブレーキ:機械内拡 後2輪制動
価格:101万5千円
グロリア・スーパー6(PA30-D)仕様書
●グロリア(A30-S)の概要
”グロリアは魅力と実力を備えたエコノミック・カー プリンスの最新車”
グロリア(A30-S)は、S4系の廉価モデル「グロリア・スペシャル」(S40S)の後継モデルで
タクシーや営業車向けのフリート・ユース仕様車である。
S40Sは、4気筒エンジンを搭載したグロリア・デラックス(S40D-1)の内外装を簡素化した
モデルであったが、後継のA30-Sも概ね同じ構成となっている。
ただしエンジンはS40Sがプリンス自製のG2型OHV4気筒を搭載していたのに対し、A30-Sは
合併に伴う生産ラインの整理統合によって、日産製H20型4気筒OHVへの換装を余儀なくされた。
組み合わされるトランス・ミッションは、ODギヤの付かない3速コラム・マニュアルであった。
3速MTが組み合わされるのはS6系で唯一であり、同じH20型4気筒を搭載する
グロリア・バン(VA30)には、G7型6気筒車と同じOD付4速コラム・マニュアルが組み合わされた。
これによりVA30の最高速度は145km/hに達したが、ODギヤ無しの3速となる
A30-Sの最高速度は135km/hに留まり、S6系でもっとも低速のモデルとなった。
これは、A30-Sが混雑した市街地を低速で走行することの多いタクシーに求められる性能を
重視しており、3速MTの採用も頻繁なギヤ・チェンジを避け運転手の疲労を軽減する狙いがあった。
それに対し、貨物を迅速かつ遠方に運搬することが求められるバンのVA30には
高速巡航を考慮してOD付4速MTが組み合わされた。
ネーミング上の特徴として、「スタンダード」という名称が使われていないことが挙げられる。
車輛型式「A30-S」の”S”は”スタンダード”を示すものであるが
車名は単に「グロリア」となっている。
当時の廉価モデルは、「スタンダード」というグレード名が冠されることが一般的であったが
貧相なイメージの付き纏う「スタンダード」という響きが、國産最高級乗用車たるグロリアには
例え廉価モデルであっても相応しくないと判断された故と思われる。
先代のS4系に於いても、「スタンダード」というグレード名は設定されず、
スタンダード相当のグレードには「スペシャル」及び「6」というネーミングを冠している。
ただし、1968年10月以降はカタログ上の表記に控え目に「スタンダード」の文字が追加された。
1969年10月からは大きな文字で「グロリア・スタンダード」との車名に変更された。
これは販売上、営業車としての明快さを求められた結果だと思われる。
フロント・グリルのパターンは、ステンレスのメタルを打抜いて成型された細い格子状となっている。
繊細で美しい造形、眩いクロームの輝きは廉価モデルであるという引け目を一切感じさせない。
グリルとの一体感を重視して採用された、乳白色のターンシグナル・レンズの効果が見て取れる。
”日本の誇り”たる、富士山型の美しいプロポーション
小手先の装飾に頼らないS6系の堂々たるスタイリングは、シルエットそのものの完成度で
美しさを体現しており、廉価モデルにありがちな貧相さを微塵も感じさせない。
リヤ・ビューはシンプルで、リヤ・グリルは装着されず、左右に装着されたバックランプの間に
「 N I S S A N 」のエンブレムが備わるのみとなっている。
スクエアなキャビンや、リヤ・オーバーハングの長さが良くわかるリヤ・ビュー
リヤ・グリルをはじめ、ボンネット・マスコットやサイドシルのベルト・ライン
ウィンドウ・サッシュなどのクロームの装飾は省略されている。
ただし、前後ガラスにウェザーストリップ・モールが奢られるなど
S40S/S41Sよりも豪華な仕上げとされている。
ウィールは、PA30-QM/PA30-Dより一回り小径となる13インチが採用された。
タイヤはS4系と同サイズの7.00-13-4Pだが、S40Sが黒タイヤだったのに対し
A30-Sではホワイト・リボンタイヤが奢られている。
PA30のフルカバー・キャップに対し、S4/S5系の廉価モデルと
共通のハーフ・キャップが組み合わされた。
エンブレムの装着位置は、PA30はリヤ・フェンダー後端、A30-Sはフロント・フェンダー後端となる。
これはS4/S5系から引き継がれたプリンスの基本レイアウトである。
シンプルなパターンのシート、時計/ラジオ・レスのフラットなインストゥルメント・パネル
内装も装飾が省かれ、装備も簡素化されている。
シートやドア内張りもシンプルなパターンとなっているが、色の濃淡によって
退屈にならないように工夫されている。
セカンダリー・ベンチレーター(フェイス・レベル通風口)は運転席側のみとなり
助手席側は孔に蓋がされている。
ラジオ、時計もオプション扱いとなり、空いたスペースにはカバーが装着された。
ラジオ用パワー・アンテナも備わらない為、スイッチの部分はカバーが装着されている。
インナー・バックビュー・ミラーも、防眩機構が省かれた薄型となっている。
三角窓の開閉もクランク・ハンドル式ではなく、一般的なノブ式となっている。
ヒーターもオプション扱いとなり、計器盤はあるが操作ノブが備わらない。
タクシーとしての過酷な運用に耐える為、リーフ・スプリングは4枚(PA30は3枚)に強化されている。
グロリア(A30-S)仕様
・寸法はPA30-QM/PA30-Dに等しい
・重量
車輛重量:1175kg 車輌総重量:1505kg 乗車定員:6名
・性能
最高速度:135Km/h 登坂能力:42.7%(Sinθ) 最小回転半径:5.5m
制動距離:13m(初速50km/h)
・エンジン
型式:H20 水冷4気筒直列・OHV 内径×行程:87.2mm×83mm 総排気量:1982cc
圧縮比:8.2
最高出力:92PS/4800r.p.m 最大トルク:16m-kg/3200r.p.m キャブレター:下向通風2連
エアクリーナー:ウレタン 燃料ポンプ:ダイヤフラム式 燃料タンク容量:50ℓ
潤滑装置:強制循環式(濾紙式) 冷却装置:水冷強制循環式(ペレット式)
バッテリー:12V-35AH ジェネレータ:12V-300W(交流式) スターチングモーター:12V-1kw
クラッチ:乾燥単板式 トランスミッション:オールシンクロメッシュ式 3段+OD(オーバードライブ)
Low:3.184 2nd:1.641 Top:1.000 Rev:2.922 減速機形式:ハイポイドギア式
減速比:4.444
ステアリング形式:リサーキュレーティングボール式 歯車比:19.8
・走行装置
前車軸:独立懸架式 後車軸:半浮動式 タイヤ:7.00-13-4PR(ホワイトライン・チューブレス)
・ブレーキ装置
主ブレーキ:前 デュオサーボ式/後 リーディングトレーリング式
駐車ブレーキ:機械内拡 後2輪制動
・懸架装置
前輪:独立懸架ウイッシュボーンコイル式 線径16×中心径120×自由長35.8-有効巻数6.95
後輪:半楕円板バネ 長1442×巾70×厚7-枚数3/厚5-枚数1
ショックアブソーバー:油圧複動式 スタビライザー:トーションバー式
価格:75万5千円
グロリア(A30-S)仕様書
グロリア(A30-S)の外観四面図
四隅が張り出し、車輛感覚の把握が容易であったグロリアは教習車としても多用された
●グロリア(A30-P)
営業車プレート(緑ナンバー)を掲げるタクシー仕様のA30-S
見ての通り、縦型4灯ヘッドライトは上側が擦違いビーム、下側が走行ビームとなっている。
A30-P(”P”はプロパンの意)は、A30-Sを経済的なLPG仕様とした
タクシー・ハイヤー向けのフリートユース・モデル。
搭載されるエンジンはLPG対応型のH20で、レギュラー・ガソリン仕様から
12PSダウンとなる80PSを発生するものであった。
A30-Pは、LPG仕様のH20にベイパーライザー・ソノレイドバルブ・フィルター・LPGホース・
バキュームホース・ウォーターホース・LPG配管・ボンベ・充填口・充填バルブ・取出バルブ
を追加している。
LPG車配管装置図
LPG仕様の核となるベイパーライザーは、日立製GR-120型を採用した。
キャブレターは専用のシングル・バレル仕様となっている。
これらの追加装備により、車輛重量はガソリン車に対し75kg増の1250kgとなっている。
車輛価格も4万5千円アップの80万円となっていた。
プリンスのLPGユニット開発は、ブリヂストン液化ガスと共同で行われた。
余談だが、ブリヂストンはプリンスを手放した後の1966年10月に
日本初となる家庭用LPガス「ブリヂストン純プロパン Pグロリア」を発売している。
ブリヂストンは1991年に提携先の三井物産に株式のすべてを譲渡し
液化ガス事業からは撤退したが、Pグロリア・ブランドは継続して販売され
現在も全国200万世帯で愛用されるロングセラーとなっている。
「Pグロリア」の”P”は”プロパン”の頭文字であるが、”プリンス・グロリア”とも読むことが出来る。
石橋会長は断腸の想いでプリンス合併を決断しており、車への愛着も強かったので
合併後の自社製品にも「スカイウェイ」「グロリア」と、プリンスを偲ぶ名称を与えている。
これは石橋会長の強い想いで盛り込まれた「プリンスの名を永久に残し、発展を図ること」という
契約内容を日産が反故にし、マイラー、クリッパー、ライトコーチと次々とプリンス車を
廃止したことに対する失望と落胆もあったのではないかと思われる。
●グロリア バン・デラックス(VPA30)の概要
”プリンスの総力が集まったグロリア・バン・デラックス。ビジネスとホリデーをスマートにします”
バン・デラックス(VPA30)は、グロリア6ワゴン(V43A)のポジションを引き継いだモデルである。
G7型OHC6気筒エンジン(圧縮比8.3/100ps仕様)にOD付4速コラム・マニュアルを組み合わせ
最高速150km/hという快速と比類なき静粛性、高速安定性を誇った。
S4系のバン/ワゴンには、4ナンバー貨物登録「グロリア6ワゴン(V43A)」と
5ナンバー乗用登録「グロリア6エステート(W41A)」の2車種が設定されていたが
S6系では5ナンバー乗用が廃止され、4ナンバー貨物登録のみに絞られた。
S4系ではバン/ワゴン共に6気筒のみの設定であったが、S6系では新たに
日産製4気筒搭載の廉価版がラインナップされた。
グロリア・バン・デラックスが正式名称だが、フロント・フェンダーにはSUPER6と対になる
「DELUXE6」というエンブレムが備わり、6気筒搭載車であることを誇示している。
輸出仕様の車名には、W41Aの名が引き継がれ「GLORIA Estste」とされた。
セダンの風格そのままの威風堂々たるフロント、グリルはPA30-QM用に交換されている
リヤ・ゲートは、S4系に採用された電動昇降式リヤ・ウィンドウと下ヒンジのゲートに代わり
國産中型バンとしては初となる、1枚跳ね上げ式が採用された。
この方式は小型バンであるS5系スカイウェイ・バン/スカイライン・エステート(1964年12月~)
から採用されたもので、リヤ・ウィンドウの開閉操作が不要かつ
雨天時には傘としても機能する優れた形式であった。
ゲートを保持するのは一般的なダンパーではなくトーション・バーで、軽い力で開くことが
出来る上に、油圧式と違い経年劣化によるヘタリもない優れた方式であった。
ステーション・ワゴンを乗用車やレジャー・カーとして使用するアメリカでは、ベンチとしても
機能する手前開き/横開きのリヤゲートが主流であり、黎明期の國産車もそれに倣ったが
1960年代後半以降、ワゴン/バンを専ら商用車、貨物車として運用する日本に於いては
ワンタッチで開く1枚跳ね上げ式が主流となっていった。
廃止された電動昇降式リヤ・ウィンドウに代わり、左側のサイド・ウィンドウが電動昇降式となった。
インストゥルメント・パネルの操作スイッチもしくはリヤ・フェンダーのキーホールから
操作することが可能で、リヤ・ゲートを開けるまでもない小さな荷物の積み下ろしに便利であった。
1968年9月には130セドリック・バンもこの方式を採用、以後Y30系バンまで続く特徴となった。
電動式サイド・ウィンドウは換気にも効果を発揮し、セカンダリー・ベンチレーターと
組み合わせることによって、室内の空気を常に新鮮に保つことが可能であった。
荷室はソフトなトリムで覆われ、積荷が傷んだり汚れたりしないように配慮されている。
”グロリア・ソフト”と形容された自慢の柔らかなサスペンションと相俟って
悪路走行でも積荷が痛むことが無かった。
数値上の荷室容積を追い求めるのではなく、実用的なレベルを確保しながら
ロイヤル・ラインを基本とした、スタイリッシュなスタイルを実現している。
セダンと同じように、スタイリッシュに傾斜したDピラーはカタログに於いて
「ファストバックを採り入れた後姿」と謳われたもので、長いルーフと相俟って
セダン以上にロング&ローを感じさせる視覚的効果を持つものであった。
テール・エンドもセダン同様にテール・フィン状に大きく張り出しており、ギリギリまで荷室を
拡大するのではなく、優雅な余裕と遊びを持たせたエレガントなプロポーションであった。
テール・フィンの張り出しには、リヤ・フェンダーにサイド・ウィンドウの昇降機構を収める事も
考慮されており、単なるデザインのみならず機能性も両立したものであった。
1型(1967年4月~1968年10月)はVPA30/VA30共にリヤ・グリルは装着されない。
リヤ・グリルはVPA30は2型から、VA30は3型から装着されることなった。
基本装備はPA30-Dと概ね同じとされ、高感度ラジオ、時計、強力ヒーターなどが
標準装備となっていたが、セカンダリー・ベンチレーターは運転席側のみとされるなど
PA30-Dと比してやや簡素化されている。
これはS41DとW41Aの構成と共通の傾向であった。
足元に走行風を導入するサイド・ベンチレーターは、運転席/助手席の両側に標準装備された。
プリンス自動車が特許を取得していたリヤ・シートのスライド・リクライニング機構は
廃止されてしまったが、こちらもプリンスの特許であったワン・アクションでの
リヤ・シート折畳み機構は引き続き採用された。
荷室に備わる保護棒は脱着が可能で、荷物の形状に合わせた積み方が可能だった。
エンジンの圧縮比はPA30-Dの8.8に対して8.3に下げられ、レギュラー・ガソリンに対応した。
最高出力も5psダウンの100ps仕様となり、ランニング・コストに
シビアな商用車らしい配慮がなされている。
グロリア バン・デラックス(VPA30)仕様
・寸法
全長:4690mm 全巾:1695mm 全高:1500mm WB:2690mm
トレッド:前 1385mm/後 1390mm 最低地上高:180mm
荷室長:3名 1855mm/6名 1085mm 荷室巾:1370mm 荷室高:835mm
床面地上高:665mm
・重量
車輛重量:1365kg 車輌総重量:3名 1930kg/6名 1945kg 乗車定員:3名/6名
最大積載量:3名 400kg/6名 250kg
・性能
最高速度:150km/h 登坂能力:31.4%(Sinθ) 最小回転半径:5.5m
制動距離:13m(初速50km/h)
・エンジン
型式:G7 6気筒直列・OHC 内径×行程:75mm×75mm 総排気量:1988cc 圧縮比:8.3
最高出力:100PS/5200r.p.m 最大トルク:15.4m-kg/3600r.p.m キャブレター:下向通風2連
エアクリーナー:濾紙式 燃料ポンプ:ダイヤフラム式 燃料タンク容量:50ℓ
スターチングモーター:12V-1kw
・走行装置
前車軸:独立懸架式 後車軸:半浮動式 タイヤ:6.00-13-6PR.LT(ライト・トラック)
・ブレーキ装置
主ブレーキ:前 デュオサーボ式/後 リーディングトレーリング式
駐車ブレーキ:機械内拡 後2輪制動
・懸架装置
前輪:独立懸架ウイッシュボーンコイル式 線径16×中心径120×自由長347.7-有効巻数6.43
後輪:半楕円板バネ 長1442×巾70×厚7-枚数3/長713×巾70×厚13-枚数1
ショックアブソーバー:油圧複動式 スタビライザー:トーションバー式
価格:83万円
●グロリア・バン(VA30)の概要
”魅力と実力を備えたプリンスの経済車 グロリア・バン”
長いノーズ、長いルーフ、傾斜したリヤ・ゲート、大きく張り出したテール・エンドが実に
スタイリッシュであり、カタログには「このモダンな風貌が、荷を運ぶ車に見えますか」
という自信に満ちたヘッド・コピーが躍った。
S4系の6ワゴン(V43A)/6エステート(W41A)にはG7型OHC6気筒のみが搭載され、4気筒の
設定はなかったが、S6系では新たに日産製H20型OHV4気筒搭載の廉価モデルが新設された。
H20型エンジンや内外装は概ねA30-Sに準じている。
価格は74万円と、S6系のシリーズ中で最も安価なモデルとなった。
ラジオ・ヒーター・時計などは悉くオプショナル扱いとされている。
しかし、荷室のサイド・ウィンドウにはVPA30と同じ電動昇降式が奢られている。
セカンダリー・ベンチレーター(フェイス・レベル)は運転席側のみの装備となるが
サイド・ベンチレーター(足元)は助手席側にも標準で備わる。
セカンダリー・ベンチレーターは運転席側(右側)に備わるので、荷室のサイド・ウィンドウ(左側)と
組み合わせて使用することにより、車内の空気をスムーズに入れ替えることが可能であった。
ヒーターもオプションとされ、標準では計器盤はあるが操作ノブが備わらない。
ワイパーは低速/高速の2段式で、オートストップ機構が備わる。
価格的にはA30-S(75万5千円)よりも下回っているが、OD付4速ミッションにより
最高速は145km/hと(A30-Sは135km/h)性能面では上回っている。
これは、混雑した街中を低速で長時間走行するタクシーとしての性能を重視したA30-Sと
高速商用車として優れた巡航性能を重視したVA30という、性格の差から来たものであった。
ボディ・カラーはソリッドの3色が用意され、シンプルながら濃淡で
アクセントを付けた内装と組み合わされることにより、エレガントな雰囲気を演出していた。
”魅惑のリア・スタイルは便利さを秘めています”
リヤ・グリルの備わらないシンプルなリヤ・ゲート、荷室のサイド・ウィンドウに備わる
ディヴィジョン・バー(仕切り)が特徴的。
廉価モデルのVA30には、タンデム・マスターシリンダーやマスターバックは備わらない
6気筒エンジンを搭載することを前提としたエンジン・ルームに、全長の短い4気筒を搭載した為
クーリング・ファンのシュラウドが大型化されている。
この車輌はヒーター・レス車なので、ブロアーファンが装着されていない点にも注意。
H20型エンジンは、1963年登場のG7型に比して設計の古さが目立つものであった。
タイヤは貨物車なのでLT(ライト・トラック)タイヤ、6.00-13-6PRを採用。
A30-Sの7.00-13-4PRと比して、大きな荷重に耐えうるように考慮されている。
A30-S及びVA30には、縁にリブの刻まれた浅い円錐状のハーフ・キャップが備わる
グロリア・バン(VA30)仕様※VPA30との差異のみを示す
・重量
車輛重量:1280kg 車輌総重量:3名 1845kg/6名 1860kg 乗車定員:3名/6名
最大積載量:3名 400kg/6名 250kg
・性能
最高速度:145km/h 登坂能力:34.2%(Sinθ) 最小回転半径:5.5m
制動距離:13m(初速50km/h)
・エンジン
型式:H20 水冷4気筒直列・OHV 内径×行程:87.2mm×83mm 総排気量:1982cc
圧縮比:8.2:1
最高出力:92PS/4800r.p.m 最大トルク:16m-kg/3200r.p.m キャブレター:下向通風2連
エアクリーナー:ウレタン 燃料ポンプ:ダイヤフラム式 燃料タンク容量:50ℓ
潤滑装置:強制循環式(濾紙式) 冷却装置:水冷強制循環式(ペレット式)
ジェネレータ:12V-300W(交流式)
価格:74万円
本項は「 其の瑞鶴は千代に麗し ~プリンス・グロリア(S6系)の生涯~ --③-- 」に続く。